二次創作小説(紙ほか)

Re: ■… 鎖少女 …■ (学園アリス) ( No.13 )
日時: 2013/04/22 21:27
名前: 暁 ◆veyMdjA2J6 (ID: Di8TedTz)

■ 第6話 絶望の底の底


「お願いだ…盗らないでくれ……」


伸ばした手を思わずひっこめそうになる。

けど、久遠寺さんが後ろから私の手を掴んできたから、それはできなくて。


「盗るんだ、鎖少女。君の力は最近安定してきている…自信を持てばいい」

「で、でも…盗らないでって…この人、言って…」

「この人物はもう永くないんだ。…さぁ、早く盗ってしまいなさい」


強制的にその人に触れされられる。手が一瞬熱くなった。

はっと掌を見ると、そこには赤い石。この人の…“チカラ”?

私が、また…盗ってしまったの…?


「フ…ハハハ…ハハハハハハハッ!!よくやったよ、鎖少女!!」

「…っ」

「かなり君のチカラは安定してきている…もう少し、もう少しだ!!もう少しで私の身体は…っ!!ハッ…ハハハハハハハハッ!!」


狂ったように笑い続ける初校長の隣で、鎖少女は涙を流した。

自分が何をしているのかはいまいち分からない。これが正しいのかもわからない。

でも、目の前のこの人は正しいという。…本当に?


それでもやっぱり、鎖少女には信じることしかできないのだ。他に頼れる人も、頼れる記憶さえもないのだから。


「私の身体が戻れば…すぐにあの親子は排除してやる……」

「…く、おんじ…さ…?」

「ああ…何でもない。もう少しだ。もう少し練習を重ねよう。もう少しすれば……」


————君は完全に、そのチカラを扱えるようになる。


(これは…本当に正しいの?このチカラはなんなの?“ありす”なの?)


日に日に何処か朽ちていく自分を、少女は感じていた。





「……」


部屋で静かに、鎖少女は椅子に腰掛けて窓から外を見ていた。

何をする気にもならない。今日は蜜柑が来ても、笑えるだろうか?

そう思っていると、扉がノックされた。


「…入るぞ」

「…誰、ですか?」


部屋に入ってきたのは見知らぬ男だった。

いつものお世話係の人物とは違う、金髪の男。手にはカップの乗ったトレイを持っている。

男は鎖少女を見て一瞬目を見開いたが、すぐに表情を戻した。


「今日は君のいつものお世話係が忙しいんだ。そこで今日は俺が来た」

「…そう、ですか。ありがとう…ございます。あの…お名前は?」

「……デューン・ブラッドだ。これは紅茶だ。初校長からだ」

「…わざわざ…どうも」


軽くお辞儀をするが、紅茶には目もやらない。

そんな鎖少女を見て、デューンは初校長の下劣さを改めて思い知る。


(…あいつは…どこまでこの少女を、絶望の底までおとしているんだ?)

「じゃあな。…30分ほどしたら、回収に来る」

「…わかり、ました」

「……あと」


その言葉でやっと、鎖少女はデューンの方に視線をやった。

デューンは顔は向けず、背中を向けたまま言う。


「…必ず助け出してやるから、待っているんだ」


そう言って、彼は扉を閉めた。

鎖少女は目を見開いて、彼の去ったあとの扉を見つめた。

そして静かに…泣いた。





「…」


ふぅ。とデューンは息をはいた。

その時、後ろから声がかけられた。クロノだ。


「どうした?…何かわかったか?」

「何か…どころじゃないな。とんでもないことだ」


デューンの表情が険しくなる。

クロノは一度ため息をついてから、真っ直ぐにデューンを見た。


「あの少女は…帝神姫花テイコウヒメハナは、……一度死んでなどいない」


全ては初校長によってつくられた偽装だ。とクロノは言う。

デューンは最大限に目を見開いたあと、静かに目を閉じた。