二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.212 )
- 日時: 2013/11/16 02:31
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「ここでいいかな」
と言ってひまりが入ったのは、名もなき空き教室。いや、実際は名前があるはずなのだが、教室の入口にぶら下がっているプレートの文字が掠れて読めないため、なんの教室なのかわからない。少なくとも、名前が不明でも困らないくらい必要性の薄い教室なのだろう。
「……で、朝比奈先輩。その、話って——」
「その前に」
鞄をがさごそと漁りながら、ひまりは夕陽の声を遮る。
「これは二組の、えーっと……潮原君と水瀬君、だったかな? に聞いたんだけど、空城君ってデュエマ強いらしいね」
「え? まあ、その、強いかどうかはともかく、よくやりますけど……」
あまりに唐突に言われたので、また戸惑ってしまう夕陽。なぜそこでそのワードが出てくるのかと疑問を覚える。そもそもこの先輩の目的はなんなのだろうか。
そう思っても相手が親しい相手でないとなかなか口に出せないのが、夕陽の短所だった。対するひまりは、最初からそれを想定していたかのように、はきはき続ける。
「実は私もやるんだ、デュエマ。でもあんまり相手とかいなくて……だからさ、ちょっとだけ、一回だけでいいから、相手してくれないかな? お願い」
デッキケースを取り出し、両手を合わせて懇願するひまり。やはり困惑する夕陽だが、しかしそこまで要望されれば、突っぱねるわけにもいかない。
「……分かりました。じゃあ、一回だけ」
「本当? ありがとう!」
嬉しそうに笑うひまり。その笑みも、普通の女子高生らしい。
夕陽は片時も肌身離さずポケットに仕舞い込んでいるデッキケースを取り出す。そして適当に机を並べ、即席デュエマ・テーブルの完成。
「よし、それじゃあ始めようか」
「はい、お願いします」
両者シールドを並べ、手札を五枚引き、準備を整える。
そして、デュエルがスタートした。
現在、先攻夕陽の7ターン目。
お互いにシールドは五枚。夕陽の場には《コッコ・ルピア》が一体いるだけ。そしてひまりの場には、こちらも《コッコ・ルピア》が一体。
「見たところ、あの……朝比奈先輩? のデッキは、空城君と同じ感じっぽいね」
マナゾーンを見るからに、ひまりのデッキは夕陽と同じような連ドラっぽい。デッキカラーも同じ、マナゾーンには重いドラゴンが置かれている。
「僕のターン。《ボルシャック・NEX》を召喚です」
《コッコ・ルピア》から6マナのドラゴンに繋げるのは、火を含むドラゴンメインのデッキでは王道中の王道パターン。そして夕陽が最も好む6マナドラゴンは、この《ボルシャック・NEX》だ。
(《コッコ・ルピア》から繋げれば、一気にクリーチャーが三体になる。当然今は入れてないけど、《アポロン》の進化元を一気に揃えられるしね)
勿論、用途は進化元だけではない。夕陽はデッキから追加の《ルピア》を呼び出し、サポート体制を整える。
「デッキから呼ぶのは二体目の《コッコ・ルピア》です。これで僕のドラゴン召喚コストは4下がる。ターンエンド」
「じゃあ、私のターン。私も《ボルシャック・NEX》を召喚」
ここでひまりが呼び出したのは、夕陽と同じ《ボルシャック・NEX》だった。
ひまりのデッキは夕陽とほぼ同じ。しかし先攻を夕陽に取られてしまっているので、同じ動きをしてもひまりが不利だ。しかし、
「私がデッキから呼び出すのは、このクリーチャーだよ。《マッハ・ルピア》!」
マッハ・ルピア 火文明 (4)
クリーチャー:ファイアー・バード 2000
自分の、名前に《NEX》とあるクリーチャーを召喚するコストを1少なくしてもよい。ただし、コストは1より少なくならない。
バトルゾーンにある自分のアーマード・ドラゴンはすべて「スピードアタッカー」を得る。
自分のターンの終わりに、このターンにバトルゾーンに出した自分の進化ではないアーマード・ドラゴンをすべて手札に戻す。
ひまりが呼び出したのは《コッコ・ルピア》ではなく、《マッハ・ルピア》だった。
「ゆーくんはいつも《コッコ・ルピア》を出してるけど、あの人は違うの?」
「みたいだね……」
ここに来てやっと夕陽と違う動きを見せ始めたひまり。そして、違うのは動きだけでなく、スピードも変わっていく。
「じゃあ、《マッハ・ルピア》の効果でスピードアタッカーになった《ボルシャック・NEX》でWブレイクだよ」
「うっ、S・トリガーは……ありません」
「ならターンエンド。そして、《マッハ・ルピア》の効果で《NEX》を手札に戻すね」
早速二枚のシールドを割られてしまった夕陽。先手は取られたが、しかし代わりに手札が増えた。
「これなら……悪いですけど、このターンに決めさせてもらいますよ。僕のターン、まずは《偽りの名 バルキリー・ラゴン》を召喚」
二体の《コッコ・ルピア》でコストが4も軽減されているので、7マナのドラゴンは僅か3マナで召喚できてしまう。
「能力でデッキから《爆竜GENJI・XX》をサーチ。そして残った2マナで、そのまま《GENJI》を召喚!」
「わ……これって」
コスト軽減から一気にドラゴンを展開する夕陽。しかも《GENJI》はスピードアタッカー。つまりこの時点で夕陽は、ダイレクトアタックまで行くほどの打点を揃えている。
「まずは《NEX》でシールドをWブレイク! 続けて《GENJI》でもWブレイク!」
「うぅ、S・トリガー、出ない……」
手札に加わったシールドを見て、少し焦ったような素振りを見せるひまり。残るシールドは一枚だけとなり、敗北の未来が見えてきている。
「よし、なら《コッコ・ルピア》で最後のシールドをブレイクだ!」
残ったシールドを突き破る《コッコ・ルピア》。これでひまりのシールドはゼロ、後はもう一体の《コッコ・ルピア》でとどめを刺すだけだ。
1ターンで相手のシールドをすべて割り、とどめまで行く、いわゆるワンショットキルは、上手くはまれば夕陽のデッキでもよくあることだ。
しかし上手くはまったからと言って、それが必ず勝利に繋がるとは限らない。
「っ、き、来たっ! S・トリガー発動! 《スーパー炎獄スクラッパー》!」
「な……っ」
「《コッコ・ルピア》二体を破壊だよ!」
残ったアタッカーを潰され、とどめを刺せない夕陽。そしてひまりはデュエマにおける最大の逆転要素、S・トリガーによって九死に一生を得た。
「私のターン。このターンで決めるよ、《コッコ・ルピア》と《マッハ・ルピア》でコストを3下げた《ボルシャック・NEX》を召喚!」
この時点でひまりは四打点、つまり夕陽の三枚のシールドを割り、とどめまで行けるが、
「念のためにもっとクリーチャーを並べておこうかな。《ボルシャック・NEX》の効果でデッキから《コッコ・ルピア》をバトルゾーンに。そしてコストを4下げて、2マナで《爆竜GENJI・XX》を召喚!」
夕陽と同じように、コスト軽減からドラゴンを並べるひまり。だが夕陽のシールドは三枚まで減らされている。S・トリガーの期待値は前のターンのひまりより低い。
「行くよ。《マッハ・ルピア》でシールドをブレイク!」
まず《マッハ・ルピア》が特攻し、シールドを一枚割られる。S・トリガーは出ない。
「次に《NEX》でWブレイク!」
これで夕陽のシールドもゼロ。しかし、ひまりがそうであったように、夕陽にもまた、奇跡の要素が味方する。
「っ、S・トリガー! 《スーパー炎獄スクラッパー》で、二体の《コッコ・ルピア》と《マッハ・ルピア》を破壊!」
ひまりの場に残っている小型アタッカーを殲滅する夕陽。これでひまりのドラゴンはスピードアタッカー失い、攻撃可能な《コッコ・ルピア》を消えた。
が、しかし、ひよりの場に残っているドラゴンは、元々スピードアタッカーを持つ《GENJI》だ。
シールドゼロの夕陽には、最後の攻撃を防ぐ術がない。
「《GENJI・XX》で、ダイレクトアタック!」