二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.17 )
- 日時: 2013/07/06 03:13
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
- プロフ: http://dm.takaratomy.co.jp/card/search/
春永このみ。雀宮高等学校一年四組在籍。
成績は下から数えた方が断然早いレベル。しかし芸術や運動方面ならわりと評価は高い。
身長は小学生と見紛うほど。背丈の割に発育は良い。痩せ型ではあるのだが、華奢という印象はなく、むしろ女性的な体つきをしている。
家族構成は父母と姉の四人家族。
——容姿はともかく、経歴はごくごく平凡なこのみ。そんな彼女が相当入れ込んでいるのは、やはりデュエル・マスターズである。
デッキビルティングに関する技術は酷いもので、一人で構築済みデッキを改造すれば間違いなく改悪になり、市販のデッキをそのまま使った方が強いことがしばしば。
しかし反対に、彼女のデュエル中におけるプレイングは夕陽や汐をも凌ぐ。だからと言って毎回勝てるわけではないが、直感的にどう動くかを判断し、ほとんどその直感は彼女を良い結果へと導く。
要するに、考えずに感じる性格。普段のお気楽な態度からも分かるように、彼女は直感で動くタイプのデュエリストだ。
その直感は日常生活でも発揮される。たとえば、なんでも打ち明け合うような昔からの親しい間柄の友人がなにか隠し事をしていたら、彼女はその友人のちょっとした挙動だけで、なにか隠していることを見抜くだろう。
その直感はあらゆる場面で彼女を良い方向へと導くものではあるが、しかし時としてその直感が思わぬ大事になることもある。
容姿以外はどこにでもいる普通の女子高生、春永このみ。彼女が残虐非道な“ゲーム”に巻き込まれる要因を上げるとするならば、それはやはり、彼女の鋭すぎる直感だろう——
それなりに人通りのある、住宅街と繁華街の狭間。今は「定休日」のプレートが掛けられている一軒のカフェ。
その小奇麗な店内には、二人の女性が向かい合っていた。女性と言っても、片方は容姿からして明らかに少女と言えるような年齢だろうが。
「でさー、最近ゆーくんの様子が変なんだよねー……なーんか隠してる感じでさー。あたしとゆーくんの仲だし、言ってくれればいいのに」
春永このみは肘をつきながらカウンター席に座り、目の前の女性に愚痴を垂れるように言う。その姿はブレザー制服でも私服でもない。どちらかと言えば制服と言えるだろうが、彼女からすれば私服とも言えるものだ。
白を基調としたエプロンドレスに、フリルの付いたヘッドドレス。端的に言えば、メイド服。しかし細部がテンプレートのそれとは異なる。
そのメイド服にも似た衣装は、この店のウェイトレスが着る制服だ。ならばこのみがなぜそれを着ているのか。彼女がこの店でバイトしているから、という理由が高校生らしくて真っ先に浮かぶだろうが、それは違う。定休日に店に来るバイトは普通はいない。
ならばなぜか。理由は単純明快だ。ここが彼女の家だからである。
『popple』今はこのみの姉が経営しているカフェだ。なので妹であるこのみもたまに手伝いとしてウェイトレスの格好をして接客している。
……まあしかし、それでも定休日の今日に制服を着ている理由にはならないのだが。その辺はこのみのいつもの茶目っ気ということで納得するしかない。
閑話休題。
このみの愚痴を受けて、カウンターを跨いで正面に立つ穏やかな表情の女性は滑らかな声で返した。
「それは、年頃の男の子だもの。夕陽君だって女の子に一つや二つ隠すことくらいあるわよ」
「そうかなー? ゆーくんはそんな感じには見えないっていうか、そんな人じゃないと思うんだけどなー」
不服に口を尖らせて、今度はカウンターに突っ伏す。
「そんなに気になるのなら、直接訊いてみたら?」
「なんだけどねー……いっつもはぐらかされちゃうんだよー。最近は汐ちゃんの店にも来ないしさー」
まるで遊んでくれなくて拗ねる子供のような態度のこのみだった。
「うー、なーんかつまんないのー。ねー、おねーちゃん、デュエマしよ」
頭だけ起こし、もぞもぞとデッキケースを取り出すこのみだが、
「ごめんね、このみ。この後は大事な用事があるの」
と言われ、また頭が落ちる。
「ちぇー、おねーちゃんもダメなのかー。うーうー、つまんないよー」
今度は手足をばたつかせる。駄々をこねる子供のようだ。
「本当にごめんなさい。帰ってきたら、相手してあげるから」
そんな幼児退行気味のこのみを、まるで母親のようになだめ、彼女は家を出た。
「はぁー……つまんない」
学校ではアニメからそのまま出て来たような愛嬌のある容姿と、フレンドリーで人懐っこい性格から絶大な支持を得ているこのみだが、そのムードメーカーな気質ゆえに盛り上がらない状況は耐え難いものなのだ。
「うー……もう部屋に戻ろうかな。どうせ休みでお客さんこないし——」
カランカラン
と、客の来店を知らせる鈴が鳴った。
「? あれ? プレート掛け忘れてたっけ? すいませーん、今日は休みなんですけど——」
と、扉の方を振り向くとこのみの声が止まった。
その理由は二つ。
「子供……?」
一つは、来店者が子供だったこと。それも小学生かそのくらいの身長だ。このみも人のことはあまり言えないが、そのこのみよりも低く見える。
一応、この店はカフェだ。高校生やOLなんかもよく利用している。中には子連れの主婦だって来る。なので親子で来店したのであれば納得いくのだが、子供一人というのは些か奇妙だった。
そして、もう一つの理由。
「…………」
大抵のことに対してはそれなりの反応をして場を盛り上げようとするこのみも、流石に絶句する。
その理由は子供の格好だ。ボロボロのマントのようなものを羽織っており、フードで顔は見えない。細い腕や足には白い包帯が巻かれており、足に至っては裸足だ。もしかしたら包帯が靴代わりということなのかもしれない。
「えっ……と。君、お母さんか、お父さんか、お姉ちゃんでもお兄ちゃんでもいいんだけど——」
とにかくこの場をなんとかしようと必死で言葉を紡ぐこのみ。しかしその言葉は、すぐにかき消された。
「『昇天太陽』」
「は?」
「『昇天太陽』、どこ……?」
「いや、どこって言われても……」
なんのことだか分からない。明らかに変声期を迎えていない少女の声が、余計に理解を困難にする。
「周知、のはず。春永このみは、『昇天太陽』と関わりが、深い。再度質問、『昇天太陽』、どこ……?」
「いや、だからどこって言われても……分かんないよ。なに、サンセットってなに? あたし、英語は苦手なんだよ……」
「再三質問、どこ……?」
一方的に要求を押しつけて来る少女。どうやらまともな話し合いは通じそうにない。いつもならそう思われるような行動を取るこのみだが、今回ばかりは逆の立場になった。
そして少女の方も、このみとは違うベクトルで話が通じないとみたようだ。
「仕方、ない。実力行使で、聞き出す……」
少女はマントの中をごそごそと漁り、一つの古ぼけた木の箱を取り出す。箱の上面をスライドさせ、中のものを取り出し、このみに見せつけるようにして握る。
そこでまた、このみは意表を突かれる。
「……デュエマ?」
そう、少女が取り出したのは、紛れもないデュエル・マスターズカード。
初めは困惑してばかりのこのみだったが、スイッチでも入ったのか、急にいつもの明るい雰囲気を発しながら立ち上がり、同じようにケースからデッキを取り出した。
「やろうってことだよね。いいよ、ちょうどつまんなくて気が滅入ってたんだ。なんかよく分かんない状況だけど、これなら一発で分かる!」
彼女の思考回路も随分といい加減に接続されているが、それはさて置き。
このみはつい先日改造したデッキを手に、店内の奥を横目で見遣る。
「……じゃ、早く始めよう。言っとくけど、手加減はなしだよ!」
そして視線を送っていた方へと歩いていく。
そこにあるのは——デュエル・マスターズで遊ぶための台。俗に言う、デュエマ・テーブルだった。