二次創作小説(紙ほか)
- デュエル・マスターズ メソロギィ 第二回オリキャラ募集 ( No.266 )
- 日時: 2013/12/29 16:23
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
一方その頃、ひまりが姫乃を送っていたように、夕陽は汐を家まで送っていた。
その道中のことだ。
「……先輩は、ひまり先輩のこと、どう思うですか」
「え? なにさ急に」
あまりに唐突だったため、思わず聞き返してしまう夕陽。汐の質問の意図が読めなかった、というのもあるが。
「ひまり先輩は、まだ私たちになにか隠していると思うのです」
「隠してる? 先輩が、僕らに隠し事ってこと?」
「そうです。そもそも私たちは、ひまり先輩のことを知らな過ぎるです。このみ先輩や光ヶ丘さんは気付いていないようですが、あの先輩は私たちと出会ってから、自身のことをなにも話していないです」
言われてみれば、確かに夕陽もひまりのことはあまり知らない。以前、亜実から『太陽一閃』という異名で呼ばれ、かなりの有名人だということは聞いていたが、それだけだ。具体的にどうとは聞いていない。
「彼女のことを知らない、というのはまだ出会ってから日が浅いだけとも考えられるのですが、しかし彼女には義務があるはずです」
「義務って……なんの義務だよ」
「“ゲーム”について、私たちに話す義務、です」
淡々と語る汐の声は、十二月間近の空気と相まって、酷く冷たく感じられた。
「私たちは、お世辞にも“ゲーム”について詳しいとは言えないです。しかしひまり先輩はそうではないはず……私たちが“ゲーム”に関わったきっかけは先輩ですが、その原因はどう考えてもひまり先輩です。それは彼女にもわかっているはずです……にもかかわらず、彼女は私たちになにも話していない」
「……御舟は、先輩を疑っているのか?」
淡々としているものの、その言葉は明らかに疑惑のそれだ。最近はそうでもなくなってきたが、もともと汐は“ゲーム”には消極的だ。ならば、夕陽たちが“ゲーム”に巻き込まれた原因であるひまりを好ましく思っていないとしても、不思議はない。
「……残念ながら、そういうことです。いえ、ひまり先輩が実は敵だったとか、そういうことを思っているわけではないですし、なにか隠しているとしても、それは今の私たちには話せない、話すべきではないからそうしているのかもしれないです……しかし」
一拍置いて、汐は言葉を紡ぐ。
「彼女は、そんなもったいぶった人ではないと思うのです。まだ私も彼女のことはよく知らないですが、なんとなく、そんな風に感じられるのです。ひまり先輩は今まで見たり聞いたりしてきた“ゲーム”参加者とは一線を画すというか……そう、普通な人だと思うのです」
「普通な人?」
「そうです。一般人、と言い換えてもいいかもしれないです。限りなく一般人に近い“ゲーム”の参加者、と」
夕陽たちにもあまり実感はないが、黒村が言うには“ゲーム”参加者、もしくは“ゲーム”に関わった者は、はどこか一般人とずれているところがある。
それは自身を省みなくなったり、逆に自身の保全を病的なまでに優先したり、独占欲や物欲が激しくなったり、無関係な他者に対してすら異常な敵意を向けるようになったり……数え上げればキリがないが、そんな風にどこか一般的な感性や常識から逸脱してしまうケースがほとんどらしい。
“ゲーム”は命だけだ。攻撃を受けるだけで体がボロボロになるあの空間での戦いは、肉体のみならず精神をも削り取っていく。ゆえに“ゲーム”参加者は、日常から逸れてしまうのだろう。
「ですがひまり先輩は、普通の人のにおいがするのです。“ゲーム”に深く関わっているとか、そういうことは関係なしに、言動や性格、感性などが一般的に思えてならないのです」
それは一般論ではただの人間だが、“ゲーム”の世界においては異常なのかもしれない。
ここまで何も言わなかった夕陽だが、そろそろ限界だった。
「御舟……結局、君はなにが言いたいんだ? 先輩に疑惑を抱いているのは分かった、でもその上で君が先輩のことを悪からず思っているところもあるというのも分かる。でも、君がなにを言いたいのか、僕には分からない」
決して夕陽の理解力がないわけではないが、しかし今日の汐はもったいぶりすぎている。その上、話にまとまりがない。いつもならもっと理路整然と話していたはずだが、彼女らしくない。
そう思って、訊き返したが、
「……私にだって、分からないですよ」
ぽつりと、呟くように汐は言った。
「ひまり先輩のことも、私があの人のことをどう思っているのかも、私の中でまだ整理がついていないんです。ですが、このままずっと黙っているのも嫌で……それに、先輩にだけは知っておいてほしかったんです」
ひまり先輩がなにかを隠していることを、と汐は続けた。
とちょうどそこで、御舟屋が見えた。相変わらず変な立地にあるその建物からは小さな光が漏れ出している。
「……では、私はもうここで大丈夫ですので。送ってくださって、ありがとうでした」
汐は振り返ってぺこりと頭を下げる。
「ではまた。おやすみです」
「うん……おやすみ」
そして御舟屋へと帰っていく汐。その背中が店内へと消えると、夕陽は呟く。
「先輩がなにかを隠している、か……」
ずっと胸に引っかかる汐の言葉。夕陽は自分の家に帰る途中も、ずっとそのことについて考えていた。
確かに夕陽も、ひまりについて知らないことが多かったし、“ゲーム”について教えてほしいこともあった。しかしそれは彼女が隠しているのではなく、時間の流れで次第に知っていくものだと思っていた。
人間関係とはそういうものだ。最初から互いが互いのことをすべて知っているなんてありえない。幼少期からずっといる幼馴染とかならともかく、夕陽たちとひまりはまだ出会ってから半月程度だ。知らないことが多いのは当たり前で、これから少しずつ知っていくことになるのだろうと思っていた。
しかし汐の見解は違った。勿論、夕陽の考えをすべて否定しているわけではないだろうが、それでも優先して話さねばならないことを、ひまりはあえて黙秘していると考えているようだ。
まだ出会ってからの日が浅いから知らないことと、なにかしらの理由があって黙っていることは、まったく別だ。もしそれで、ひまりがそれを分かっていながらも話すべきことを黙っているとしたら——
「……いや、先輩はそんな人じゃない。というか、理由があるならそれでいいだろ」
夕陽は、ひまりを疑いたくない。夕陽も《アポロン》を所有指定からこそのシンパシーみたいなものかもしれないが、夕陽にとってひまりの存在はどこか特別に感じられるのだ。
しかし、それでもいつか問いただす必要があるな、と思いながら歩を進めていくと、
「果たして、君の思っていることが現実なのかな?」
唐突に声をかけられた。
「誰……?」
声の主警棒を携えている、いかにも警備員といった風体の若い男だ。
「君が思っていることは逃避じゃないのかな? 疑いをかけたくないという心理は、仲間との関係に亀裂を発生させたくないという自身のなさの表れだ。それこそ疑惑じゃないのかな?」
「だから誰だよ!」
夕陽の発言を無視するように続ける男に、夕陽は思わず怒鳴る。そこで男は、目深にかぶった帽子を少し押し上げ、
「僕は九頭龍希道……【ミス・ラボラトリ】の研究員、と言えば分かるかな?」
「【ラボ】……?」
【ミス・ラボラトリ】、通称【ラボ】。“ゲーム”における様々なことを研究し、追求し、探究する組織。夕陽も副担任である黒村形人や、文化祭で出会った【ラボ】の所長、ラトリ・ホワイトロックなどとは面識がある。
ただ、同じ【ラボ】の研究員であっても、この男、九頭龍は他の二人とは違う雰囲気だ。黒村はどこか冷たく、厳しいところがあるが、それでも夕陽たちを手助けしてくれることも多い。ラトリに至っては口調までもがフレンドリーだ。
「話を戻すけど……『太陽一閃』、朝比奈ひまりは本当に君の思っているような人間なのかな?」
「どういう意味だ?」
口調こそ穏やかだが、夕陽を小馬鹿にしたような態度が癪に障り、思わず攻撃的な口調になる夕陽。
「『太陽一閃』は一度“ゲーム”から降りている。でも、『神話カード』を持った者が“ゲーム”から降りるなんて、許されるはずがないよね。個々の目的は違えど、“ゲーム”の総括的な目的な十二枚の『神話カード』を集めることなんだから」
だけど、と九頭龍は続ける。
「彼女はどうしてもその世界から降りようとした。降りるためには、『神話カード』を手放す必要がある。だったら考えることは一つじゃないか」
『神話カード』を他人に押し付ける。九頭龍は、軽く笑いながら言った。
「その押し付けられた対象が君というわけさ、『昇天太陽』、空城夕陽君」
「押し付けられたって……」
ひまりは夕陽たちが“ゲーム”に参加するきっかけを作った人物だ。それはひまりの持っていた《アポロン》が夕陽の手に渡ったということであり、汐も遠回しな表現ながらも触れていた。
ここからは受け取り方、ニュアンスの違いになる。あくまで夕陽たちは、きっかけとなったとだけ言っているが、九頭龍は違った。はっきりと、押し付けた、夕陽を“ゲーム”から降りるためのスケープゴートにしたと、そう言っている。
「まあ僕も一応“ゲーム”参加者だし、こんな殺伐とした世界に嫌気が差すってのも、分からなくもない。ただ、やっぱり普通だよね、『太陽一閃』は。『神話カード』の力に魅せられたのかなんなのか、今度は『神話カード』欲しさにまた戻って来るなんて」
「『神話カード』欲しさ……?」
その言葉を、夕陽は見逃さない。
「どういうことだ?」
「あれ、分からない? 君だって今まで使って来たんだろう? 『神話カード』の力って奴を。『神話カード』の力は絶大だ、その強さに惹かれて手放せなくなる者もいるし、なにがなんでも手に入れようとする者もいる。『太陽一閃』がそのうちの一人であってもおかしくはない。そしてなんだかんだと言って、君からそのカードを奪い取ったとしても、これも不思議はないよね?」
奪い取った、その表現に怒りを覚える夕陽。それは違うと、これだけは主張できる。
「違う……先輩は言ってた。先輩が戻ってきたのは、自分が『神話カード』を手放したせいで、僕らが“ゲーム”に巻き込まれたから……それが申し訳なくなったからだ」
これはひまり自身が言っていたことだ。その言葉に偽りはないように思える。しかし、
「その言葉がどこまで信用できるんだろうね? 君らはまだ“ゲーム”という世界をちゃんと理解していない。“ゲーム”なんてどす黒い欲望が渦巻いている。巧言令色、嘘八百、詐欺から色仕掛けに窃盗、暗殺、戦争までもが起こりうる世界だ。情に訴えて、君から『神話カード』を取り返した、と解釈もできるだろう」
あくまでも、九頭龍はそうは受け取らない。
「違う! 先輩は……」
次の言葉を紡ごうとする夕陽。しかしそこで、つい十数分ほど前の汐の言葉が再生された。
——ひまり先輩は、まだ私たちになにか隠していると思うのです。
ひまりが隠していること。もしかしたらそれは、本当に夕陽たちに知られたくないこと——そう、たとえば、今九頭龍がいったような、欲望。
そして、今まで夕陽たちと楽しくやってきた記憶、それが偽りのものであるということ。
「……先輩は、なに? 言いたいことがあるなら好きに言ってくれて構わないよ? 僕は研究者だからね、“ゲーム”参加者の言葉一つ一つも結構重要なのさ」
「ぐ……違う、先輩は、そんな人じゃ……」
言い返したいが、夕陽の中でひまりに対する疑念が強まっていく。
「そんな人じゃない、ね。随分と好意的だねぇ。ま、彼女がそう仕向けているのだとすれば、おかしいことはないか。君たちは彼女の手の上で踊らされていただけだね」
否定したいが、しかしその材料がない。ひまりを悪人とする九頭龍と、ひまりに対する疑惑が湧き上がってくる自分が嫌になり、沸々と怒りが込み上げてくる。
そして九頭龍が次の言葉を発した時、夕陽の頭の中でなにかが弾け飛んだ。
「所詮、君も、朝比奈ひまりも、その程度だったってわけだよ」
「黙れ!」
次の瞬間、夕陽と九頭龍を巻き込んだ空間が、豹変する