二次創作小説(紙ほか)

エクストラターン29:終焉 ( No.341 )
日時: 2014/05/22 01:42
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sEySjxoq)

 ***

「スラターンはあたしに力を貸してくれた」
「それが始まりだったのか」
「うん」

 ベルフェモールは静かに続けた。

「スラターンの邪悪な意思の一部が囁いたの。『復讐しろ』って」

 その表情は、どこか哀しげだ。

「-----------べるは認めて貰いたかっただけだった」

 ベルフェモールはふと呟いた。

「ヨミ様の元にずっと居たかった、それだけだったの」

 ヒナタは居た堪れない気持ちになった。
 目の前の少女は、寧ろすっきりしたのか、楽な表情をしている。

「竜神王を使ったのだってそう。あたしを裏切ったヨミよりも、すごいことをやってやるって。でもね、結局やってることは------------ヨミと変わらなかった」
「間違ってたんだ。最初っから全部」

 彼は言った。だが、続けた。

「でもな。人間は間違いを犯したとき、それを認めてやり直すことが出来るように、お前にだって出来るはずだ」
「ううん……あたしはもう戻れない」
「そんなことはねえっ!!」

 一喝。それが、何も無い空間に響いた。

「お前のやったことは確かに許されることじゃねえよ。だけどな。もう一回、やり直せるはずだぜ」
「う、うん……」

『礼を言う、暁ヒナタ』

 ふと、声が聞こえた。振り向けば、既に正気を取り戻した竜神王の姿があった。

「ああ、それと……色々悪かったな。特に、ゴルニッヒ」
『心配要らないべぇ。ゴポポ。それより、謝らないといけないのはこっちだべぇ。今すぐ、おでたちが飲んだ人々の魂と肉体を元の場所に戻しておくべぇ』
「ありがてぇ! つーか、お前の口調。それが素なんだな」
『さて暁ヒナタ--------------この娘の処遇だが、我らが直接手を下すことも出来る』

 ビクッ、とベルフェモールの肩が震えた。

「待てよ、こいつも結局はヨミやスラターンの犠牲になった奴に過ぎない!」
『分かっている。スラターンの因子が宇宙を漂っていたのは、我らの失態だ。そこでだ。スラターンを消滅させたお前に判断を仰ごうと思うのだ』

 処刑を司るガルグイユにしては、寛大な判断だった。

『むしろ、我々は今回の件はスラターンを完全に消去するために良いきっかけになったと思っている。経過がどうであれ、我らの力で戻せば同じ』
「んじゃさ、簡単じゃん。こいつを許してやってくれ!」
『とはいえ、彼女はA級戦犯も同じだ。唯で許すことは出来ぬ。許すのは構わぬが、それに相当する”罰”が必要だ』
「えーと、それじゃあさ。罰は------------」

 ヒナタは少し考える仕草をした。そして、ベルフェモールのほうに向き直った。

「お前、人間になってみたくはねえか」
「ふぇ!?」
「そしたらオラクルとしての力は失われる。つまり、罰ゲームにゃ丁度良いだろう」
『罰ゲームではないのだが……まあいい。それでいいな、ベルフェモール』
「ええ、構わない。……本当にごめんなさい。沢山の人を傷つけたのに、本当にこんなことで済まされるのか-------------」

 不安げな表情を浮かべる彼女の肩に、ヒナタは手を置いた。


「それで良かったんだ」


 最後にヒナタは笑いかけた。彼女も満面の笑みを返した。


 ***

「《四十日鼠 チョロチュー》でダイレクトアタック!」

 研修合宿とは、非常に面倒なものである。という発想は、ヒナタの中で途中から爆ぜて、ドラポンの持った銃の銃口に吸い込まれて消えた。
 特にデュエマで優秀な生徒を選抜し、全学年から2人ずつ出るという冬の学園対抗大会に出場する、というコンセプトから熱血デュエル馬鹿、暁ヒナタはこの合宿でトップに上り詰めようとしていた。
 現に今も、1人倒したばかりだ。
 この合宿では、1年のみが参加し、スイスドロー形式でどんどん戦っていくものである。
 そして、最上位の1人が学園対抗合宿に参加できるというもの。しかし、超エリートのエル・ヴァイオレットは参加するまでも無く、その椅子を1つ勝ち取ってしまったのである。
 勝ち数が多くない生徒は、後でマラソンさせられるという最悪の副産物が付いてくるわけだが。しかし、いつもの通り友人の黒鳥レン、如月コトハ、月夜野シオは刻々と上位に上り詰めようとしていたのだった。

 が、そんな中で唯一不愉快な感情を抱く人物が居た。 

 相棒のチビ龍、ドラポンだ。

「全く、結局最初っからやないかい」

 すると、デュエマを終えて帰ってきたヒナタが笑みを浮かべる。

「まーまー、良いじゃねえか。全部元通り! まさか、この日に戻してもらえるだなんて誰も思わねえだろうよ!」
「にしても、まだチョロチューデッキ使っちょるんかい!」
「ああ、そうだ! 悪いか? 悪いか! 強いから全てよし、だ!」
「良くないっちゃ!!」

「おらぁ、アンタら!」

 声が響く。コトハだ。

「全く、次の試合の相手はこのアタシよ! 覚悟なさい!」
「へへっ、他の皆は全部忘れちまったみたいだ。あの戦いを覚えてるのは、俺らだけか」
「なーにブツブツ言ってるんですか、ヒナタ君」

 後ろから声を掛けられた。そこには、リョウの姿が。

「うああっ! 幽霊!」
「へ? 何言ってるんですか? 僕はちゃんと生きてますよ?」
「あ、そ……だよな、ハハハ」

 険しき戦いは終わった。邪悪なる因子の消滅によって。ヒナタは、天に向かって呼びかけるのだった。


------------ナナ、伝えたいことがあるんだ。


 そして、未だ待ちわびる仲間の方を向く。


 ------------友達が、仲間がたっくさん、増えたよ。だからさ、もう寂しくなんかねえぜ。


 拳を突き上げる。

 
 ------------デュエマって、ほんと、すげーよな。世界を救っちまったぜ。


 ヒナタは、仲間のほうへ一目散にかけていった。淡い思い出を残して。その足取りには、もう迷いなど無かった-------------------デュエルマスターズ 0・メモリー ”完”