二次創作小説(紙ほか)
- エクストラターン16:向き合うこと ( No.305 )
- 日時: 2014/03/30 09:21
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sEySjxoq)
***
いつの間にか、空は鉛色になっていた。
土砂降りの雨が叩きつける。何もかもを忘れてしまいそうなくらいに。確かに高いところで、恐怖こそ感じたが、そんなもの吹っ飛んだ。
鎧竜決闘学院の屋上。臨時休校で誰もいない学校の屋上。
-------------封李さんも、ここに来てよく授業サボってたっけか。
だが、カードを再び握ろうという気には、もうなれなかった。
こんなカードゲームに足を突っ込まなければ、こんな思いをすることも無かっただろうに。
友をなくす悲しみにくれることも無かっただろうに。
だからこそ、ここで足を洗うのも悪くないと思った。
悪くないと思った、なのに。
何故だろう。
未練がましく、まだやりたいという気も起きる。
いや、ダメだ。そんなものに足をとられていては。
いずれ、このまま続けていても壊れてしまうような気がする。
もう、デュエマで大事な人を亡くすのは嫌だった。
「やっぱり、ここに居たんだ」
聞き覚えのある声。だが、敢えて知らんふりをした。
足音が近づいてくる。
「最初、変な気でも起こしたんじゃないかって思った。ま、アンタの頑丈な体のことだし、こっから落ちても死ねないと思うけど? 前の七不思議の件で実証済みだし」
「ほっとけ」
ぶっきらぼうな口調だが、初めて口を開いた。
「デッキケースを置いてくるなんて、アンタらしくない」
「バカ、たりめーだろ。もう------------デュエマなんか辞めるんだよ。やってられねえよ、あんなゲーム」
「バカはアンタ。ほら、アンタのデッキよ」
デッキケースをヒナタに無理やり押し付ける。
「るっせぇ!! やめるったら、やめるんだよ!!」
疎むような表情を浮かべたヒナタが振り向き、手でデッキケースを振り払う。
デッキケースはガシャン、と無機質な音を立てて屋上のタイルの上に落ちた。
その時、ヒナタは振り向いた自分の顔が別の方向に振れたのを感じた。
じんとした痛みが後々から伝わってくる。
視界には、俯き加減のコトハの顔が見えた。そして、平手が浮かんでいるのも見える。
「てんめぇッ! 何しやがる!」と喉から出てきそうになった台詞を引っ込めた。
言える訳が無かった。
しずくが、コトハの瞳には浮かんでいる。
赤く染まった頬が、混沌とした感情を表している。
彼女は、こらえてすぐに叫んだ。
「アンタは大嘘つきよ!! 自分に大嘘をついてる!! デュエマが好きで、この学校に入って--------------そして今も!! 心のどっかでデュエマがしたいって思いが、迷いがあったから此処に来たんじゃないの!? そうじゃなきゃ--------------こんなところには来ないよ」
自分に---------嘘を----------ついてる?
ヒナタは、意味が解せなかった。
しかし、だんだん染み込むかのように分かってきた。
ひっく、とすする声が混じった。だが、彼女は続けた。
「自分で自分に嘘をつくのは勝手! だけど、だけどっ!! その嘘を人に押し付けないでよ!! アタシも、レンも、シオちゃんも、リョウも!! 皆、ヒナタにデュエマをやめてほしいなんて思ってない!」
------------俺に、デュエマをやめてほしくない?
コトハは、限界が来たのか膝を付いた。そして振り絞るかのように、言った。
「アタシは好きなんだよ、ひっく、デュエマをしてるアンタが、一番っ!! 世界で一番、好きなんだって--------」
「それに---------」と彼女は続けた。
「竜神王を倒せるのは、アタシは世界どこを探してもヒナタしかいないと思ってる!」
----------俺しか、いない------------?
「何で、そう断言できるんだよ」
「それはだって、ヒナタはヨミだって倒した-----------それにアタシを何回も助けてくれた。だから、賭けて良いと思う。アンタとドラポンのコンビなら、絶対に勝てると思う!」
-----------俺のデュエマを必要としてくれる人が、まだいるんだ。
「だから、これを受け取って!」
ドンと胸にデッキを押し付けられる。
熱い。
何故だかしらないが、デッキが熱い。
「俺は、大事なことを忘れてた」
確かに、辛いことはいっぱいあった。だけど、このデュエル・マスターズというカードゲームをやらないと味わえなかった感覚も、思い出も、いっぱいあった。
楽しいことも、一緒に戦った仲間も、このゲームで得たこと。
これからもやりたい。
ずっと、やりたい。
これからも仲間と一緒に!!
「ありがとよ、コトハ。もう、大丈夫だ」
何故だかしらない。
だが、また戦える気がする。
にわかに沸いてきた勇気とともに、デッキを受け取ったヒナタ。
同時に、受け取った手からとても熱いものが体に流れ込んでくる感覚を覚える。
これが、今まで戦ってきた証なんだ、と実感したのだった。
「ったく、よーやく元に戻ったみたいじゃな!」
デッキから、相棒の声が出てくる。
「デッキ捨てたときは、どーなることかと思ったけど」
「ごめん、皆!! 俺、バカだった!! 皆を捨てたりして、本当にゴメンな!! 俺、もうやめねえから!! デュエマはずっとやめねえから!!」
ヒナタは涙を流し、謝った。
だが、この涙が全部洗ってくれるような気もしたのだった。
『すんませーん、てめーらちょいこっち向いて。つーか向け』
メガホンで増大された音と共に、突如やや大きい、この一辺を覆う影が現れる。
今、いいところだったのに、殺意が何者かに向いたヒナタとコトハだったが-------------
「って、ありゃなんじゃぁー!!」
自家用飛行機だ。それも、丸に「武」のマークが施されたものだ。
「武闘先輩!?」
「あー、世界文化遺産先輩、飛行機まで引っ張ってきて乙っス」
『おいヒナタ、俺様を今完全に富士山呼ばわりしたな? つーかしたね? お前次そのネタ使ったら、墓場に逆さでぶち込んどくからね?』
フジの若干ブルーな突っ込みが帰って来たところで、中型自家用飛行機が着陸した。
***
「まず、これから大阪に向かってカナデを迎えに行く」
「えと、先輩? カナデさんって一体?」
いきなりの事に着いていけないヒナタ。
「フジ先輩達の昔の仲間でとっても頭が良いんだって」
「へーえ、へえ」
「シントさんと昔取り合ったんだって」
「へーえ、へえ。この仏頂面でも恋はするんだな。うん」
「殺すぞヒナタ。つーか、余計なこと言わなくて良い。別に取り合ってねえし」
フジの睨みが好い加減怖くなってきたので、やめることにした。
座席に腰をかけるヒナタ。同時に、これからの戦いへの決意を固める。
すると、コトハが珍しく隣に腰を下ろしてきた。
「隣、いいかな? 今までの経緯はアタシがするように言われてるし」
「ったく、説明お前に丸投げかよ」
浮き上がる感覚を覚える。
そして------------空が気がつけば青く澄んでいたことに気づいた。