二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.18 )
日時: 2013/07/06 03:45
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
プロフ: http://dm.takaratomy.co.jp/card/search/

 カフェ『popple』が他の喫茶店と明確に異なる点はただ一つ。それは、デュエマ・テーブルが置いてあることだ。
 営業の管理がこのみの姉に移譲されてから、デュエマをするフリースペースとして導入したのだが、もはや競技レベルにまで洗練されたデュエマだ。このシステムはそれなりに成功している。
 いくつかあるテーブルのうち一つの両端に、このみと少女が立つ。
 やる気満々でノリノリなこのみと対照的に、少女は非常に落ち着いていた。
 ふと、少女が口を開く。
「忠告、しておく。危険、だから、戦いをやめるのなら、今のうち」
「んー? あたしは自分から勝負を投げたりはしないよ!」
「……忠告は、した」
 発言の意図が伝わらなかったと言うように、少女は少しだけ肩を落とす。そうしてる間に、このみは準備を終えてしまった。
「さーて、そんじゃー始めようか」
 先攻はこのみで、デュエマ・スタート。
 初ターン。どちらも最初はマナチャージから始める。
 そして二回目のこのみのターンが回ってきたが、
(あちゃー……ちっと事故ちゃった……)
 このみの使うデッキは、火と自然の進化速攻デッキ。本来なら2ターン目から動き始めるのだが、
(2マナのクリーチャーがいないや……しょうがないか。こういうこともあるよね)
 と胸中で呟いて、マナを溜めて終了する。
「…………」
 少女のターンが回ってきて、こちらもマナチャージ。だが、少女はこのターンから動いた。
「……召喚、《土隠妖精ユウナギ》」
 少女が手札から召喚したのは、シノビとスノーフェアリーの複合種族を持つクリーチャー《ユウナギ》。
 その時点で相手はシノビを使うデッキだというのが分かるのだが……この時、明らかな異変が起きた。
「クリーチャーが、出て来た……!?」
 一瞬にして場の空気が変わった。気付けばシールドも五枚、このみを守るように展開されている。
「……忠告は、した。危険な、戦いになると。この空間内、では、クリーチャーが、実体化、する。破壊、されたシールドによる、ダメージも——」
「うわー、すごいすごい! クリーチャーが実体化するなんて、夢みたい! ていうか夢だよ! あたしの小学校の頃の夢が叶っちゃったよ! いぇーい!」
 少女の話なんてまったく聞いておらず、このみはクリーチャーが実体化するという現象に大いに喜んでいた。
「なんかよく分からないけどすごいね! よーし、あたしのターン!」
「…………」
 予想外の反応だと言わんばかりに、少女は声をつまらせる。
 対するこのみは、嬉々として次のカードをドローするのだった。



 デュエルは進み、現在はこのみのターン。
「行っくよー! 《青銅の鎧》召喚! マナをチャージして進化! 《大勇者「大地の猛攻」》!」
 現れたのは、四つの腕を持つ獣人。先端が四角い原始的な棒状の武器を携えている。


大勇者「大地の猛攻ガイア・スマッシャー」 自然文明 (2)
進化クリーチャー:ビーストフォーク 5000
進化—自分のビーストフォーク1体の上に置く。
このクリーチャーがタップされている時、バトルゾーンにある自分の他のビーストフォークすべてのパワーは+2000される。


「そしてそして、《大地の猛攻》でシールドをブレイク!」
 《大地の猛攻》は武器を構えて少女へと特攻をかけるが、
「発動、ニンジャ・ストライク4《斬隠テンサイ・ジャニット》。《大地の猛攻》を、手札に」
 次の瞬間、少女の手札から現れたクリーチャーが大波を発生させ、《大地の猛攻》を手札へと押し流してしまった。
「だったら! 《ゴンタ》でシールドをブレイク!」
「二回目、ニンジャ・ストライク4《斬隠テンサイ・ジャニット》。《無頼勇騎ゴンタ》を、手札に」
 続けて《ゴンタ》もシールドに殴り掛かったが、《テンサイ・ジャニット》の発生させる大波に飲まれて手札に戻ってしまう。
「うー……やんなっちゃうなー、もー……」
 これでこのみのバトルゾーンからクリーチャーがすべて消える。大量にクリーチャーを展開し、数で押すこのデッキではあるまじき事態だ。序盤に軽いクリーチャーをあまり引けなかったというのもあるが、一番の原因はやはりシノビ。
 少女のデッキはシノビ中心になっているのか、このみの攻撃をすべてニンジャ・ストライクで防ぎ、現在のシールドは五枚。ただ、場には《土隠妖精ユウナギ》と《土隠雲の超人》の二体しかいない。
「むー……ターンエンド」
「効果発動、《土隠妖精ユウナギ》の効果で、《斬隠テンサイ・ジャニット》一体を、マナゾーンに。もう一体は、デッキの一番、下に」
 《ユウナギ》はシノビが場を離れる時、そのシノビをマナに送る効果がある。また後で回収するつもりなのか、片方はデッキに戻し、もう片方をマナに送ってさらに加速する。
「交代、ドロー」
 少女はデッキからカードを引き、
「召喚、《魅了妖精チャミリア》そして、《薫風妖精コートニー》」
 二体のクリーチャーを召喚する。


魅了妖精チャミリア 自然文明 (4)
クリーチャー:スノーフェアリー 3000
このクリーチャーで攻撃する代わりに、タップして次のTT能力を使ってもよい。
TT—自分の山札を見る。その中からクリーチャーを1体選び、相手に見せてから自分の手札に加えてもよい。その後、山札をシャッフルする。


薫風妖精コートニー 自然文明 (2)
クリーチャー:スノーフェアリー 2000
自分のマナゾーンにあるカードを、すべての文明のカードとして扱う。


「あはっ、可愛いー!」
 実体化して現れたのは、どちらも小柄な体躯の少女の姿をしたクリーチャー。このみが場違いにも可愛いと言うのも頷ける容姿をしている。
「終了、ターンエンド」
「あれ? もう終わり?」
 何か仕掛けてくるのかと身構えていたこのみは、少々肩透かしを食らったがすぐに立ち直り、カードを引く。
「よーし、今度こそ攻めるよ! 《青銅の鎧》召喚! 効果でマナチャージして、進化! 《大地の猛攻》!」
 《青銅の鎧》でマナチャージし、そのまま《大地の猛攻》へと進化。さらに、
「《誕生の祈》と《ゴンタ》を召喚! 《大地の猛攻》でシールドをブレイク!」
 《大地の猛攻》は得物を大きく振りかぶり、少女のシールドを叩き割る。その破片が少女に降り注ぎ、マントのようなボロ布を切り裂く。
「……っ」
 少女の衣服は少し切れただけだったが、その様子にこのみは少し反応を見せる。だが、すぐに少女が次のターンを進め、言葉が紡げなかった。
「呪文、《エマージェンシー・タイフーン》デッキから、二枚、引く。手札、一枚を、捨てる。そして、召喚、《アクア・スーパーエメラル》。効果で、シールドと、手札を、入れ替える」
 手札とシールドの入れ替えを行い、少女は《チャミリア》に包帯の巻かれた小さな手を乗せる。そして、カードを横向きにした。
「発動、《魅了妖精チャミリア》の、タップ能力。デッキから、クリーチャーを一体、手札に。終了、ターンエンド」
(また攻撃しない……?)
 結局このターン、少女はシールドへの仕込みと手札を整理するだけで終えてしまった。
「うーん……ま、いっか。あたしのターン!」
 基本的にこのみは先の展開などを考えず、その場その場の直感で動く。ずっとそのようにしてきたため、相手が攻撃してこない程度では、警戒心を見せることすらほとんどない。
 そこが、このみの致命的な弱点だ。
「行くよ、《無頼勇騎ゴンタ》進化! 《大勇者「ふたつ牙」》!」
 《ゴンタ》の上にカードが重ねられ、《ゴンタ》は《大勇者「ふたつ牙」》へと進化する。
「《ふたつ牙》の効果でマナチャージ! そんで《爆裂B—BOY》を召喚! 《大地の猛攻》でシールドをブレイク!」
 《大地の猛攻》が三度棍棒状の武器を大上段に構え、少女のシールドへと振り下ろすが、
「発動、ニンジャ・ストライク4《斬隠テンサイ・ジャニット》」
「またぁー!?」
 思わず大声を出すこのみ。何度も《テンサイ・ジャニット》にクリーチャーを戻されてうんざりしているのだろうが、無情にも《大地の猛攻》は押し流される。
「あーもう、本当に面倒だよ、シノビは……でもでも、攻めるのは止めないよ! 《ふたつ牙》でW・ブレイク!」
 今度は《ふたつ牙》が飛びかかるようにシールドへと突っ込んでいく。しかし、
「《アクア・スーパーエメラル》で、ブロック。発動、ニンジャ・ストライク7《威牙の幻ハンゾウ》。《大勇者「ふたつ牙」》のパワーを、−6000」
 黒い煙を立てながら現れたのは、紫色の巨大な蛙《威牙の幻ハンゾウ》だ。《ハンゾウ》は長い舌を伸ばし、《ふたつ牙》に毒液を塗り込んでパワーを落とすが、《ふたつ牙》のパワーはまだ2000。破壊はされない。
 しかしその行く手には《アクア・スーパーエメラル》が待ち構えている。パワーを下げられた《ふたつ牙》では《アクア・スーパーエメラル》を倒せず、相打ちとなった。
「そんな、《ふたつ牙》が……」
 大型クリーチャーを小型ブロッカーに潰されてしまうこのみ。しかし彼女の闘志はまだ尽きない。
「いいよ、だったら《誕生の祈》でブレイク!」
 最後に《誕生の祈》が少女のシールドを割る。これで残りは三枚だ。
「……?」
 ふと、このみは何かを感じた。漠然とした、感覚的な何かを少女から感じた。
(なに、これ……あの子の手札から……?)
 視線を上げ、このみは少女を見つめる。少女はフードに顔を隠したまま、寡黙に佇んでいる。