二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.118 )
日時: 2013/09/22 10:25
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 夏といえば、一般的にはなにを連想するだろうか。恐らく、そんなことは愚問だろう。学生でも大人でも、夏と言われて真っ先に思いつくものは——



「うーみーだー!」
「やっと着いたみたいですね」
 車の窓から身を乗り出し、眼前に広がる眩いばかりの水面におおはしゃぎするこのみと、それとは対照的にクールな汐。
 夏と言えば海、これはもう鉄板だろう。そういうわけで、夕陽ら四人は、澪の運転する車に揺られ、某県某所の海を訪れていた。
「隣の県だけど、意外と近かったな」
「そうだね、一時間もかかってないんじゃないかな?」
 車から降り、荷物を取り出しながらそんなことを言う夕陽と姫乃。その傍らでは今にも海まで特攻するのではないかと思うくらいにうずうずしているこのみと、澪となにか話している汐の姿。
「そんじゃあ頼んだぞ。ここら辺ではわりとでかい店だから、すぐに分かるはずだ」
「分かったです。では、行って来るですよ」
「おう、大丈夫だとは思うが気ぃつけろよ。時間になったらまた迎えに来るから。それと、店長によろしく言っておいてくれ」
「はいです」
「うっし。そんじゃーお前ら、しっかり働けよー」
 澪は汐たちに対してそう言い残すと、すぐに車で走り去ってしまった。
「澪にーさんは海で遊ばないんだ……残念」
「まあ、澪さんも仕事とかあるだろうし、仕方ないだろ。というか、別に僕らも遊びに来たわけじゃないけどな」
 そう、夕陽たちはなにも海水浴のためだけに海に来たのではない。あくまで遊びはついで、本命は別にある。

「それじゃ、早速バイト先の海の家に行くか」
『おー!』

 それが、海の家のアルバイトだ。



 話は期末考査の直前、六月下旬ほどまで遡る。ちょうど姫乃が抱えていた問題が解決した次の日のことだ。
 澪に知り合いが経営する海の家のバイトをしないかと誘われた夕陽たち。夕陽と汐はなにか裏があるのではないかと渋ったが、なにも考えていないこのみと純粋な姫乃は二つ返事でOK。残る二人もそれに引きずられ、結果、四人仲良くアルバイトに駆り出されたのだった。
「……しかし、謎です」
「なにが?」
「なぜ、兄さんは私たちを指名したのでしょうか。あの人ならば他に適任だと思われる知人なんていくらでもいるはずです。にも関わらず、まだ学生である私たちを選んだのは、少し不自然に思えてしまうのですよ」
 よくよく考えてみれば、汐の言う事はもっともだ。夕陽らはまだ高校一年。汐に至っては中学生で、原則としてバイトは禁止されている。
「言われてみればそうだなぁ……あの人のことだから、なにか裏がありそうだけど……」
「以前、兄さんに直接そう尋ねたことがあるのですが、『お前らだったら適任だしな』の一点張りで、真相は知れませんでした」
「あの人の考えてることはよく分かんないな……まあでも、僕以外の三人は接客経験があるし、適任と言えば適任か」
「あ……あれじゃないかな。海の家」
 と、姫乃が指差す方向に視線を動かす三人。そこには、確かに海の家と思しき建物がある。だが通常の海の家とは少し違う。海の家にしては大きく、奥行きがある。前面はほぼ吹き抜けになっているが、奥の方はわりと閉鎖的で、風が通りにくい造りになっているようだ。
「たぶんあの建物です。兄さんはこの辺りで大きな建物と言ってたです」
 ほぼ確証を得たところで、四人は恐る恐る店内を覗く。厨房からはソースの焦げた匂いが漂い、フロアでは何人もの若い店員がせわしなく動き回っている。
 しばらくその様子を観察していると、この店の制服なのだろう、店員と同じ柄のTシャツを着ていながらも、一人だけ明らかに他の店員とは異なる空気を発している女性がこちらの存在に気付いたように近づいてくる。そして、
「……えーっと、110っと」
「なぜに携帯を取り出して警察に電話を掛けようとするのですか!?」
 身の危険とあらぬ誤解を感じて、夕陽は力の限り叫ぶ。こういう時、連れの外見年齢が低いとトラブルを起こしてしまうので、夕陽はバイトを渋ったのだ。それがすべてではないが、少なくとも理由の一端ではある。
「ははは! 冗談だって。流石に高校生が小学生を誘拐するとも思えないし、親戚の子とかだろ?」
「いや、それも違います……というか、ほとんど全員、同学年です……」
 さらにこういう誤解も受ける。ちなみに女子三人の反応は特にない。汐はもう慣れたようで、姫乃も承知しているか気付いていないのどちらか、このみに至っては気にしないどころか逆にそれを利用することもあるのだから、タチが悪い。
 それはともかく、夕陽の困ったような態度に対し、女性はまた笑った。
「いやいや、分かってるって。さっきレイからメールあったから、君らが今日来てくれるっていうバイトたちだろ? あたしがこの海の家の店長だ、店長と呼んでくれ」
「あ、はい、店長……」
 自ら店長呼びを要求してくる人物に初めて出会った夕陽は、また困惑。どうしてもこの人物を相手にすると、ペースを狂わされる。いつものことかもしれないが。
「えっと……今日はよろしくお願いします」
「おう。こっちもよろしく。いやー、にしても助かったよ、君らが来てくれて。やっぱレイに頼んで正解だった、持つべきものは友達だな、やっぱり」
 などと上機嫌に言う店長。しかしこのみ以外の三人はもう気付いていた。そして同時に、疑問も浮かんでいる。
 その疑問をぶつけたのは、姫乃だった。
「あのー……店長、さん……?」
「なに?」
「いや、えっと、今年はバイトが足らないから、わたしたちが呼ばれたんですよね……?」
「まあ、そんな感じだな」
「わたしの目には、どうしても人が足りているように見えますけど……」
 姫乃の言う通りである。確かに店員たちは忙しそうにしているが、それでも店は十分回転している。むしろ、今の人数がベストだろう。ここに無理やり人を入れてしまうと、今度は逆に人手が余ってしまうだろう。
 ゆえに、夕陽たちはいらないように思えてしまう。しかし店長は首を振った。
「違う違う、別にあたしは君らに接客をしろなんて言わないよ。見ての通り、そしてお察しの通り、そっちの人では十分足りてるからね。それに、なんであたしがレイなんかにバイトの求人を頼んだのか、考えた?」
「……?」
 顔を見合わせる四人。店長の発言の意図がまったく読めない。
 そうこうしていると店長は、見た方が早いか、と言って店の奥へと進んでいく。
 奥行きのあるこの海の家。その奥は比較的風の通りが悪くなっているが、海の家として風通しが悪いと言うのはありえない。だが、その理由もすぐに判明した。
「!? デュエマ・テーブル……?」
 店の奥にはフロアと同じくらいの広さの空間があり、そこに四つのデュエマ・テーブルが設置されていた。
 海の家からは遠くかけ離れたインテリアに驚愕する夕陽たちだったが、この状況から導き出せる答えは一つ。
「まさか……デュエマしろ、ってことですか?」
「イエス、その通りだ」
 それから、滔々と語り出す店長。なんでもこの地域はやたらとデュエマが盛んなようで、そのニーズと店長の個人的な趣味に合わせて海の家にデュエマ・テーブルを設置したのだそうだ。
「バイト内容は簡単、もう少ししたら大量のガキどもが雪崩れ込んで来ると思うから、デュエマの相手をしてやってくれ。いやー、しかし本当に助かった。今年は全然デュエマできる奴が入ってこないんだもんなー。この店のウリが潰れるところだった。昼になったらまた顔出しに来るから、それまで頑張ってくれ」
 と言い残して、店長はフロアへと戻っていった。
「海に来てまでデュエマってどうなんだ……なぁ——」
「デュエマするだけでお金がもらえるなんて夢みたい! よーし、がんばっちゃうよー!」
「子供相手だからって、手加減はしないです。本気の勝負の世界を教えてあげるですよ」
「いろんな人と対戦する方が、経験としてはいいよね。もっと最近の戦術に慣れないと……!」
「やる気満々だな……」
 予想以上に張り切っている女子三人に、若干押される夕陽。
 正直、わざわざここまで来てデュエマに興じるのはどうなんだと言いたくなるが、しかし、
「……ま、いいか。僕も新しく組んだデッキを試したいし」
 なんだかんだ言って、夕陽もほとんど三人と同意見だった。