二次創作小説(紙ほか)
- 第29話 prank ( No.95 )
- 日時: 2013/05/03 20:58
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- プロフ: 電気タイプはシビルドンがたぶん一番好き。
研究所内部は相当な広さがあり、迷いそうだったが、後でハブラから研究所内の地図が送られてきたため、フィアはなんとか迷わず研究所の中を移動できていた。
「ここを右に曲がって、そのまま直進っと」
分かれ道になっている通路を右折し、フィアは歩を進める。
発電所に向かうためには水平移動するエレベーターに乗らなくてはならない。そしてそのエレベーターは、研究所の奥に一つだけ。発電所に何者かが侵入しないようするための防衛策の一つらしい。
「にも関わらず今回の騒動……人間でもポケモンでも、相手はただものじゃないってことなのかな」
そう考えると、フィアにこの役は荷が重く感じられるが、研究員たちを安全に誘導することの方がフィアにとっては難しい。最悪フィアの手に負えないのであれば逃げることもできるのだし、適材適所ということか。
「まあ、別にこれが僕にとって適任なわけじゃないけど……っ!」
独り言を呟きながら歩いていると、不意に後ろからフィアの横を何かが通り過ぎる。
「な、なに……っ?」
途中からここまでポケモンと遭遇していなかったために警戒心が緩み切ったフィアは、慌てて後ろを向くが、後ろから前方に向けて通り過ぎたのだから当然そこには何もいない。
そのことに気付いて再び前方を向くと、今度こそその何かを認識する。
それはポケモンだ。白いリスのような姿をしており、尻尾や耳は青色をしている。
『Information
パチリス 電気リスポケモン
ほっぺを擦り合せることで他の
電気タイプのポケモンに電力を
分け与える姿がたびたび確認されている。』
一見すればパチリスはただフィアの横を通り過ぎただけに見える。しかしパチリスが加えているものを見れば、そうではないということが分かった。
「あっ……カードキー!」
パチリスが口に咥えているのは、エレベーターの扉を開けるためのカードキーだ。他の扉と違って非常に頑丈なエレベーターの扉だけは、そのカードキーがなくては開かないらしい。
パチリスはそれを、通り間際にフィアからスリ取ったようだ。
しかもパチリスはカードキーを咥えたままとっとこと廊下を走って行ってしまう。
「あ、ちょっと待って!」
カードキーがなくては困るフィアは、当然パチリスの後を追う。しかしパチリスは非常にすばしっこく、フィアが走っても追いつけそうにない。
「仕方ない……ブースター!」
フィアはボールからブースターを繰り出し、パチリスを追いかけさせる。
ブースターは元々それほど速くはないが、それでもフィアよりはずっと素早く動ける。廊下を走るパチリスを追跡し、もう少しで追いつく距離まで肉薄した。
「よしっ、そのままパチリスを押さえつけるんだ!」
この距離なら飛びかかって押さえつければパチリスの動きを止められる。ブースターは後ろ足で地面を蹴り、前方に飛び込むようにジャンプするが、
「っ!? ブースター!?」
直後、ブースターの目の前で何かが弾け、ブースターは軌道をずれて顔面から床にダイブしてしまう。
しかもパチリスはその光景を見て、くすくすと笑っている。雰囲気から邪気は感じないが、悪戯好きのようだ。
「いや、悪気なく悪戯するのはかなりタチが悪いと思うけど……仕方ない、相性は悪いけど君にも出張ってもらうよ。ミズゴロウ!」
フィアは電気タイプと相性が悪いが、数で攻めるためミズゴロウを繰り出す。ブースターもサッとパチリスの背後に回ったため、挟み撃ちの陣形となった。
「ブースター、アイアンテール! ミズゴロウ、岩砕き!」
ブースターは鋼鉄のように硬化させた尻尾を振るい、ミズゴロウは岩を砕く勢いで突進。両者の攻撃がパチリスへと迫るが、パチリスはこともなげに跳躍して二体の挟撃を躱してしまう。
ブースターとミズゴロウは互いに攻撃が当たりそうになり、無理やり軌道をずらすが、そこで隙が出来てしまう。その隙にパチリスは電気を凝縮した球体を作り出し、尻尾を振るって二体に向けて飛ばした。
「っ! ブースター! ミズゴロウ!」
パチリスの攻撃の直撃を喰らう二体。ブースターはともかく、ミズゴロウは効果抜群なので大ダメージだ。
「本当にすばしっこいな……」
ブースターもミズゴロウもあまり素早くないポケモンなため、パチリスのようにちょこまかと動き回る相手は苦手なのだ。ブースターもニトロチャージがあるが、攻撃が当たらなければ意味がない。
「しかもカードキーが燃えたら困るから炎技は使えないし……ミズゴロウ、水鉄砲!」
ミズゴロウはパチリスに向けて水を噴射するが、サッと回避される。そしてパチリスはそのまま廊下を駆けていった。
「また逃げるの!? ブースター、追って! ミズゴロウはこっち!」
ブースターにはパチリスをそのまま追わせ、フィアは鈍いミズゴロウを抱えて走る。ミズゴロウは思ったより重かったが、抱えて走れないほどではない。
「ブースター、起死回生!」
ある意味ピンチなこの状況だが、ブースターは大した威力の出ない起死回生を発動し、パチリスへと突っ込むが、パチリスはさも当然のように横へ飛び、ブースターの突撃を回避した。
「ミズゴロウ、水鉄砲だ!」
パッとフィアはミズゴロウから手を離し、ミズゴロウも同時に水を噴射する。それなりに素早く行われた連携攻撃だが、これもパチリスは上へ跳躍して躱したが、
「っ、ここ……!」
上へ跳んだ、つまり空中に身を投げ出したということは、それ以降の動きが出来ないということ。パチリスの着地点を予測したフィアはその場所に立ち、落下してくるパチリスを待つ。
そして、
「よっと」
ぽすんと、パチリスはフィアの腕の中に収まった。そしてすぐさま逃げ出さないよう少し強く押さえつける。
「ちょっと乱暴でごめんね。でも、これがないと僕らは困るんだ。だから、返してもらうよ」
そう言いつつ、フィアはカードキーを引き抜く。
今度はもう誰にも取られないようブレザーの内ポケットの奥に仕舞い込みつつ、前方を見ると、そこには一つのエレベーターがあった。
「走り回っているうちに、着いちゃったよ……結果オーラいというか、なんというか」
フィアは呟きながらパチリスを逃がそうとするが、パチリスは床に降りず、むしろフィアの頭の上まで上ってきた。
「なにさ、もう……」
ミズゴロウよりずっと軽いのだが、それでも重心をずらされるので歩き難い。だがパチリスはどこかへ行く気はないようなので、フィアは逃がすことを一旦諦め、溜息を吐いてエレベーターへと近付く。
(パチリスを逃がすのは、ほとぼりが冷めてからでも大丈夫だよね)
などと思いつつカードキーをエレベーター横の操作パネルに通し、扉を開く。
中はトンネルのようになっており、床や天井にはコードが何本か伸びていた。ちょうどエレベーターを横に倒した感じだ。
「この奥でエレベーターは止まってるのか」
フィアは足場を確認しつつ、トンネル染みたエレベーター内を歩く。一本道なのだが、非常に暗いため、何度もコードに足を取られてしまう。
「歩きづらいなぁ、懐中電灯でも持って来ればよかったかな……?」
愚痴るようにそう言うと、パチリスが尻尾に帯電させ、ほのかにだがエレベーター内を照らした。一寸先を照らす程度だが、ないよりはよっぽどマシだし、足元も辛うじて見えるので足をすくわれることも少なくなるだろう。
「あ、ありがとう……?」
さっきまでカードキーを盗んでフィアの手を煩わせていたパチリスが、急にフィアを助けるようなことをするので、フィアは面食らう。
(何なんだろう、よく分からないな、このパチリスも……)
とにかく視界は少しだけ良好になったので、幾分楽に進めるようになったフィアは、さらに奥へと進んでいく。
そしてそれなりに歩くと、途中で立方体の箱のようなものを発見した。これがエレベーターのリフトだろう。
「この中に研究員の人がいるんだよね……」
こんな中途半端なところで止まっているということは、やはり移動中で二予備電源が切れ、中に閉じ込められてしまったのだろう。
フィアはパネルにカードキーを通し、ロックを解除。リフトの扉を開いた——
今回は特に言うほどのこともなかったですね。パチリスがカードキーを盗んだりしましたが、アニメでよくあるような展開です。というか最近、どうにもこういうシーンが上手く書けないんですよね、昔はそうでもなかったのに……なんでだろう? そんなことはともかく、次回、たぶん停電騒動が終結します。もしかしたら次の次に終結かもしれませんが、一応次回で終わりという算段です。では次回もお楽しみに。