二次創作小説(紙ほか)

 カゲロウデイズ 〜プロローグ〜 ( No.1 )
日時: 2013/06/25 16:07
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: j1c653Hp)

「おい、なぜそんな場所で寝ている?」
 数十秒前まで彼女だったモノに僕は問いかけた。
「早く起きてこっちに来い」
 広がり続ける血だまりの中心にいるソレはピクリとも動かない。
「僕の命令は絶対だと、何度言わせれば分かる?」
 嘘だ。こんな事は認めない。
「おい、聞いているのか……?」
 僕はまだ君に大切な事を——まだ好きだと伝えていない。
 嫌だ。認めない。……認めたくない。

「————!!」

 声にならない僕の叫びは、八月の真っ青な空に吸い込まれて消えた。

 カゲロウデイズ 1 ( No.2 )
日時: 2013/07/28 22:18
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: Lt03IZKe)

「あ〜つ〜い〜」
「夏だから暑いのは仕方ないだろう?」
 僕——赤司征十郎は、暑い暑いと叫んでいる帝光中バスケ部のマネージャー兼幼馴染みの南雲美空と一緒に、部活で使う道具の買い出しにデパートに向かっている。
 ……断じてデートでは無い。なぜなら、まだ付き合っていないからだ。
 そう、『まだ』だ。次の大会に優勝したら告白するつもりだ。まぁ、僕がいるから優勝しない訳がないので、いつ告白しても変わりは無いのだか。
「で〜も〜暑いものは暑いし……だいたい、何でお盆真っ盛りに買い出しに行かなきゃいけないの!? せっかく部活が休みなのに……」
「部活が無い間に道具を買っておくのは当たり前だろう? そして、買い出しはマネージャーの仕事だ」
「う〜〜、そうだけど……じゃ、桃ちゃんは?」
「桃井には前の休みの時に買い出しを頼んだ。だから同じだと思うが、お前は不満なのか?」
 自分だけ不公平だと言う顔をしていた美空を、僕は静かに見つめた。
「うっ……えっと……せーくんと一緒にいるの楽しいから、不満じゃないよ!」
「たった今取って付けたようなセリフだな」
「ちっ違うよ!!」
 図星だったのか、とても慌てている。そんな一つ一つの仕草がとても可愛い。
 可愛いのだか、こいつは僕以外の人間にもこんな態度をとっているらしい。
 良く言えばフレンドリーで接しやすい態度だが、無防備すぎる。
 それはもちろん、僕に対しても同じで、遊びに行こうと声をかけると、犬のように喜んで付いてくる。
 しょせん美空にとって僕は、幼馴染みであり男では無い。「せーくんなら何もしないよ!」とか言いそうだ。信頼されているのは嬉しいが、それは男として見られていない訳で……

「……くん、せーくん!」
 美空の声でハッと我に返った。どうやら考え込んでしまったらしい。
「ボーッとしちゃって大丈夫? 少し休む?」
「いや、平気だ。……もう少しでデパートだな。暑いから少し急いでデパートに行って休もう」
「あははっ!! やっぱりせーくんも暑いんじゃん!!」

 八月の空の下、僕ら二人は、はしゃぎながらデパートへ向かった。

 この時僕は——僕らは逃げられない運命の輪に捕まってしまった事を、知ることなんて出来なかった。

 カゲロウデイズ  ( No.3 )
日時: 2013/07/03 20:27
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: VOsGN7zX)

【オリキャラ説明】

【名前/読み】南雲 美空/なぐも みそら
【性別】♀
【身長/体重】158㎝/?㎏
【その他】帝光中バスケ部マネージャー兼赤司の幼馴染みで、生まれてからの付き合い。赤司のことを「せーくん」と呼ぶ。男女関係無く、誰からも好かれる性格。天然でボケている。桃井と並ぶと絵になるくらいの美少女。実は、赤司の事が好き。無類の猫好き。

【配役】
ヒビヤ…赤司
ヒヨリ…美空
猫………猫
カゲロウ…???

 カゲロウデイズ 2 ( No.4 )
日時: 2013/07/28 22:19
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: Lt03IZKe)

「あ〜つ〜い」
「デパートから外に出たんだ。暑いのは当たり前だろう?」
 部の買い出しをし、早めの昼食を取ってデパートから出た今、時計は午後12時30分を指していた。
「で〜も〜」
「……そんなに暑いなら少し休むか? ちょうど公園があるし」
 僕は少し先にある公園を指差しながら言った。
「じゃ、休む!!」
 休むと言う言葉でたちまちなった美空は駆け足で公園へ向かった。本当に子供の頃から変わらないな、と思いながら僕は後を追った。

 自販機で買ったジュースを手に、木陰にあったブランコに腰かける。
「はぁ……やっぱり夏は嫌いだなぁ」
「いきなり何だ?」
「だって暑いし。暑いのヤダし。セミうるさいし」
「それで冬になったら『寒い。寒いのヤダ。冬嫌い』って言うんだろ?」
「あはは!! さっすがせーくん! よく分かってるね!」

 ニャーン

 唐突に聞こえた声で僕らの会話は途切れた。

 ニャーン

 もう一度聞こえる。近い。
「……猫?」
「だろうな。近くに居るな」
 次の瞬間、後ろの植木がガサガサと揺れて、真っ黒な猫が顔を出した。
「わっ!! かわいい〜!! よしよ〜し、こっちおいで〜」
 その猫は人懐こく、逃げるどころか逆に近寄って来て、すっぽりと美空の手に収まった。
「よ〜しよし、かわいいね〜。良い子だね〜」
「猫なんか抱いて暑くないのか?」
「大丈夫!! かわいいから!!」
 ……かわいいと暑さはなくなるのか? こいつのこういう所がいまだに理解できない。
 ところが猫はやはり暑かったのか、するりと美空の手から抜け出し、逃げ出してしまった。
「あっ、待って!!」
 美空は急いで立ち上がり、走り出した。
「おい、美空!」
「ちょっと猫追いかけてくる!!」
 普段足はそれほど速くないのに、こういう時だけは速い。僕も慌てて後を追った。

「よーし!! 捕まえた!!」
 ほどなくして、僕は美空に追いついた。捕まった猫は美空の腕から逃げようとジタバタともがいている。
「嫌がっているぞ? そろそろ逃がしてやったらどうだ?」
「う〜〜。しょうがないか……。でもここは車通りが激しいから、公園まで戻ってからね!」
 やっと猫を離す気になったらしい。こいつの猫好きも困ったものだ。

 ニャー!!

 次の瞬間、猫は美空の腕から抜け出し、飛び出してしまった。
「あっ!!」
 美空も反射的に後を追う。
 猫と美空が向かった先にあったのは、赤に変わった信号機と走ってくるトラック。
「美空!!」
 必死に手を伸ばすが美空には届かない。
 そして広がった景色は——赤、赤、赤……

 嘘だ。こんな事は認めない。
「げほっ!!」
 美空のにおいと血のにおいが混ざりあって押し寄せてくる。
 気分が悪い。気が遠くなる。
 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……

『嘘じゃないぞ?』

 意識を失う前に、どこからか声をかけられた気がした。

 カゲロウデイズ 3 ( No.5 )
日時: 2013/07/28 22:17
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: Lt03IZKe)


「美空っ!!」
 目を開けるとそこは、僕の部屋だった。机の上に置いてあるデジタル時計は8月15日午前10時頃を指している。
 では、さっきのは夢か? ……とんでもない夢を見たものだ。
 今日は美空と部の買い物をする予定だ。早く準備をしなくては。
「あ〜つ〜い」
「夏だから暑いのは仕方ないだろう?」
 あぁ、さっきの夢でもこんな風に美空と話をしていたな。……それから、デパートに行って、公園で休んで、そして——
「どうかした、せーくん?」
「っ!! いや、別に何でもない。それより早く、デパートへ行こう」
「うん!!」
 あれは夢で、嘘なんだ。信じる必要がない。美空はすぐ手の届く距離にいる。それだけで良い。
「あー、デパート涼しかったね!」
「だな」
 ここは公園。デパートからの帰り道に立ち寄った。僕は夢が正夢になりそうであまり行きたくなかったが、美空がどうしてもと言うので仕方なくついてきた。
 自販機で買ったジュースを手にブランコに腰掛ける。すると、

 ニャーン!!

 後ろにあった植木がガサガサと揺れ、黒猫が飛び出してきた。
「猫だ!! かわいい〜!! よしよ〜し……」
 猫を可愛がる美空を横目に、僕は今の状況を考えていた。ここまでは昨日夢で見た通りだ。まさか、これは正夢なのか? だとしたら……
「あっ、待って!!」
 飛び出してしまった猫を追いかけて、美空は走り出す。もしこれが正夢なら、このまま行かせると美空が危ない。
 既に公園から出そうになっていた美空の腕を掴んで、走るのを止めさせる。
「ん? せーくん、どうかした?」
「……もう十二時半過ぎだ。かなり暑くなってきたから帰ろう」
「……そうだね。さっき飛び出しちゃった猫、車とかと事故ってないかな?」
「お前は本当に猫が好きだな」
 公園から出てビル街を抜ける。本当は別の道もあるのだか、今日は早く家に帰りたかったので近道を使った。
「あのね、せーくん」
「何だ?」
「この前ね——」
 そんな雑談をしながら帰っていると、周りが騒がしいのに気付く。何事かと耳を澄ますと、頭上から何か音がした。
 上を見ようとした時、僕の体は後ろに引っ張られた。そして——

 ガッシャーーン!!

 目の前に広がったものは、先程まで僕が立っていた場所に突き刺さっている数本の鉄骨と、それに貫かれている美空の姿だった。
 瞬時に理解した。美空は僕をかばったのだと。
 どこからか悲鳴が聞こえる。うるさいセミの鳴き声が耳から離れない。
 そんな中僕は一人立っていた。
 ……あぁ、これはきっと夢だ。まだ夢は覚めていないのだ。

『これは夢じゃないよ?』

 昨日の夢の中でも響いた声が、また僕の脳を揺さぶった。
 また意識が遠くなる。消えかける意識の中見た美空の顔は、なぜか笑っているような気がした。

 カゲロウデイズ 4 & エピローグ ( No.6 )
日時: 2013/08/03 21:20
名前: 緑茶 ◆hjAE94JkIU (ID: QHUQtp81)


 美空が初めて死んだ八月十五日からどれだけ時間が流れたのだろう。
 一年? 五年? いや、十年以上かも知れない。
 朝起きて、

 美空と買い物へ行って、

 美空が死んで、

 気を失う。

 その繰り返しで、いつになっても八月十六日がやって来ない。
 道を変えても帰る時間を変えても、どうしても美空は死んでしまう。そして何事も無かったかのように、もう一度八月十五日が始まる。

 ——もう気付いていたんだ。この状況をどうにかする方法を。
 でも信じたかった。僕と美空が一緒に過ごせる日がいつか来ると。だけどその『いつか』は、いくら待っても来ないらしい。
 だから、だから僕は——
「あっ、待って!!」
 またあのシーンが繰り返される。でもそれも今日で終わりだ。
 赤になった横断歩道に猫と一緒に飛び出した美空の腕を後ろから引っ張り、その反動で自分が前に出る。僕と美空の立ち位置が逆になった瞬間、僕の体にとてつもない圧力と衝撃が襲いかかった。
 体がグシャグシャになる感覚の中、驚きで固まっている美空を見ながら、僕はいつも頭の中に響くあの声に向かって、
「ざまあみろ」
 と一言呟いて、僕の長い長い八月十五日はここで終わった。

 ——結局、告白はできなかったな——


            *
 目を覚ました八月十五日の朝。
「また助けられなかったよ……せーくん……」
 私は一人ベッドの上で泣きながら呟いた。