二次創作小説(紙ほか)

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ※第4章から一部ダーク ( No.127 )
日時: 2014/02/04 20:16
名前: 風龍神奈 (ID: 3AcPJtE0)

 第17話 師トノ再会

 薄暗い地下の中を、淡々とサクリファイスは歩いていく。
 その後を、無言ながらもフェイはついてきていた。
「…着いたわよ」
 暫くして、サクリファイスが立ち止まった。
 その前には頑丈な鉄格子があり、この空間が牢屋だという事を物語っていた。
「——師匠、分かりますか?」
 深呼吸した上で更に一呼吸置いてから、フェイは言った。
「…まさか、フェイ? フェイなの?」
 ややあって、奥から誰かの声が聞こえてきた。
「はい。それに…、癒月もいます」
「えっ…」
 という言葉と同時に、奥から人が現れた。
 年の頃は20代前半か後半か。柔らかそうな栗色の髪に、同じような瞳の色。
 彼女の名は、月城月牙(ツキシロゲツガ)という。
「! 本当に、癒月とフェイなのね…」
 月牙が二人に視線を向ける。
「…師匠?」
 とその時、サクリファイスから体を返された癒月が、目の前にいる彼女に気付き、そう言った。
「ええ。そうよ」
「!」
 癒月が手を口元に当て、瞠目した。
「…っ」
 彼女の頬を、一粒の滴が垂れる。
「何泣いてるの? 私は大丈夫よ」
「…は…い…!」
 月牙から来た言葉に、返事をしながら、癒月は涙を拭った。
 その横で、フェイがトレイターに言われた事を訊く。
「あの、師匠。此処で暴れているって聞いたんですけど…」
「? 私、暴れていないよ?」
「「え?」」
 月牙の言った言葉に、二人はきょとんとする。
「…もしかして、貴方達あの最低野郎に言われてきたの?」
「そ、そうですけど…」

 ドガンッ!!!

「「っ!?」」
 月牙の手から放たれた何かが、牢屋の壁をぶっ壊した。
「あんのエロジジイ…!! 次会ったら殺ってやるわ!!」
「や…、流石に師匠、殺すのは不味いんじゃ…」
 そう言ってきた弟子の言葉に、月牙は答える。
「不味くないわ、全然。マルサグーロ自体が私達氷炎使いの敵何だから、そのボス何て殺っていい存在でしょう…?」
「「師匠、抑えて下さい!!」」
 弟子二人に言われ、流石に月牙は殺気を消した。
「…ごめん、思わず殺気を出しちゃったわ」
「「思わず以前の問題ですよね!?」」
「うん。それは確かに。訂正しておくわ」
「「訂正されるのも困るんですけど!?」」
 またもやハモった弟子二人に、月牙は苦笑した。
「はは。…しかし、二人とも昔よりは少し表情豊かになったね」
「「……っ」」

Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ※第4章から一部ダーク ( No.128 )
日時: 2013/12/21 22:45
名前: 風龍神奈 (ID: ZfyRgElQ)

 月牙の言った言葉に、二人は固まった。
「どうしたの? 二人共」
 流石に彼女も気付いたらしく、訊いた。
「…何でも、ないです」
 幾つもあった言葉を全て呑み込んで、癒月は言った。
 あの頃は——SSCにいた頃は、こんな役目があるなんて知らなくて、それを継ぐ事になるなんて知らなくて、そして——。
 記憶を掘り起こして、だが分からずに癒月は頭を振った。
 SSCにいる前は、師匠と暮らしていた筈なのだ。
 だが、その時の記憶がすっぽりと抜け落ちていて、SSCの途中からしか記憶がない。
 一体何がその時あったのだろうと思いつつ、癒月はそれを問おうと月牙に口を開けかけた時。

「————ッ!!?」

 急な衝撃が、全身を襲った。
「「癒月ッ!?」」
 月牙とフェイが、同時に叫ぶ。
「…ぁ……」
 癒月の体が倒れる。
 フェイは彼女を起こそうとした。
 が。
「…!? 体が…!!」
 体が、動かない事に気付いた。
「癒月…! フェイ…!」
 フェイと同じく体が動かない月牙は、弟子二人の名を呼ぶ。
「——さぁて、そろそろいいだろう?」
 瞬間、そのような声と共に、トレイターが姿を現した。
「「!! トレイター!!」」
 月牙とフェイの言葉が重なる。
「今、貴様等と遊んでいる暇は無いのだ。何せ、今の目的は…」
「っ!? あああぁぁぁぁぁぁ!!!」
 トレイターが手を突き出した瞬間、衝撃が癒月を襲い、彼女は悲鳴を上げた。
「「癒月!!」」
 二人の叫びも虚しく、トレイターは気絶した癒月を軽々と担ぐと、傍にいた男に言った。
「片割れを牢に入れろ。絶対に逃すな」
「はっ」

 ガシャンッ!!

 そんな音と同時に目の前の鉄格子が開き、フェイは中に投げ込まれた。
「っ!!」
 地面に転がる寸前に、上手く体勢を整えたフェイは、そのまま閉められた鉄格子を握り締め、叫んだ。
「癒月をどうするつもりだ!!」
「どうする、だと? そんな事を聞いてどうする? 君はその場から出られない。この場には魔封じがしてるのだからね。それに…、もし貴様等が其処から許可無く出た場合は、こいつを殺す」
「「!!」」
 月牙とフェイが驚いて、悔しそうに顔を歪めた。
 トレイターに担がれた癒月は、ぴくりとも動かない。
「精々、大人しくしているんだな。先代氷炎使い炎の継承者と、今代氷炎使い炎の継承者」
 そう言って、トレイターは癒月を担いだ儘、消えた。