二次創作小説(紙ほか)
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.92 )
- 日時: 2013/10/01 18:03
- 名前: 風龍神奈 (ID: aS9uLd49)
第10話 洸、焔との関係
「…これは、復活させる事なんて出来ないわよ」
癒月が、破壊死書を握りながら言う。
「残念ながら、それが出来るんだな。破壊死書に関する情報を調べていて、見つけたからな」
洸(ほのか)は、そう言って笑った。
「…そもそも、これは人を喰らう物。発動したら、あんたは生きれない」
「それはどうかな」
洸はあっさりと躱す。
「人を生き返らせる方法はな。魔法陣を描き、その上に復活させたい人を乗せ、ある言葉を詠唱すればいいんだよ。——お前等の住んでいた場所に、そう書いてあったのを、お前等は読まなかったのか?」
「! あんた、勝手に…!!」
ぞわりと、癒月の手の下で破壊死書が蠢く。
「癒月! 抑えて!!」
じゃないとまた君は——。
フェイの言葉を聞いて、癒月が黙る。
「…資料何て、僕達は読まなかったよ。そんな物読まなくても、僕達には師匠がいたからね」
「あっそ」
洸はふと目線を落とすと、胸元からさげている銀のロケットペンダントを握った。
「…そうだったな…。待ってろ、焔(ほむら)…」
ごく小さく呟かれた言葉は、癒月の耳には届いた。
焔。
きっと、洸の妹の名前なのだろう。
そう、思った時。
——………て
と、何かの声が聞こえた。
「誰!?」
周りを見渡すが、声の主はいない。
——……して
「な、何よ…!」
癒月の声は誰にも届いていない。—否、癒月だけが違う世界にいた。
——同情して、喰わせろ
目の前から、声が響いた。
と同時に、何かに喰われる様な感覚が、癒月を襲った。
「…癒月!」
そう呼びかけられて、癒月は瞼を上げた。
「…どうやら、破壊死書に意識だけを連れて行かれたようだな」
癒月の様子を見ていたらしい洸がそう言った。
「その様子じゃ…、流石に可哀想か」
洸は何かを唱えた。
「——いずれ、お前達をこの手で葬り、それを奪ってやるからな。それまで、残り少ない日々を大事に送っておけ」
そう言い切ると同時に、洸の姿が消える。
「…何だったんだろうね、…癒月!?」
フェイが変な違和感を感じて、下を向く。
彼の腕に抱かれていた癒月は、再び意識を無くしていた。
「癒月、癒月!!」
フェイの声は、時間が動き出した周りに、響き渡った。
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.93 )
- 日時: 2013/09/12 23:35
- 名前: 風龍神奈 (ID: uv8uJrDZ)
◇ ◇ ◇
今より、ずっと昔の出来事。
癒月とフェイが、まだSSCにいた時。
彼等彼女等は、ある組織のビルの破壊を目論んでいた。
その名は、エレッガ。彼等SSCを、この世から消し去ろうと考えていた組織だ。
エレッガはありとあらゆる全ての手を使い、SSCを消したり、仲間に引き入れて殺そうとしたりしたが、それらは華麗に躱された。
——そして、今が反撃時だと考えていた彼等は、エレッガを消滅させるべく、隠密に動いていた。
「…癒月、フェイ。準備はOKかい?」
SSCのリーダー、SARUが問う。
「「大丈夫」」
同時に答える二人を見てから、反対側にいるメイア、ギリス、ガロに目で問う。
彼等は皆、頷いた。
「——行け!」
SARUの言葉を合図に、皆は一斉にアンプルバズーカを放った。
目の前のビルが、音を立てて崩れていく。
見るも無残な姿になったエレッガのビルに、SARU、癒月、フェイ、メイアとギリスが足を踏み入れた。
恐らくロビーであった場所は、大小様々な欠片や硝子の破片等で埋まっていた。
この状況なら、誰も生きていない。
そう思った5人が、踵を返そうとした時。
「………らっ!」
誰かの声が聞こえた。しかも、その声は、ロビーの奥から聞こえてくる。
5人は顔を見合わせ、その声の方向に向かった。
「…むら…っ!」
近付くに連れて、声が大きくなってくる。
「焔…っ!!」
5人が辿り着いた先には、声の主だと思われる少年と、名を呼ばれている少女らしき人物がいた。
だが、少女の腹には、でかい瓦礫が刺さっており、一目見ただけで死んでいるのが分かった。
「…っ!! お前等は…!」
5人に気付いた少年が、声を上げる。
「…何故、生きている」
SARUがそれを無視して冷淡に訊いた。
「…たまたま、瓦礫の間にいたんだよ。だから、助かった。…でも、お前等の所為で焔が…!!」
少年は、後半の言葉を怒りに変える。
「お前等が、殺したんだろ、焔を…!!」
「——そうだとしたら、どうするの?」
今度は癒月が訊いた。
「私達をこの場で殺すの? 無理よ、分かっているよね? 私達が、SSCだって事」
癒月が一気に言う。
「分かっているさ、そして俺が手出しできないこともな」
少年は、5人を睨み付けながら言った。
「——だから、待っていろ。俺が、お前等を殺せるぐらいの力を手に入れたら、真っ先にお前等を殺しに行く」
「…そう。——でも、きっと無理だね」
癒月はそう言ってくるりと踵を返す。
残りの4人も、同様に踵を返す。
「覚えていろよ…! お前等に大事な妹を殺された男をな…!!」
少年の声が、背後から聞こえる。
だが彼等は無視し、そのままそこを出る。
でも、どうしてか癒月の心の中には残っていた。
◇ ◇ ◇
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.94 )
- 日時: 2013/09/12 23:35
- 名前: 風龍神奈 (ID: uv8uJrDZ)
「…癒月、癒月!!」
誰かから声を掛けられて、癒月はゆっくりと目を開けた。
見ると、周りに雷門メンバーが集まっていた。
「…みん…、!!」
言い差して、不意に頭痛に襲われた癒月は、こめかみに手を当てる。
さっき見た、昔の過去の所為か。
そう思っても、中々頭痛が治まらない。
「…癒月、大丈夫?」
フェイに心配されるが、癒月は片手で大丈夫のサインをする。
ゆっくりと深呼吸をして、鼓動を落ち着かせる。
暫くそうしていると、頭痛がやんだ。
「…ゴメン、皆。心配かけて…」
起き上がって、周りを見回して、癒月は言った。
「…大丈夫そうで、良かったよ」
「行き成り、フェイが癒月の名前を連呼するもんだから、吃驚したよ」
「いつの間にか、癒月が倒れていたしな」
と皆は口々に言った。
皆は時が止まっていたことを覚えていないのか、と思いつつ、癒月は愛想笑いを浮かべた。
「…私は大丈夫なんで、皆さん、練習に戻ってください」
そう言われ、皆は離れていく。
その場には、フェイだけが残った。
「…一体、どうしたって言うの? 大抵、癒月が愛想笑いを浮かべるときは、何か悪いものを抱え込んでるときだよ」
フェイが皆に聞こえない位の音量で言った。
「…やっぱりフェイにはばれるか」
癒月はそう言うと、
「ちょっと…場所移動していい?」
と訊いた。
◆ ◆ ◆
稲妻町の鉄塔付近の森の中で、洸(ほのか)は座り込み、何かを見ていた。
彼の手の中には、楽しそうに笑っている兄妹の写真が入った、ロケットが握られていた。
「…待ってろ、焔(ほむら)。もうすぐ、生き返られるからな」
——……て
誰かの声がした事に、洸は気が付かなかった。
◆ ◆ ◆
「…さっき、意識を失った後に、過去を見たんだよね。——私が、私達が、エレッガの会社を破壊した時の」
場所を移動してサッカー棟のサロンに来た癒月が、フェイに言った。
「…それって、唯一僕達が参加した」
「そう。…過去は、私達がビルを破壊し始めたところから始まってた。そして、途中で——洸と、焔が出てきたの」
「!!」
癒月の言葉にフェイが驚く。
「私も吃驚したよ。まさか、あの時にあった少年が洸で、少女が焔だったとは。…すっかり、記憶の奥底にいってて、気付かなかったけどね」
癒月が柱に凭れ掛かりながら、続ける。
「でもさ、その時洸がいった言葉、妙に胸の中で燻っていたんだよね。そしたら、さっき洸にあって分かった。——私は、洸が成長して、殺しに来るのを待っていたんだって」
「…癒月、それって、まさか…」
「大丈夫。殺されはしないよ。逆に、何か良い方法を探して、洸と和解するようにするから。——もし、死んだら、後は全てフェイに任せるよ」
「…そんな、縁起悪いこと言わないでよ…」
- Re: イナクロ 〜炎と氷を受け継ぎし者〜 ( No.95 )
- 日時: 2013/09/13 23:08
- 名前: 風龍神奈 (ID: ZfyRgElQ)
フェイの余りにも悲しそうな表情に驚いたのか、癒月が言い添えた。
「だから、死なないって言ったじゃん。…もし、亡くなったとしても、きっと…」
後半は、フェイにも聞こえない位の音量で呟く。
「——まぁ、ともかく。私が抱えていたのは、それの事。分かった?」
「…分かったよ」
フェイが渋々と言った体で、頷く。
「じゃ、練習に戻ろう」
そう言って向けた癒月の笑顔は、——本物のようでいて、本物ではなかったのを、フェイは見抜けなかった。
◆ ◆ ◆
暫くロケットの中の写真を見ていた洸は、それをしまうと、目の前に魔法陣のような何かを書いた。
そして、懐の中から誰かの髪の毛を取り出すと、その魔法陣の上に置いた。
瞬間。
「………」
そこに、癒月が立っていた。
雷門中にいる筈の、彼女にとてもそっくりな、彼女が。
あまりにも精巧な出来に、洸は口の端を吊り上げた。
いける。ここまでそっくりなら、いける。
洸は、彼女に、ある指示を出した。
◆ ◆ ◆
サッカー棟での練習が終わった後、癒月は一人、鉄塔広場へと向かっていた。
一人で訪れて、そこからの景色を眺めるのが、彼女にとっての悩みを解決する方法だった。
「…相変わらず、綺麗だなぁ」
夕日が西に沈みかけていて、稲妻町は夕焼けの色をしていた。
「…毎日」
こんな風に、平和な日々が送れたら良いのに。
そんな風に思ってしまう癒月だった。
(…でも、これがあるから…)
彼女は破壊死書を服の上から掴む。
出来る限り悲しい思いに浸らないようにしながら、癒月は稲妻町の町並みを見渡す。
それを見て、綺麗さに感動している彼女の背後に、二人の人影。
その片方が一瞬で癒月に近づき、布で癒月の鼻と口を覆った。
「!!」
気付いた時にはもう遅く、視界がうっすらとぼやけていく。
その時、癒月は見た。
フードが捲れ、その下から現れた顔を。
どうして、私が其処にいるの。
何故、その奥で洸が嗤っているの。
その疑問は、問えぬまま、癒月の意識は落ちた。