二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ メソロギィ ( No.236 )
日時: 2013/12/27 09:41
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「あの、ひまり先輩。すいません、なんか、付き合わせちゃって……」
「いいのいいの、気にしないで姫乃ちゃん」
 『popple』の帰り、ひまりと姫乃は一緒に帰宅していた。
 もうすぐ十二月、日が落ちるのも早い季節だ。少女が暗がりの中、一人で帰宅するのは危険——というのもあるが、それ以上の理由がひまりにはあった。
 最近、立て続けにクリーチャーが実体化している。今日この日も、こにみが襲われかけたところだ。
 なので、なるべく単独での行動は控え、夕陽たちは二人以上で行動するようにした。『popple』の閉店時間になると、夕陽と汐、ひまりと姫乃がペアになって帰宅する。なぜこのペアなのかは、単純に家が近いからだ。
「それにしても、汐ちゃん、流先輩、このみちゃんが、実体化したクリーチャーに襲われたんですよね? 空城君は、だいじょうぶかなぁ……」
「夕陽君なら問題ないと思うけどね、汐ちゃんもいるし。それより、こっちにクリーチャーが出ないことを祈るばかりだよ」
 冗談めかして言うひまり。彼女の実力なら並大抵のクリーチャーでは相手にならないだろうが、出て来てほしくないというのも本音だろう。
「でも、今まで実体化したクリーチャーを倒したのって、ひまり先輩なんですよね? すごいですよ」
「ははっ、いやぁそれほどでも……ま、私のお節介だったかもしれない面もあるけどね。どのデュエルも、かなりギリギリだったし」
 ひまりは確かに強いのだが、その強さもなんだか普通だ。引きが悪い時は普通に負け、相性が悪い相手にも普通に負ける。普通のデュエルなら問題ないが、命懸けで戦うこの“ゲーム”では、その戦績は危なっかしく見えた。
「それより、私まだ姫乃ちゃんには数えるほどしか勝ってないんだよね……ブロッカー対策はしてるはずなのに、全然クリーチャー除去できないし」
「あはは……わたしも、ブロッカー破壊の対策は、してますから」
 ひまりは今のところ、夕陽とこのみにはほぼ圧勝、汐にも勝ち越すことが多いが、姫乃にはなかなか勝てない。ちなみに流とデュエルした時は、瞬殺で勝利を収めたらしい。
「やっぱただ殴ってるだけじゃ、《パーフェクト・マドンナ》みたいなブロッカーに止められちゃうよねぇ……どうしよ」
「空城君は、無理やりパワー低下の闇文明を入れたりしてなんとかしようとしてましたけど……」
「へぇ、それはどうなったの?」
「《マドンナ》を四体並べたら、次の日には闇文明がなくなってました」
「……まあ、そうなるよね」
 一体や二体ならともかく、《マドンナ》が四体は、ビートダウンではきつ過ぎる。夕陽の気持ちも分かるというものだ。
「うーんじゃあ私は、アンブロッカブルの水でも入れてみようかな。《ザウム・ポセイダム》とか、《アポロン》で出せたら面白そう」
「あぅ、それはちょっと、困ります……」


超神龍ザウム・ポセイダム 水文明 (7)
進化クリーチャー:ポセイディア・ドラゴン 13000
進化—自分のドラゴン1体の上に置く。
このクリーチャーはブロックされない。
T・ブレイカー


 それはともかく。
 そんな話をしているうちに、姫乃の住む老朽アパートが見えてきた。
「あ、ここです、わたしの家」
「え?」
 素っ頓狂な声を上げるひまり。その視線の先には、老朽化したボロボロのアパート。
「えーっと……姫乃ちゃんの家って……」
「このアパートです。ちょっと古いですけど」
 ちょっとどころではなく古いというか、そもそも古いなどという問題ではないというか、こんなところに人が住めるのか、などと思いながら、なんとか言葉を繋ぐひまり。
「あんまり裕福じゃないとは聞いてたけどさ、これって女の子が住む場所としてどうなのかな……」
 しかし、そこは姫乃の家庭の問題。それ以上は言わず、ひまりは姫乃を見送る。
「じゃあ先輩、今日はありがとうございました。先輩も気をつけて帰ってください」
「うん、ばいばい、姫——」
 と、ひまりが言いかけた時だ。
 ひまりは姫乃の腕を引っ張り、抱き寄せた。
「えっ? え、え、な、なに——」
「何かいる」
 軽くパニックを起こす姫乃は、鋭いひまりの声で一気に冷静になる。ゆっくりと振り返ると、確かに錆びた階段の上に、人影らしきものが見えた。
「誰なのかな? 【師団】なのか、それとも単純に『神話カード』狙って来たのか……」
 もしこれでただのアパートの住人だったどうしよう、とやや場違いなことを考えていたひまりだが、その不安は杞憂に終わった。
 階段からゆっくりと降りてきたのは、白い長髪をなびかせる美青年。白を基調とした衣装は、金色のベルトや胸の装飾、首回りのファーなど、非常に煌びやかだ。なにより目を引くのは、右手に携えた巨大な金色の杖。鳥が鳥羽差を広げたような装飾がなされている。
 人の姿をしているものの、その雰囲気は人間のそれではない。間違いなくクリーチャーだった。
「……我が名は《閃光の神官 ヴェルベット》」
 青年——ヴェルベットは、心中を読み取れない表情で、名乗りを上げる。
「神官……? オラクルの中でも階級のない信者が、私たちになんの用かな?」
「確かに私には階級はない、しかし階級がないことと信者の力は別物ですよ」
 そもそも、とヴェルベットは続け、
「私たちは今、オラクルの階級などに縛られてはいないのです。私は神々の力によって生み出され、神々の命に従うまで」
 と言うと、ヴェルベットの周囲の空間が歪みだす。神話空間が展開されようとしているのだろう。
「……姫乃ちゃん、下がって」
「え? でも……」
「ここは私が行くよ。大丈夫、心配しないで」
 姫乃から離れ、ひまりはヴェルベットへと歩いていく。
 そしてひまりは、神話空間へと飲み込まれていった。
「ひまり先輩……」