二次創作小説(紙ほか)

Re: 【inzm】想像フォレスト ( No.18 )
日時: 2013/08/11 14:39
名前: 柳 ゆいら ◆JTf3oV3WRc (ID: J69v0mbP)

Page4  《押し花》





 別の本を読もうと、本棚から本を抜き取ると、はらりとまっ赤な花びらが舞い降りる。

 床に落ちた花びらを拾うと、それは押し花だった。


(これは……。)


 お母さんの花びら。

 これを見ると、お母さんを思い返させる。
 私のために、お母さんは……。

 この花の名前を、私は知らない。本に載っていた、〈バラ〉というものにそっくりだけれど。
 遅まきながら、聞いておけば良かったとつくづく思う。

 押し花をポケットにそっと入れ、本を持ち直して、いすに座り、本を読みはじめる。しかし、私はすぐに手を止める。

 てきとうに本を選んじゃったから、悪いんだ。

 私はため息をつきながら、読書を再開する。
                    あやかし
 いま私が読みはじめてしまった本。それは、妖やお化けを載せている本だった。
 私が開いてしまったページ。それは、まっ赤な目を光らせながら、目を合わせたモノを石に変えてしまうというお化け……メデューサのページだった。

          ☆          ☆          ☆          ☆

 ぽたり、と一滴の涙が、〈バラ〉のそばに落ち、しみを作り出す。手にしたひもには鍵がぶら下がっている。
 一枚の花弁が、小さく風にあおられ、動く。

 一枚だけ、はぐれちゃったんだね。

 私はそんなふうに思って、その一枚の花弁を手に取る。
 きれいだった。とっても。

 大好きなお母さんの形見なんだと思った。

 私に、お母さんが最後のプレゼントをしてくれたんだと思った。

 もう、私はひとりぼっちになっちゃったんだと、思った。


 しゃがみこんだまま、私は〈バラ〉を見つめていた。

 これは、石にならないんだね。

 なんだか、ちょっと心が楽になった。

〈バラ〉をつくえの上に置き、本棚をふり返る。〈バラ〉が石にならなかったんだもん。本だって、きっと、私のことは裏切らない。

 そっと本を手に取り、じっと見つめる。
 まったく、なんの変化もない。

 ……よかった。やっぱり、石にはなってない。

 ぱっとその本をてきとうに開けると、そこには、ある単語の意味が載っていた。


『無機物』


 むきぶつ? 私は首をかしげる。
 なんだか知りたくなって、私は続きを読んだ。


『無機物−むきぶつ−  水、空気、および無機化合物からなる物質。また、無機化合物のこと。例:紙』


 よく、わかんない。
 でも、例に書いてあるもので、よく分かった。

 つまり、私が見つめても、へいきなものなんだ。

 それだけは、よく分かった。