二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.214 )
- 日時: 2013/11/20 21:23
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
それは、ひまりに《アポロン》を返還した翌日だった。このみが小テストの追試に引っ掛かり、姫乃が『popple』のバイトのため、一人で下校している時、十字路を曲がると反対側の歩道から急に声をかけられた。
「おい、空城」
「? お、亜実。久しぶり」
「馴れ馴れしく人を名前で呼ぶな」
声の方へと目を向けると、そこにいたのは腕組みしてブロック塀に背中を預けている長身の女、『炎上孤軍』こと火野亜実だった。
「前々から思ってたんだけど、亜実っていつも女っ気ない恰好してるよな。経済的に厳しい光ヶ丘だってファッションには気遣ってるっていうのに」
「うるさい黙れ! お前にファッションセンスを指摘される覚えなんざねぇよ!」
無地のTシャツに黒いジャケット、ジーンズという男物かと間違えそうになる服装を指摘したら、案の定亜実は物凄い剣幕で怒鳴る。予想通りというか、この反応を期待していた夕陽としては、恐ろしくもなんともない。むしろ楽しい。
「好きで選んでるんだ、外野がぐちぐち言うな。んなことより、お前に言うことがある」
「言うこと? なに?」
「【師団】が動き出した」
単刀直入に言い放つ亜実。その言葉に、夕陽も気を引き締める。
【神聖帝国師団】。『神話カード』の力を利用し、政界制服を企んでいるらしい組織だ。夕陽は直接的に【師団】と接触したことはないが、このみは既に二回、【師団】のデュエリストと戦っており、ラトリや黒村の見立てでは、文化祭の騒動は【師団】が絡んでいるらしい。
「正確には、近々【師団】のトップが日本に渡ってくるらしい、だな」
「え? 日本に渡るって、【師団】の本部って、海外にあるの?」
「当たり前だろ。お前たちが暴れるせいで、最近は日本でのいざこざが多くなっているが、元来“ゲーム”はグローバルな戦争だ。大抵の組織は、海外に根城を構えている。こんな東の辺境地に来る奴も、そう多くないしな」
「へぇ……にしても、【師団】のトップって、つまりはボスか? それが日本に来るって、やばいんじゃないのか? どうしてわざわざ」
夕陽がそう言うと、亜実は呆れたようにため息をついた。
「馬鹿かお前、文化祭の一件とこの情報を繋いでみろ。和登の野郎じゃねぇが、少しは推理しろ。どう考えてもお前と《アポロン》、もしくは奪い返し損ねた『萌芽繚乱』の《プロセルピナ》が目的だろ」
「あ、そうか……でも、その情報は本当なのか? 来るんなら、もっと早く来てそうなものだけど」
「確かにタイミングは気になるが、情報は確かだ。あたしの知り合いの情報屋が言ってたことだからな。あいつの人間性は信用ならないが、情報自体は正確だ。ここであたしに嘘をつく理由もないしな。情報は、信用できる」
情報は、という言葉を強調する亜実。その情報屋自体は信用できないと言っているようだが、そこはあえてスルー。真偽を確かめる術のない夕陽は、とりあえずその情報を信じることにした。
「……あ、でも僕はもう《アポロン》を持ってないから、狙われるのは僕自身じゃないのか」
「なんだと?」
亜実の目が一気に鋭くなる。そして彼女の声には、確実に怒気が含まれていた。
「お前、まさか負けたのか? ここ最近、腕の立つデュエリストが動いたという情報はない。その辺の無名参加者に負けて、みすみす《アポロン》を手放したのか? あぁ?」
「い、いや違うって。そうじゃなくて、元の持ち主に返したんだよ」
夕陽が焦って言い返すと、今度は驚いたように目を見開き、
「元の持ち主……? お前『太陽一閃』と接触したのか?」
「う、うん? 『太陽一閃』? それって、朝比奈先輩のこと?」
「そうだ」
神妙な面持ちで頷く亜実。すると彼女は、今度はその『太陽一閃』について語り始める。
「お前と初めて接触したとき、あたしは《アポロン》のカードを狙っていた。だがそのために追っていた相手はお前ではなく、『太陽一閃』だ。奴が隙を見せるのを窺っていたが、その途中で奴はお前に《アポロン》を託したようだな」
「託したっていうが、郵便受けに入ってたんだけどな……」
今思えば、『神話カード』が郵便受けに入っているなど相当な不自然だ。
「話を戻すが、つまりお前は『太陽一閃』に《アポロン》を返還したってことだな?」
「まあそういうことだな。あ、でもそのことについてとやかく言われるいわれはないからな」
「その点に関してはなにも言わねぇよ。ともかく、そろそろ【師団】が来るはずだ。いくらもう『神話カード』を持ってないと言っても、狙われる可能性が皆無ということはない。精々死なないように気をつけろ」
ぶっきらぼうに言い放つ亜実。
「死って……大袈裟だなぁ。ま、でも、心配してくれてありがとうな」
「っ、そんなつもりはない。ただ、【師団】の連中が来たらあたしにも連絡しろと言ってんだ。【師団】は【神格社界】に次ぐ規模の組織、強さでいえば“ゲーム”でもトップクラスだ。そこにあたしが入らない理由はないからな」
ぐちぐちとなにか言っているが、とりあえず夕陽はそれらを無視し、自分の都合のいいように解釈する。
その後も亜実との押し問答が続き、やがて亜実から逃げるように去って行った。
ひまりに《アポロン》を返還してから、夕陽たちとひまりの親交は深まっていった。
元々気さくな性格なのか、まず馴れ馴れしいほどフレンドリーなこのみと意気投合し、続けて姫乃とも早くに打ち解けた。
そしてこの日、日曜日。夕陽とこのみ、姫乃は、ひまりを連れて『御舟屋』を訪れていた。
「《ボルシャック・NEX》でWブレイク! そして《マッハ・ルピア》でダイレクトアタックだよ!」
「うー……また負けたぁー……」
ひまりに連敗し、涙目のこのみ。その傍らで、夕陽は汐と話していた。
「と、いうわけだ」
「……成程、です」
会話の内容は、ひまりのことだ。まだ夕陽たちにも分からないことは多いが、ひまりは“ゲーム”の参加者で、しばらく“ゲーム”離れていたが、夕陽の《アポロン》返還を契機に復帰した、ということははっきりしている。
大まかなことは以前から話していたが、休日なので時間があるこの日、ひまりと汐の顔合わせも兼ねて、夕陽はちゃんと状況を説明しに来た、というわけだ。
「大体理解はできたです。けれど、少し気になるとこもあるですけど」
「気になるとこ?」
「はいです」
いつものように表情を変えず、汐は語る。
「まず、なぜ朝比奈先輩は“ゲーム”を降りたのか。そして、なぜ今になって、また戻ってこようとしたのか。この二点が、特に気になるところですね」
「うーん……言われてみれば。でも、どうだろう、一つ目は、“ゲーム”が嫌になったとかで、二つ目は責任感とか、そんな感じの理由は付けられそうだけど」
「しかし、この二つを繋げると、そうもいかないのです。“ゲーム”に嫌気が差したのなら戻らなければいいですし、“ゲーム”なんて危険な世界に戻ろうとする責任感があるのなら、そもそも“ゲーム”から降りたりはしないはずです」
「そんなもんかなぁ……」
意外と人間そんなものじゃないかと思うが、汐がそう言うのならそうなのかもしれない。
などとひまり本人に聞こえないよう小声で話していると、当の本人が呼びかけてくる。
「ねぇ、えっと……汐ちゃん、だっけ?」
「はい、なんでしょう。朝比奈さん」
「ひまりでいいよ。このみちゃんから聞いたんだけど、汐ちゃんデュエマ強いんだってね。私とデュエルしない?」
「……いいですよ」
しかし汐としても、謎こそあれどひまりに敵対心があるわけではないようだ。心なし弾む手つきでデッキを取り出し、シャッフルを始める。
その時だ。
「よぅ主人公」
「うわっ!? 澪さん?」
いつの間にか背後に、澪が立っていた。
「いつもいつも思うが、今日も女に囲まれてるな。しかも今日は新しい女連れか。俺は、お前は年下にしか興味のない奴だと思っていたが、ちゃんと年上趣味もあったんだな。なら次は同年代か、頑張れよ」
「変な言い方しないでください、人をロリコンみたいに言わないでください、人の嗜好を語らないでください、変なチャレンジを促さないでくさい!」
「随分一気に言ったな」
肺の中の空気をすべて吐き出す勢いで言い放つが、澪は気圧されもしなければ眉すら動かさない。
「というか、このみと光ヶ丘は同学年ですよ」
「ちび助もちびっ子も、とてもお前と同年代には見えん。俺の妹ならともかくな」
確かに、このみと姫乃は見た目通りの幼さがあるが、逆に汐は見た目と反する落ち着きがある。その点だけは同意できる。
「まあしかし、汐も見た目以上に大人びている、ってわけでもないが……まあこの話は今は止めておくか」
「そんなことより澪さん、なにしに来たんですか? 僕らがいる時は、カウンターは御舟に任せるんじゃなかったんですか?」
「ん? そうだ、忘れてた。おい汐」
カウンターから汐を呼ぶ澪。汐は手にしたカードを横に倒してから、振り向く。
「《悪魔神ドルバロム》でダイレクトアタックです……なんですか、兄さん」
「うわぁ、本当に強い……まさか自然を絡めないで、チャージャー呪文連打から《ドルバロム》を出すとは思わなかった……」
どうやらこのデュエルは汐が勝ったらしい。汐は手早くカードを片付けてデッキケースに収め、ケースをテーブルに置くと、澪の元へと来る。
「なんですか、兄さん」
「ちょうど今、お前が発注したのが届いたんだ。俺じゃ分からないから、お前が整理しといてくれ」
「了解です。すみません先輩方、少し席を外すですよ」
と言い残して、汐は店の奥の扉から出て行ってしまった。
「……御舟って、商品の発注とかしてたんですか?」
「普通なら俺がするんだがな。最近は消費者のニーズの移り変わりも激しいし、この店に並べる商品の一割くらいはあいつに任せてる。あいつは一番消費者から近い位置にいるからな、ニーズとかもよく分かってる」
要するに、店の売り上げを伸ばすため、現役でデュエマをやっていて今流行のカードに敏感な汐に商品発注の一部を任せている、ということらしかった。
「それにあいつ、この店継ぐつもりでいるみたいだしな。妙に俺の仕事を手伝いたがる」
「え? そうなんですか?」
「ああ。こんな店継いでもどうにもならないってのにな。ま、やりたければ止めはしないが」
「へぇ……あれ? 先輩、どこ行くんですか?」
このみと姫乃がデュエルしている傍ら、店から出て行こうとするひまり。鞄は店内に置いてあるので、帰るというわけではなさそうだが。
「うん、ちょっとね。すぐ戻るよ」
と言って、ひまりはそそくさと店から出て行ってしまった。
「? なんだろ……」
「……なんか、妙な奴だな」
「まあ、僕らもあの人に関しては、分からないことも多いですしね」