二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.207 )
- 日時: 2013/11/10 08:44
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
夕陽と《ヘラクレス》のデュエルは、夕陽の絶望的かつ危機的な状況となっていた。
夕陽のシールドとクリーチャーは共にゼロ。マナは14マナもあり、シールドブレイクで手札も増えたが、このターンで決めようとするとマナがあと一つ足りないように見える。
対する《ヘラクレス》の場には《神誕の大地ヘラクレス》《恵みの大地ババン・バン・バン》そして《双魔左神ディーヴォ》《双天右神クラフト・ヴェルク》とリンクした《イズモ》の三体。シールドは四枚もあり、うち一枚は《クラフト・ヴェルク》の能力で増やしたため、S・トリガーの可能性が高い。
そんな絶体絶命、敗北までもう一歩という状態の夕陽だが、しかしこの状況から逆転すると豪語してみせた。
その逆転劇の第一歩が、踏み出される。
「まずは《コッコ・ルピア》を召喚! これでドラゴン召喚のコストが2下がる」
まさか夕陽もこの局面で出すことになるとは思わなかったが、構わず続ける。
「さらにこいつがキーカードだ。《無双竜機ボルグレス・バーズ》を召喚!」
無双竜機ボルグレス・バーズ 火/自然文明 (7)
クリーチャー:アーマード・ドラゴン/アース・ドラゴン 8000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、ドラゴンを好きな数、自分のマナゾーンから手札に戻してもよい。
W・ブレイカー
「その能力でマナゾーンからドラゴンを回収。そして、回収したこいつを即召喚だ!」
ここまで8マナ消費し、最後に残った5マナを払い、さらなるドラゴンを呼び出す。
「殿堂の力、狩人の姿となって蘇れ! 《ボルバルザーク・エクス》!」
ボルバルザーク・エクス 火/自然文明 (7)
クリーチャー:アーマード・ドラゴン/アース・ドラゴン/ハンター 6000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分のマナゾーンにあるカードをすべてアンタップする。
スピードアタッカー
W・ブレイカー
現れたのは、かの凶悪なドラゴン《無双竜機ボルバルザーク》に酷似したクリーチャー。しかし、胸に刻まれた狩人の傷が相違点だ。
《無双竜機ボルバルザーク》が凶悪たる理由は、概ねエクストラターンを得られるところにある。《ボルバルザーク・エクス》はその力の一部を再現しているのだが、使い方によっては《無双竜機ボルバルザーク》よりも強力な力を発揮できる。
「《ボルバルザーク・エクス》の能力発動! マナをすべてアンタップ!」
すべてタップされていた13枚ものマナが、《ボルバルザーク・エクス》の咆哮で再び起き上がる。つまり、このターン夕陽はまた13マナ使うことができる。
「進化元もマナも十分、続けて《闘龍鬼ジャック・ライドウ》召喚! 効果で山札からこいつと同種族の進化クリーチャーを呼べる。来い、《アポロン》!」
山札から切り札を引っ張り出し、なおかつ場数も揃える。残るは10マナ。
「さらにスピードアタッカーの《無双竜機フォーエバー・メテオ》召喚!」
これで残り4マナ。夕陽の場には《コッコ・ルピア》《ボルグレス・バーズ》《ボルバルザーク・エクス》《ジャック・ライドウ》《フォーエバー・メテオ》と、1ターンで五体ものクリーチャーを展開して見せた。
そして、最後に《ジャック・ライドウ》で手札に加えたカードを抜き取る。
「《コッコ・ルピア》《ジャック・ライドウ》《ボルグレス・バーズ》の三体を、進化MV! 出て来い《太陽神話 サンライズ・アポロン》!」
ファイアー・バードを核とした、三体の火文明のクリーチャーの力を取り込み現れた『神話カード』、《太陽神話 サンライズ・アポロン》。
進化元のコスト合計は15、そのためCD能力もすべて発動する。
「一気に行くぞ! 《アポロン》で攻撃、その時CD12発動!」
《アポロン》は燃える翼を羽ばたかせ、空を翔ける。周囲に浮かんだ小型太陽は高速旋回しながら《アポロン》の両手に集まり、凝縮される。
「マナゾーンの《ギルピア》《トルネードシヴァ》《バルキリー・ラゴン》を墓地に送り、《アポロン》のパワーはプラス15000、さらにワールド・ブレイカーだ! 行け《アポロン》!」
一気に巨大化した太陽を両手で包み込み、《アポロン》は膨大な数の熱線を解き放つ。その破壊力、熱量は、正に太陽そのものだった。
『グオォォォ……!』
次々と割られていく《ヘラクレス》のシールド。ワールド・ブレイカーなのですべて吹き飛ばされる。しかし、最後の一枚だけはただ割られるだけではなかった。
『S・トリガー発動! 《ナチュラル・トラップ》で《フォーエバー・メテオ》をマナゾーンに!』
案の定、《クラフト・ヴェルク》でS・トリガーを仕込んでいたようだが、しかし一枚では足りない。
「残念だったな。《フォーエバー・メテオ》だけじゃなくて、《ボルバルザーク・エクス》もスピードアタッカーだ!」
もう守るものが何もない《ヘラクレス》へと、《ボルバルザーク・エクス》は翔ける。両手に燃え盛る剣を携えて。
「《ボルバルザーク・エクス》で、ダイレクトアタック!」
炎が尾を引く一閃が煌めく。
狩人の龍が振るった剣は、大地の化身を切り裂き、そして——消滅させたのだった。
「お?」
ヘラクレスと戦っていた神話空間が閉じると、夕陽の目に飛び込んできたのはラトリだった。最初はどういうわけか疑問符を浮かべていたが、すぐさま理解したようで、
「オゥ、ユーアーウィナー! イッツアビクトリー!」
「いや、言いたいことは分かりますが、日本語でお願いします」
発音が日本人っぽいので、外人被れ、似非英語に聞こえてしまう。
「オッケー。ま、なにはともあれサンキューだよ。空城夕陽君」
「はぁ……」
存外素直に礼を言われ、返答に困っていると、後方から聞き覚えのある声が届く。
「ゆーくーん!」
「所長!」
わざわざ目で確認するほどのことでもない。こちらに駆け寄ってきたのは、このみと黒村だった。
「あれ? なんかさっきまでいた黒くておっきいのがいなくなってる?」
「そいつなら僕が倒したよ。しかし、かなり危なかったな……」
「黒村君、もうクリーチャーはゼロ?」
「恐らく。校舎を見て回っていましたが、それらしいものは影も形もありませんでしたよ」
どうやら、もうクリーチャーはいないようだ。夕陽が倒したヘラクレスが本当に最後だったようで、これで万事解決だ。
「これで、終わったのか……平和な文化祭が戻ってくるんだな」
「メイド服じゃなければ格好良いセリフだったね」
「言わなきゃ誰も気づかないようなこと言うな、お前は!」
しかし問題が解決したのならばそれは確実に良いことだ。良いことなのだが——
「いやー、良かった良かった、グッドだよ。もう《アテナ》の残りタイムも1ミニッツカットしてるからさ、実はちょっとデンジャーなフィールだったんだよね」
「……は? 一分切った?」
その言葉を聞いて、思わず復唱してしまう夕陽。
——新たな問題が発生した場合、そうも言っていられない。
気づけば今まで展開されていた神話空間は少しずつ消えていき、元々文化祭が行われていた、活気ある校庭の様子が広がっていく。
「お、おい、これまずいんじゃないのか。確か僕ら、後半もシフト入ってたよな……」
「あー……そうだね。今からうちのクラス行っても、間に合わないかも」
「急がないとやばくないか」
「急がなくてもやばいよ。あれ? っていうかゆーくん、あんなに接客嫌がってたのに?」
「……そうだった、戻っても地獄なんだ。くそっ、どうすればいい……!?」
ヘラクレスに追い込まれた時以上に思考を巡らせる夕陽だが、その時以上に良い案が浮かばない。
「はぁ……生徒のことは放っておいて、俺は事後処理を済ませてきます。《アテナ》の能力があっても、一部では少々の問題があるかもしれませんし」
「オッケー、じゃ、そっちは頼んだよ」
「よーし、じゃあゆーくん! もうこうなったらできる分だけやっちゃうよ!」
「ああくそっ! とりあえずどこかに逃げ——ああでもどこに逃げれば!」
すたすたとどこかへ行ってしまう黒村、頭を抱える夕陽と、その腕を引っ張るこのみ。そしてその三人を、笑みと共に見つめるラトリ。
雀宮高校の文化祭も、もうすぐ終わりを告げようとしている——
その人物は、二年校舎の窓からグランドを見下ろしていた。
巨大な大地の化身と、小さな太陽の少年の戦いを、ジッと眺めていた。
「あの子が、今の《アポロン》の所有者……」
小さく呟く。そして、目を閉じる。
「私も、いつまでも引っこんではいられないかな……」
次に目を開いた時。そこには、今日という文化祭の景色が広がっていた。