二次創作小説(紙ほか)

デュエル・マスターズ メソロギィ 第二回オリキャラ募集 ( No.269 )
日時: 2013/12/29 22:30
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 切り裂かれた神話空間はそのまま収束していき、やがて消滅した。その時、その場にいたのは夕陽と九頭龍、そして——
「なにをしている、九頭龍」
 ——黒村形人だった。
「……黒村、先生……」
 黒村は片手に持ったカードを仕舞い込むと、鋭い視線を九頭龍に向ける。
「……やっぱり。黒村さん『神話カード』の力を受けたカードを持ってんですね。神話空間に外部から直接干渉できるのは、『神話カード』から力を受けたカードだけですからね」
「そんなことは聞いていない。質問に答えろ、なにをしている」
 “ゲーム”の世界での黒村はどこか厳しいが、今の黒村はいつも以上に声も表情も鋭い。
「なにをしている、ですか……僕もあなたに聞きたいことがあるんですけど、こっちから答えないと答えてくれないですよね? だったら先に答えておきます。仕事ですよ、仕事」
「仕事だと?」
「そうです。僕も【ミス・ラボラトリ】の研究員、“ゲーム”に関わる人物について研究するのは当然じゃありませんか。それに『昇天太陽サンセット』は『太陽一閃サンシャイン』が復帰するまで《アポロン》を所有していた人物です、研究対象にならないわけがないですよね? ま、戦ってみれば大したことなかったですけど」
「くっ……」
 言い返したい夕陽だが、途中で黒村が乱入してきたとはいえ、先ほどのデュエルは完全に夕陽の負けだ。返す言葉もない。
「『昇天太陽サンセット』の観察者は俺だ。外野が手を出すな」
「なにを言ってるんですか、研究っていうのは一つの物事を多方面から見ることでしょう? そしてそれは、一人で見るより多数で見る方が効率がいい」
「それは研究の場合だ。おれは観察と言ったはずだが」
「観察だって同じですよ、一人より二人、それぞれ違う方法で観察する方が合理的でしょう?」
 のらりくらりと黒村の言葉を躱していく九頭龍。見るからに黒村は苛立っており、目つきもどんどん鋭くなっていく。
「だが、お前に『昇天太陽サンセット』観察の指令は出ていない。勝手な単独行動は、場合によっては罰則がある」
「場合によってはって、それは僕らにとって不利益を被った場合でしょう? 別に僕は、【ラボ】にとって不利益になることはしていないはずですが?」
「重要な観察対象に、無暗に干渉するだけで十分な不利益だ。俺は所長から、規定違反者を制裁する権利を与えられている。それでも食い下がるか?」
「また所長ですか」
 黒村の言葉に、九頭龍はわざとらしく肩を竦め、
「黒村さんは二言目には所長、所長って言いますよね。そんなに所長が好きですか? 確かにあなたは【ラボ】のナンバー2ですけど、だからって所長の言うがままっていうのもどうなんでしょう? まるで傀儡ですよ……ああでも、傀儡なのは当たり前かもしれませんね。なにせ『傀儡劇団ティアリカル』と呼ばれる黒村さんですからね。これは失礼しました。黒村さんは最初から所長のパペットでしたね」
「なんだと……?」
 あからさまな九頭龍の挑発に、黒村も青筋を立てていた。今にも九頭龍に殴り掛かってもおかしくないほど苛立っているのが、夕陽にも分かる。
「知ってはいたが、やはりクズだな。お前は」
「よく言われます」
 黒村の言葉は九頭龍には当たらない。それを理解してか、元からそのつもりだったのか、黒村はポケットから小箱を取り出す。
「……ここからは、【ミス・ラボラトリ】の黒村形人ではなく、一般人の黒村形人だ」
「はい?」
 黒村の言葉が理解できないとでも言うように、九頭龍は聞き返す。
 黒村は手に持った小箱の蓋をスライドさせ、デッキを取り出した。そして、
「俺の私怨でお前を制裁する。覚悟しろ、九頭龍希道」

 二人の間の空間が、一変した。



「黒村さんとデュエルですか……そういえば、直接遣やりあうのは初めてですね」
「間接的にデュエルなんてできるのか? 御託はいい、始めるぞ」
 黒村と九頭龍のデュエル。先攻九頭龍の3ターン目だ。
「僕のターンです。まずは《メンデルスゾーン》でマナを加速させますよ」
 山札の上二枚を捲り、ドラゴンをすべてタップしてマナゾーンに置く呪文、《メンデルスゾーン》。夕陽やひまりも使用する、連ドラでは重要なマナ加速呪文だ。
 九頭龍が捲った二枚は《永遠のリュウセイ・カイザー》と《偽りの王 モーツァルト》。二枚ともドラゴンなので、共にマナへ。
「俺のターン」
 3ターン目に既に4マナも溜まった九頭龍。しかし、それは黒村にとっては予想通りの流れだ。
「九頭龍、確かにお前は強い。【ラボ】は研究機関ゆえに、戦える人材は少ない……その中でもお前の強さは群を抜いている。だが、群を抜いているがゆえに、その情報は筒抜けになる」
 要するに、黒村は九頭龍の弱点を知り、そしてその対策を練っているということだ。
「《特攻人形ジェニー》を召喚。即破壊し、お前の手札を一枚捨てるぞ」
 召喚された《ジェニー》は一瞬で炸裂し、爆散する。しかし飛び散ったカッターの刃が九頭龍の手札に突き刺さり、墓地へと落とした。
「《メッサダンジリ・ドラゴン》が……次のターン、召喚しようと思ってたんですけどね」
「そんなことはお見通しだ。ターンエンド」
 デッキとは、いわゆるマナカーブというものを意識して作られる。たとえば連ドラのデッキなら、3ターン目に《コッコ・ルピア》、次のターンには4マナで出せる6マナドラゴンを出す、というような流れのことだ。九頭龍のデッキなら、2ターン目に《メンデルスゾーン》で4マナになれば、次のターンには5マナとなり、《メッサダンジリ・ドラゴン》が出せる。さらに次のターンには6マナとなり、コストが1下がった《偽りの名 バルガ・ラゴン》が出せる。
 それを読み切った黒村は、《ジェニー》で九頭龍の手札から《メッサダンジリ》を落とし、その流れを断ち切った。
「うーん、まあ仕方ないですね。僕のターン、《コッコ・ルピア》を召喚して終了です」
 ベストな流れを止められた九頭龍だが、まったく手がなくなったわけではない。別の手法でコストを軽減させ、次に繋げようとするが、
「俺のターン、《ボーンおどり・チャージャー》で山札の上二枚を墓地へ送る」
 墓地に落ちたのは《一撃奪取 ブラッドレイン》《吸血男爵 シャドウ》の二枚だ。


吸血男爵(ファントム・ブラッド)シャドウ 闇文明 (7)
クリーチャー:アウトレイジ 6000
このクリーチャーが、どこからでも墓地に置かれた時、自分のマナゾーンに闇のカードが3枚以上あれば、バトルゾーンに相手のクリーチャーを1体選ぶ。そのターン、そのクリーチャーのパワーは−2000される。
W・ブレイカー


「墓地に落ちた《シャドウ》の効果で《コッコ・ルピア》のパワーを−2000、破壊だ」
 パワーがゼロとなった《コッコ・ルピア》は白骨化し、破壊されてしまった。
「《コッコ・ルピア》まで破壊されるのはきついですね……僕のターン。マナチャージはしますが、6マナじゃまだ動けないか。ターン終了です」
 九頭龍のデッキは夕陽やひまりのようにドラゴンを多く搭載し、マナ加速、コスト軽減、踏み倒しで一気に展開していく連ドラだが、コストの重いキング・コマンド・ドラゴンが中心になっているため、二人よりもクリーチャーの平均コストが重く、このように動きを阻害されると回らなくなってしまうこともある。
「俺のターンだ。《リバース・チャージャー》で墓地の《ブラッドレイン》を回収し、そのまま召喚だ」
 手札を潰され、ほとんと動けないでいる九頭龍とは対照的に、黒村はマナを伸ばしながらクリーチャーを並べ、かなりスムーズに動けている。
 デュエマの五大戦略の一つとも言われている、相手への妨害。具体的には除去と手札破壊。それが上手くはまった典型パターンだ。
「このターン、マナチャージしても7マナ、召喚できるクリーチャーがいないですね……マナチャージだけしてターン終了」
 動けない状態の続く九頭龍。そもそも召喚するためのクリーチャーすらない状況では、どうしようもないだろう。
 その間にも、黒村の準備は着々と進む。
「《ホネンビー》を召喚し、墓地にカードを落として、墓地からもう一体の《ホネンビー》を回収。こちらもそのまま召喚し、墓地の《解体人形ジェニー》を回収だ」
 ブロッカーを並べ、手札破壊のカードを補充。隙を見せない。
「攻めて殴ってくれたらいいんだけど、黒村さん相手じゃそれも期待できないし……」
 今しがた引いてきたカードを見て、九頭龍は少し思案する。
「……マナチャージ。そして《メンデルスゾーン》で、山札の上二枚を捲ります」
 ここで手札を使い切った九頭龍。捲られたのは《黒神龍オドル・ニードル》と《王龍ショパン》。どちらもドラゴンなので、マナへ落ちる。
「手札を使い切ったか。マナこそ10マナ溜まったようだが、ゼニスを引くまで待ってやるつもりもない。呪文《ボーンおどり・チャージャー》で墓地を増やし、《リバース・チャージャー》で墓地の《ターミネーター》を回収。ターンエンドだ」
 ターンを終える黒村。九頭龍の手札はゼロなので、引いたカードをそのまま使うしかない。
「……別に、僕はゼニスしか使わないわけじゃないんですけどね」
 カードを引き、九頭龍は努めて淡々と言う。
「言ってしまえば、僕のデッキのドラゴンは、一体一体が一撃必殺級の破壊力を秘めていますから、ゼニスはあくまで一つの手段。とにかくキング・コマンド・ドラゴンを並べておけば、そのまま押し切れるんですよ」
「だが、お前にはドラゴンを並べるだけの手札がない。《ベートーベン》がいなければ、《運命》も唱えられないしな」
「なにを言っているんですか? 黒村さん、手札がないならドローすればいいだけですよ。それと、《運命》は《ベートーベン》専用のアタック・チャンスである以前に、呪文なんですよ?」
 ぞくりと、黒村の背筋に悪寒が走る。同時に、どこからか戦慄を感じさせる旋律が奏でられた。

「呪文発動……《運命》」