二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.187 )
日時: 2013/10/20 03:13
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「はぁ、ふぅ……適当に走り回ってたら、こんなとこまで来ちまった……」
 零佑は彼自身が言うように、なんとなく敵を蹴散らしながら走っていると、気付けば体育館前にいた。
 体育館は時間指定で軽音部や吹奏楽部によるコンサート、演劇部やクラスの出し物で行う劇が行われる場所だ。
 零佑はふと思う。もしかしたら、体育館の中にイザナイがいるのではないかと。事実、ここに来る道中、体育館に近付くにつれてクリーチャーの数が多くなっていたような気がする。
 見ないよりは見る方がいいだろうと判断を下し、零佑は体育館へと入る。暗幕が降ろされ、窓は完全に締切。少し蒸し暑く、暗い空間がそこには広がっていた。
 床一面に敷かれたグリーンシート、大量に並べられたパイプ椅子など、客を迎える準備は万全だが肝心の客は一人もいない。当然だ、《アテナ》の神話空間が展開されている中、一般人が入り込む余地はない。
 だが、一般人でないものなら、そこにいた。
「む、誰だ」
「いやいや、それはこっちの台詞だっつーの」
 一度ツッコんでから、軽く息を吐いて零佑は問う。
「……お前がイザナイか?」
 緑色の髪、先端から稲妻のような光を発する金色の杖、白を基調とした神官のような出で立ち。とても普通の人間とは思えなかった。
 そして実際、その通りだ。
「ああ、私の名は日蓮。お前の言うように、イザナイの一人だ」
 意外とあっさり、日蓮は自らの正体を告げた。自分たちが思っている以上に、このクリーチャー達は自身の情報に無頓着なのだろうか。
 予想していたものと違う反応だったためか、零佑は「調子狂う……」とぼやきつつ頭を掻く。
 そんな零佑に対し、日蓮は、
「ふむ、見つかってしまったか。そうかそうか、ならば致し方あるまいな」
「あ? なんだよ」
 ジッと零佑を見つめる日蓮。穏やかでどこか凛々しさのあるその表情は、親しみを持てそうであるが敵であると認識した瞬間、底知れなくなる。
「なに、私たちはクリーチャーを出来る限り呼び出せと命令されているのだが、もし敵対勢力に見つかった場合は、その者を排除せよとも言われているのだ。この意味、分かるか?」
「……分かりやすくて万々歳だ。いいぜ、手っ取り早く済ませようや」
 刹那、二人の間の空気が一変した。



 零佑と日蓮のデュエル。かなり勇んでいた零佑だが、しばらくデュエルが進むと、その勢いは完全に削がれていた。
 零佑のシールドはまだ五枚あり、うち一枚には《海底鬼面城》が要塞化されている。場には《エンペラー・ティナ》《クゥリャン》《電磁封魔ロッキオ》と、順調にクリーチャーが並んでいるが、今はもう10ターンほど経とうとしている。
 しかも日蓮のシールドはまだ四枚。場には《王機聖者ミル・アーマ》に、《魔光騎聖ブラッディ・シャドウ》が二体いる。
(軽いブロッカーばっか並べやがって、うぜぇ……しかも《ブラッディ・シャドウ》かよ……)
 いつかのミウとのデュエルでも零佑は《ブラッディ・シャドウ》に苦しめられた。パワーが高く、G・ゼロでタダ出しされるため、除去をバウンスに頼った零佑にとっては厄介なことこの上ない。
 このターンでまだ一枚しかシールドを割れてないとなると、速攻デッキにとっては苦しくなってくる。
「私のターンだ。《ねじれる者ボーン・スライム》と、この私《神来のイザナイ 日蓮》を召喚!」


神来のイザナイ 日蓮 無色 (5)
クリーチャー:オラクル 4000
光臨—自分のターンの終わりに、このクリーチャーがタップされていれば、自分の山札を見る。その中からコスト7以下のゴッドを1体、バトルゾーンに出してもよい。その後、山札をシャッフルする。


「俺のターン」
 《海底鬼面城》の効果も合わせ、手札を整理しつつ追加でドローする零佑だが、あまり良い顔はしない。
(こんな時に限って除去カードは来ねぇし……光臨でゴッドを呼ばれるのも厄介だから、ここでバウンスしときたいんだが……仕方ねぇ、こいつの能力を使うか)
 溜息を吐きつつ手札からカードを抜き取る零佑。
「《ムゥリャン》召喚、即破壊して一枚ドロー」
 俗に炸裂サイクルと呼ばれるクリーチャー、《ムゥリャン》。零佑は2マナ2000というコストパフォーマンスに注目して、《ローズ・キャッスル》でも破壊されない2コストのサイバーとしてデッキに投入しているのだが、本来は召喚時に破壊することで効果を発揮するクリーチャーだ。
「それでも来ねぇし……《電磁封魔ルチアーノ》と二体目の《ロッキオ》を召喚、山札を操作。《ティナ》でシールドブレイク!」
「《ブラッディ・シャドウ》でブロック」
 バトルに負け、《ティナ》は破壊されるが、逆スレイヤーを持つ《ブラッディ・シャドウ》も一緒に破壊された。
「結局《日蓮》はどうしようもなかったか……ターンエンド」
「ならば私のターン、《ボーンおどり・チャージャー》で墓地とマナを増やし、《アカダシ》を召喚」


戦攻のイザナイ アカダシ 水文明 (5)
クリーチャー:オラクル/アースイーター 3000
光臨—自分のターンの終わりに、このクリーチャーがタップされていれば、自分の山札を見る。その中からコスト7以下のアースイーターを1体、バトルゾーンに出してもよい。その後、山札をシャッフルする。


「また出た……」
 《日蓮》に続くイザナイ《アカダシ》も現れ、項垂れる零佑。
「私でシールドをブレイク!」
 《日蓮》が杖を振るい、光弾を飛ばして《海底鬼面城》のシールドをブレイクする。ミウの時もそうだったが、結果的に零佑の《鬼面城》は相手を手助けしてしまっているように感じる。現に今の《日蓮》は手札が豊富だ。
「ターン終了する時に私の光臨発動! 山札から出でよ、信者を導く神聖にして新星なる夢幻の神! 《夢幻左神スクエア・プッシャー》!」


夢幻左神スクエア・プッシャー 無色 (6)
クリーチャー:ゴッド・ノヴァ 6000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、またはこのクリーチャーがゴッドとリンクした時、自分の山札の上から2枚を墓地に置いてもよい。
W・ブレイカー
左G・リンク
このクリーチャーがリンクしている時、このクリーチャーはシールドをさらに1枚ブレイクする。


 降臨したのは、人型の神だった。白いローブをまとい、青白く光る剣を握っている。
「《スクエア・プッシャー》の効果で、山札の上から二枚を墓地へ!」
「……は? それだけ?」
 拍子抜け、と言うように口を開く零佑。光臨やゴッド・ノヴァならこのみとオーロラのデュエルでも見たが、マナを増やしたりクリーチャーを除去したりと、かなり厄介な能力を持っていた。
 しかしこの《スクエア・プッシャー》が行うのは、墓地肥やし。決して無意味なわけではないが、どうしても他のゴッドと比べると地味で見劣りしてしまう。
「まあいいか……シールドを割ってくれたお陰で、やっと除去カードが来た。《ムゥリャン》召喚、そのまま《アストラル・ラッシュ》に進化!」


アストラル・ラッシュ 水文明 (4)
進化クリーチャー:サイバー・ウイルス 5000
進化−自分の「サイバー」と種族にあるクリーチャー1体の上に置く。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分のシールドが1枚もなければカードを3枚引き、1枚だけあれば2枚引き、2枚ちょうどあれば1枚引く。その後、バトルゾーンのクリーチャーを1体選び、持ち主の手札に戻してもよい。


「いくら効果が地味でも、パワーと打点があるのはまずい。ドローは出来ないが、《スクエア・プッシャー》をバウンス!」
 激流に押し流され、《スクエア・プッシャー》は《日蓮》の手札へと戻る。
「さらに! 《アストラル・ラッシュ》で《日蓮》を攻撃だ!」
 《日蓮》も破壊され、流れは少しずつ零佑の方へと向いていく。
「この際だ、殴れるだけ殴ってやる! 残るクリーチャーで総攻撃!」
 《クゥリャン》《ルチアーノ》《ロッキオ》二体、合計四体のクリーチャーが一気に攻撃を仕掛けるが、流石の日蓮もこの猛攻は防御せざるを得ない。
「《ボーン・スライム》で《ルチアーノ》を、《ブラッディ・シャドウ》で《ロッキオ》を、《ミル・アーマ》で《クゥリャン》をそれぞれブロック!」
 結局、通ったのは《ロッキオ》の一撃だけだが、これで日蓮の場は《アカダシ》と《ミル・アーマ》のみ。シールドは残り三枚だ。
(山札の残り枚数から考えて、そろそろ《マリベル》や《ラッシュ》が引けるはず……除去カードさえ来れば、この先もっと楽になるはずだ)
 頭の中で先の展開を組み立てる零佑。彼の考えは正しい、ブロッカーを除去しながら殴れるクリーチャーが来れば、それだけで戦況は零佑に傾くはずだ。
 だが、日蓮は表情を崩さない。そのどこか余裕を持った表情は、まだ何かを隠しているかのような、そんな不安を零佑に煽っていた。