二次創作小説(紙ほか)

コラボ短編2:last smile ( No.316 )
日時: 2014/04/27 02:32
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sEySjxoq)

「ふざけんじゃねえッ!」

 暁ヒナタは、唐突に叫んだ。自分でも、驚くほどの声で。だが、これが叫ばずにいられるだろうか。
 否、いられるわけがない。

 クラスメートの1人が、このクラスから居なくなろうか、という瀬戸際なのに。

「ちょっと、ヒナタ! 煩いわよ! いくら何でも叫びすぎ!」
「そう言われても、なぁ……」

 発端は、朝のHRでの担任の話だった。急に、壇上にシオを招いた。当の彼女は、一体何のことかさっぱり、といった様子だった。
 彼女のことだから、何かほめられるようなことでもしたのではないか。それ以外思いつかないヒナタの頭。
 しかし、担任の言葉は思った以上に重い台詞だった。

「非常に残念だが---------------月夜野シオさんは、皆と一緒に進級することは出来ない」

 は?

 と、一瞬教室全体が妙な静けさに包まれる。

「彼女は、今月の終わり。つまり、彼女は今年度の終わりに転校することになっている」

 ---------------!!

 いつもなら、感情を決して表立たせないはずのシオがいつも以上に青ざめた顔で先生に反論する。
 動揺している。
 全く何が起こったのか、わからない顔だ。

「ど、どういうことです!? わ、私はそんな事は全く聞かされていないです」
「親御さんが------------見事、復縁したらしい。それで、お母さんが帰って来いとの事だ! しっかし親御さんが復縁とは、良かったな、これでまた家族円満に暮らせるんだから、ははははははは」

 シオは、呆然とした様子でただただ、そこに突っ立っているしかなかった。
 クラスはすぐに、「よくねえだろ、クソメガネェェェェェ!!」と、騒然の嵐(と数の暴力)に包まれたのだった。

 ***

「ごめんなさいです、先輩方……」

 シオは俯き加減に呟くと、いつもは絶対に崩さない表情を、今日は少し哀しく崩しているかのように見えた。

「ブー!! ブータンは、シオちゃんと別れるのが辛くてたまらな」
「何でテメェまで、此処に残るんっちゃああああああ!!」

 ドラポンの弐丁拳銃が鳴り響く。ブータンは、自分も行けば良いことに気が付いたのか、蜂の巣のまんまで「あ、そーかブー!」とぽん、と手を置いた。

「しっかし、その様子だと両親が復縁したことがショックなのか。フツーは喜ぶだろ」
「無神経すぎるわよ、馬鹿ヒナタ」

 コトハに耳たぶを引っ張られるヒナタ。思わず、いだだだだと悲痛な声を上げた。
 レンが、座る彼女に問う。

「すまんな、馬鹿が無神経で」
「誰が馬鹿だ、いでででででで」
「いいです……知ってるですし」
「知ってるって、完全に俺馬鹿扱い!?」
「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い馬鹿」
「同感です」
「う、うわーん!! もう、グレてやる!!」
「グレたら、どうなるか分かるわよね」

 コトハの目は、笑っていた。ヒナタの耳を掴みながら。だが、表情と声は全然笑っていない。目だけが爛々と笑っている。
 はっきり言う。
 とても怖い。

「同じことの繰り返しなんです。両親は」
「------------え?」

 シオは、その両親が嫌いらしかった。
 いや、これから聞く話を聞けば、ヒナタ達にも当然のように思えたのだが。

「両親は、何度も復縁と離婚を繰り返してるです」

 口から漏れた言葉は、あまりにもヒナタ達の常識からぶっ飛んでいた。

「な、何だそれ……」
「それだけなら良いんですけど、私はそれで何度も振り回されてきて。詳しい事情はいえないですけど--------------」

 シオの口はとても重かった。

「で、海戸を出発すんのはいつだ」
「さっき連絡を受けたんですが、3月27日……です」
「おいおい、今日は20日だぞ」

 しかし、気分は沈みっぱなしの面々だった。

 ***

 放課後。ヒナタ達は、いつもの三人で帰っていた。シオは、用があるらしく、居なかった。明日はいよいよ終業式。すぐそこまで近づく春休みと、別れ。
 そして、シオのどろどろとした家庭内情。
 こんな状況でも、ヒナタは腕を組んで言った。

「まー、今更どうにも出来ないってんならな」
「ちょっと、ヒナタ!」
「だって、俺らがどうこうできる問題と、そうじゃねえ問題ってのがあんだろうが」ヒナタの言葉は思ったよりも冷たかった。

「だからよ」と、彼は続けた。

「あいつ、俺らの前でとびっきりの笑顔で笑ってことって、ねえよな!」
「そういえば、無かったな」
「そうね」

 頭の中で、笑うシオを思い浮かべようとするレンとコトハ。しかし、思い浮かべられない。ヒナタは再び叫ぶ。

「だから、春休みを使って、アイツにめいっぱい笑ってもらうように、俺らが一肌、否二肌脱いじゃうぜ!!」
「貴様、とうとう変態になるのか」
「ちげえわ馬鹿!! 俺らががんばるってこと! 最後ぐらい、楽しんで貰おうぜ!」

 変態に言われたくはないところである。
 ヒナタの提案は直ちに、(頭の)愉快な仲間たちに受け入れられ、早速その計画が始まったのだった。
 
 無論、これはシオには内緒だった。

 ***

 終業式の日。とうとう、明日から「ヒャッハー! 退屈な学校とはおさらばして、春休みだぜクレイジー!」とか言う生徒(主に約一名しかいないが)や「やべぇ、春休みの宿題多すぎんだろ、俺死んだわ、俺死んだわヤベェ」とかようやく現実を知ってほざく生徒(こちらも同じく約一名しか居ない、というか同一人物)がいたりなんだり。
 そんな中、ヒナタ達1−Eの作戦は動き出していた。


 -----------しかし、同時に影が動き出していたことも述べねばならないであろう。
 そう。
 笑顔さえも覆い尽くす黒い信託の影が。