二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.156 )
日時: 2013/10/07 01:42
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「あ、このみちゃんとゆーちゃん、ここにいたんだ」
「ひーちゃん? どしたの?」
 ちょうど食事を終えたところで、クラスメイトの女子一人がやって来た。
「もしかして、なんかトラブル? 急ぎでゆーちゃんが必要な感じ?」
「なんでもかんでも僕を引き合いに出すなよ」
「ううん、そうじゃなくて。さっき黒村先生が呼んでたから……なんか急ぎの用なんだって。四階の社会科教室にいるからすぐに来てくれって言ってたよ」
 黒村、という名前に、夕陽は反応する。しかも指名したのが夕陽とこのみ、加えて急ぎの用となると、嫌な予感しかしない。
「ゆーくん……」
「ああ、たぶん“ゲーム”絡みだろうな」
 小声で短く言葉を交わし、二人は立ち上がった。
「教えてくれてありがとね、ひーちゃん」
「悪いんだけど、たぶん戻って来るのは遅くなると思うから、なにかあったらメールでよろしく」
「う、うん。よくわかんないけど、がんばって」
 やや困惑気味のクラスメイトに見送られながら、夕陽とこのみは急ぎ社会科教室へと駆けていった。



 文化祭は生徒が主体となって活動する行事。しかし、意外と教師も楽しんでいるもので、そうでない者は本部である職員室にいるのが普通である。なので、社会科教室はたった一人の男がいるだけで、がらんとしていた。
 その男が、夕陽たちの副担任であり、現代社会の教師、その裏では“ゲーム”の研究機関【ミス・ラボラトリ】の観察者である黒村形人だ。
 黒村は教室に入った夕陽の姿にギョッと目を見開き、夕陽も失敗したというような顔をしたが、そこは空気を読める二人。見事にスルーした。そしてすぐに本題に入る。
「黒村先生、まさかとは思うんですけど、前の現社の小テストのこととかじゃないですよね?」
「当然だ。いくら俺でも、文化祭の中そんなことで生徒を呼び出したりはしない。とりあえず、これを見ろ」
 言って黒村がポケットから取り出したのは、一枚のカードだ。
「《電撃戦士ガード・ゲイナー》?」


電撃戦士ガード・ゲイナー 光文明 (3)
クリーチャー:グレートメカオー 2500
シールド・セイバー


「このカードがどうかしたんですか?」
「フレーバーテキストを読んでみろ」
「フレーバーテキストを? なんでまた……」
 疑問符を浮かべながらも、言われるがままに《ガード・ゲイナー》とフレーバーテキストに目を落とす。収録されているエキスパンションから考えて、確かオラクルの協議について書かれていたはずだと思いながら、テキストを読み始めるが、
「あ、あれ……? こんなフレーバーだったっけ……?」
 そこに書かれていたのは、夕陽が予想していたものとは全く異なる文章だった。


『この星のマナが枯渇しようとも、我々の役目は変わらない。アテナ様のために、この防壁は守り抜く! ---電撃戦士ガード・ゲイナー』


「なんですか、これ……? フレーバーテキストが違う……」
「そうだ。『神話カード』の影響を受け、実体化したカードは、このようにフレーバーテキストも変化する。しかもその内容は、十二枚の『神話カード』について書かれたもの……というより、『神話カード』たちの世界の話、とでも言うべきか。俺たち【ラボ】は、こういうところからも『神話カード』がどういうものかを探っている」
「成程……ってことは、このカードも実体化してたってことですか?」
「そうだ。さっき俺が、校舎裏で実体化したこいつを見つけて、すぐにカードに戻した。だが、実体化したカードが存在するということは……」
「この文化祭に、『神話カード』を持った“ゲーム”参加者がいるってことになるのか」
 文化祭は不特定多数の人間が学校に出入りする日とも言える。そこに付け込めば、侵入は容易い。
「とはいえ、そうとも言い切れないんだがな」
「どういうことですか?」
「ここ最近の動きを見るからに、今回の件は【神聖帝国師団】の可能性が高い。そして【師団】のトップが持つ『神話カード』は、実体化するカードを生みだす能力があると聞く。春永、前にお前が戦った《妖精のイザナイ オーロラ》もその一体だ」
 カードを生みだす能力。つまりその能力で生みだしたカードを、学校でばら撒いているということだろうか。カードを生み出す行為自体は【師団】の拠点で行えばいいので、やはり学校が一般人にも解放されている文化祭を利用して、何者かが潜入したようだ。
「とはいえ、生みだす頻度はそこまで高くもないらしいからな。もしかしたらもう、潜入した【師団】の何者かは学校から出ている可能性がある。ゆえに、俺たちが真っ先にしなければンらないのが……」
「実体化したカードの回収、ですね」
 カードが実体化すると、一定範囲に神話空間が展開される。基本的に一般人はその空間からは弾かれるのだが、稀に巻き込んでしまうこともある。それだけは避けなくてはならない。
「【ラボ】としても、“ゲーム”についての事柄が公になる事態は避けたい。とりあえず屋上に向かうぞ」
「え? 屋上? なんで?」
 教室から出ようとする黒村に疑問を投げかける。すると、意外な答えが返ってきた。

「そこに所長……俺たち【ミス・ラボラトリ】のトップが来ている。まずはあの人と合流だ」



 雀宮高校の屋上は、基本的に立ち入り禁止になっているが、だからといって閉鎖されているわけではない。流石に文化祭などの時は一般人が立ち入って問題になると面倒だからか、封鎖されているが、それも教師の持つ鍵があれば開けられる。
 というわけで、【ミス・ラボラトリ】の所長がいるという、屋上に辿り着いた夕陽たち。重い扉を開けた先には、一人の女が地べたに座っていた。
 かなり若い女だ。ともすれば夕陽たちと同じくらいの年齢に見られてもおかしくはないくらいで、若々しいと言うよりは幼い風貌をしている。
 顔つきは日本人とも外国人とも取れ、肌は透き通るように白く、邪魔にならない程度に束ねている髪の色素も薄い。幼さを感じる原因の一つであろう、学校の制服のようなクリーム色のブレザーに、青いチェックのプリーツスカート。さらにその上から裾の長い白衣を着ており、かなりちぐはぐ感が否めない。
「うーん、デリシャス! 所詮はハイスクールの文化祭だと思って舐めてたけど、意外とやるじゃん。最近のストゥーデンツは進んでるねぇ」
 女の周りにはタコ焼きや菓子類、さっき夕陽たちも食べた二年二組の焼きそばなどが散乱しており、文化祭を満喫している様子が一発で分かった。
 だが、
「もしかして、この人が……?」
「……ああ、所長だ」
「おろ? 黒村くーん、やっと来たんだ。ベリーウェイトだったよー」
 こちらの存在に気付いたらしい女。しかし女は立ち上がろうとせず、仕方なく夕陽たちが女の下へと向かう。
「所長、一応ここに入る人はいますから、片付けくらいはしておいてくださいよ」
「分かってるって。それより、この二人が『昇天太陽サンセット』君と『萌芽繚乱ブロッサム』ちゃん? へぇー、『昇天太陽サンセット』はボーイだってヒアしてたけど、ガールだったんだぁ」
「うっ……いや、これは、ちょっと事情があって……」
「ふーん。まあいいや」
 と言って、やっと女は立ち上がる。分かってはいたが、やはり小柄だ。とはいえ、このみや汐、姫乃ほどではなく、わりと標準的な低さだが。
「もしかしたら黒村君からヒアしてるかもしれないけど、ちゃんと自己紹介しとくね。私が【ミス・ラボラトリ】の所長、ラトリ・ホワイトロックだよ。ナイス、トゥ、ミートゥー」
 ラトリ、その名前に少し引っかかりを覚える夕陽だったが、特に気にせず本題に入る。
「それより所長、今回出現したクリーチャーについてですが……」
「あー、それね。んじゃ、クイックで片付けちゃおうか」
「え?」
 と、その時。夕陽たちに影が差す。雲などではない、もっとおぞましいものの影だ。
 即ち、クリーチャーである。
「っ、いつの間に……!?」
「うわ、大きい。全部ドラゴン?」
「だろうな。数は……一、二、三か。こちらの方が人数は多いが……所長、デッキはありますか?」
「オフコース! ……と、言いたいところだけど、実はナッシング。だから三人とも、頑張れ」
 他人事のように手をひらひらと振るラトリ。いい加減な感じの人物だとは思っていたが、本当に何もしないのか、と苦言を呈したくなる夕陽だったが、黒村に止められた。そして彼は、諦めろ、と言うように首を振る。
「……まあいいや。とにかく、この三体を片付けないとな」
 というわけで、夕陽たちとクリーチャーの群れによる戦いが始まった。
 そしてこの戦いが、この日の騒動の始まりでもあった。