二次創作小説(紙ほか)

コラボ短編:last smile (5) ( No.323 )
日時: 2014/05/15 20:49
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sEySjxoq)

 ***

「『神話(メソロギィ)カード』?」

 無頼シントは、怪訝な顔で友人を見た。

「ああ、そうだ。知らないのか? 我ら武闘財閥もようやく最近、”ゲーム”の動きをつかみ始めたばかりだったからな」

 友人-----------つまり武闘フジ------------は口角を上げて答えた。
 此処は、武闘ビルの中でも最上階に位置するフジのオフィス。はっきり言って、地震国の日本でそこまで高い建物は作れないので、思ったほど高くは無い(でも圧巻の8階)。というか、中は密室で外を見れるような窓もなく、換気は部屋の隅にある通風孔と天井の換気扇のみで行っている。
 シントを含め、フジは仲間を此処に呼ぶことはとても多い。私情から-----------今回のような有事まで、様々だ。
 だが、今回は珍しくシントだけが呼ばれた。
 そして、内容は1枚のみで神の如き強大な力を持つ十二神のカードを封じ込めた、『神話(メソロギィ)カード』の存在、そしてそれを奪い合う見えざる戦争、”ゲーム”。仕舞いには、それを狙う軍隊、『見えざる帝国』……ではなく『神聖帝国師団』を名乗るグループだった。

「で、今聞いた話によれば、そのカードたちは元々、俺らが知っている超獣界とは別の超獣界に住んでいたわけだろ?」
「そうだ。仮に、『神話世界(メソロギィ・ワールド)』とでも呼んでおく」

 「さて」とフジは続けた。

「『神話世界』では無敵を誇っていた十二神話だったが、別の世界-----------つまり、パラレルワールド上の異世界では2柱を残して滅んでいる」
「は? どういうことだ」

 意味が分からないので聞き返す。ようするに、パラレルワールドということか。
 ため息混じりにフジは、

「分かっていると思うがな、1つのクリーチャーが別々の世界で生きているという現象と同じように、十二神は別の世界でも存在していた」
「していた?」
「そう。だが殆どがオラクルに滅ぼされた。真神の力を持つ、《支配神話》アンド《生誕神話》とヨミ---------この世界を襲撃したものとは別人で無関係----------が協定を結んだことによって、な」
「ひでぇ……んじゃ、その世界はオラクルに支配されたのか?」
「ああ。全部、《マキシマム・ザ・マックス》の受け売りだがな。アカデミーを脅して、全部聞き出したとか」
「逐一やること小物臭いよな、アイツ」
「さて、滅ぼされた他の神話はどうなったのか。それは、その世界でも反逆を企てたアウトレイジによって取り込まれた」
「ようするに、今回お前が言いたかったのは、それか」

 ようやく意図が見えたのか、シントはぽん、と手を叩いた。

「ああ。そのカードが、何故だか知らんが、そのうちの3枚がこの世界に流れ着いたらしい」
「はーあ、面倒なことになったぜ」
「いや、そのうちの1つは回収したんだ」

 何故か、フジは鍋掴みを手に嵌めてからカードを投げた。
 そういって、カードをシントに投げる。しかし、手に取った瞬間---------

「あち、あち、あちちちちち!!」
「お前もダメだったか」
「何なんだよ、このカード。滅茶苦茶熱いぞ!?」
「カードに認められざるものは、使う資格がないということだ」
「何だそりゃ、暗に俺を貶してんのか!?」
「違う。相性の問題だ。言ったろう、俺様もダメだった」
「あ、そ」

 思わず、投げ捨ててしまったカードを見て、カードの名をシントは呟いた。


「《無法太陽》……か。だけどこれ、バニラカードだぜ? 使いもんになるのか?」


無法太陽 火文明(8)
クリーチャー:アウトレイジ 9000

「しかも、コストが1低い《激竜王》の方がダントツにパワーが高いしな」

 ちなみに、《激竜王》のパワーは圧巻の25000である。

「いや、カードのイラストを見てみろ」

 イラストには、鎖が何重にも巻かれていた。それが、翼の生えた全身が炎の化身を縛っている。

 そう、まるで強大な何かを封じるために-----------------。


 ***

「昨日、妙なことがあったらしい。クリーチャーの気配が、シオの家辺りであったと」
「おい、それ死亡フラグじゃねえか」

 教室にて。既にデュエマ大会2日目の準備をしている面々に、不穏な影。シオの家辺りでクリーチャーの影をスミスが感じ取ったらしかった。

「オラクルの胸糞悪ィ気配だった」

 スミスは吐き捨てるように言った。
 レンが返す。

「でも、ヨミは死んだはずだ」
「お前らな。よくよく考えてみろよ、あれはあくまでもレンに憑依していた魂魄に過ぎないんだぜ? オラクルは、魂魄蘇生術を持ってるから、肉体さえ完成してりゃアイツの復活は容易のはずだ」
「悪い、日本語で頼む」

 ヒナタはげんなりとした表情で言った。
 教室は、未だ来ないシオを待ちわびて、少し暗い影が覆っていた。
 と、そのとき戸が開く。



「先輩方、お待たせしたです」


 
 シオだ。紛れもなく、そこにいたのは月夜野シオだった。

「おー、待ってたぜー!」
「遅れてすみませんでした」
「ああ、早速始めるか」
「ですね。早速始めるです」

 と、その時だった。シオがカードを1枚窓のほうへかざす。

「《悪魔右神メタモルフォーゼ》」

 ぎゅん!
 と音がして、教室が吹き飛んだ。風が暴れる。物が飛び散らかる。
 いきなり、何が起こったのか唖然としていた一行だったが、すぐに、”それら”に振り回されることになった。
 実体化こそしていないが、カードから邪悪なオーラが発生している。
 ズガガガガッ、と机や椅子がぶつかり合う音がしたかと思うと、既にヒナタは壁に頭をぶつけて血を流しており、他に怪我をしているものもいた。
 中心に立っているレンは、呆然と突っ立っているしかなかったが、すぐさまシオに駆け寄った。

「な、何をやってるんだシオ! 止めろ!」
「邪魔です、先輩」
「僕が分からないのか、シオ!」
「いえ、分かってるですよ。黒鳥レン先輩」

 いつものポーカーフェイスで答えるシオ。何も感じられない。目の前野シオからは、”異常”と呼べる因子が何も無い。
 なのに、目の前に存在しているシオは、正しく今この災厄の中心にして発端だった。
 それがレンは信じられなかったし、信じたくなかった。


 ***

 これが第二の悲劇の発端である。かつて、仲間として存在していたはずのものが、今は目の前で敵として存在していた。
 成す術がないわけではないが、彼らには戸惑いと焦燥のみが募っていく----------------。