二次創作小説(紙ほか)

Re: 【inzm】想像フォレスト ( No.26 )
日時: 2013/09/11 06:17
名前: 柳 ゆいら ◆JTf3oV3WRc (ID: J69v0mbP)

Page8  《鏡》





「絶対に、生きているものと目を合わせちゃ駄目よ。」


 お母さんが真剣な表情で、ルビーをきらりと光らせながら、私に告げた。
 しかも、『絶対』という言葉までつけて。


「どうしてなの? お母さん。」
「……かたまっちゃうのよ。」


 比喩だと思った。ただの、たとえだと。
 幼かった私は、純粋にそう思ってしまった。

 私の目は、お母さんゆずりのルビー色をした、きれいなまっ赤な目をしている。
 だから、めずらしいからびっくりしてかたまっちゃうから、とか、そういうことだと思った。

 でも。



「石になって、かたまっちゃうの。」



 比喩でもたとえでもなんでもなく、そのとおりの真実だった。事実を突きつけられ、微動びどうだにできなくなる。

 石? 目を合わせただけで、石に……?

 とうてい、昔は受け入れるどころか、その事実を信じることすらできなかった。

 でも、親の言いつけを守らず森を出歩き、〈リス〉と目がばっちり合ってしまったとたん、〈リス〉は足下からどんどん石化してしまった。そのとき、やっと分かった。

 私は、ふつうじゃないんだって。

 私と同い年くらいの子たちに「バケモノ」と呼ばれた次の日に読んだ本には、「バケモノ」がでてきた。



 私が。



 私と同じ「バケモノ」は、〈メデューサ〉というらしい。頭に蛇をもち、目を合わせたら最後、石にされ死んでしまう。

 この本のなかの〈メデューサ〉の目も、赤かった。


「もしかして……?」


 私の目って。

 手鏡を震える指で取り出し、おそるおそる自分の顔をのぞく。

 白い肌、への字になってしまっている口。
 まっ赤な目。

 これが、〈メデューサ〉の証なんだ。

 そう思うと、くやしくなってきて。

 つらくなってきて。

 お母さんのせいじゃないのは分かってる。でも——!

 鏡のなかの自分が、どんどん揺らいでいく。
 泣きそうなんだ、と自分で分かる。私はよく転んだりして泣いていたから。

 私はたまらなくなり、幼かった頃のせいいっぱいの力で、鏡を床にたたきつけた。

 床に落ちた鏡は、そのカケラをばらまかせる。