二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.193 )
- 日時: 2013/10/27 20:44
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「ゆーくん! ゆーくんっ!」
「なんだよ? そんな大声出さなくっても聞こえるっての」
夕陽たちは二手に分かれ、イザナイを探しながら、イザナイの呼び出したクリーチャーを殲滅していた。
最初はその数の多さに辟易していた夕陽たちだが、倒すにつれ確実に数が減っていることを実感していた。それは夕陽たちの努力の賜物と言うより、夕陽たちがクリーチャーと戦っているうちに、他の者たちがイザナイを倒した結果だろう。
このみと共に行動していた夕陽はこのみから、彼女の携帯に届いたらしいメールの文面を伝えられる。
「クロさんと佑さん、汐ちゃんからメール! みんな、イザナイを倒したって!」
携帯を投げ渡される夕陽。差出人はクロ、零佑、汐の三人からで、クロは姫乃や仄の分の報告もしている。
「みんなやってくれたよ!」
「そうだな……ってことは、あとはこの雑魚共を蹴散らすだけか」
大きな懸念ごとが消え、より明るくなるこのみ。夕陽も胸のつかえが取れ、少しホッとする。
しかしイザナイを倒したとはいえ、イザナイがはなったクリーチャーはまだ残っている。それもすべて倒すのは時間の問題だろうが。
「よし、さっさと雑魚狩りを済ませるぞ」
「オッケー! あたしもがんばっちゃうよー!」
と、意気込む二人。その時だった。
二人の気合を吹き飛ばすかのように、激しい地揺れが起こる。
「っ……!」
「な、なになに!? 地震!?」
思わず膝をつく二人。しばらくして地揺れは収まったが、二人の動揺は収まらない。
「なんだったんだ、今の地震……なんか、嫌な感じがするけど……」
「……あ、電話だ。もしもーし?」
「いつでもどこでも能天気だな、お前は……」
緊張感なく携帯にかかってきた電話に出るこのみ。分かっていたことだが、最近になってますますその能天気さに磨きがかかっているような気がする。
「ゆーくん、トリッピーから電話」
「誰だよトリッピーって、どこの喋るオウムだ」
などと言いながら、どうせ聞いてもこのみから答えを引き出すより実際に声を聞く方が早いと判断し、夕陽は電話を受け取る。
「もしもし?」
『ヘイ、『昇天太陽』君。それとも空城君? 夕陽君? どれがいい?』
聞こえて来たのは、つい数時間前に聞いたばかりの女声。その独特の口調からも、誰かは特定できる。
「……このみ、お前この人のことトリッピーとか呼んでんのかよ。つーかいつの間に番号登録してんだよ……」
『んん? ホワット? どうかした?』
「いや、なにも……なんですか、ラトリ、さん」
電話の相手はラトリだった。このみとラトリ、波長は合いそうだが、本当にいつの間に番号を好感していたのだろうかと疑問が湧くが、ひとまず置いておく。
『べっつに「さん」と無理にコールしなくてもいいよ? 私はそんなスモールなこと気にしないから。それほより本題だけど、そこからグランドはルックできる?』
「グランド? まあ、見えますけど」
窓を覗けば、グランドなんてすぐに見える。ラトリの言うがままに、窓の外へと視線を向ける夕陽。そして、その目を見開いた。
「なっ……なんだ、あれ!?」
夕陽が見たものは、黒い何か。それも相当巨大だ。若干茶味がかっており、その表面はまるで樹木のようでもある。
そんな巨大な存在が、いつの間にかグランドのど真ん中に鎮座していた。
『私たちもナウ向かってるところだけど、たぶんそれ、クリーチャーだと思う。それもイザナイが呼び出したなんかじゃなくて、普通に実体化したクリーチャー』
「ってことは、まだカードをばら撒いている人間がいるってこと……?」
そう問い返した夕陽の言葉を、しかしラトリは即座に否定する。
『ノット、それは違うかな。クリーチャーの実体化っていうのは、そんなにイージーなことじゃないんだよ。ビッグなクリーチャーほど、最初の実体化にタイムがかかるもの。君だって、3マナの《コッコ・ルピア》を出すより、6マナの《ボルシャック・NEX》を出す方がスロウでしょ? つまりはそういうこと』
3マナのクリーチャーより6マナのクリーチャーの方が出すのが遅くなる。ラトリの例は分かりやすいが、口調が独特なので理解が遅れる。
それでも、夕陽には理解できる範疇だが。
「クリーチャーの実体化にかかる時間は、マナコストに比例する、ってことですか?」
『ザッツライト! ま、正確なタイムが分からないけど、ここまで実体化するためにタイムを要するってことは、相当ビッグなクリーチャーなんだろうね。たぶん、コスト10はオーバーしてるんじゃないかな……?』
コスト10以上のクリーチャーとなると、大型中の大型、その数や種類は限られてくる。しかし夕陽の頭の中でピックアップされていくクリーチャーはどれも強力で、彼の不安を煽る。
「とにかく、グランドに行けばいいんですね。すぐに向かいます」
『サンクス! じゃ、またアフター!』
と、よく分からない別れを告げ、ラトリは通話を切った。夕陽も携帯をこのみに返す。
「トリッピー、なんて?」
「お前とあの人の関係はまた後で聞くとして、グランドに行くぞ。事情はその途中で話す」
そもそも、このみが理解できるとは思っていないが。それに夕陽も、事情を説明出来るほどの情報がないので、どうしても不確定な話になるが。
ともあれ二人は階段を駆け降りて、校舎の外を目指していく。
「にしても、一体なんなんだこいつは……」
グランドに出て夕陽が真っ先に目撃したのは、巨大ななにか。表面は黒っぽく、樹木のような質感だ。
ちなみにここに来る道中、少数ながらも残っているクリーチャーに遭遇してしまい、今はこのみが相手をしているため、ここには夕陽だけグランドに来ている。
「ヘイ、こっちこっち、カムヒア!」
少し離れたところから、ラトリの声が聞こえる。どうやら一人のようだ。
「……黒村先生と、もう一人の人はどうしたんですか?」
「黒村君とミーシャちゃんなら、雑魚をハンティング中。それよりこれだけど」
と言ってラトリが指差すのは、グランドの中央に鎮座する巨大な何かだった。
「ビッグすぎて全体像がアンノウンだけど、たぶんこれ、《ヘラクレス》だよ」
「《ヘラクレス》……ガイア・コマンドの、ですか?」
コクリと頷くラトリ。ラトリはこの大型クリーチャーのコストは10を超えるだろうと予想していたが、見事的中していた。
「今のところはムーブする気配はナッシングだけど、いつバーサークするかも分かんないし、クイックで駆除しないと。と言うわけで、レッツゴー、空城君」
「は? 僕ですか!?」
さも当然とばかりに名指しされる夕陽だったが、しかしあまりにも自然すぎる流れだったため、抗議する。
「あなた、【ラボ】のトップなんでしょう? 僕なんかより、こういうのはよっぽど適任なんじゃ……」
「ノンノン、そんなことナッシング。むしろ私、デュエマのアームに関してはそんなにストロングじゃないんだよ。たぶん君とやったら私がのロスト。そこらの雑魚程度ならデストロイできるけど、たぶんこのクリーチャーはラスボスクラスだから、私のハンドに負えない。というわけで、ゴー」
「えー……」
「ほらほら、残りタイムもあと30ミニッツくらいだし、ファスト、ゴー」
いまいち釈然としないが、仕方なくデッキケースを取り出し、もぞもぞと動き始めた《ヘラクレス》の正面まで歩み寄る。
(近づいてみると物凄い迫力だな……)
しかし今はその迫力に気圧されている場合ではない。デッキケースから一束のデッキを取り出し、《ヘラクレス》と向かい合う。
刹那、夕陽と《ヘラクレス》の間の空気が、豹変した。