二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.26 )
- 日時: 2013/07/07 01:02
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
- プロフ: http://dm.takaratomy.co.jp/card/search/
ゲームとは、一般的に言われる遊戯や試合を意味する言葉ではなく、とある界隈で呼ばれる隠語のようなものだ。
その内容を簡単に述べるなら、神話の力を秘めたクリーチャー『神話カード』を十二枚蒐集することを目的とした戦争である。
戦争と言うと些か大袈裟で、しかも実際の戦争のように兵隊を並べて総力戦というわけではなく、他者が持つ『神話カード』を見つけ、その者に戦いを挑む。それに勝利することで『神話カード』を手に入れられる、という変則的な一騎討ちと言っても良いシステムになっている。
だが戦争という物言いは、言い得て妙だ。数に物を言わせる戦いはしないが、殺し合う、という意味で言えばその言葉がしっくりくるだろう。
どういうことかと言えば、そのゲームは一度参加してしまえば、命を賭けることもあるということだ。
勝敗を決める方法はデュエル・マスターズを用いた戦いだが、その際にクリーチャーは実体化し、発生するプレイヤーへの損害、即ちシールドの破壊やダイレクトアタックのダメージは、現実の痛みや傷となってプレイヤーに与えられる。要するにシールドを割られればそ破片が襲ってきて、ダイレクトアタックを決められればそのクリーチャーの攻撃を実際にそのまま喰らう、ということになる。
人間は意外と簡単には死なない生物だ。しかしこの戦いで命を落とす者も少なからず存在する。
他にも細々としたルールは存在するらしいが、このゲームの発端や、最終的に『神話カード』を十二枚蒐集したらなにが起こるのか、などは分かっていない。そもそも『神話カード』とは何なのか、という疑問もあり、未知の要素が非常に多い。
にもかかわらず、ゲームの参加者は意外と多い。
決して参加表明をしているわけではないのだが、徒党を組んでグループを形成しているところが多いので、たとえ『神話カード』を所持していなくとも、それを狙っている、または存在を知っているというだけで必然的に関係者ということになる。
『神話カード』を蒐集すべく、現実の痛みを伴うデュエル・マスターズに身を投じる者たちによる戦争。
それが、“ゲーム”のあるべき姿である。
滔々と語る記の話を聞き終え、汐は軽く息を吐く。
「成程……確かに、先輩たちの性格を考えれば、そうでなくともそんな非常識で非日常なことが起これば、誰だって他人には隠したくなるものですよね」
「まあ、そうなんだろうけど、彼らはたぶん、ゲームの詳細までは知らないんじゃないかな? というか、ルールブックも説明もなにもないし、経験と口承で知ったものだから、ところどころ間違いがあるかもしれないし」
だがしかし、記はそれなりの確証を持って言っているらしかった。荒唐無稽な話だが、しかし汐としてもその話を真正面から突っぱねることはできない。
「特別なカードを十二枚集める戦争、ですか……そんな漫画みたいな話があるんですね。しかもデュエル・マスターズにです」
「そういうことを研究してる組織もあるんだけどね? 【ミス・ラボラトリ】っていう、『神話カード』は一体なんなのか、そしてこのゲームの実態はなんなのか、そういうことを研究して、解明しようとしてる研究機関だ。実は僕の情報源の何割かはその機関の人から貰ってるんだけど」
それと、と記はついでのように言う。
「春永このみちゃんを襲ったのが【神聖帝国師団】っていう組織——というかあれはもう軍隊か——なんだけど、こいつらの目的なんて「世界征服」だよ? 子供向けアニメの悪の組織じゃあるまいし、現実にそんなことを言う奴がいるなんて笑っちゃうようね。でも、そんな絵空事を実現しうる可能性を秘めているのが、『神話カード』なんだけど」
ペラペラと冗長に語る記を、汐はジッと見つめる。その瞳には、無感動ながらも疑念と疑惑が渦巻いている。
「随分とお喋りですね。しかし、なぜそこまで私に情報を開示するのですか。あなたは同僚が先輩に倒されたと言っていたと思うのですが、ならば私たちに有益なその情報を教える意味はないと思うのですが」
確かに汐の言うことはもっともだ。汐を人質にするにしろ交渉材料にするにしろ、ここまで話す必要はない。むしろ何も知らさずにいた方が良いとも言える。
「それは僕の気まぐれかな? それに僕は女の子には優しいんだ。このくらいのことはお安いご用さ」
「そんな話はしてないですし、頼んだ覚えもないです」
「まあそうだけど、それでもあえて言うなら、僕の属する組織が関係しているんだと思うよ?」
軽薄そうな笑みを浮かべたまま、記は口を開く。
「僕らの組織——【神格社界】っていうんだけど——はちょっと特殊でね、君らに分かりやすく言うと、学校か文学結社みたいな組織だ」
「学校、ですか」
思わぬ言葉に、汐は復唱する。それに頷くと、記はさらに続けた。
「まず、僕らは他の組織と違って構成員同士の仲間意識はあんまりないんだ。それでも僕と『炎上孤軍』みたいに、友達っぽい関係を作ることはあるけどね。君らだって、同じ学校の生徒だからって全員が全員仲良しってわけじゃないだろう? 中の良い奴は仲の良い奴同士でつるむもの。それと同じさ。でもって、僕らは組織の連中たちと腕を競い合ったりする。僕の場合は情報収集とかも兼ねてるけど」
いまいちはっきりとしないが、最後に記がざっくりとまとめる。
「ま、言っちゃえば色んな連中が自分のしたいことをするためのコミュニティー、ってところかな。一応、名目上は、組織内の者同士と戦って切磋琢磨し合うっていうものなんだけど。まあ勿論、大半の奴が『神話カード』目当てだけど、強くなるためだとか、暇潰しとか、友達が欲しいからとか、冗談みたいな理由で属してる奴もいる。そんなごった煮の、フリーダムな組織だよ」
「そうですか、それはよく分かったです。そのゲームとやらの内容や、それに関わる組織についても理解できたですよ。ですが——」
ふぅ、と嘆息するように息を吐き、一拍置いて汐は言い放つ。
「——早くターンを進めてほしいです。いつまで喋ってるつもりですか」