二次創作小説(紙ほか)

エクストラターン14:捨てられたデッキケース ( No.301 )
日時: 2014/03/28 11:02
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sEySjxoq)

 ***

「だめですねー、やっぱり突然特定できなくなりますー」

 青い髪を持ち、眼鏡をかけた少女。白衣を纏い、少しボサボサになり気味なパソコンを目の前にカタカタカタとキーボードと鳴らしている。
 だが、水のように透き通った目は水晶のように光を乱反射させる。そして、白い肌は雪のように何処か優しい。そして整った顔立ちは普通の男なら一発でノックアウトさせる。つまり、美しさより可愛さを際立たせていた。
 
「肉塊は1点へと向かっていったんですー。けど途中で消えちゃいましたね」

 ま、それより竜神王による被害件数とか色々調べるのが先決ですけどー、と少女は呟くと、「上書き保存」のボタンをクリックしてノートパソコンを閉じた。

「それより、それより、シントさんがオーストラリア帰ってくるのはいつですかね? 楽しみですー、ヤダ私ったら……すっかり焦らされてるかんじです。学校サボって迎えに言っちゃおうかなぁー、ヤダヤダ、私ったらダメな娘ですね、うふふ」

 少女は、自分で言ったことに赤面しながら、コーヒーを啜った。

 ***

「ところで、武闘先輩。”カナデ”さんって一体?」
「教えておいてやる。水澤カナデ。俺たちの仲間だが、鎧竜には行かず、大阪の木芽布陀ニュータウンにある聖(セント)羽衣決闘学院に入学した。お前らの仲間、キイチもそこに転校していたはずだ」

 フジ曰く。非常に頭がよく、それは同じく”天才”の異名を持つテツヤを凌ぐという。IQ400の脳指数を持つ。
 しかし、彼女は唯一つの欠点を抱えていた。

「ずばり、ドジだということだ。しかも、持ち前の不幸特性のせいでいつもやらかしてばっか。だが、とても優しい性格で、美人で……はぁ、結局俺なんかじゃ釣り合わなかったがな」

 はぁ、と憂鬱気味にため息を漏らすフジ。

「武闘先輩、カナデさんのこと好きだったんですね」
「な、何で分かったし! いや、まあそうなんだが。今となっては……」

 フジは意外と素直に答える。だが、彼女の話をしているときに顔が若干赤くなっていたので、バレバレだったが。

「アイツはだって、シントに惚れてたんだからな」
「え?!」
「そうだ。ある事件で、彼女は追われているところをシントに助けられて同時に惚れたんだ」
「ある事件って?」
「お前らには話したこと無かったな。ま、ちょい長くなるがいいだろう」
 
 ”ブランク”と呼ばれる真っ白なカードが引き起こした事件。それは当時、全国に分校を作っていた”獅子王デュエルスクール”という名の塾の塾頭が引き起こしたものだったが、それは子供が突如、凶暴化してデッキのカードを実体化させてしまうというものだった。
 カナデは自身が通うその塾の秘密を、ある日偶然知ってしまい、追われる身に。

「俺も被害者の1人で、”ブランク”を所持していた。その時間帯だけ、ぽっかりと記憶が空いちまうんだ。不自然に思ったが、別段気にしても居なかった」
「いや気にするでしょ」
「んでもって、テツヤはそれを追っていたんだが、”ブランク”によって凶暴化した俺に襲われたんだ。そこに---------------たまたま場に居合わせたアイツが、シントが出てきた」

 ”ブランク”による魔力を封じるには、クリーチャーが実体化する命を賭けたデュエルで勝つしかない。シントは見事、フジを倒して”ブランク”から開放したのだった。
 というのも、無頼シントは大会上位者の常連で、この頃から高い実力の持ち主だったという。

「そして、カナデだが。他の生徒にクリーチャーで襲われて倒れていたところをシントに拾われてて世話になって以来、あいつにベタ惚れしていた」
「はは、分かる気がします」
「あ? お前も同じようなもんか?」
「い、いえ! そういうわけじゃ!」
「んじゃ続ける。んでもって、塾頭の正体が、クリーチャー界を統べるゼニス、《「俺」の頂 ライオネル》だった。日本を拠点に、次々に子供を”ブランク”で兵器へと改造していったんだ。しかし、俺たちが直接殴りこんで、結局ぶっ倒した」

 「まあ、その後紆余曲折あってアイツは俺たちの通っていた小学校に転校した」とフジはコーヒーをカップに注ぐ。

「さて、シントだがな。『助けたのに付けこむ訳にはいかねえだろ』って言ってな。なかなか、カナデの好意を素直に受け取ったりはしねえ」
「えー、意地悪な」
「気の迷いだろ、アイツには他に釣り合う奴がいるって俺に零してやった。だから一発怒鳴ってやったよ。『テメェは逃げてるだけだ!!』ってな。そしたら目ェ覚ましたみたいだ。そっからどうなったのかは知らんがな。あいつら今は、遠距離恋愛してやがる」
「ロマンチックですねー、そういうの憧れます! でも、いくら友達のためだからと言って、自分の恋をあきらめることは無かったんじゃ」
「はっ、いいんだよ。これで借りは返したからな」

 ***

「珍しく呼んだと思ったら、お前は俺に何のようだ?」
「悪かったね、テツヤ」

 テツヤは、目の前の人物を前にして若干ブルーになりながら息を吐いた。
 場所は、海戸ニュータウン中央病院のロビー。多くの人は、さっき避難して、もうここには誰もいない。
 
「言いたいことは、1つだけ」
「ならとっとと言え」

 天川は、「全く君は……」と悪態をつく。そして続けた。


「君、無理するのも好い加減止めにしたらどうだい」

 
 -----------やはり、気付いていたか。
 テツヤは、気分を害したかのように天川を睨む。

「どうして気付いた?」
「同じ文明を使う者同士、気が合うのかな。だけど、最近君。やっぱり、度々痛みをこらえてる」
「ハッ、バカ言え。この程度」
「君の病状は、君が思っている以上に重大だ。やはり、あの事故の後遺障害じゃ……」

 テツヤは、ふっと息を漏らすとベンチに腰を下ろした。

「脳腫瘍だ。治療しなきゃ、やばいって言われてる」
「やっぱり……て、何だって!? あの事故関係なかった!? 何故、誰にも言わなかったんだ?」
「あ、伏線じゃねえよ? それに、この程度で、あいつらに心配かけたなくないんだ」
「だけどっ!! せめて、治療を! 海戸の医療技術なら」
「それでも、俺が抜けることであいつらに迷惑はかけたくねえ!! それに、手術しても成功する確率は半々。失敗したら、それこそ俺は死ぬって言われた」

 テツヤは立ち上がる。そして続けた。

「これは俺が戦うための延命措置だ。俺はぎりぎりまで戦わなきゃいけねえ!! シントが居ない今、俺が戦うしかないんだ!!」

 そういって駆け出した。

 ------------テツヤ。君は1人で戦ってるんじゃないんだ。怖がっていたら、それこそ前に進めないよ。

 ***

「うーん……朝か」

 ドラポンは、目を覚ますと同時に実体化する。霞んだ視界がようやくはっきりしてきた。

 が、ベッドを見た瞬間衝撃が走る。

 いない。

 そこにいるはずの人物がいない。

 そして、いつもヒナタが肌身離さず持っているはずのデッキケースが、ゴミ箱に放られている。


「た、大変じゃ-----------ヒナタが居らんこうなった!!」