二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.219 )
- 日時: 2013/12/21 09:49
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
ここは雀宮高校二年校舎にある教室の一つ。扉の前のプレートには、『2—2』の書かれている。
時間帯的にはもうほとんどの生徒は帰宅しているが、しかし教室の中には二人だけ生徒が残っていた。
二人とも男子生徒だ。そして二人は、二つほど机をくっつけ、向かい合っている。そして——
「行くぜ俺のターン! 《サイバー・A・アイアンズ》を召喚! 効果で五枚ドロー!」
——デュエマをしていた。
サイバー・A・アイアンズ 水文明 (9)
クリーチャー:サイバー・コマンド 12000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、カードを5枚まで引いてもよい。
自分の他の水のクリーチャーをバトルゾーンに出した時、そのターン、このクリーチャーはブロックされない。
T・ブレイカー
しかも戦っているのは零佑と流。誰もいない教室で何をやっているんだと言いたいだろうが、この二人はわりと日常的に、こうして二人でデュエルしている。いわば日課のようなものだ。
「さらに《パラダイス・アロマ》と《クゥリャン》でシールドブレイク!」
「くっ……! 残るシールドは二枚か……」
呻く流。零佑の場には三体のクリーチャーが並んでいるのに対し、流れの場には《宿命のディスティニー・リュウセイ》が一体のみ。シールドも三枚の差がついている。
「俺のターン……これでやっと10マナか。呪文《戦慄のプレリュード》で、コストを5軽くし、《超絶奇跡 鬼羅丸》を召喚。ガチンコ・ジャッジ三連戦だ」
「いいぜ、受けて立つ! ガチンコ・ジャッジ!」
一戦目、流が捲ったのはコスト7《真実の名 リアーナ・グローリー》、零佑はコスト4《ブレイン・チャージャー》。
「一戦目は俺の勝ちだ。《リアーナ・グローリー》をバトルゾーンへ。そして二戦目だ」
二戦目、流はコスト2《霞み妖精ジャスミン》、零佑はコスト5《コーライル》。
「二戦目は俺の勝ちだ。残念だったな」
「……たまたまコストの低いカードが捲れただけだ。三戦目」
三戦目、流はコスト8《偽りの名 イージス》、そして零佑が捲ったのは、コスト9《サイバー・A・アイアンズ》だった。
「っ」
「またまた残念だったな。三戦中、俺がガチンコ・ジャッジ二連勝だ」
「……だが、このターンでダイレクトアタックを決めればいいだけだ。《鬼羅丸》でTブレイク!」
《鬼羅丸》の効果で《リアーナ・グローリー》はスピードアタッカーなので、《ディスティニー・リュウセイ》と合わせて一気にダイレクトアタックまで行けるが、
「来たぜ、お前の残念三回目だ! S・トリガー発動《スパイラル・ゲート》! 《鬼羅丸》を手札に!」
「なに……っ?」
「これで《リアーナ》のスピードアタッカーもなくなる。とどめまではいけないぜ?」
「……だったら、《ディスティニー・リュウセイ》で《クゥリャン》を攻撃! これで次のターンは凌げる……」
首の皮一枚といったところだが生き残ることができる道を選んだ流。しかし、デュエルはそう都合よくいくものではない。
「甘いぜ。俺のターン、《サイバー・G・ホーガン》召喚!」
サイバー・G・ホーガン 水文明 (8)
クリーチャー:サイバー・コマンド 8000
M・ソウル
W・ブレイカー
激流連鎖(このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分の山札の上から2枚を見る。その中から、このクリーチャーよりコストが小さいクリーチャーを好きな数、バトルゾーンに出してもよい。残りを好きな順序で自分の山札の一番上に戻す)
「激流連鎖で山札の上から二枚を捲る。捲られたのは……《パクリオ》と《コーライル》だ。《パクリオ》の効果で、お前の手札を一枚シールドへ。《コーライル》の効果で《ディスティニー・リュウセイ》を山札へ!」
流の手札を見て一枚をシールドに埋める、クリーチャーも除去する零佑。《コーライル》はともかくこの時の《パクリオ》の効果はあまり意味がない。それは後々分かる。
「さらにソウルシフトでコストを下げ、1マナで《サイバー・G・ホーガン》進化! 《超電磁マクスウェルZ》!」
大型クリーチャーを進化元とすることで、限界までコストを下げて呼び出された零佑の切り札《マクスウェルZ》。進化クリーチャーで即攻撃に参加できる上、呪文の使用も制限され、流は一気に苦しくなってしまう。
「さあ行くぜ! 《サイバー・A・アイアンズ》でTブレイク! このターン水のクリーチャーを場に出してるから、ブロックはされないぜ」
「ぐっ……S・トリガーはなしか……」
《パクリオ》でシールドが増えたといっても、それはS・トリガーではないし、どうせ《アイアンズ》で三枚一気に割られるのだから、一枚増えたところで意味はなかった。
「《パラダイス・アロマ》でダイレクトアタックだ!」
「《リアーナ・グローリー》でブロック!」
《パラダイス・アロマ》の攻撃は防ぐが、しかしここまでだ。
「もうブロッカーはいねぇな。だったら《マクスウェルZ》で、ダイレクトアタックだ!」
デュエルを終えると、二人は荷物をまとめて帰路に着いた。
「それにしても……零佑、今回は随分と大胆にデッキを変えたな」
「ああ。軽量サイバー・ロードを抜いて、大型サイバー・コマンドを投入してみたんだ」
「いつもの速攻はどうした?」
「んー、なんつーのか、お前と毎日こうしてデュエルしているうちに、大型クリーチャーもいいなーって思い始めたっていうのが一番の動機かな。まあそれ以外にも、お前に対抗するためでもあるけどな」
「俺に対抗するため?」
対抗というのなら、速攻デッキが流にとっては一番辛い相手だ。勿論その対策もしているので、一方的にやられてばかりではないが。
「いや、ただの速攻だと《ローズ・キャッスル》とかでクリーチャーが薙ぎ払われることもあるし。それにお前のデッキのもう一つの弱点も見つけたしな」
「弱点? なんだ?」
「お前のデッキは《ガチンコ・ルーレット》ありきだってところだよ」
零佑が言うには、流のデッキは《ガチンコ・ルーレット》を中心に回っている。《ガチンコ・ルーレット》でマナを増やし、ガチンコ・ジャッジで勝つことで何度も使いまわす。そうして増えたマナで、大型クリーチャーを呼び出す。
なのでデッキの大半が高コストのカードとなっており、ガチンコ・ジャッジの勝率を高める構築にしている。
「でもそれは、自分がガチンコ・ジャッジで勝つことを前提としているところもある。相手が中〜軽量のクリーチャーばかりのデッキならまず勝てるだろうが、大型クリーチャーをある程度搭載したデッキなら、負けることもしばしばある。そしてお前のデッキはガチンコ・ジャッジに負けると、その力の半分も引き出せなくなる」
「……つまり、お前は自分のデッキに大型クリーチャーを入れて、俺のガチンコ・ジャッジ勝率を下げてきた、ということか?」
「そういうこった」
成程、と流は頷く。自分のデッキのマナ加速を《ガチンコ・ルーレット》に依存していることは流も承知していたが、7マナ以上の大型クリーチャーを多く搭載して相手のガチンコ・ジャッジ勝率を下げるという方法で対策をしてくるとは、盲点だった。
「……俺のデッキも、もっと改良が必要だな」
流がそう呟くと、前方の一人の女子生徒が目に入る。普段なら記憶に残さないような人物で、事実流の記憶にない生徒だったが、向こうからこちらに声をかけてきたので足を止めざるを得なかった。
「あ……えーっと、水瀬君と、潮原君、だよね?」
「……誰だ」
頷きもせず、無愛想に質問で返す流。本当に知らない生徒だった。記憶に残らないくらい平凡な出で立ちで、出会った覚えがない。
しかし、零佑は違ったようだ。
「お? 朝比奈じゃん。どうしたんだよ、こんなところで」
「……誰だ?」
どうやら零佑はこの生徒を知っているようで、流は質問先を変える。
「誰って、前にうちの教室に来てただろ。ほら、空城について聞いてきた」
「そうだったか」
記憶にない。そもそも、その対応は恐らく零佑がしていたと思われる。見ず知らずの女子生徒と雄弁に語れるほど、流は社交的ではない。
「じゃあ、改めて自己紹介しておこうかな。多分これから先、長いし……私は二年一組の朝比奈ひまり、潮原君とは去年のクラスメイトで——」
と、そこで少し間を置き、
「——『太陽一閃』って言ったら、分かる?」
「っ!」
聞いたことがある。流が知る《アポロン》の所有者。しかしその前の所有者が、呼ばれていた異名だ。
「詳しい話は割愛するけど、なんていえばいいのかな……今は、夕陽君たちの友達、かな?」
「……そう言えば、『昇天太陽』の《アポロン》がどうこうと、春永このみが言っていたな……まさかお前」
ひまりに鋭い視線を浴びせる流。するとひまりは焦ったように、
「ち、違うよ!? 友達って言ったじゃん。別に《アポロン》は奪ったとかじゃなくて、正式に譲り受けたものだよっ。なんなら、夕陽君たちに確認してみる?」
わざわざ携帯を取り出してそんなことを言うひまり。その挙動を見て、流は馬鹿らしくなってこれ以上の発言をやめた。《アポロン》の所在に関しては、後日本人から直接聞けばいい。
しばらく無言で歩いていると、ふと零佑と足を止める。
「んじゃ、ここまでだな。じゃあな!」
「ああ」
互いに言葉だけ交わし、別れる流と零佑。ここから二人の家は方向が変わるのだ。
流は零佑と別れると、思考を切り替える。さしあたっては、自分のデッキをどう改造するかだ。過剰なマナブーストから大型クリーチャーを召喚する構築は流好みだが、しかしリスクを負う面もある。ならばコスト踏み倒し系のカードも投入するべきかもしれない。
「…………」
「どうしたの、難しい顔して?」
「っ」
突然、すぐ横から声をかけられた。ひまりだ。
「お前……いたのか」
「いたよ、ずっといたよ。気付かなかったの?」
気付かなかった。
流は基本的にドライな性格なので、自分の興味が向かないものにはとことん目を向けない。ゆえに、ひまりに対してもどこか冷たい態度となってしまう。
「えっと、水瀬君……いや、名前で呼ぼう。えーっと、リュウ君、だっけ?」
「ナガレだ」
強い語調で訂正する。何度言われたか分からないし、何度言ったかもわからない台詞。どんなに言っても聞かないことは分かっているが、しかし言わずにはいられない。
「あ、う、うん。ごめんね、ナガレ君」
「!?」
何気ないひまりの謝罪に、流はこれでもかというくらい目を見開く。驚愕、などというレベルでは収まらないほどの驚愕だ。
「な、なに? どうしたの、流君……」
「……お前が、初めてだ」
「へ?」
「お前が……お前が、俺の名前をナガレと訂正した、初めての奴だ」
流の目には、無感動ながらも歓喜の色が見て取れた。
「お前は、いい奴だな」
「……流君って、意外と天然?」
同級生の意外な一面を知ったひまりであった。
その時。
流の周りの空気が、豹変した。