二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.113 )
- 日時: 2013/09/19 08:08
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「——で、負けてきたと」
「……うん」
数十分後、最初の威勢はどこへ行ったのか、しょんぼりした面持ちでこのみが戻ってきた。
対戦相手はあの零佑で、どちらも速いビートダウンデッキで白熱した試合になると思われたのだが、スピードだけでなくバウンスやロックなどの搦め手も利用する零佑の方が一枚上手で、防戦を強いられたこのみはなす術もなく押し切られてしまった。
「まあ、しょうがないだろ。殴ることしか出来ないお前のデッキじゃ、バウンスとドローを繰り返しながら攻撃するあの人のデッキとは相性が悪い。そういうこともあるさ」
「うー……そうなんだけどさー……」
同じ速効型のデッキに負け、釈然としない様子のこのみ。
その時、まだ試合が続行されているらしい会場が、さらに沸き上がった。それにつられ、夕陽たちが目を向けると、
「《ガル・ヴォルフ》進化、《悪魔神ドルバロム》です」
今しがた、汐が切り札《ドルバロム》を出したところだった。闇以外のカードの存在を許さない《ドルバロム》が出てしまえば、同じ闇をベースにしたデッキでなければまず勝ち目はない。
相手のデッキは闇文明を入れていなかったようで、そのまま汐が展開した大量のデーモン・コマンドによって一気に押し切り、汐は二回戦も抜けたようだった。
「御舟は二回戦も抜けたか。まあ、《ドルバロム》まで出て来ると、もう勝てる気しないしな……」
「やっぱ汐ちゃん強いなー……なんであんなに強いんだろ?」
「お前と比較するなら、どう考えてもここだろ」
と言って、このみの頭を小突く夕陽。しかしこのみはその意味に気付いておらず、首を傾げている。
「あれ? 御舟さんの相手って、武者小路さん?」
「は? ……あ、本当だ」
姫乃がふと漏らした言葉に反応して夕陽も首を回すと、そこには見慣れたクラスメイトの姿があった。
武者小路仄。白髪に赤目、スレンダーな体型と、アルビノっぽい匂いのする夕陽たちのクラスメイト。夕陽個人としては、どことなく勝ち気だったり上から目線だったりするので、若干の苦手意識を持っていたりする。
「しかし、本当に知り合いが多いな……まあ、大きな祭りだし、当然と言えば当然だけど」
だが、夕陽としては武者小路仄というクラスメイトがデュエマをしているとは思わなかったので、少々意外ではある。
(いやでも、デュエマの専門学校とか、デュエマを専攻する学校みたいなのもあるらしいし、そんなに驚くことでもないか?)
とかなんとか思っていると、服の裾を引っ張られた。このみだ。
「ねーねー、ゆーくん。喉かわいた」
「……自分で買ってこいよ。というか、木葉さんも出店出してるんなら、お前が行ってくればいいだろ」
「だってー、おねーちゃんが忙しそうにしてたら、あたしが手伝わなくちゃいけないじゃん。汐ちゃんの試合を最後まで見届けたいじゃん」
「いや、手伝えよ。そして僕だって観戦したいよ」
要するにこのみは横着したいということなのだが、その意図に気付いている夕陽も頑として動こうとしない。いつもなら最後にこのみが折れるのだが、しかしこの場にいるのはなにも二人だけではない。
「あ、ならわたしが行ってくるよ」
率先して申し出たのは、姫乃だった。
「いや、いいって。こいつが怠け者なだけだし、こいつに行かせればいいよ」
「ううん、わたしも木葉さんにあいさつしておかないといけないし」
小賢しいこのみとは対照的に、善人の鑑のような姫乃。そんな姫乃の対応に、このみは目を輝かせていた。
「姫ちゃんありがとー。ほらほらゆーくん、姫ちゃんの心意気をかってあげないと」
「お前、都合のいい時ばっかり……!」
夕陽としては、このみがすぐ調子に乗るので、姫乃の提案はあまり嬉しくない。しかし彼女の好意を無下にすることもできず、
「それじゃ、いってくるよ」
「ラムネ一本、よろしくね!」
「……飲めればなんでもいいよ」
結局、姫乃を送り出すことになってしまった。
「えーっと……木葉さん、どこだろう……?」
飲み物を買いに出た姫乃だが、しかし祭りの雑踏は相当なもので、人の波に揉まれているうちに道に迷ってしまった。
というより、そもそも『popple』の露店がどこにあるのかが分からない。
「最初に場所を確認しておけばよかったよ……あれ?」
ふと、姫乃の目に光が当たる。その光はすぐに消えたが、また同じように光が当たり、すぐに消える。
その光源に目線を向けると、その先は露店のある道からは逸れた林。だがそこから、チカチカと小さな光が瞬いている。
普通ならそんな光のことなんて気にしない。子供かなにかが遊んでいるのだと思うだろう。しかし今回ばかりは、そうではないと断言できる。
(この感じ……なにかある……?)
以前戦った教祖と似た感覚、しかし確実に違う感覚。言いようもない気配を感じる。
「…………」
ポケットの中のデッキケースを確認し、姫乃は林の奥へと歩を進めていった。
「うーん、負けちゃったか……あの中学生、見た目によらず強かったな」
二回戦に負けてしまった仄は、とりあえず祭りの出店を回っていた。なにも祭りはデュエマだけではないのだ。
「……あれ?」
先程のデュエルの反省をしつつ歩いていると、人込みの中で見知った顔を見つけた。特別な関わりがあるわけではないが、それなりに名の知れた人物。
光ヶ丘姫乃だ。
一学期後半、体調不良で倒れたことがきっかけで、姫乃の名前はわりと知れ渡っている。そのため、一度も口をきいたことがないのだが、同じクラスである仄も自然と顔と名前を覚えていた。
(なにしてるんだろ、あんなとこで……って、え?)
屋台の前にいるわけでも、どんな店があるかを見ているわけでもない姫乃をなんとなく見つめていると、彼女は林の奥へと進んでいった。
「なにしてるんだか……ちょっと気になるな」
見て見ぬ振りをすることもできたのだが、幾分かの好奇心と心配、それから直感で、仄も人混みをかき分け、姫乃の後を追うように林へと向かっていった。
姫乃が林の中を進んでいくと、思いのほか早く、目的のものに辿り着いた。いや、元より目的が何なのかがはっきりしていないため、その言い方には語弊があるか。
しかしそれでも、姫乃の感じた“なにか”の正体は、判明した。
「あなたは……」
そこにいたのは、銀髪をショートカットにした美青年。民族的な意匠をしており、どことなく人間味を感じさせない風貌をしている。
「人間、なの……?」
「否」
絞り出すようにして発した姫乃の言葉に、彼は答える。
「私はパイル。貴様が感じているように、クリーチャーだ」
「パイル、クリーチャー……」
言われて、姫乃は夕陽たちが言っていたことを思い出す。クリーチャーが実体化する現象のことを。
「パイルって、確かオラクルの……?」
「否」
姫乃の言葉を、またしてもパイルは否定した。
「今の私は、オラクルなどという烏合の衆に属する者ではない。そもそも私は、貴様らの知るクリーチャーとは別の存在なのだ。私は十二神話の頂点に君臨する“神々”から生み出されたクリーチャー、存在理由も神々のためにある」
「? ……よくわからない」
まだ“ゲーム”の事情に疎い姫乃、しかもパイルはそれを考慮しているようには思えない。なのでパイルの発言のほとんどが、姫乃には理解できない。
「えっと、じゃあ、あなたの目的は、なんなの……?」
「それは言えんな。私の目的は神々の目的、それを他言することは許されていない。だが、目的を達する手段は教えてやろう」
言って、次の瞬間、パイルの周囲の空気が豹変する。
「まずは貴様を倒す! そして、『昇天太陽』を引きずり出すのだ!」
「っ……!」
パイルのあまりの剣幕に、気圧される姫乃。だが、その時。
「はいストップ」
パンパン、という手を叩く音と共に聞こえた静止の声。その声に、姫乃もパイルも動きを止め、その声の主を見遣る。そして姫乃は驚いたように目を見開き、パイルは訝しむように目を細めた。
「武者小路さん……!? なんでここに……」
「それはこっちの台詞なんだけどね……まあでも、今はあなたの事情は聞かないでおいてあげる」
唐突に現れた仄、彼女のやや上から目線の物言いに戸惑う姫乃だが、彼女の言動は頼もしく思えた。
硬直する姫乃を一瞥して、前に出る仄。それに対し、パイルが口を開く。
「下がれ、人間。貴様のような惰弱なものに用はない。消えろ」
「惰弱とは随分な物言いね。それにしても、《パイル》……クリーチャーが実体を持って現実に存在するなんて、どんな現象?」
「聞こえなかったのか? 私は消えろと言ったのだ、三度目の忠告はない」
「へぇ……なら三度目には、なにがあるの?」
挑発気味に発した仄の言葉に、パイルは目を閉じ、次の瞬間、カッと見開く。
そして、仄とパイルの周りの空気が、豹変した。
「……その身で知れ!」