二次創作小説(紙ほか)

第30話 phobia dark ( No.98 )
日時: 2013/05/04 14:58
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
プロフ: 電気と虫の複合タイプもっと出ないかな。デジモンではメジャーなのに……

 フィアがエレベーターリフトの扉を開くと、中には白衣を着た女性がいた。
 正確には、緩くウェーブのかかった白いショートヘアーを邪魔にならないよう右側で括り、クリーム色のワンピースの上から黄緑色のカーディガンを羽織り、さらにその上から白衣を羽織った女性が——蹲っていた。
 しかも、
「う、うぅ……暗いよぅ、にぃさん……」
 泣いていた。
「……えっと」
 基本的に人と話すことが苦手なフィアは、特に女性と話すのが苦手だ。さらに言えば泣いている女性などフィアの手におえるものではない。
 本音を言えば今すぐ回れ右で帰りたいところだが、残念ながらそういうわけにもいかない。
 フィアは相手を落ちつけようと、できるだけ静かな声で語りかけるように女性に声をかける。
「あ、あの、大丈夫——」
「っ、ひ、人ですかっ?」
 フィアが最後まで言う前に、女性の方がフィアの存在に気付き、銀縁の眼鏡を掛けた顔がぱぁっと明るくなる。
「よ、よかったぁ。このままの暗い場所に一生閉じ込められちゃうのかと思いました……ありがとうございます」
「い、いえ……」
 まだ目尻に涙を浮かべているものの、女性はもう泣き止んでいた。フィアとしては好都合というか、良い展開だ。
「予備電源が作動したので発電所の様子を見に行こうとしたのですが、途中で電源がプツッてなっちゃいまして、閉じ込められてしまったんです。私、暗いところが苦手で……お恥ずかしいところをお見せしてしまいましたね」
 顔を少し赤らめながら微笑む女性。さっきまで啜り泣いていたのが嘘のような微笑みだ。
(つまり暗いところが苦手だから、泣いてたんだね……)
 いわゆる暗所恐怖症というものだ。恐怖症の中では高所恐怖症や閉所恐怖症となどと同列に語られるくらいにメジャーなものだろう。
 となるとさっき女性の顔が明るくなったのも、フィアが来たからではなく、パチリスがほのかにだが辺りを照らしたからだということになるのだろう。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私はクリです。今はライカ研究所で研究員をやらせてもらっています」
「あ……僕はフィアです。えっと、旅の途中でこの街に立ち寄った、ただのトレーナーです」
 女性——クリの名前に少しだけ引っ掛かりを覚えたフィアだったが、すぐに自分も名乗る。
「フィアさんですね。ところで助けてもらってこんなことを言うのも失礼ですが、フィアさんはなぜここに?」
「それは、えぇっと……」
 フィアはお世辞にも説明が上手い人間ではないが、たどたどしくも何とかクリに現状とフィアがここに来た理由を説明する。
 偏見だが、研究者なだけあって事態の飲み込みが速いのだろう。クリはすぐに納得し、状況を理解したようだった。
「そうでしたか。この街のことなのに、旅の途中のトレーナーさんを煩わせてしまって申し訳ないです。ここからは私一人でも大丈夫ですので、フィアさんは戻ってもらっても構いませんよ」
「いや、そういうわけには……」
 ここまで来たのだから最後までやるのが人間としての筋だ。それについさっきまで泣いていた女性を一人にしておくのも心配だ。
「ここまで来たんですし、僕も一緒に行きますよ」
「そうですか……ありがとうございます」
 クリはぺこりと頭を下げる。そして二人は、リフトを通過して向かいの建物にある発電所を目指すこととなった。
 その道中。
「ところで、関係のないことなのですが、どうしても気になったので聞いてもよろしいでしょうか」
「? 何ですか?」
 前置きをしてから、クリはフィアの頭の上に乗っているパチリスを指差しながら言う。
「そのパチリス、見たところあなたのポケモンではないようなのですが……」
「分かるんですか?」
「ええ、まあ。職業柄、そういうのは見抜けるようになっていますので」
 研究者という職業から人とポケモンの関係性をどう見抜くのかと疑問に思ったが、この世界の研究者はフィアの常識を超えているのだろうと、フィアは自分を強引に納得させた。
「このパチリス、さっきエレベーターのカードキーを盗んだと思ったら、今度は僕について来てここを照らしてくれたんですよ。何が目的で何を考えてるのか、さっぱりなんですけど」
 他にも事実をそのまま言うと、クリは目をぱちくりさせてフィアを見つめる。こいつ何言ってんだ、とでも言うような目だ。
「えぇっと、あの、フィアさん。まさか、本当に気付いてないんですか……?」
「? 何がですか?」
 クリはここで初めて落胆したような溜息を吐く。やれやれ、と言いたげな溜息だった。
「フィアさん、たぶんそのパチリス、フィアさんのことが好きなんだと思いますよ?」
「えぇ!?」
「何でそんなに驚くんですか……」
 またしても、クリは溜息を吐く。
「いやだって、カードキー盗まれましたよ?」
「おいたして相手を気を引こうとするのは人間だけじゃないんですよ? むしろ脳の構造的に、ポケモンの方がそういう行動を取ることが多いんですよ。ポケモンの生態についてちょっとでも齧った研究者からすれば、常識みたいなものです」
 それに、とクリは続け、
「今こうしてフィアさんについて来て、しかも辺りをピカッとするってことは、それだけフィアさんが魅力的なトレーナーだからでしょう。ポケモンには、素質のあるトレーナー、自分と気が合うトレーナーに近づこうとする習性がありますから、そう考えるのが自然です」
 とても研究者らしい見解を交えて説明され、返す言葉のないフィア。
「パチリス……」
 頭に乗せたパチリスを降ろし、ジッとその目を見つめる。フィアは至極真剣な眼差しだが、パチリスは物欲しそうな目でフィアを見ている。
「ゲット、してあげたらどうですか?」
「……そうですね」
 現実的な話をすれば、フィアの戦えるポケモンは二体。ここら辺で新戦力が欲しかったところではある。
 相手がこちらを好いているというのなら、それを無下にする理由はない。
 丁度エレベーターのトンネルから抜けたフィアは、そう思いながら空のボールを取り出した。
「じゃあ、パチリス。行くよ」
 出来るだけ優しく、力を入れずにフィアはボールのボタンをパチリスの額で押す。するとパチリスはボールの中に吸い込まれていき、地面に落ちる。そして何度か揺れた後、カチッという音が鳴った。
 これで、パチリスはフィアにゲットされたことになる。
「……では、急ぎましょうか。あまりゆっくりしている時間はないと思うので」
「そうですね……」
 パチリスをゲットした感動に浸りたいところだが、今はそんな場合ではない。
 フィアとクリは、急ぎ足で奥にある発電所へと向かう。



「うわ……」
「これは……」
 研究所の奥にある発電所。その最深部、即ち電力を生成している巨大発電機のある部屋は、研究所内以上にとんでもない光景が広がっていた。
 部屋を覆い尽くすほどにはびこっているのは、大量の黄色い蜘蛛のようなポケモン。その中に一匹だけ、巨大な蜘蛛がいる。

『Information
 バチュル くっ付きポケモン
 自ら発電が出来ないため、野生の
 バチュル他のポケモンや機械から
 電気を吸い取る術を体得している。』

『Information
 デンチュラ 電気蜘蛛ポケモン
 電気を帯びた糸で相手を拘束する。
 デンチュラの巣は常に帯電している
 ので、通行の妨げになることもある。』


「バチュルとデンチュラ……成程、このポケモンたちが停電を起こした主犯格ですか」
「どうもそうみたいですね」
 フィアはすぐさまボールを取り出し、ポケモンを繰り出した。
「相手は虫タイプ。なら君の出番だよ、ブースター!」
 フィアが繰り出すのは炎タイプのブースターだ。電気と複合していようと、相手は虫タイプ。相性では有利だ。
「とりあえずあのリーダーっぽいデンチュラを倒せば、この騒ぎは収まるんですよね」
「まあ、あのデンチュラがポケモンたちを先導して電気をぱくぱくしているというのならそういことになりますが……」
 陰りのある表情で考え込むクリ。
「今回のこのざわざわ、どうにも裏で何かある気がするんですよね……」
 そしてぼそりと、フィアには聞こえない声で呟くのだった。



今回は新キャラ、クリの登場。そしてほとんどの人が予想していたであろう、フィアがパチリスをゲットです。フィアの新戦力ですね。白黒は出来タイプはあまり好きではないのですが、パチリスは今後の展開で色々と便利だから、という理由で選ばれました。白黒はあまり電気タイプが好きでないんですよね。好きなのはシビルドンと、ロトム系。それからランターンやレントラーくらいでしょうか。ちなみにクリの口調は、丁寧語に加えてたまに擬音語や擬声語、幼児語など幼い口調が含まれるというものです。たぶん解説しないとなんだこれ? ってなる口調です。それでは次回、次回こそ停電騒動終結、そしてジム戦です。お楽しみに。