二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.22 )
日時: 2013/07/06 17:05
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
プロフ: http://dm.takaratomy.co.jp/card/search/

 《萌芽神話 フォレスト・プロセルピナ》。名前からも分かるように、これも『神話メソロギィカード』である。
 『神話メソロギィカード』が持つ固有能力、コンセンテス・ディー。進化元となったクリーチャーのマナの総計によって最大三つの効果を得られる力。その力は互いにシナジーを形成することが多く、《プロセルピナ》はその中でも効果がほぼ自己完結している。
 一番目の効果はひとまず置いておくとして、二番目と三番目の効果。
 二番目の効果は、《プロセルピナ》が攻撃する時、または他の自然クリーチャーが召喚された時に、墓地かデッキの一番上からマナをチャージできるというもの。
 終盤ではあまり意味のないマナチャージだが、《プロセルピナ》のマナチャージはただのマナチャージ以上の意味を持つ。
 それが三つ目の効果。カードの効果で自分がマナを溜めた時、それがクリーチャーならそのクリーチャーのコスト以下のクリーチャーをバトルゾーンに出すというもの。
 この二つの能力を駆使すれば、墓地からそのままクリーチャーを呼び出すことが可能になる。
 たとえば、さっき少女が《土隠妖精ユウナギ》を召喚し、墓地の《華憐妖精ミンメイ》をマナゾーンに置き、そのままマナゾーンから出していたが、つまりはそういうことだ。
 マナを経由すると言うだけで、実際は墓地から直接、コストを支払わずにバトルゾーンに出ているようなもの。冥府と樹海を繋ぐ神話、《プロセルピナ》。
 これこそが彼女の力だ。



「攻撃、初撃は、《萌芽神話 フォレスト・プロセルピナ》で、T・ブレイク」
 《プロセルピナ》が諸手を上げると、下部のドラゴンが咆哮する。そして次の瞬間、その衝撃波でこのみのシールドが一気に三枚吹き飛んだ。
「うぁ……!」
 割れたシールドの破片が、衝撃波と共にこのみに襲い掛かる。制服と共に、このみの肌が切り裂かれた。
「いったー……ていうか制服! ズタボロだよ……どうしよう、これ。おねーちゃんになんて言えば——」
「攻撃、二撃目、《薫風妖精コートニー》で、シールドを、ブレイク」
 エプロンドレスの裾をつまんで弱った顔をするこのみに、容赦なく二撃目が繰り出される。
「うっ……!」
 またシールドの破片がこのみを切り裂く。鋭い痛みが何度も体を走り、目尻に涙が溜まる。
「……? これって——」
「攻撃、三撃目、《ダイヤモンド・カスケード》で、シールドを、ブレイク」
 さらに三撃目。このみの最後のシールドが破壊される。
 この時点で、このみの勝利はほとんどない。このみのシールドはゼロ、クリーチャーもゼロ。片や少女の場には《萌芽神話 フォレスト・プロセルピナ》を筆頭としたスノーフェアリーとシノビの大軍。シールドも二枚あり、うち一枚は《深緑の魔方陣》で仕込んだ《深緑の魔方陣》だ。あり余るマナを生かして進化クリーチャーを展開しようにも、とどめを刺すには最低でも三回の攻撃が必要。
 さらに付け加えるのなら、《華憐妖精ミンメイ》と《薫風妖精コートニー》のコンボもある。
 《華憐妖精ミンメイ》はマナから多色クリーチャーを召喚するクリーチャー。そして《薫風妖精コートニー》は、マナのカードを全ての文明として扱うクリーチャー。つまり、《コートニー》の効果でマナのカードは全て多色カードとして扱われるので、《ミンメイ》で召喚できるのだ。
 だがこれだけでは、五色のカードとして色も支払わなければいけないため、5マナ以上のクリーチャーしか出せない。生憎、少女のデッキは4マナ以下の軽量クリーチャーが半分以上なので、その効果は半減してしまっている。
 そこで出て来るのがシノビ、そしてニンジャ・ストライクだ。
 《ミンメイ》の効果は召喚、なのでマナからコストを支払って召喚しなければならない。だがニンジャ・ストライクはコストを支払わずに“召喚”するのだ。
 これが少女の得意としているコンボ。《コートニー》でマナのシノビを多色クリーチャーにして、《ミンメイ》の能力でマナからニンジャ・ストライクする。さらに《土隠妖精ユウナギ》がいればターンの終わりにマナへと戻るので、永遠にループさせることができる。ご丁寧にも、少女がマナからバトルゾーンに出したのはニンジャ・ストライクを持たないシノビばかりだ。このみが攻撃しようにも、その攻撃はシールドに届く前に、マナゾーンのシノビによって防がれてしまうだろう。このみもそれは分かっている。
 だが、そんな絶望的状況の中でも、このみは勝機を見出していた。
「——S・バック発動!」
 このみは今しがた手札に加わったカードを墓地に置き、
「《機神勇者スタートダッシュ・バスター》を捨てて——おいで《デュアルショック・ドラゴン》!」


デュアルショック・ドラゴン 火文明 (6)
クリーチャー:アーマード・ドラゴン 8000
S・バック—火
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分のシールドを1枚選び、自分の墓地に置く。
W・ブレイカー


 S・バックでシールドを突き破りながら現れたのは、橙色に燃えるドラゴンだ。
 《デュアルショック・ドラゴン》は強力なクリーチャーだが、登場と同時に自分のシールドを破壊するデメリットがある。しかしそのデメリットも、シールドがなければないも同然だ。
「……終了、ターンエンド」
 意表を突かれたのか、少し間をおいて少女はターンの終了を告げる。その声は終始一貫して非常に落ち着いていた。
 それはそうだろう、如何にこのみがクリーチャーの頭数を増やそうとも、少女は仕込んだS・トリガーや手札、そしてマナからのニンジャス・トライクがある。それを1ターンで突破するのは困難だ。しかも1ターンで決めなければ、次のターンには少女のクリーチャーがこのみにとどめを刺す。
 だが、このみは自分が負けるだなんて微塵も思っていない。しかも嬉々とした表情で微笑んでいた。それは状況が理解できないからではない。
 ——逆転を確信したからだ。
「さーて、ここから逆転だよ! 《無頼勇騎タイガ》召喚!」
 このみが召喚したのは、軽量スピードアタッカー獣。だがこれでは、少女を倒すには至らない。勿論このみもそれは分かっている。
 そして彼女は、手札から一枚のカードを抜き取った。その行き先は——《デュアルショック・ドラゴン》。
「《デュアルショック・ドラゴン》進化!」
 《デュアルショック・ドラゴン》が炎の渦に巻き込まれる。だがその炎は破壊の炎ではない、変化の炎だ。
 炎の中で、《デュアルショック・ドラゴン》は進化する。

「爆誕! 《超竜バジュラズテラ》!」


超竜バジュラズテラ 火文明 (9)
進化クリーチャー:アーマード・ドラゴン 12000
進化—自分のドラゴン1体の上に置く。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、各プレイヤーはドラゴンではないカードをすべて、自身のマナゾーンから墓地に置く。
T・ブレイカー


「え……?」
 少女は呆けたように口を開けている。当然だろう、ここで《バジュラズテラ》が出て来るなど、誰も予想できない。というより、
「ぎ、疑問、なんで……なんで、そのデッキに、《超竜バジュラズテラ》が……?」
 当然の疑問だ。《バジュラズテラ》は強力なクリーチャーだが、その効果は自分までもを巻き込む。そのデメリットはデッキにドラゴンを多く投入することで緩和されるが、このみのデッキは軽量ビーストフォークやヒューマノイドが大量に入った速攻デッキ。そもそもドラゴンは《デュアルショック》しかいない、そんなデッキに《バジュラズテラ》を組み込む意味は全くない。
 このみは少女に対して答える。さも当然のように。

「え? そんなのきまってるじゃん。かっこいいからだよ」

「……っ!」
 あまりに衝撃的なこのみの返答に、少女も二の句を次げず口をぱくぱくさせている。
 デッキビルティングに関しては小学生以下と言っても過言ではないこのみだが、しかしその失敗が、結果としては成功を収めることとなった。
 なにはともあれ、このみの場に《超竜バジュラズテラ》が召喚された。
 刹那、このみと少女のマナがすべて吹き飛ぶ。
「あ、あ……」
「マナがなければ、《深緑の魔方陣》もニンジャ・ストライクもないよね?」
 このみ言う通り、《深緑の魔方陣》はマナからシールドを追加するため、マナにカードがなければまったく意味をなさない。
 そしてニンジャ・ストライクも、コストを支払って召喚することはないが、ニンジャ・ストライクを発動するためには、指定された数のマナが存在していることが条件となる。つまりニンジャ・ストライクも、突き詰めればマナがなくては使えない。
「よーし、総攻撃だー! 《超竜バジュラズテラ》で残り二枚のシールドをブレイク!」
 《バジュラズテラ》の炎が少女の残ったシールドを焼き尽くす。S・トリガーは《深緑の魔方陣》のみで、使うに使えない。防御のほとんどをニンジャ・ストライクに頼った構成なので、少女のデッキにS・トリガー呪文はほとんど入っていないのだ。
 少女を守るシールドはなくなった。少女を守るブロッカーもいない。いざという時のために握っていたシノビは、マナがないのでニンジャ・ストライクできない。
 そしてこのみの場には、一体のクリーチャーが残っている。つまり、

「《無頼勇騎タイガ》で、とどめだぁー!」



 その後、少女は全身から血を流し、慌てて逃げるように去ってしまった。その時このみの手元にやって来たのは《萌芽神話 フォレスト・プロセルピナ》のカード。
 お気楽で能天気なこのみだが、流石にことの異常性だけは理解している。自分はただ普通にデュエマしてたのではなく、襲われたというのもなんとなく分かった。
 少女は言っていた。サンセットという人物はどこかと。それが今回のことに何か関係するのだろうと、彼女の足らない頭で推理した。
 このみは少女が去った日の夜に、サンセットが何を意味するかを調べた。サンセットとは、英語にするとsunset、日没を意味する。
 日没、沈む太陽、夕日——夕陽。
 その名称に、このみは心当たりがあった。
 ただの偶然かもしれない。しかし最近、彼女の親友が変だということに、彼女は気付いていた。自分に起こったことと親友の異変をすぐに繋げてしまうのは安直と言えるが、しかしそれも、彼女の直感だった。
 彼女は翌日、放課後にその親友を呼び出した。彼は心底不思議そうな顔をしていたが、このみが手に入れたカードを見せると、それだけで表情が一変した。
 この時、春永このみも、ゲームの参加者となったのであった——