二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.12 )
- 日時: 2013/06/30 16:11
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
- プロフ: http://dm.takaratomy.co.jp/card/search/
「《火之鳥ガルダン》でシールドをW・ブレイク!」
「《アクア・スーパーエメラル》でブロックだ!」
ターンが過ぎ、夕陽のアタックステップ。
互いにシールドは五枚、夕陽の場には《ボルシャック・NEX》《マッス・ルピア》そして《火之鳥ガルダン》。女の場には《アクア・スーパーエメラル》に《爆裂B—BOY》メテオバーンを使い切った《機神装甲ヴァルゲットⅢ》。
《火之鳥ガルダン》が複数の剣を構えて特攻するのを、《アクア・スーパーエメラル》が体を張って防御する。このターンにおける夕陽の初撃は失敗に終わってしまった。
しかし、今回は随分と起動が遅れたが、元々夕陽のデッキは、ファイアー・バードにドラゴンと進化を絡めたビートダウンデッキ。まだ攻撃は終わらない。
「まだだ! 《ボルシャック・NEX》でW・ブレイク!」
二撃目。《ボルシャック・NEX》が両翼を羽ばたかせて飛翔。背中の砲台にエネルギーを送り込み、超高熱の粒子を圧縮し、儚く散っていた火の鳥(戦友)の力を還元する。
次の瞬間、《ボルシャック・NEX》の砲台から灼熱の火炎弾が二発、発射された。炎は一直線に女のシールドへと飛来し、容易く貫いた。
「ぐっ……!」
シールドが割れる。比喩ではなく、薄透明に浮かんでいた五枚のシールドのうち二枚が、実際に砕け散った。その破片と思しきものが熱風と共に女に襲い掛かり、彼女の腕や脚、頬を切り裂く。
「なっ、え……?」
その光景に驚いたのは、むしろ夕陽だ。大怪我というほどではないが、女は体の各所から血を流している。服も焦げていた。
「……言ったはずだ。あたし達が戦っているこの空間は、擬似的なデュエル・マスターズの世界だと。クリーチャーは現実に召喚され、殺し合う。その殺し合いの対象は勿論、クリーチャーを操るあたし達も含まれる」
「そ、それって……」
つまり、今自分たちが行っていることは、デュエル・マスターズを使用した殺し合いということなのか。
「……まあ、シールドを破られればそれ相応の傷こそつくが、よほどのことは滅多にない。そもそも、一度の戦いで死ぬようでは、このゲームの意味も薄れる」
「ゲーム……?」
女の言葉で少しだけ安堵した夕陽は、しかしさらなる疑念を抱く。
だが、女はその疑念を解消する前に、動き始めた。
「くだらん話を挟んだが、お前の攻撃はこれで終わりだ。S・トリガー《めった切り・スクラッパー》!」
めった切り・スクラッパー 火文明 (7)
呪文
S・トリガー
相手のクリーチャーを、コストの合計が6以下になるように好きな数選び、破壊する。
「4マナの《ガルダン》と2マナの《マッス・ルピア》を破壊だ!」
攻撃が終わってタップ状態の《ガルダン》と、追撃の準備をしていた《マッス・ルピア》が、無数の鋭利な刃が剥き出しになったプレスに押し潰され、切り刻まれる。砕けた剣の破片、朱や白や緑の羽毛が飛び散り、一瞬でその二体は破壊されてしまった。
追撃を止められ、戦力が一気に削がれる夕陽。だが悪いことはまだ続く。
「もう一枚。S・トリガー《ドンドン吸い込むナウ》」
ドンドン吸い込むナウ 水文明 (4)
呪文
S・トリガー
自分の山札の上から5枚を見る。そのうちの1枚を相手に見せて手札に加え、残りを好きな順序で山札の一番下に置く。このようにして見せたカードが火または自然のカードであれば、バトルゾーンにあるクリーチャーを1体選び、持ち主の手札に戻してもよい。
「デッキからカードを手札に加え、《ボルシャック・NEX》をバウンス」
「っ……!」
《ボルシャック・NEX》が吹き飛ばされるようにして手札に戻ってくる。これで夕陽のバトルゾーンからクリーチャーがいなくなってしまった。
「……ターン、エンドだ」
ターンの進行具合もあり、クリーチャーを追加することのできない夕陽はそのままターンを終える。
「あたしのターン。呪文《エナジー・ライト》、デッキからカードをドロー——」
デッキから引いた二枚のカードを見て、女はほんの少しだけ反応を見せる。だがそれも一瞬のことで、手札に加わった二枚のカードのうち一枚を引き抜き、マナを四枚タップする。
「——さらに《鬼姫モエル》を召喚。ターンエンドだ」
場にはサイキック・クリーチャーがいないため、当然ながら《鬼姫モエル》の効果は発動せず、女のターンは終了する。
(こっちにクリーチャーがいなくても攻撃しないのか。となるとやっぱり、手数で攻めるビートダウンじゃなくて、大型フィニッシャーで決めるコントロール系か。それにしても慎重すぎる気はするけど)
だが、その戦術に助けられているのは他でもない夕陽自身だ。こんな無防備な状態で一斉攻撃されたらたまったものではない。まだフィニッシャーとなるクリーチャーは来ていないようなので、今のうちに何とかしておきたいところだ。
(……! 来た!)
カードを引き、それを見た夕陽は心の中で歓喜する。時間はかかったが、ここで切り札を引けたのだ。
(《神羅ライジング・NEX》……!)
夕陽の切り札カード《神羅ライジング・NEX》。究極進化ということもあって彼のデッキで使うには少々重いが、それでも今まで幾度となく夕陽に勝利をもたらした相棒のようなカードである。
しかしそれでも究極進化。通常の進化クリーチャーと同じく進化元が必要だ。そしてその進化元は進化クリーチャー。通常の進化よりも圧倒的に手間がかかる。
(でも、タイミングの良いことに手札にはこいつがいる。少し勿体ない気もするけど、構うものか)
夕陽はデッキの一番上をめくり、それがクリーチャーであることを確認してから手札のカードを一枚抜き取る。
「デッキ進化《火之鳥ペリュトン》!」
火之鳥ペリュトン 火文明 (5)
進化クリーチャー:ファイアー・バード 3000
デッキ進化—自分の山札の上から1枚目を表向きにする。そのカードがクリーチャーであれば、このクリーチャーをその上に重ねつつバトルゾーンに出す。それカードがクリーチャー以外であれば、このクリーチャーを自分の手札に戻す。
このクリーチャーが破壊された時、このクリーチャーの進化元であったカードを1枚、墓地からバトルゾーンに出してもよい。
「さらに《ルピア・ラピア》を召喚。《ペリュトン》でシールドをブレイク!」
《ペリュトン》が炎を纏い、女のシールドへと特攻する。一直線に飛ぶ《ペリュトン》の体当たりでシールドは砕け散り、女の手札に収まった。
「……あたしのターンだ」
女は残りシールドが二枚という状況でも、顔色一つ変えない。どころか、むしろ自信に満ちた雰囲気すらある。
夕陽がそれを感じたところで、女が口を開く。
「今から見せてやろう。このゲームの本質——その意義を。戦争のようなゲームそのものを」
そして女は、バトルゾーンのカードを重ねていく。《爆裂B—BOY》の上に《鬼姫モエル》を、そしてその上に《機神装甲ヴァルゲットⅢ》を、流れるように重ねていく。
最後に手札から一枚のカードを抜き取り、重ねられたカードの束、その頂上部に、叩きつける。
「進軍せよ、爆炎の神よ! 右の剣は大地を割り、左の槍は天を衝き、命の源を焼き払え!」
刹那、突風が吹き荒ぶ。それもただの突風ではない、熱風を孕んだ、凄まじい圧力を感じる風だ。
(なんだ、この感じ……!)
途轍もない熱風だというのに、夕陽の背筋には冷たい何かが通る。不吉な気配を察しながら、夕陽はただ、その行く末を見ることしか出来なかった。
「神々よ、調和せよ! 進化MV(メソロギィ・ボルテックス)!」
召喚されたカードの周りに、炎が渦巻く。
そして、
「《焦土神話 フォートレシーズ・マルス》!」
爆炎の中から現れたのは、全身にこれでもかというほどの重火器を背負った人型のクリーチャー。両手両脚にはレーザー砲、脇からはガトリング砲、背中にはミサイルポッド、他にも多種多様な火器がところせましと装着されている。その中でも原始的な武器が二つ。右手には剣、左手には槍を持ち、どちらも炎に包まれている。
その姿は、まるで戦争の姿を体現した軍神のようだった。
「な、なんだ、このクリーチャー……?」
現れた謎のクリーチャーを見上げる夕陽。直感だが、このクリーチャーは危険だと、脳にシグナルが送られてくる。だが今更そんな信号が出たところで、意味はない。
「行くぞ。《焦土神話 フォートレシーズ・マルス》で、シールドをT・ブレイク!」
最初の瞬間、軍神は全ての砲口をこちらに向ける。さらに次の瞬間、軍神は虚空に剣を薙ぎ、槍を突いた。最後の瞬間、薙がれた剣から発せられた炎と、突かれた槍から飛ばされた炎が、レーザーや銃弾やミサイルと共に、夕陽を守るシールドを粉砕した。
「ぐ、う、あぁ……!」
凄まじい熱風が夕陽に襲い掛かる。その勢いは軍神が召喚された時の比ではない。本当に体が焼かれてしまいそうだった。さらに割れたシールドの破片も一緒に飛散し、夕陽の肉体を切り刻む。
「くっ、はぁ、はぁ……!」
全身を走り抜ける激痛に呼気が荒くなる。しかも一撃で三枚のシールドが破られてしまった。
その時、破られた三枚のシールドのうち二枚が、光を発しながら夕陽の手元に渦巻くようにして戻ってくる。
「S・トリガー……! よし、これなら——」
そこで、夕陽の言葉は止まる。
手元に集まった光は一枚のカードの形を成したが、その形はすぐさま溶け、ぽとりと三枚とも墓地に置かれてしまった。
突然の現象に困惑する夕陽だが、異変はまだ続く。
「っ!? 《ペリュトン》! 《ルピア・ラピア》!」
刹那、《ペリュトン》と《ルピア・ラピア》が、軍神の放った流れ弾やミサイルや、その爆炎に巻き込まれて吹き飛んだ。さらに、
「マナが……!」
目線を下げれば、マナに置かれたカードが焦げるように煙を上げ、墓地へと送られる。続け様に起こる異常事態に、夕陽はついて行けない。
「なんなんだよ、これ……!」
最初と同じ台詞を発しながら呻く夕陽。その目の前では爆炎を纏う軍神が立ち塞がっているのだった——