二次創作小説(紙ほか)

デュエル・マスターズ メソロギィ 第二回オリキャラ募集 ( No.272 )
日時: 2013/12/30 16:52
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 《Guy—R》の咆哮よってデュエルが終わり、神話空間が閉じられ、黒村と九頭龍が戻ってくる。
「いつつ……まさかあの状況から逆転されるとは、流石ですね黒村さん。僕の完敗です」
 負けた九頭龍だが、しかし負け自体はわりとあっさり認めた。しかし負けた途端、黒村への態度が様変わりする。
「やっぱり【ラボ】のナンバー2なだけありますね。『傀儡劇団ティアリカル』の名は伊達ではなかったということですか。踊らされていたのは僕の方だったみたいですね」
「そんなことはどうでもいい。とりあえず俺の目の前から消えろ、お前の存在は不愉快だ」
 真正面から辛辣な言葉を言い放つ黒村だが、
「そうですか、じゃあ僕はこの辺でお暇させていただきます。明日もバイトですしね。それではさようなら」
 九頭龍もあっさりと黒村の言う通りにし、すぐさまその場から立ち去ってしまった。
「しかし……いくら叩きのめしても勝った気がしないな」
 ぽつりと呟く黒村は、ふと背後の少年の存在を意識する。
「……黒村先生」
 よろよろと歩み寄る夕陽。身体的な疲労やダメージもあるだろうが、精神的な傷も小さくないように見える。
「……お前が奴になにを言われたのかなど、俺は知りもしないし、知りたいとも思わない。奴は自分の行いが【ラボ】のためになると思っているようだが……それは奴が勝手に言っているだけのこと、深く気にする必要はないだろう」
 回りくどい言い方だが、黒村は九頭龍の言葉は信用ならない、気にするな、と言いたいのだろう。しかし夕陽の表情は暗いままだ。
「先生……先生は、僕が《アポロン》を手に入れる以前から、ひまり先輩を知っていたんですよね?」
「そうだな。そもそも俺があの学校に就任したのは、『太陽一閃サンシャイン』——正確には《アポロン》のカードをだが——を観察するためだ。結局観察できたのは数ヶ月だけだったが、それでも蓄積された情報は得ている。お前よりも奴については多く知っているつもりだ」
「……なら、教えてください」
 先輩は悪人なんですか、と夕陽らしくもなく直接的で、しかし力なく問う。黒村はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「……悪か善かなど、一個人で判断できるものではない。特に俺は観察者、自分の価値観による判断は極力排除するようにしているから、俺には奴が善か悪かなど、分かりもしない」
 だが、と続け、
「一つだけ言えることがある。『太陽一閃サンシャイン』、朝比奈ひまりがなぜこれほど有名なのか、その理由でもあるのだが——奴は普通の人間だ」
「普通の……?」
 黒村の言葉を復唱する夕陽。
「ああ。以前、“ゲーム”に関わった者はどこか壊れているものだと言っただろう。さっきの九頭龍を見れば、説得力がつくかもしれない。だが、朝比奈ひまりはそうではない、ほとんど感性が一般人のままで保たれている」
 それだけではない、とさらに黒村はひまりを語る。
「奴の言動や戦績も平凡だ。あまりに平凡であるがゆえに、逆に“ゲーム”の世界では異端とされるのが、朝比奈ひまりだ」
 夕陽も、汐も、もしかしたらこのみや姫乃、流も感じていたかもしれないひまりへの印象、それが“普通”だ。
 だがその普通は夕陽たちだけでなく“ゲーム”参加者の間でも認知されており、しかもそれが彼女の象徴であった。
「朝比奈ひまりは普通の人間だ。普通の人間がどういうものか、お前なりに考えれば、答えは出て来るかもしれないな」
 と、そこまで言うと黒村は踵を返し、夕陽に背を向けて去っていく。夕陽はその背中をぼんやりと眺めるだけだった。
「……普通、か」
 最後に呟いた夕陽の言葉は、冬の闇夜の中に吸い込まれ、消えていった——



 翌日、夕陽は家にいた。
 誤解されがちだが、なにも夕陽たちは毎日集まっているわけではない。ひまりと知り合ってからは集まる頻度が増えていたが、それも最近は落ち着いてきたところだ。
 夕陽はリビングのソファに寝転がりながら、昨日の汐、九頭龍、そして黒村の言葉を思い出し、ひまりについて考えていた。
(先輩が悪だとは僕も思っていない……でも、あの九頭龍とかいう人と黒村先生の言葉を合わせて考えると……)
 九頭龍は、人間の欲望によってひまりが《アポロン》を夕陽から奪い取ったと言っていた。黒村は、ひまりの感性は普通の人間と変わらないと言っていた。
 ここで一番問題なのが、普通の定義だろう。なにが普通かなんて、人によって相違があるもの。義理と人情と善意をもって人と接するのが普通と考える者もいれば、他者を蹴落とし自分さえのし上げれればそれでよいと考える者もいる。
 夕陽は勿論、ひまりは前者の人間だと思う、いやさ思いたい。だが人間の本心というものは、どうしても欲望が渦巻いているものだ。それ自体は否定しない。
(だから問題は、先輩がなにを思って、僕らに接触してきたのか、だよな……)
 こんなこと、一人で考えても仕方ないのは分かる。だがひまりが手放した以後の《アポロン》の所有者であった夕陽は、考えずにはいられないのだ。
 こんなことをぐだぐだといつまでも頭の中でループさせていると、
「お兄ちゃんお兄ちゃん! やばい私すごいデッキ作った!」
「…………」
 ドタバタと走って来たのは、夕陽の妹だった。現在中学一年生でやんちゃ盛りとも言えるような時期だが、どこかでこのみの因子を受けてしまったかのような性格をしているため、年齢はあまり関係ないように思える。
「ちょっと相手してよ。お兄ちゃんも前にデッキ改造したって言ってたよね?」
「……今そういう気分じゃないんだよ。また後でな」
「えー、つまんないなぁ。そんなこと言わずにやろうよ!」
 ゆっさゆっさと夕陽の身体を揺さぶってくる。正直かなりうざい。感覚としてはこのみがずっと家にいるようなものだ。
「やろうよーお兄ちゃん、やーろーうーよー」
「だぁ! うぜえ! ちょっと黙れよお前!」
 あまりにうざかったので、夕陽は跳ね起きた。そしてスクッと立ち上がると、今から出て行こうとする。
「あ、どこ行くの!」
「外だ。ちょっと出かける」
 勿論、夕陽に出かける用事などないのだが、妹のうざさがいつも以上に爆発しているため、今の夕陽ではとても耐えられない。
 夕陽はまず部屋に戻って外出用の鞄とコートを掴むと、そのまま家の外へと出て行った。



「とまあ、家から出たのはいいけど……どうするかな」
 家から出たのはいいが、どこかに行くあてはない。『popple』や『御舟屋』でもいいのだが、相手がいなくなった妹がこのみや汐を対戦相手にする可能性もあることを考えると、遭遇してしまうかもしれないので行きづらい。
「光ヶ丘の家はバイトだし、流は家がどこにあるのかすらも分からない。どうするかな……」
 とりあえず適当に書店にでも入って立ち読みでもしてるか、などとそれこそ適当な計画を立てながら歩く夕陽は、一人の少女を発見する。
 ひまりだ。
「先輩……」
「ん? あ、夕陽君。やっほー」
 ひまりも夕陽の存在に気付いたらしく、片手を軽く上げてパタパタとこちらへ走ってくる。
「奇遇だねー、こんなとこで会うなんて。どうしたの?」
「あ、いえ、特に用事はとかはないんですが……」
 昨日の一件のせいで、ひまりと面と向かえない。だが、こればかりはひまりに直接聞くしかないだろう。迂遠に尋ねたところで、その真意をすべて読み取ることができるとは思えない。
 意を決し、夕陽はゆっくりと口を開いた。
「……ひまり先輩」
「ん? なになに?」
「ちょっと……お話が、あるんですけど……」
 そして、夕陽はすべてをひまりに話した。汐との会話、九頭龍の言葉、黒村の評価、そして——夕陽の思いを。
 相槌も打たず、黙々と聞いていたひまりは、すべてを聞き終えると、
「……うん、なるほどね」
 と、頷いた。
「それは私が悪かったかな。確かに私はみんなになにも話してなかった……本来なら、もっと早く話すべきだったね」
 表情を変えず、淡々と——というわけではないが、彼女の表情からその心情を読み取ることはできない。言葉の上では、夕陽の思うひまりに見える。だが、それは表の話、胸中ではなにを思っているのか分からない。
「私もすべてを黙ったまま、みんあと一緒にいられるとは思ってないし、ここらがいい時なのかな。分かった、全部話すよ」
「先輩……」
 と、ひまりが口を開きかけた、その時だ。

「! 夕陽君!」

 夕陽は、ひまりに突き飛ばされた。あまりに不意打ちだったため、踏ん張るどころか受け身も取れず、アスファルトに転がる。
「っ、先輩……!?」
 起き上がった夕陽が見たのは、歪んだ空間の中に消えていくひまりと、その奥にいる、巨大な龍の存在だった。