二次創作小説(紙ほか)

エクストラターン15:ベルフェモール ( No.304 )
日時: 2014/03/28 23:27
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sEySjxoq)

 ***

 時を少しさかのぼり、オーストラリアで束の間の休息をとっていたシントは、本当に休息が束の間になるとは思っていなかった。
 街に突然姿を表した黒き竜神王、《アングバッド・アンカラゴン》が何体も現れる。それらは、正しく飛竜。翼を羽ばたかせて、次々に人を喰らっていく。
 が、シントはそれらを休む間もなく倒していくことになった。

「ぜぇぜぇ、はぁはぁ」

 まずいことに、1人だけでは追いつかない。片っ端から決闘空間を挑んで倒していくが、”本体”が見当たらない。

「くっそぉ!!」

 と、その時だった。次々に、アンカラゴンが黒い肉塊に変わって飛んでいく。

「に、逃げられたってことで良いんだな……」

 疲労が相当溜まっている。シントは一度苦笑いを浮かべると、膝を付いてそのまま意識を闇に葬った。直前に、瞼の裏に仲間の姿をすりこんで。

 ***

「デッキケースが、何でゴミ箱に……」

 ドラポンはデッキケースを拾った。散らばったカードを見れば、思い出深いものばかりだった。まして、ドラポンにとっては盤面の上で共に戦った仲間。
 デッキケースは二段状になっており、デッキ改造用のカードも入れられてあった。

「……あいつ、もしかしてデュエマ辞める気とちゃうんじゃろうな」

 ギリッと歯を噛み締めた。


「ヒナタの、バカヤロオオオオ!!!!!」


 誰もいないからか、虚しく、叫び声だけが木霊した。

 ***
 
 戦いから一夜明けたということを実感した、レン達。先日は、そのまま路上で寝てしまったようだ。
 ボロボロに朽ちた海戸ニュータウン。人は皆逃げて、蛻の殻。

「竜神王のヤツ、許さない!!」
「先輩、落ち着いてです。ここで感情的になっても意味が無いです」

 シオが怒る彼をたしなめる。レンは、ふぅっとため息をつくと、ケータイの伝言を見た。

「竜神王は、一点の方向へ集まった後に反応が消えたらしい」
「まずいです。奴らは何が目的なのかも分からないまま、唯時間だけが過ぎていくです」
「奴らに動きは? 最新の情報をツイッターなんかで知ることが出来れば良いのだが」


「ツイッターなんか要らないねぇ」

 声がする。上を見れば、ジェット機の音と同時にシルエット。そして、それがどんどん地上へ近づいていくのが分かる。
 激しい風に髪がなびく。
 それは、小さな自家用機でこそあったが、飛行機と見て間違いなかった。
 そして見覚えのある銀髪の少年が現れた。

「奴らは、”地球のへそ”。つまり、オーストラリアのエアーズロックでリンクしたのが今朝確認されたよ」
「ジェイコフ!?」

 そう、まさしくジェイコフ・クライニューだった。

「ヘリに乗ってくれ。特別に、オーストラリアへの入国許可を貰った。燃料は途中で補充するから、このままラリアに行くよ」

「って、ええええええ!!」

 レンは叫ぶ。
 金持ちはチートだ、金持ちは最強だ、という思考がぐるぐる回る。
 が、仕方なく乗ることに。敵がようやく姿を現したというのならば、行くしかあるまい、と。
 向こうにはシントもいるのだ、恐れることは何も無いはずだ。


 ***

 オーストラリア、エアーズロック。地球のへそとも呼ばれる此処は、本来ならば先住民、アボリジニの人々にとって神聖なる場所のため、登山が制限されることもある巨大な岩だ。
 そう、岩なのだ。この山自体が1枚の岩で成されているのである。
 この周辺には、許可なく入れば罰金が課される聖地が他にもあるが、ここは特別だ。

 しかし、それを嘲笑うかのようにその頂上の遥か上で竜神王とローブを被った少女は浮いていた。

 その横には、二体の無法者。

 無限を司る《ジャッキー》。
 不死を司る《ブルース》。

 この2体は少女を護るかのように付いていた。
 クリーチャーには、地球や他の惑星においても、自らが最も力を発揮できる聖地というものがある。
 ここは、クリーチゃーの力が見えない竜脈によって最も溜まっている場所。故に少女はここを選んだのである。

 邪念因子が最大限の力を発揮できる場所ならば、どこでも良かったのである。

「さあ、最後の儀式のはじまり」

 少女はクスクスと笑う。そして、ローブを脱いだ。艶やかな緑色の髪、そして幼さが残る顔立ち、そして手に持った水晶付きの杖。

「------------------この《箱庭のイザナイ ベルフェモール》はついになしとげちゃうんだー。せかいをこのてに。全ぎゃらくしーオラクル化計画のだいいっぽが、この地球で-----------------」

 オラクルの残党、ベルフェモール。
 それが彼女の本名だった。

「今までべるを閉じ込めてきたヨミに一泡吹かせてあげる。地獄からちゃんとみていてね? ヨミ」

 くすりと笑う姿は、年相応の少女のもの。
 しかし、その裏にある思惑はとても少女には考えられないものだった。
 全ギャラクシーオラクル化計画。
 そのために、竜神王を呼び起こし、さらにそれらを揃える事で現れる最狂最悪のクリーチャーをこの手にするために、彼女の野望は狂気へと変わる。


 ***

「ヒナタがいなくなった!?」

 コトハがその知らせを受けたのは、レン達が知らないうちに出発した数十分後だった。どうやら、

「あのバカ……どこにいったのよ!!」

 仕方が無く、海戸中央病院へ戻ることにする。が、案の定病室には誰もいない、と思いきや。

「コトハー!!」
「ドラポン!? 居たんだ!」

 コトハはドラポンが飛びついてくるのを見事に避け、赤いそれがへしゃげるのをしっかりと見届けた。

「す、すまんすまん、ちいとはっちゃけてしまったっちゃ!」
「あんたねえ、いくらコトハの胸が極上だからと言って、絶対ダメだよ!」
「確かに、オーロラはAA未満っちゃな……痛い痛い痛い!!」

 怒るオーロラの光弾がドラポンへ炸裂した。
 ああ、ヒナタといいドラポンといい、どうして男子はこうもデリカシーに欠けるのか。

「それはいーとして、ドラポンはヒナタが1人で行きそうな場所って分かる?」
「いかがわしい本のコーナー……いだだだだだ、冗談っちゃ!!」
「アンタねえええ!! 好い加減にしときなさいよぉ!! よーく、こんなときに冗談が言えるわねえ!!」
「だけど、アイツはなぁ……1人で滅多に出歩かんしなぁ」

 彼が好きだった場所なんか、カードショップ以外分からない。
 まして今は、カードショップという可能性は消されているのに。


「いや、待って------------これはカンだけど、1つだけ場所があるかも」

 コトハは急に妙案を思いついたらしかった。