二次創作小説(紙ほか)
- 第31話 デンチュラ ( No.99 )
- 日時: 2013/05/04 15:05
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- プロフ: 蔓延する電気蜘蛛。
「ブースター、ニトロチャージ!」
ブースターは全身に燃え盛る炎を纏い、バチュルの群れに突進して吹き飛ばす。
「仕方ありません。あまり手荒なことはしたくないのですが、この際そうも言ってられませんよね」
そう言ってクリは、白衣のポケットからボールを一つ取り出した。
「実験スタートです、ロトム!」
クリが繰り出したのは、オレンジ色の体で頭がアンテナのように突き出たポケモン。体の回りには水色のプラズマが覆っており、腕のように二本の稲妻が飛び出ている。
『Information
ロトム プラズマポケモン
特殊なモーターにプラズマの体で
侵入して姿を変える。五つの姿が
確認されているが、他にもあるらしい。』
ロトムはボールから出るなり、プラズマの色や形を変えていく。いや、プラズマだけではない。自身の体の形さえも、変形していく。
やがてロトムは完全に姿を変えてしまう。元の面影は残っているものの、プラズマは水色から赤色になり、形も稲妻ではなくまるでミトンのようになっている。オレンジ色の体は突起こそ同じだが、電子レンジのような丸みを帯びた四角形をしている。
「これは……?」
「フォルムチェンジです」
フィアが思わず声を漏らすと、すかさずクリが説明を入れる。
「フォルムチェンジとは、一部のポケモンがなんらかの条件を満たすことで自身の姿を変えることです。進化などとは違い、あくまで姿を変えるだけですが、姿を変えると同時に違う力を顕現することも多いんです。そしてロトムは五つの姿にフォルムチェンジができます。これはそのうちの一つ、ヒートロトムです」
ヒート、つまりは熱。だから赤色で電子レンジなのかとフィアは一人納得する。
「それでは行きますよ。ロトム、オーバーヒートです!」
ロトムはプラズマ状の両手に熱を集め、それらを大気中で発火させて膨大な爆炎を発生させる。
爆炎は凄まじい勢いでバチュルの群れに襲い掛かり、ほぼ全てのバチュルを焼き尽くしてしまった。ブースターのニトロチャージはなんだったんだと言いたくなるような高火力である。
「凄い……!」
その凄まじい炎に圧倒されるフィア。今の一撃でバチュルは全てやられてしまっただろう。フィアのその予想は正しい。実際、直にオーバーヒートを受けていなくとも、バチュル程度なら熱気だけで戦闘不能にするほどヒートロトムの火力は高かった。だからバチュルは全て戦闘不能だ。
裏を返せば、戦闘不能になったのは、バチュルだけだ。
「っ!? クリさん! 上!」
ふと天井を見上げ、フィアは叫ぶ。
フィアの目線の先にいたのは、デンチュラだ。天井に張り付いてオーバーヒートを躱したらしい。
「っ、私のヒートロトムのオーバーヒートを躱すなんて……ただのデンチュラではなさげですね……」
デンチュラはスタッと天井から降り立ちバチバチと電気を放出して威嚇する。
「……フィアさん、少しお願いがあります」
「何ですか?」
「オーバーヒートは確かに強力な技ですが、使用すると特攻ががくってなってしまうんです。私の場合、一旦元のフォルムに戻ればリセットされるのですが、隙が出来てしまいます。なのでその間、デンチュラの相手をお願いします」
「わ、分かりました……」
フィアはブースターに構えさせ、デンチュラと相対する。クリもロトムを退避させ、フォルムチェンジの準備をする。
「よし……ブースター、ニトロチャージ!」
ブースターは炎を纏い、デンチュラへと突撃する。
しかし、
デンチュラが発射した電気を帯びた水流に飲み込まれ、ブースターは戦闘不能となった。
「!? ブースター!」
驚愕するフィア。それはそうだろう。デンチュラが強いのは分かっているし、今の水流はアクアボルト——水技だ。ブースターには効果抜群で大ダメージを受ける。だがそれにしても、一撃で戦闘不能となるとは露ほども思っていなかった。
「それだけ強いってことか……戻って、ブースター」
フィアはブースターをボールに戻す。正に瞬殺されてしまったが、それでもロトムがフォルムチェンジする時間は稼げた。
一度元の姿に戻り、再びヒートロトムとなって、両手に熱を溜めこむ。
「ロトム、オーバーヒート!」
そしてロトムは、激しい爆炎を解き放つ。今度は天井にも逃げられないよう、範囲を重視した炎だ。流石のデンチュラもこの攻撃は躱せないはず。
しかし、このデンチュラの強さはフィアとクリの予想を遥かに超えていた。
デンチュラはさざめくような音波を発し、炎を削ぎ落してから激しい電撃を放って強引にオーバーヒートを相殺してしまう。
「……!」
流石のクリも驚きを隠せないでいる。
しかもこの状況は、かなりまずい。フィアにとってはクリのヒートロトムが頼みの綱だ。それがデンチュラに通じないとなれば、もうどうしようもない。
加えてデンチュラはかなり興奮している。バチュルをやられた怒りか、攻撃された怒りかは分からないが、フィアたちがこのデンチュラから逃げることはまず無理だろう。
絶体絶命の危機だが、まだフィアには、本当に最後の頼みの綱が残っている。
それは、
「相手は電気タイプだから心配だけど……もう君に頼るしかない。力を貸してくれ、ダイケンキ!」
サミダレタウンでもマモンを退ける活躍を見せたダイケンキ。元々フィアのポケモンではない上、相手は相性の悪い電気タイプ。進んで出したいポケモンではないが、この状況では四の五の言っていられない。
フィアは覚悟を決め、ダイケンキに技を指示しようとするが、
「……? ダイケンキ?」
ダイケンキはジッとデンチュラを睨み付けている。デンチュラはデンチュラで、ダイケンキの眼光にバツが悪そうにしている。
しばらく二体の間で無言のやり取りがあった後、デンチュラはのしのしとフィアの所まで歩み寄って来る。
「な、なに……っ?」
突然デンチュラが接近してきたため狼狽えるフィア。その時ふと、デンチュラの背にフィアの掌が当たる。
刹那、フィアの中に何かが流れ込んできた。
(……!? これって……!)
真っ暗な空間。そこにいるのは一人の青年と、デンチュラの姿。青年とデンチュラが向かい合っているのは、巨大な渦巻く影——
「フィアさん?」
「っ……! あ、はい、何ですか?」
「いえ、さっきからボーっとして……大丈夫ですか?」
「はい……」
それよりフィアは、さっき頭の中に流れ込んできた映像を思い返す。
(さっき見えた人って、あの人だよね……ていうことは)
フィアはまだ混乱から脱し切れていない頭で考えを巡らせ、デンチュラに語りかけるように言う。
「デンチュラ、君もあの人——このダイケンキのトレーナーのポケモンなの?」
デンチュラはコクリと頷く。肯定、ということだろう。
「そっか……」
フィアは考える。このデンチュラがあの青年のポケモンだというのなら、青年を探す手掛かりになるかもしれない。それにトレーナーから離れたポケモンを放っておくのも可哀そうだ。
そう思い、フィアはまた空のボールを取り出した。
「デンチュラ、僕は君のトレーナーに恩があるんだ。あの人を探してお礼が言いたい、ダイケンキも返したい。君があの人から離れてしまったのなら、君とあの人を引き合わせたい。僕があの人に出来るのはそれくらいだけど、とにかくあの人を探してお礼がしたいんだ」
自分で言ってまとまってないと思うが、それでも思うまま、フィアは続ける。
「だからデンチュラ、今だけ僕と一緒に来てくれないかな。あの人を見つけるまでの間、僕に力を貸してほしんだ」
フィアの真摯な言葉に、デンチュラは反応を見せない。しかしやがて、コクリと頷いた。
「……ありがとう」
フィアはふっと微笑み、デンチュラをボールの中へと入れる。ボールは地面に落ち、しばらく揺れ、やがてカチッという音を響かせる。
こうして、ライカシティの停電騒ぎは収束した。
翌日。
デンチュラが街にはびこっていたポケモンを山道に送り返した後、フィアは次なるバッジをゲットすべく、昨日は挑戦できなかったライカジムを訪れていた。
「ここまで長かった気がするけど、まだ二番目。先は長いな……」
そう呟きながら、フィアはジムの扉を押し開ける。
「し、失礼します……」
控えめに中を覗き込むフィア。ジムの内装は、シュンセイジムとは違っていた。
まずフィールドが金属製ということ。ジムの証明に照らされ、銀色に輝いている。壁もシグナルが点滅していたりと、研究所をバトルフィールドにしたかのようだ。
そのフィールドの奥、即ちジムリーダーがいるべき場所には、一人の女性がいた。
だがその女性は、フィアの見知った顔であった。
「え……クリ、さん?」
それは、ウェーブのかかった白いショートヘアーに、銀縁眼鏡、白衣を羽織った女性。昨日、共に停電騒動の収束に努めたライカ研究所の研究員、クリだった。
「はい。昨日は本当にありがとうございました、フィアさん。あなたがいなければ、ライカシティは今のような平穏はなかったでしょう。ジムリーダーとして、お礼を申し上げます」
クリはぺこりと頭を下げ、にっこりと天使のように微笑む。
すると彼女は、邪魔にならないよう髪を括っていたゴムと眼鏡を外し、白衣の胸ポケットに収める。そして今度はポケットに挟んでいた水色で稲妻型のヘアピンを手に取り、前髪を留める。
「改めて自己紹介させて頂きますね。私はクリ、ライカ研究所の研究員にして、ライカシティのジムリーダーです」
『Information
ジムリーダー クリ
専門:電気タイプ
異名:現代に舞い降りた天使
提携:アシッド機関』
やっと停電騒ぎが終わりました。この騒ぎの首謀者は、知る人ぞ知るというか、フィアを助けた青年のデンチュラです。察しの良い方は分かると思いますが、今後このように、彼のポケモンが道中で出て来ます。そして遂にライカジムです。長かったなぁ、本当に……ジムリーダーはなんとクリ。まあウルシもちょこっと言ってましたし、覚えている人からすればさしたる驚きはないでしょう。ちなみにクリはジムリーダーとして活動する時は髪を下ろし、眼鏡を外し、ヘアピンを付けます。エースの特徴はこのヘアピンですね。それでは次回、ライカジム戦です。お楽しみに。