二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.213 )
- 日時: 2013/11/16 08:22
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
夕陽の負けで終わったひまりとのデュエルだが、しかし話はこれで終わったりしない。そもそもまだ始まってすらいない。
「……で、先輩。話ってなんですか? まさか僕とデュエマするためだけに呼び出した、なんてことはないですよね?」
「ん、うーん……本当はデュエマをして話しやすい空気を作ろうと思ったんだけど、逆に言いづらくなっちゃったな……」
カードを片付けながら、弱ったように言うひまり。しかしやがて、決心したように、
「……じゃあ、単刀直入に言うね。私は“ゲーム”の参加者でした」
「はい……はい!?」
一瞬、言葉の意味が理解できなかった。しかし次の一瞬で理解する。見れば、姫乃と流石にこのみも驚愕していた。
「え、え、それって、どういう……」
「どうもこうもないよ、そのまんまの意味」
ひまりが“ゲーム”参加者。ありえないという話ではないが、いきなり言われると驚く。その言葉を理解し、自身の中に落ち着けるまでは、それなりの時間を要した。
「って、ことは、僕の《アポロン》を狙って……?」
「うーん、ある意味ではそうなんだけど、そうでなくてもいいというか……言うのが後になっちゃったけど、私はどこかの組織に属しているわけじゃないし、君たちと敵対するつもりもないよ。ただ、そろそろ戻らなきゃいけないかな、って思ったの」
「戻る?」
それこそ意味が分からなかったが、ひまりは続けて説明する。
「うん、さっき言ったけど、私は“ゲーム”の参加者“だった”の。過去形だね」
「ということは、今は参加していない……?」
「より正確に言うなら、今の今まで参加していなかった、今からまた舞い戻るつもりだけど。そこで、私はきっかけを求めに来たんだ」
「きっかけ?」
夕陽が復唱すると、ひまりが頷き、
「そう、きっかけ。私が“ゲーム”に参加したきっかけ、一時的とはいえ“ゲーム”から降りたきっかけ、そしてまた復帰するためのきっかけ。それが君だよ、『昇天太陽』——空城夕陽君」
異名も含め名指しで言われ、指差される夕陽。彼女の普通だが真剣な面持ちに、思わず気圧されそうになる。
「君の持っている《アポロン》が、私のきっかけなんだ」
「え、ちょ、ちょっと待ってください。それってつまり、というかまさか、この、《アポロン》のカードって——」
いつか、黒村が言っていた。《アポロン》はまだ、真に夕陽のものではないと。権利自体はまだ、元の持ち主にあると。
つまり、それが、
「——うん。私が、《アポロン》の所有者だよ」
この事実も、夕陽にとっては衝撃だった。このみも姫乃も驚いているが、それ以上に驚愕しているのは夕陽だ。
今まで幾度と危機を乗り越えてきた《アポロン》の、元の所有者、そして真の所有者が、ここにいる。
「一時は舞台から降りた私だけど、このままじゃいけない。正式な『神話カード』の所有者として、また“ゲーム”の舞台に上がらなきゃいけない、はず。だから空城君、お願い」
それは強い懇願だった。彼女が言葉を発した一瞬、途方もないほどの強き意志のようなものが、夕陽の身体を突き抜ける。
「《アポロン》を、返して欲しいの」
その時、教室は静寂に包まれる。驚愕の連続で、夕陽は声を上げることもできない。
その沈黙をどう受け取ったのか、ひまりは続ける。
「勿論、君がそれを拒むのなら強制はしないよ。むしろ、今すぐにでも権利を委譲してもいい。でも、私だって良心とプライドはある。そのカードを手放したせいで、君を、君たちを“ゲーム”に巻き込んじゃった。それを許してもらえるとは思ってないけど、せめて償わせて欲しいの。私の自己満足でも、それが私の責任だから……」
確かな意志が感じられる言葉。しかし最後の方は、弱々しい声だった。
夕陽は考える。目の前の少女がなにを思っていたか。《アポロン》を手放したことや、“ゲーム”の世界で戦ってきたこと、自分たちとこうして相対していること。
本音を言うと、夕陽は《アポロン》を手放したくない。『神話カード』としての価値などはどうでもいいが、《アポロン》は何度も窮地を乗り越えてきた仲だ、今や夕陽のデッキにとっては欠かせないカードと言ってもいいだろう。だから、渡したくはない。権利を委譲してくれるというのなら、喜んで受け取る。
しかし、それは夕陽の考えであり、夕陽の思い入れ、夕陽の思い出だ。逆に、ひまりと《アポロン》について考える。
ひまりがいつから“ゲーム”に関わっているのかは知らないが、ブランクがあることを差し引いても恐らく夕陽たちよりも長いだろう。ならばそれだけ、夕陽よりも長い間、《アポロン》と共にあったに違いない。
《アポロン》と積み上げた記憶は、夕陽よりもひまりの方が長く、濃密なものであることは、想像に難くない。ひまりの《アポロン》に対する真摯で誠実な思いも、彼女の眼を見れば伝わってくる。
だからなのか、夕陽はデッキケースに残した一枚のカードをスッと引き抜く。
「分かりました」
そして、ゆっくりと、彼女に差し出す。
「——返します、《アポロン》を」
「——ありがとう」
彼女は、それを優しく受け取る。
こうして、《太陽神話 サンライズ・アポロン》は、正式な所有者へと還ったのだった。