二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.148 )
- 日時: 2013/10/06 09:13
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
現れたのは、巨大な海神。三叉の槍を構え、怒りの眼差しでこちらを睨み付けている。
「《母なる星域》でマナから引っ張り出すとは……失念していたようです。マナ加速から進化クリーチャーを出すデッキには当然組み込まれているカードだというのに、です」
「気付いてももう遅い、《ネプトゥーヌス》の能力発動だ。手札は……これ以上引くとデッキがなくなる、カードは引かない。だが、お前の手札とシールドは見させてもらう」
公開された汐の手札とシールド。手札はともかく、シールドはとんでもないことになっていた。
(すべてS・トリガーか……運がいいな。だが、この局面で有効に作用するのは、これだろうな)
流はすぐにカードを選び、手札とシールドを入れ変えさせる。
「《オルゼキア》が埋められ……こっちは《デス・ゲート》ですか。上手くS・トリガーを潰されたようですね」
まだ冷静さを失わない汐。しかし、内心では相当焦っているはずだ。
「まだ終わらない。《ネプトゥーヌス》の最後の効果だ。お前のクリーチャーを全てデッキに送り込む」
《ネプトゥーヌス》が槍を一振りすると、巨大な津波が押し寄せ、汐の場のクリーチャーは全滅、すべて山札に戻されてしまった。
「待たせたな、これで終わりだ。《ネプトゥーヌス》でT・ブレイク!」
《ネプトゥーヌス》の槍が、激流と共に突き出される。その攻撃で、汐のシールドは一枚、また一枚と割られていき——
「っ、S・トリガー発動《プライマル・スクリーム》。山札の上四枚を墓地送りです」
ここでデッキに一枚だけ入っているあのカードが墓地に落ちれば、そのまま回収してダイレクトアタックは阻止できる。そんな汐の祈りが届いたのか、単なる偶然か、墓地に落ちた四枚の中には一体のデーモン・コマンドの姿があった。
「——来たようですね。墓地に落ちた《威牙の幻ハンゾウ》を回収です。これでも《青銅の鎧》で攻撃するつもりですか」
「……だが、どの道この攻撃でお前のシールドはゼロ。場のクリーチャーもいない。次のターンには俺の勝ちが決まる」
「そうでしょうか。もう一枚S・トリガーです。《ブータンの収穫》、墓地から《凄惨なる牙 パラノーマル》を回収です」
ブータンの収穫(ハーベスト) 闇文明 (3)
呪文
S・トリガー
次のうちいずれかひとつ選ぶ。
▼エグザイル・クリーチャーを2体、自分の墓地から手札に戻す。
▼クリーチャーを1体、自分の墓地から手札に戻す。
「そして私のターン、さっき回収した《パラノーマル》を召喚です。さらに呪文《デッドリー・ラブ》で《パラノーマル》を破壊し、そちらの《ネプトゥーヌス》も破壊です」
「なんだと……?」
少しずつだが、巻き返されているのを感じる流。切り札を失い、焦燥感が芽生え始める。
「さらに《パラノーマル》が破壊されたことでシールド・ゴー発動です。《パラノーマル》はシールドとなり、あなたのクリーチャーのパワーはすべて−3000ですよ」
「っ……!」
凄惨なる牙 パラノーマル 闇文明 (7)
クリーチャー:アウトレイジ 7000
W・ブレイカー
シールド・ゴー
このカードが自分のシールドゾーンに表向きであれば、バトルゾーンにある相手のクリーチャーすべてのパワーは−3000される。
これで、流のクリーチャーは全滅。ブロッカーもアタッカーもいなくなった。だが、まだ流は抗う。
「くっ、手札進化! 《プロメテウス》を《レジェンダリー・デスペーラド》に! 《パラノーマル》のシールドをブレイク!」
アタッカーをすべて失った流は手札進化で攻撃手を増やし、とりあえず厄介な《パラノーマル》のシールドを割ろうとするが、
「ニンジャ・ストライク。《ハンゾウ》を召喚し、《デスペラード》のパワーを−6000、《パラノーマル》と合わせて−9000です」
流石の大型リヴァイアサンでも、この二体による弱体化を受けては場に残れない。そのまま破壊されてしまった。
「私のターンです。呪文《インフェルノ・サイン》で墓地から《ブリティッシュ》を復活です。さらに《ブラッドレイン》を召喚し、《ブータン転生》発動。《ブラッドレイン》を破壊し、山札から《ハンゾウ》をサーチ」
アタッカーを増やしつつ、反撃されないように《ハンゾウ》を手札に忍ばせる汐。もはや完全に、場の支配権は汐が握っている。
「俺のターン……終了だ」
カードをドローするも、流のデッキはシステムクリーチャーが多い。つまりそれは、全体的にクリーチャーのパワーが低いのだ。リヴァイアサンなどの大型クリーチャーは別として、パワーが低いクリーチャーばかりなので、《パラノーマル》がシールドに表向きである中、アタッカーもブロッカーも増やせない。なので結局、流はなにもできすターンを終えた。
そして、そんな彼に地獄の支配者が迫る。
「《地獄魔槍 ブリティッシュ》で、ダイレクトアタックです——」
デュエル終了後、流の墓地にあった《ネプトゥーヌス》が淡く光り、汐の手元までやって来る。
「……では、先輩への侮辱を撤回してください」
「分かった」
流は意外なほどあっさりと首肯し、夕陽の前に立って頭を垂れる。
「さっきは悪かった。弁解するわけではないが、俺が弱いと言ったのは“俺が思っていた以上”に、ということだ。実際、お前はここらの連中には勝っているようだし、それ相応の実力はあるのだろう。とにかく、悪かったな」
「えっと、まあ……僕も、実際は負けたわけだし、そんなに否定できることでもないし……別にいいよ、もう」
あまりにも素直に謝罪されたため、逆に夕陽も困ってしまう。“ゲーム”参加者という肩書で悪人という先入観を持っていたが、流はそうではないのかもしれない。
なんだか妙な気分になり、いたたまれなくなった夕陽。その時だった。
「あ! リュウだ!」
「ホントだ。今日も来たんだ!」
「リュウ、デュエマしようぜー!」
さっきまでいなかった子供たちが、わらわらと湧いてきた。そして、あっと言う間に流れを包囲する。
「俺の名前はナガレだ、人の名前を間違えるような奴とはやらない」
「悪かったよリュウ」
「ごめんよリュウ」
「だからデュエマしようぜリュウ」
「お前ら……仕方ない。だが、この人数を俺一人で捌くのは厳しいな。お前たちも手伝ってくれ」
流の意外な人気っぷりを傍観していたら、急に話を振られたので戸惑う夕陽たち。
「え? 僕ら?」
「手伝うって、この子たちとデュエマしろってこと?」
「それじゃあバイト内容と変わらないね……」
「私は構わないです」
わいわいと流を中心に騒ぎ出す子供たち。そこにさらなる闖入者が入る。
「おーおー、なんか騒がしいと思ったら、さっすがリュウ坊、チビッ子に大人気だなぁ。こんだけ人数いるんだったら、いっそトーナメント戦にするか? 商品はうちの飯を一日だけ無料にする、とかにしてよ」
言わずもがな、店長だ。まとまりのない子供たちをまとめ、飯を餌に小さいながらもデュエマの大会を開催する始末。
「……なんか、僕らアウェーな感じだな」
「そっかなぁ? 楽しいし、別にいいじゃん」
「お前は適当だな。まあでも、その通りか」
その後、小規模に行われたデュエマの大会は、ギャラリーも多く来て大盛況となった。
そして誰かが空気を読んだのか、それとも単なる実力か、優勝者は流だった。
夏休みも終わり、新学期の始まった雀宮高校。
初日は始業式とホームルームだけで、特になにをするでもなく終わったのだが、
「ねーねー、ゆーくん」
「なんだよ……って腕を引っ張るな。そっちは二年の校舎だろ、僕らが行ってどうする」
「いやだってさ、二年に転校生が来たんだよ。これは一度拝見しておかないと。ほら、姫ちゃんもいっしょにっ」
「わ、わたしも?」
このみに引っ張られる夕陽と姫乃。ただ、姫乃はともかく夕陽の方が腕力は上なので、簡単に払い除けられてしまう。
「ああ、鬱陶しい! せっかく今日は授業がないんだから、早く帰らせろよ。第一、二年に転校生が来たって、僕らには関係ない。そんなに見たいなら一人で行け」
「えー……つれないなぁ。けっこーイケメンだって話だよ?」
「それで僕が食いつくと思ったのか? だったら今すぐ119番通報してやるぞ」
などと論争していたら、階段の方が騒がしい。どうやら二年のホームルームも終わったようだ。そして最初に階段を降りて来たのが、
「お? 春永と……えーっと、空城だったか? そっちの奴は知らないけど……どうしたお前ら? こっちは二年の階だぞ」
零佑だった。
「ああ、すいません。こいつが二年の転校生を見たいとか言い出して——」
「転校生? ああ、それなら……おいリュウ、呼んでるぞ」
と、零佑が階段の陰になっている背後に声をかけると、
「ナガレだ、教室でも自己紹介したはずだ。間違えるな」
どこかで聞いたような声。いや、聞いたことがあるどころではない。
階段から降りてきたのは、誰がどう見ても、あの日海で戦った水瀬流だった。
「お前……! なんでここにいるんだ!?」
「『昇天太陽』……なんでもなにも、俺は今日、この学校に転校してきただけだ。ここにいるのも当然だろう」
「あ? なんだなんだ? お前ら知り合いだったのか?」
驚愕する夕陽、淡々としている流、疑問符を浮かべる零佑、とその他。
なんでも、流は夏休みに夕陽たちと戦った日の翌日に、こちらへと引っ越して来たらしい。だからあの日は、故郷に別れを告げる、もっと感傷的な日だったそうだ。
だが、とりあえずそれは置いておくとして。
水瀬流。元々無所属の“ゲーム”参加者だった彼は本日付けで、“雀宮高校二年二組に在籍する”“ゲーム”参加者となったのだった。