二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.208 )
日時: 2013/11/10 10:23
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 雀宮高校の文化祭が終わって、一週間経とうとする頃。
 高校生というものは熱しやすく冷めやすいもので、あれだけ騒いでいた文化祭も、一週間も経ってしまえばすっかりその勢いはなく、今ではたまに話題に出る程度だ。
「んーじゃあたぶんもう連絡事項ないし、適当に終わっといて。解散解散」
 そしてこちらは、文化祭など関係なく適当かつ大雑把な勤務態度でホームルームを終える一年四組担任の白石。
 半年も通っていれば学校のことは大体分かってくるものだが、なぜこの教師が担任などという重要な役職に着いているのかは永遠の謎である。
 ともあれ、いくら怠惰であろうともホームルームが終わったことに違いはない。謎は解決しないが、この態度には慣れた一年四組の生徒は皆、放課後の活動に入る。部活に向かう者、すぐさま帰る者、教室に残る者、各々好き自由に放課後を謳歌する。
 そして、その中の1グループでは——
「おーわったー! あっそべー!」
「なんで命令形なんだよ」
「でも、帰るじゃなくて、遊ぶって言うところが、このみちゃんらしいよね」
 ——いつもの日常を謳歌していた。
 空城夕陽、春永このみ、光ヶ丘姫乃。一年四組では、もはやこの三人はセットになっていた。
 文化祭でかなりの大事に巻き込まれてしまった夕陽たちだが、しかし文化祭が終わってから一週間は、なにも起こらなかった。またいつ“ゲーム”にかかわることになるかは分からないが、今この時は、平和な時間を過ごしていられる。
 他二人は分からないが、少なくとも夕陽はそう思っている。良くも悪くも、一般的な範囲で平和主義者なのだ。
 しかし、その日常にはすぐに亀裂が入る。いや、亀裂が入るというのは些か大げさで、悪い方向に事態が転んだのかと言えば、そうでもない。
 ただ単純に、いつもの日常が、少しずれただけだ。
「空城」
 声をかけられる。ほぼ反射的にその方向を向くと、夕陽は焦るように顔をしかめた。
「む、武者小路……」
 武者小路仄、夕陽たちのクラスメイトだ。そして、夕陽が一方的に苦手意識を抱いている人物でもある。
(どうも取っつき難いんだよな、勝気だし、気ぃ強いし……)
 夕陽自身は気弱というわけでもないが、どうにも強く出られない相手だ。向こうはそれほど気にしているようにも見えないが。
「あ、仄っちだ。どしたの?」
「仄ちゃんから来るなんて珍しいね」
 対して、女子二人は気さくだった。このみは分かるが、姫乃も仄に対してはなかなか友好的で、特に文化祭が明けてからは妙に仲が良い。聞くところによると、夏休みからなにかあったらしいが、詳しくは聞いていない。
 話を本題に移すが、如何に姫乃と仲が好かろうと、仄はあまり夕陽らのグループには入ってこない。なので、向こうからこちらに近づいてくることは確かに珍しいことだ。なんの用なのか。
「別に私は用はないけど」
 と言って、親指を教室の入口へと向ける。そちらに視線を向けると、人影らしきものが見える。扉と柱で、姿までは確認できないが。
「二年の先輩が呼んでる」
「二年の先輩? 誰だろ、流か潮原先輩くらいしか思いつかないけど……」
 というより、他学年の知り合いなんてそのくらいしかいない。
「とにかく伝えたから。それじゃ、私はこれで」
「ばいばーい」
「またね、仄ちゃん」
 言うことだけ言うと、後は素っ気なく手を振って帰ってしまった仄。もしかしたら自分は嫌われているのではないかと思った夕陽だが、その場合は自分に非があるような気がしてならない。杞憂な気もするが。
「うーん、先輩か。でも、あの二人だったら普通に教室覗いて名指しくらいのことはするよな。わざわざクラスメイトに言伝を頼むような人たちじゃなさそうだけど」
 しかしそんなことを言ってもなんにもならない。とりあえず夕陽は、このみと姫乃を置いて、教室から出る。
 すると、誰もいなかった。いや、廊下を行き交う生徒はいるので正確には誰もいないということはないが、自分に用がありそうな人物は、視界に入って来なかった。
「あれ? 誰もいない……?」
「あ、こっち。です」
「へ?」
 声がした方を見遣る。するとそこには、確かに二年生の生徒がいた。だが、流でも零祐でもない。というか、女子生徒だった。
 夕陽がその生徒から受けた第一印象は、“普通”だった。
 まず体格。身長はこのみたちのように極端に低いわけではなく、亜実のように長身というわけでもない。夕陽より頭一つ小さいくらいで、女子高校生の平均身長くらいの背丈。体つきも、細すぎず太すぎず、特徴を捉えられないくらい普通の日本人体型だ。
 次に出で立ち。学校なので制服を着ているのは当然だが、改造がなければ着崩している様子もない。かといって完全完璧にきっちりしているわけでもなく、一般生徒が普通の着こなしをしている感じだ。髪型もちょっと外に出ればいくらでも見つかるような少し長めのセミショートの黒髪。それも真っ黒というわけではなく、ほんの少しだけ茶味がかった黒髪で、そこがさらに普遍性を助長している。
 その容姿は、総合的に見て印象に残りにくいものだ。夕陽がぼんやりと抱く“普通の女子高生”のイメージと酷似しており、背景と同化するかのように、記憶しにくい。特に夕陽は、極端に小柄で非現実的な容姿のこのみなどと長く一緒にいるため、よりいっそうその普遍さを見つけにくい。さっき教室を出た時に見落としたのも、その普通の容姿ゆえかもしれない。
「えっと、君が空城君?」
「あ、はい、そうですけど……えーっと」
「私は朝比奈ひまり。あ、学年は二年だよ、一組」
 少々たどたどしいが、お互いが初対面であることを考えれば、その挙動は普通に感じられる。
「えー、朝比奈先輩? 僕に、なんの用でしょうか? 僕は記憶力に絶対の自信があるわけじゃないんですが、たぶん今までに会ったことないと思うんですけど……」
う、うん。初対面のはずだよ」
 じゃあなんで僕のことを知ってるんだ、と反射的に言いそうなったのを堪え、その言葉をどうオブラートに包もうかと考えているうちに、相手——ひまりの方から本題に入った。
「ちょっと、君とお話したいことがあって……でも、ここで話すのもあれだし、したいこともあるから、向こうの校舎に行こう」
 ひまりが指差したのは、実験室などの特別教室の他、いまいち用途の分からない講義室なる、端的に言えばこの時間は空いている教室がある校舎だ。
 知らない人物の登場から、この話の流れに戸惑っていると、ひまりが少し不安げにこちらの顔を覗き込む。
「もしかして、今日用事とかあったりしたかな……?」
「あ、いえ、特になにもないですよ。大丈夫です」
「そっか、良かった。下校時間になる前に終わらせないといけないし、早く行こうか。良かったら、そっちの子たちも一緒に来る?」
「は?」
 ひまりの不可解な発言に、素っ頓狂な声を上げて振り向くと、そこにはこのみと姫乃がいた。しかもしっかりと聞き耳立てている。
「お前ら……」
「だってゆーくんがいつまでたっても戻ってこないんだもん。あたしたち待ちくたびれちゃったよ」
「ご、ごめんね、空城くん。でも、ちょっとだけ気になっちゃって……」
 どちらもそれらしい言い訳を盾にする二人だったが、しかし別段聞かれて困る会話をしていたわけでもないので(そもそも戸惑いすぎてまともな会話だったとも思えない)この件は不問にした。
「じゃ、行こっか」
 そして夕陽、このみ、姫乃の三人は、ひまりに連れられて、別の校舎へと向かっていく。