二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ メソロギィ ( No.244 )
日時: 2013/12/28 09:35
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 非常に苦しい展開となっている、ひまりと《ヴェルベット》のデュエル。
 シールド枚数は、ひまりが五枚、ヴェルベットが三枚。しかしクリーチャーのかすが圧倒的に違いすぎる。
 ひまりの場には、《コッコ・ルピア》《エコ・アイニー》《フレミングジェット・ドラゴン》と、タップ状態の《セルリアン・ダガー・ドラゴン》そして《エコ・アイニー》の合計五体。ひまりのデッキで五体もクリーチャーが並べば多い方だが、《ヴェルベット》には遠く及ばない。
 《ヴェルベット》の場には、自身である《閃光の神官 ヴェルベット》と、オラクリオンの《神聖麒 シューゲイザー》《神聖騎 オルタナティブ》。アタッカーには《聖核の精霊ウルセリオス》《真実の名 ホワイト・オブ・ライオネル》《王機聖者ミル・アーマ》《天雷導士アヴァラルド公》に、片方は召喚酔いだが《予言のファミリア オラクルト》が二体。アタックできないブロッカーでも《知識の精霊ロードリエス》《魔光王機デ・バウラ伯》《バウラのサトリ ビョーク》と、二体の《信心深きコットン》。合計十四体のクリーチャーが並んでいる。その数は、ひまりの三倍近い。
「私のターンだよ」
 《ヴェルベット》のクリーチャーもかなり減ったが、それでもまだ、ブロッカーは六体もいる。今のひまりのクリーチャーでは攻めきれないだろう。マナは大量にあり、戦力を追加しようにも《ヴェルベット》が邪魔だ。
「なにもできないでしょう。私がここに存在する限り、貴女のクリーチャーは光の閃きに縛られ続けるのです!」
 気分が高揚してきたのか、高らかに叫ぶ《ヴェルベット》。
 しかしひまりは、静かに言葉を発する。
「……こういう時に限ってさ」
「はい?」
「こういうやばい、って時に限ってさ、念のために入れておいた一枚挿しのカードが来ないものなんだよね」
「そうですか。私にはわかりませんが、それは残念でしたね」
 《ヴェルベット》は普通に答えるが、ここで彼はひまりの様子をもっと見ておくべきだったかもしれない。そんな逆境にさらされているにもかかわらず、彼女は酷く冷静なのだから。
「でも……たまに来るんだよね。《アックス・ドラゴン》召喚! 出た時の効果でブロッカーの《ヴェルベット》を破壊!」
「なんですと……っ!?」
 不意を突かれるようにブロッカー、しかも自分自身である《ヴェルベット》を破壊されたヴェルベット。
「し、しかし、その程度ではまだ私が負けたわけではありません。《ウルセリオス》の効果でシールドを追加です!」
 これでシールド六枚。ブロッカーがいなくなったと言っても、タップしていた《ヴェルベット》が破壊されただけなので、守れるブロッカーの数は変わらない。
「でも、これでこのクリーチャーが出せる。《エコ・アイニー》《フレミングジェット・ドラゴン》《ジャジャーン・カイザー》を進化元に、進化MV! 《太陽神話 サンライズ・アポロン》!」
 爆炎から呼び出されたのは、やはり今回も《アポロン》だ。《ヴェルベット》がいる状態ではすぐに攻撃できなかったので出せなかったが、除去した今なら出すことができる。
「行くよ、《アポロン》でTブレイク!」
「くっ、しかしこちらにはまだブロッカーがいます! 《オラクルト》でブロック!」
 《アポロン》の放つ熱線は《オラクルト》が身を挺し、シールドへは届かない。しかし、その熱線の余波として放たれた熱風が、ひまりのデックトップを吹き飛ばす。
「ここであのカードが来てくれれば……!」
 まだ逆転のチャンスはある。
 強く願いながら、ひまりは舞い降りてくるカードを掴みとった。そして、

「……来た! さあ出て来て《鬼無双 カイザー「勝」》!」


鬼無双 カイザー「勝」 火文明 (7)
クリーチャー:レッド・コマンド・ドラゴン/ハンター/エイリアン 7000+
このクリーチャーが攻撃する時、自分が負けるか中止するまで、相手とガチンコ・ジャッジする。こうして自分が勝つたび、そのターン、このクリーチャーのパワーは+6000され、シールドをさらに1枚ブレイクし、相手は自身の「ブロッカー」を持つクリーチャーを1体選んで破壊する。
W・ブレイカー


 現れたのは、レッド・コマンド・ドラゴンの軍団、鬼無双の帝王にして勝利の名を持つドラゴン《鬼無双 カイザー「勝」》。
「やっぱり一枚挿しのカードは馬鹿に出来ないね。普段はスピードアタッカーがないから使いにくいけど、今は《アポロン》の能力でスピードアタッカーだよ! 《鬼無双 カイザー「勝」》で攻撃! そして能力発動! ガチンコ・ジャッジ!」
 《鬼無双 カイザー「勝」》が翔け、ヴェルベットへと向かっていく。途中にはブロッカーが待ち構えているが、ブロッカーにブロックされる前に、その力を発動した。
 《鬼無双 カイザー「勝」》は、攻撃時に負けるか自分で中止するまでガチンコ・ジャッジを行う。そのガチンコ・ジャッジで勝つたびに、相手にブロッカーを破壊させ、シールドも追加でブレイクできるようになるのだ。
 ガチンコ・ジャッジ一戦目ひまりはコスト7《爆竜トルネードシヴァXX》、ヴェルベットもコスト7《神聖斬 アシッド》。
「私の勝ちだから、ブロッカーを破壊して」
「ぬぅ、ならばここは《ホワイト・オブ・ライオネル》を破壊し、《ウルセリオス》の能力でシールドを追加!」
 これでシールドは七枚、《鬼無双 カイザー「勝」》のブレイク数は三だ。だが、ガチンコ勝負はまだ終わらない。
「まだまだ続けるよ! 二戦目!」
 ひまりが捲ったのはコスト6の《ボルシャック・NEX》、ヴェルベットが捲ったのもコスト6《ヘブンズ・ゲート》だ。
 これでまた、ヴェルベットのブロッカー、《コットン》が吹き飛ばされる。
「だが、《ウルセリオス》でシールドを追加です……!」
「でも、《鬼無双 カイザー「勝」》のブレイク数も一枚追加だよ」
「っ……!?」
 驚きを隠せないヴェルベット。
 つまり、ここでヴェルベットがいくらシールドを増やそうとも、ひまりがガチンコ・ジャッジで勝ち続ける限りヴェルベットのブロッカーは消され続け、《鬼無双 カイザー「勝」》のブレイク数も増えていく。
 とはいえひまりも、ヴェルベットのブロッカーをすべて破壊しなければ攻撃が通らない。ひまりからしても、このガチンコ・ジャッジは完全なる賭けなのだ。
「三戦目!」
 ひまりはコスト8《王龍ショパン》、ヴェルベットはコスト4《ブレイン・チャージャー》。
「二体目の《コットン》を破壊します!」
「じゃあ四戦目だよ!」
 ひまりが捲るのはコスト7《セルリアン・ダガー・ドラゴン》、ヴェルベットはコスト7《告別のカノン 弥勒》。
「ぐ……《デ・バウラ》を破壊」
「なら次! ガチンコ・ジャッジ!」
 いつまでも続けられるガチンコ・ジャッジ。ひまりはコスト4《エコ・アイニー》、ヴェルベットはコスト3《戦慄のプレリュード》。
「なぜです、なぜ勝てないのですか……! 《ビョーク》を破壊します」
 ガチンコ・ジャッジにまったく勝てず、呻くヴェルベット。しかし非情にも、六戦目が訪れる。
 ひまりはコスト3の《コッコ・ルピア》、ヴェルベットはコスト1の《予言のファミリア オラクルト》。
「《ロードリエス》……いや、《ウルセリオス》を破壊します!」
 ここでヴェルベットは、タップしていた《ウルセリオス》を破壊する。今まではシールドを追加する目的で残していた《ウルセリオス》だが、いくら追加しても、追加した分はブレイク数増加と伴っているため、最終的に《鬼無双 カイザー「勝」》の攻撃を止められなければ意味がない。
 ここまでで、ヴェルべットのシールドは十一枚。《鬼無双 カイザー「勝」》のブレイク数はWブレイカー+ガチンコ・ジャッジ六連勝で合計八枚だ。
「七戦目だよ! ガチンコ・ジャッジ!」
 ガチンコ・ジャッジ七戦目、ひまりはコスト8《ジャジャーン・カイザー》。ヴェルベットもコスト8《聖核の精霊ウルセリオス》だった。
「ぐ、う……《ロードリエス》までもが……!」
 これでヴェルベットの場にはブロッカーがいなくなる。だが、ガチンコ・ジャッジは終わらなかった。
 今の《鬼無双 カイザー「勝」》のブレイク数は九枚。そしてヴェルベットのシールドは十一枚。ここはできる限りブレイク数を増やしておきたいところ。なので、ひまりはこのままガチンコ・ジャッジを続ける。
「行くよ、ガチンコ・ジャッジ!」
 八戦目と九戦目。ひまりはコスト6《ボルシャック・NEX》とコスト9《ボルシャック・クロス・NEX》。ヴェルベットはコスト6《ヘブンズ・ゲート》とコスト9《閃光の神官 ヴェルベット》。
 最後の最後で自分が捲れたがガチンコ・ジャッジには勝てなかったヴェルベットに、パワー61000、シールドブレイク数十一の爆走状態となった《鬼無双 カイザー「勝」》が突撃する。
「ぐ、うあぁぁぁぁぁ!」
 一気に十一枚あったシールドをすべて吹き飛ばされるヴェルベット。しかし山札が残り数枚になるほどシールドを増やしたのだ。当然S・トリガーも発動するが、
「S・トリガー《ヘブンズ・ゲート》!」
 トリガーしたのは、《ヘブンズ・ゲート》一枚。元々S・トリガーの少ないデッキだったのだろう。出てきたのは《ビョーク》と《ロードリエス》の二体。
「《エコ・アイニー》と《セルリアン・ダガー・ドラゴン》で攻撃!」
 二体の攻撃は止められるが、ひまりの場には最後のアタッカーが、残っていた。

「《コッコ・ルピア》で、ダイレクトアタック!」



 どこかぐったりとしたように、ひまりは神話空間から出て来た。
「ひまり先輩っ! だいじょうぶですか?」
「うん、まあなんとか……でも、流石に一日二戦、というかガチンコ・ジャッジ九連戦はきついな……」
「え?」
 姫乃にはその言葉の意味が理解できない、というか理解したくなったので、とりあえずはスルー。
「家まで帰れますか? よかったらわたし、ついて行きますけど……」
「いやいや、それじゃあ私が姫乃ちゃんを送った意味なくなるでしょ。ま、大丈夫だよ」
 グッと背伸びして笑顔を作るひまり。しかしその笑顔が取り繕ったものであることは、姫乃でも分かった。
 気丈に振舞おうとするひまりのことは心配だったが、先輩として後輩に弱みは見せたくないのだろう。その思いを汲み取ってか、姫乃はそれ以上のことは言わなかった。
「あ、そうだ。よかったこれ、姫乃ちゃんにあげるよ」
「え? これって……さっきのクリーチャー?」
「そ、《閃光の神官 ヴェルベット》。効果は《聖霊王エルフェウス》みたいなものだけど、姫乃ちゃんのデッキってエンジェル・コマンドが少なめでしょ? クリーチャーの基礎パワーも低めだし、結構生かせると思うんだけど?」
「で、でも……」
 先輩に戦わせて、その上鹵獲物まで貰うのは気が引ける。しかしひまりは、押し付けるように強引に手渡した。
「いいからいいから。私のデッキにはどうしたって入らないカードだし、貰っといて。じゃあ、私はこれで。おやすみ」
「あっ、先輩っ!」
 カードを渡すと、ひまりはさっさと去って行ってしまった。
「……なんか、悪いなぁ……」
 抵抗するように呟く姫乃だが、最後には諦め、錆びついた階段を昇るのだった。