二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.25 )
日時: 2013/07/07 00:59
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
プロフ: http://dm.takaratomy.co.jp/card/search/

 御舟汐。東鷲宮中学校三年一組在籍。
 成績は概ね良好。ただし運動が苦手。
 身長は小学生級、体重もそれに合わせて超ライト級。無論、かなり華奢。
 家族構成は父母、祖父母に兄が一人の六人だが、現在は兄である御舟澪とカードショップで二人暮らし。
 ——こんなごくごく普通……と言えるかは微妙なところだが、少なくとも一般人である汐は、当然ながら一般人の感性しか持っていない。かと言うとそうでもない。
 兄の影響で幼い頃からデュエル・マスターズに降れており、それに関する入れ込みは勿論のこと、知識や技術の面でも相当なもの。
 それはさて置き、汐は少しだけ一般的な女子中学生の枠から外れている。それは本当に、ほんの少しのずれなのだが、その少しのずれが人の性質を左右することだってある。
 たとえばそれは、洞察力。初期では強いクリーチャーを出したもの勝ち、ただの殴り合いのようなものであったデュエル・マスターズも、最近では心理戦を絡めた戦略的なプレイングが求められることもある。そのたびに表情を変えず、相手の顔色を窺っていた汐の洞察力は並外れている。彼女は何かを見抜くということに関しては、一般的な女子中学生の追随を許さない。
 たとえばそれは、思考力。次にどう動き、相手がどう返してくるかを考え、その場その状況、そして未来の状況に対しても最善手を考えて打つ。高度なプレイングが要求されるようになった昨今のデュエル・マスターズで培われてきたのがそれだ。
 たとえばそれは、直感力。誰かのお株を奪うようなことではあるが、物心つく前からカードに触れ、物心がついたのとほぼ同時にデュエル・マスターズで遊んでいた汐の経験は、彼女に精度の高い直感を授けた。その直感は練磨され、今では正確な読みとして昇華されている。
 たとえばそれは、推理力。知識と経験をいかんなく発揮し、相手の行動、思考、未来の動きを予測する力。人によってはある種のサイコメトラー、読心術のようにも感じられるほど、彼女の推理する力は高い。
 以上のように、御舟汐という一人の少女は、戦略を要する頭脳ゲームにおいては非常に高い実力と、まだ開花する余地のあるポテンシャルを秘めている。
 長々と述べたが、何が言いたいかと言えば、それはたった一つのこと。
 御舟汐、彼女が“ゲーム”に長く巻き込まれる原因は、その類まれなる天賦の才にあった——



 御舟汐は不機嫌だった。完全完璧なる無表情なので傍からはそうと分かり難い——というかまず分からない——が、しかし彼女とて感情がないわけではないのだ。
 昔から兄の影響で表情をあまり出さないようにしていたら、本当に出なくなってしまった。とはいえまったく笑わないわけではなく、面白いと思ったことに対してはちゃんと笑う。99%、九割九分九厘は心の中でだが。
 ともかく汐は、不機嫌だった。なぜか。客が来ないからだ。
 カードショップ『御舟屋』。ありていに言ってしまえば隠れた穴場と言える店だ。新旧問わず多種多様なカード、拡張パック、構築済みデッキが並んでおり、しかも比較的安価。時代の波から若干独立した店だ。
 そう聞くとこぞって客が来そうなものだが、いかんせん店が小さく、しかも立地条件は最悪と言ってもよい。狭くて暗い路地裏を抜けた先にあり、少し歩けば大型デパート。デュエルロード等のイベントは対象外の店なので、認知度はかなり低い。
 だがそれでも、いつもなら毎日のように客が二人ほど来るはずなのだ。それがここ一週間ほど、まったく姿を見せない。
 これは由々しき事態だ。いやそこまで大袈裟に言うことではないが、しかし自分一人をおなざりにして二人だけでなにかをしているというのは、一人の女子中学生としてはいい気はしない。自分だけがまだ中学生というのも、彼女の不安を煽る材料だ。
 なので汐は先日、適当な理由をでっち上げて学校帰りに二人に会いに行った。しかし向こうも向こうで適当にはぐらかし、そそくさとどこかへ行ってしまったのだ。
「あの態度は何かを隠しているようでした……私に内緒で二人だけの隠し事、ですか。そうですか、それは愉快なことですね」
 店のカウンターの椅子に座って店番をしながら、汐は独りごちる。愉快と言いつつもその雰囲気は不愉快な人のそれだった。
「……兄さんは気にするなと言っていたのですが、しかし私としては気にならないわけがないです。先輩方が私に内緒で隠し事、とても愉快ですね」
 愉快と言いつつも、汐の表情は険しい。無表情なのだが、どことなく威圧感と怒りを感じる。だからなのか、汐自身も「内緒」と「隠し事」の意味が被っていることに気付いていない。
「近いうちにイベントの類はないはずですし、先輩たちは一体全体なにを隠しているのでしょうか——」

「知りたいかい?」

 カランカランと、来店を知らせる乾いた鈴の音と共に、一人の男が入ってくる。
 かなり若い男だ。年齢で言えば大学生くらいだろうか。若干だがまだ顔にあどけなさが残っており、軽薄そうな笑みと相まって非常に怪しい。
「いらっしゃいです」
 しかし怪しくても客は客だ、放り出すわけにもいかない。汐はいつもの無表情な営業スマイル(スマイルは心の中)で対応するが、
「……いえ、ではなく、誰ですか。今のはどういう意味ですか」
 すぐに気を取り直して、その怪しい客に問い返した。
 この男が怪しいのは、なにも見た目は雰囲気だけではない。狙い澄ましたかのような、来店と共に告げられた言葉も彼の怪しさを引き立てている。
 男はその問いに対し、予想通りと言わんばかりに嬉しそうな微笑みを見せる。
「本当はもったいぶって格好つけたいけど、あんまり時間もかけたくないからサクッと名乗るよ。僕は青崎記、記録の記って書いて『しるす』って読むんだ。ま、と言っても業界じゃあこっちの名前の方が有名だけどね——」
 と言って、男——青崎記は一拍置き、
「——【神格社交界ソサエティ】の『機略知将ノウレッジ』」
 と、静かに告げる。
 しばらくの間、店内を静寂が包み込む。したり顔で笑みを浮かべる記を、汐はいつもの無感動な瞳にさらなる冷やかさを追加して見つめていた。
「あれ? 反応ないね? なにか変だった?」
「……いえ、別になんでもないですよ。それよりもあなたは、なんなのですか。さっき、私の独り言に対してなにか言ったようですが」
「ん? ああ、そのことか」
 それはねぇ、ともったいぶるように妙な間を開けて、記は続ける。
「君の友達……いや、先輩だっけ? 名前は確か、空城夕陽くんと、春永このみちゃん、だったかな。この二人、空城くんが僕の仲間……みたいな人と、春永ちゃんが【神聖帝国師団】の子と戦った。それで負けていれば面倒なことにはならなかったんだろうけど、二人とも勝っちゃったみたいだから、幸か不幸か僕らの至宝『神話メソロギィカード』をゲットして、本格的なゲーム参加者になったというわけさ。君に隠してるのは十中八九そのことだと思うよ?」
「……まったく、話が読めないのですが」
 滔々と語る記に、汐は斬り込むように言う。
 汐からしてみれば、記の言っていることはほとんど理解できない。専門的、業界内でしか通じないという意味で、知らない言葉が多すぎる。
 それは記の方も分かっており、分かっていて言ったようで、軽く笑ってからまた話し始める。
「それは一つずつ、追々説明してあげるよ。それよりも、僕は君に用があるんだよねぇ、御舟汐ちゃん?」
「……私の名前も、知っているのですか。どうやって知ったのですか」
「おっと、それは企業秘密だ。僕は立ち位置的には中立の情報屋に近いからね、情報源がばれると商売あがったりなんだ。別に商売ではないけどね」
 答える気があるのかないのか、そんな風に返す記。そしてそのまま、自分の話を続けた。
「空城くんが僕の仲間、『炎上孤軍アーミーズ』っていう女性、女の子? まあどっちでもいいけど、彼がその人を倒しちゃったんだよね。僕としても結構仲良くやってきた人だから、その敵討ちを兼ねて恩を売っとこうと思って、そのダシに君を使いたいんだ」
「随分と下種なことを滔々と語るですね。言っておくですが、この店の防犯スイッチは近くの交番と直結しているのです。押せば一瞬で通報できる優れものですよ」
 無表情でもあからさまに警戒心を剥き出して、汐は後ずさる。
 そんな汐の態度に、記は心外だと言わんばかりに肩を竦め、ポケットからなにかを取り出した。
「やだなぁ、僕はロリコンじゃないよ? 女の子には優しくするけど、変なことはしないって。それに僕らの業界では、大抵のことはこれで解決するものなんだ」
 そう言って記は手にしたもの——何かのケースだ——の上部をスライドさせ、蓋を開く。そして中から、あるものを取り出した。
「デュエマ……」
 汐が、小さく呟く。

「そう、デュエマ。これで僕が勝てば、しばらくの間おとなしくしてもらうよ」