二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.14 )
日時: 2013/07/04 15:26
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
プロフ: http://dm.takaratomy.co.jp/card/search/

「あたしのターン……とことん運の強い奴だ。まだこのターンでは終わらないらしい」
 デッキからカードを引き、女はどこか皮肉を含む言葉を放つ。だがその言葉に思わず夕陽は安堵してしまう。どうやらスピードアタッカーは引けなかったようだ。
「《アクア・スーパーエメラル》を召喚。効果でシールドを入れ替える……さらにシールドから加えた《スペース・クロウラー》を召喚。効果でデッキからカードを手札に加える」
 女は淡々とブロッカーを並べ、守りを固めていく。なかなか用心深い。
 夕陽は一方的な不利と劣勢を感じているが、実際は女の状況も相当厳しい。なにせ、軽量ファイアー・バードを大量展開し、進化クリーチャーを用いた擬似スピードアタッカーで攻める夕陽を相手に、残りシールドが一枚なのだから、下手したら一気に削られて終わりだ。
 にもかかわらず、女は超然としている。動揺している素振りは一切ない。それが、夕陽と女の決定的な違いだった。
「思った以上にギリギリだが、しかしこの布陣なら負けることはあるまい。《マルス》で残りのシールドをブレイクだ!」
 《焦土神話 フォートレシーズ・マルス》が再び動き出す。全身の重火器を稼働し、数多の弾丸とレーザー光線、そしてミサイルを発射。さらに続けて剣と槍を振るう。
「ぐぁ!」
 割れたシールドの破片が猛烈な熱風に吹かれて夕陽へと牙を剥く。体を切り裂かれ、その上から灼熱の熱風が吹きつける。傷口を焼かれるに近い激痛にのた打ち回りそうになるが、歯を食いしばって耐える。
 状況は最悪。勝つ見込みも薄い。勝利の要素も見当たらない。切り札である《神羅ライジング・NEX》はもうほとんど役に立たない。だがそれでも、せめて戦う姿勢だけは崩さない。悪足掻きにも等しいが、夕陽はその意地にだけ縋りついている。
 《マルス》の攻撃が終了する。が、すぐさま爆発の余波で夕陽のマナが削られた。幸い、バトルゾーンにいるクリーチャーはすべてパワーが4000を超えているので、破壊されなかった。
 これでやっと女のターンが終わる。実際以上に、体感では長い1ターンだった。
「ターンエンドだ」



「ターンエンドだ」
 女——『炎上孤軍アーミーズ』はこのこの言葉を発した時点でほとんど勝利を確信していた。自分の場には相手のバトルゾーン、マナゾーン、シールドゾーンを焦土と化す軍神《焦土神話 フォートレシーズ・マルス》。特攻してくる相手を防ぐための壁、ブロッカーが二体。手札には小型クリーチャーを手札に戻すシノビ《斬隠テンサイ・ジャニット》。そして極めつけに、先ほど《アクア・スーパーエメラル》で仕込んだ《夏の日スパイラル》がシールドに埋め込まれている。
 これだけ守りを固めれば、1ターン凌ぐくらいは可能だ。文明からして相手のデッキにブロッカーはいない。ニンジャ・ストライクの目もなさそうだ。
 次の1ターンを凌げば、その次のターンで《マルス》の攻撃が決まる。そして、勝利を手にすることができる。
 だが彼女は忘れていた。いつもなら、いつもの彼女なら忘れるはずがないことだが、忘れてしまっていた。
 理由は何か。単純なミスというのがもっともらしいが、あえて言うならば——彼女が狙う、『神話メソロギィカード』があるからだ。
 だがその理由は彼女の忘却した内容と矛盾する。狙い、定め、求めるがゆえに盲目になってしまった彼女。そんな彼女は、忘れてしまっていた。
 空城夕陽にも『神話メソロギィカード』があることを——



「……………」
 夕陽は言葉を失った。
 最悪の状況。今の状態、どのカードを引けば逆転に繋がるのか、夕陽は考えた。しかし全身を駆け抜ける裂傷と熱傷により、まったく考えがまとまらず、無意識のうちにカードを引いていた。
 そして、そのカードを見て、声を上げられなかった。
 それは絶望ではない。ならば希望なのか、と言われればそうでもない。ならばなんだ、と問われても堪えるのは難しい。強いて言うならば、驚愕、困惑、虚脱——いや、どれも違う。無理やり言うのなら、それは実感だった。
(なんだ、この感じ……?)
 今まで感じたこともない不思議な感覚。ありきたりな言葉で言えば、力が溢れてくる感覚だ。そして、どこか安心感があり、温もりがある。
(このカード……このカードが、この感覚の原因……?)
 ジッと手札に加えたカードを見つめる。不思議とそのカードを頼りたくなる。いや、このカードなら、逆転できるという自信が湧いてくる。
「……そうだね。四の五の言ってる場合じゃないし、ここは君に頼る! 《翔天幻獣レイヴン》召喚!」
 まず、夕陽は手札にあった《翔天幻獣レイヴン》を召喚。さらにその《翔天幻獣レイヴン》と場にいる《火之鳥ピルドル》の上に《翔竜提督ザークピッチ》を重ねる。
 刹那、太陽の如き光が照りつけ、火柱を上げる。火柱は次第に球状となって膨張していき、そして——

「進化MV! 《太陽神話 サンライズ・アポロン》!」

 ——太陽神が、降臨した。



 その神は人の形を成している。
 真っ先に目を引くのは、背中に生えた燃える二対の翼。身体も灼熱の星のように赤く燃え、その各所を覆うのは民族的な意匠の装飾。周囲には小型の太陽とでも言うのか、いくつもの轟々と燃える球体がゆっくりと旋回しており、頭上には巨大な星が自転している。
 《焦土神話 フォートレシーズ・マルス》と同じ『神話メソロギィカード』——《太陽神話 サンライズ・アポロン》。
 その姿を目にした女の表情が、途端に崩れる。
「《アポロン》だと……馬鹿な、こんな場面で……!」
 女は呻く。だがその言葉は間違いだ。“こんな場面だからこそ”、《アポロン》はその姿を現したのだ。
「……行くぞ《アポロン》」
 ふと、無意識のうちに夕陽は呟く。
「《太陽神話 サンライズ・アポロン》で最後のシールドをブレイク!」
 《アポロン》は頭上の太陽から光を受け、それを掌へと集める。
 普通に考えて、この状況でクリーチャーを三体失う進化をするのは無謀である。《アポロン》の攻撃は普通にブロッカーに防がれてしまうし、その防御だけで夕陽の攻撃は終わってしまう。
 だがそれは、“ただ攻撃するだけ”の場合だ。
「《アポロン》の効果、コンセンテス・ディー発動! CD9——《アポロン》が攻撃する時、山札の一番上を表向きにして、それがファイアー・バード、ドラゴン、火文明のクリーチャーのいずれかであれば、コストを支払わずにバトルゾーンに出せる! 現れろ《ボルシャック・NEX》!」
 無数の小型太陽から炎が放射され、それらが渦状になってデッキを包み込む。
 デッキトップを捲って現れたのは《ボルシャック・NEX》。これでもまだブロッカーに防がれて攻撃が止まってしまうが、
「《ボルシャック・NEX》の効果発動! デッキから《ボッコ・ルピア》をバトルゾーンに!」


ボッコ・ルピア 火文明 (4)
クリーチャー:ファイアー・バード 1000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、バトルゾーンにある自分のドラゴン1体につき、「ブロッカー」を持つ相手のクリーチャーを1体破壊する。


「《ボッコ・ルピア》だと……!?」
 女の表情が引きつる。
 《ボッコ・ルピア》の効果は単純明快。自分のドラゴンの数だけ相手のブロッカーを破壊できる。今の夕陽の場いるドラゴンは《ボルシャック・NEX》と《アポロン》の二体。つまり、
「《ボッコ・ルピア》の効果で《アクア・スーパーエメラル》と《スペース・クロウラー》を破壊!」
 《ボッコ・ルピア》は炎を纏った翼を羽ばたかせると、その炎が射出される。そして飛来する炎の直撃を受け、二体のブロッカーは消滅した。
 力の充填が終わったのか、《アポロン》に照射されていた光が消える。直後、《アポロン》の掌から灼熱の光線が発射され、女の最後のシールドを貫いた。
 そのシールドは光の渦となって女の手に収まるが——この場面でそのカードを使用したところで、女の運命は変わらない。その変わらない運命を目の当たりにし、女は手札に入ったS・トリガー呪文を呆然と見つめている。
「まだ《アポロン》の効果は残ってるよ。CD5——《アポロン》は自分のファイアー・バード、ドラゴン、火文明のクリーチャーすべてにスピードアタッカーを与える!」
「な、に……!」
 女は一度目線を上げ、すぐさま再び自分の手札を見る。念のために軽量クリーチャーで殴ってきたらそれを妨害するためにあった《斬隠テンサイ・ジャニット》。だがその効果の適用ラインでは《ボッコ・ルピア》すら手札に戻せない。
 『炎上孤軍アーミーズ』を守る盾も城壁も、もう存在しない。司令塔である頭が、無防備を晒している状態だ。
 女にはなす術がない。手札とバトルゾーンを交互に見遣るだけで、何もできない。そうしているうちに、空中に火の粉が舞うのが見えた。

「《ボッコ・ルピア》でダイレクトアタック!」

 刹那。
「……!」
 女は一匹の小さな火の鳥に——貫かれた。



 勝負に決着が着くと、夕陽たちを取り囲んでいた炎が鎮火した。広げていたカードもデッキへと戻っていく。
「ぐ、うぅ……!」
 《ボッコ・ルピア》にとどめを刺された女は、悔しそうに歯軋りをし、夕陽を睨む。
 その時だった。
「え? な、なに……?」
 女のデッキから一枚のカードがスッと抜き出され、流れるようにして夕陽の手元へとやってくる。
「これ……《フォートレシーズ・マルス》……?」
 夕陽の手元に来たカードは、紛れもなく《焦土神話 フォートレシーズ・マルス》だった。
「……ちっ」
 その光景を見て、女はあからさまに舌打ちをする。そしてカードが一枚足らなくなったデッキをケースに仕舞い踵を返し、
「少しは理解できたか。つまりはそういうことだ。勝者がゲームの勝者が『神話メソロギィカード』を手に入れる。逆に敗者はカードを奪われる……今のところ、あたしの《マルス》はお前のものになった。精々、有効活用することだな……」
 そのまま公園から立ち去ってしまった。最後に夕陽だけが一人残される。
「……ゲーム、か」
 実際にそのゲームに則ったデュエマを体験して、感覚ではそれがなんなのか、概ね掴むことができた。しかし細部までは理解できない。というより、情報が圧倒的に足らない。
 だがしかし、一つだけ、これだけははっきりしている。
「なんか面倒なことに巻き込まれたっぽいな、これ……」