二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.106 )
- 日時: 2013/08/18 03:57
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
「——なるほど、つまりお前たちは最終的に《ヴィーナス》を手に入れたということか」
「まあ、そうなるかな」
『炎上孤軍』こと火野亜実の素性を知り、夕陽は亜実と雑談に興じていた。雑談というよりは、“ゲーム”に関する世間話、もしくは近況報告や情報交換と言い換えてもいいだろう。
「しかし、お前たちも相当こちらの世界に深入りしているな」
「? どういうことだよ」
「そのままの意味だ。《太陽神話 サンライズ・アポロン》《焦土神話 フォートレシーズ・マルス》《萌芽神話 フォレスト・プロセルピナ》《賢愚神話 シュライン・ヘルメス》《慈愛神話 テンプル・ヴィーナス》……十二枚しか存在しない『神話カード』のうち五枚をお前たちが持っている。五枚というとほぼ半分だ。一つの組織がここまでの枚数を所持していることは、相当稀有だ。【ラボ】は知らんが、あの【師団】ですら《プロセルピナ》を奪われる前は四枚だった。それを数ヶ月で五枚とは」
言われてみれば、確かにそれはかなりの功績なのかもしれない。だが基本的に戦闘を回避したい夕陽たちにとっては、その功績も嬉しくなかった。
「『昇天太陽』、お前の名前が広まっているのは《アポロン》の存在があってこそ、それと青崎が言い回ったことが原因で、実績が伴っていない異名だった。だが、こうなってくると話は別だ。実際、《プロセルピナ》や《ヘルメス》の所有者にも、異名がつけられているようだしな」
「え? そうなの?」
というか、その異名は誰が決めているのか、と疑問に思ったりもするが、それはひとまず置いておく。
「ああ。《ヘルメス》の方はまだ未決定だが、《プロセルピナ》は【師団】のミウ・ノアリク……『白虹転変』を退けたと聞く」
「あぁ……いやでも、あれは……」
夕陽も実際にその様子を見ていたわけではないが、あの時ミウを倒したのはこのみではなく、一緒に補習を受けていた零佑だ。誰が情報を改竄したのだろうか。
「確か……『萌芽繚乱』だったか。次々とクリーチャーを展開する様を花が芽吹き、咲き誇る様子に喩えてこう名付けられたらしい。あとは萌芽神話から取っているのだろう」
「あ、異名ってちゃんと意味あったんだ」
隠語的な感じで、適当に付けていると思っていた夕陽。まさかそこまでしっかりした理由があるとは思わなかった。
「しっかし、このみがなぁ……あいつ、そんな大層な異名を付けるような奴じゃないよ?」
ミウを撃退した時に知り合った先輩の影響を受けてか、このみも二つ名的なものが欲しいと言い出すようになったのでタイミングはいいのだが、しかしどうも釈然としない。
「基本的に、『神話カード』を所持している者には異名がつけられるものだ。むしろ、『神話カード』を持っていなければ相当な実力がないと異名などつけられない。【神格社界】のランク制度で言えば、最低でもAランク以上はないと無理だ」
「なんだよ、ランクって……ていうか、それはつまりあれか? 実力がなくても『神話カード』さえあれば有名人、ってことなのか?」
「そういうことになるな。ま、と言っても実力がなければ『神話カード』を手に入れることはできないからな。『神話カード』を持つことと実力の高さはほぼ等号で結ばれるものだ」
と、その時。
「果たして、本当にそうかな?」
扉の付近から、声が響いてきた。
音源を辿ると、そこには一人の男の姿。季節外れな茶色いコートに同色の帽子、口にはパイプを咥えており、左手には文庫本を携えている。
(『緋色の研究』……シャーロック・ホームズシリーズの最初の作品、だっけ)
彼が手にしている書籍と結びつけたというのもあるのだろう、その男の意匠に夕陽は、探偵という二文字を連想した。
「殺人トリックのように策を巡らせれば、実力がなくとも『神話カード』を手に入れることは可能だ。ゆえに、安易に『神話カード』を所持していることと実力をイコールで繋げないでほしいものだ」
「てめぇは……!」
その男を見るや否や、亜実は怒ったような険しい表情を見せる。
「……誰、この人?」
そんな亜実に若干の恐怖を感じつつ、耳打ちするように尋ねる夕陽。だがその問いに答えたのは、亜実ではなかった。
「おっと、自己紹介なら自分でするよ。他人の紹介で情報が錯綜してほしくないからな。僕は和登栗須、呼ばれるところでは『深謀探偵』とも呼ばれている。そこにいる『炎上孤軍』と同じ【神格社界】に属する者だ」
男、栗須はそう名乗った。
「おい和登、なんでてめぇがこんなとこにいるんだよ」
つとめて冷静な栗須に対し、亜実はあからさまに敵意を向き出しているが、
「おいおい、そんなことも分からないのか? 僕がここにいる理由なんて、情報さえあれば子供でも分かる。自分の持ちうる情報から少しは推理したらどうだ?」
嘲笑的な物言いで返される。その言い分に、亜実はますます表情を険しくした。
「まあしかし、答えを待つほど僕も暇ではないのでな。そこにいる『昇天太陽』に宣言する意味も込めて、言っておこう」
「え、僕?」
急に名指しされた夕陽に構わず、栗須は続ける。
「僕は個人で『神話カード』を集めている、【神格社界】に加盟しているのも『神話カード』を探すため。残念ながらまだ一枚も蒐集できていないのだが、今回、その『神話カード』を手に入れるにあたって貴様から頂きに来たのだ、『昇天太陽』」
冗長に語られたが、要するに夕陽の持つ『神話カード』を狙っている、ということなのだろう。
「そういうわけで、早速始めようではないか」
言いながら栗須は夕陽へと歩み寄ろうとする。しかしそれを阻害する者が一人、そこにいた。
「おい、待てよ」
亜実だ。鋭い眼光で栗須を睨み付けている。
「なんだ、貴様に用はない。まだ《マルス》を所持していた貴様なら価値があったが、『神話カード』を持たない貴様と争ったところで、なにひとつ利益がない。退け」
「てめぇに利益がなくても、あたしにとってはあるんだよ。【神格社界】に属する以上、喧嘩の押し売りに文句垂れんな」
「他に明確な相手がいないならともかく、今この場において貴様の相手をしている暇はないと言っているのだ。貴様の行いは押し売りではなくただの邪魔だ。その上で言おう、邪魔するな」
「知ったことか。てめぇのことは昔っから気に喰わなかったんでな、邪魔するだけ邪魔してやるよ」
明らかに険悪な雰囲気の二人。同じ組織に属していても、こうまでそりが合わないとなると、確かに【神格社界】はまとまりのある組織ではないようだ。
「そもそも、貴様は僕に挑むだけの力があるのか? 『神話カード』を手に入れ、異名を付けられて浮かれていたようだが、貴様のランクはその時でもA+、『神話カード』を失った今は二段階落とされてB++だ。A+ランクの僕には敵わないだろう。そのくらい推理できないのか?」
「ほざけ。あたしらの世界は下剋上の世界だ、いつまでも高い地位で悠々としてられると思ってんなよ。それに下位の奴が上位の奴に挑むことのどこがおかしい? この世はそういうものだ。戦争でも、如何に相手との勢力の差を、知略で埋めるかが勝敗を決める鍵になるんだ。自惚れるな」
「……なんだか僕、置き去りにされてるな……」
ひたすら言い争う亜実と栗須を眺めている夕陽。決着のつかない押し問答が続くが、やがて諦めたように、しかし自信に満ちた傲慢な態度で、栗須が退いた。
「——良いだろう、そこまで言うなら相手になってやろう。貴様程度でも、『昇天太陽』と戦う前の肩慣らしにはなるだろうしな」
「言ってろ。なんだかんだ言って『神話カード』を一枚も集められてないてめぇなんざ、恐れる要素はなにひとつない」
二人はほぼ同時にデッキケースを取り出し、中からデッキを抜き取る。
「ぶっ潰してやる。行くぞ!」
「ああ。デュエマスタートだ!」
そして次の瞬間、二人の間の空気が、変貌する。