二次創作小説(紙ほか)
- デュエル・マスターズ メソロギィ 第二回オリキャラ募集 ( No.285 )
- 日時: 2013/12/31 14:57
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
ひまりと《ゴスペル》のデュエルは、圧倒的にひまりが劣勢だった。
ひまりのシールドはゼロ、バトルゾーンにいるのも《コッコ・ルピア》《王龍ショパン》《ジャジャーン・カイザー》と、ファイアー・バードと決して強くはないドラゴンが二体だけ。
対する《ゴスペル》のシールドは、連続で使用した《黄泉秘伝トリプル・ZERO》により五枚。バトルゾーンにいるのも、《神託の王 ゴスペル》《神聖騎 オルタナティブ》、そしてシールドを回復させた張本人《紫電左神ヴィタリック》と《邪眼右神ニューオーダー》がリンクしたゴッドの合計三体。
(手札に《ダイハード・リュウセイ》はいるけど、相手の墓地には二枚目の《邪眼と魔銃の盾》があるから、出してもまたシールドに埋められる……このターンに決めないと、負ける)
《ヴィタリック&ニューオーダー》は《神の裏技ゴッド・ウォール》で次のターンまで場を離れないので、除去は無意味。
「……やっぱり、このカードに頼るしかないのか」
マナゾーンに視線を落としつつそう呟きながら、ひまりはカードを引く。そして、
「《無双竜機ボルグレス・バーズ》を召喚! 効果でマナゾーンから《ボルバルザーク・エクス》と《アポロン》を回収! そして《ボルバルザーク・エクス》を召喚して、マナをすべてアンタップ!」
これで準備は整った。しかしマナはまだ残っている。
「じゃ、ダメ押しかな。《ボルシャック・NEX》を召喚! 山札から《コッコ・ルピア》をバトルゾーンに! そして今出した《コッコ・ルピア》と《ジャジャーン・カイザー》、そして《ボルグレス・バーズ》を進化元に——」
刹那、《コッコ・ルピア》《ジャジャーン・カイザー》《ボルグレス・バーズ》の三体が爆炎に包みこまれる。三体は球状の炎の中で一体の神話の姿となり、降臨する。
「——進化MV! 《太陽神話 サンライズ・アポロン》!」
爆炎を吹き飛ばし、現れたのは《太陽神話 サンライズ・アポロン》だ。
「これで終わりだよ。《アポロン》で攻撃、まずは山札を捲って、《永遠のリュウセイ・カイザー》をバトルゾーンに!」
とはいえ、これはおまけ程度の意味しかない。本命は違うところにある。
それは、
「さらにこの時、CD12発動! マナゾーンの《コッコ・ルピア》《爆竜トルネードシヴァXX》《ボルシャック・クロス・NEX》の三枚を墓地に送り、《アポロン》はパワー30000のワールドブレイカーだよ!」
墓地へと落ちた三体のクリーチャーの魂が《アポロン》の元へと集結する。《アポロン》はその三体の力を受け、さらに太陽を膨張させ、小型太陽の旋回と共に、その炎を大きくしていく。
「——《アポロン》でワールドブレイク!」
次の瞬間、《ゴスペル》すらも飲み込んでしまいそうなほど巨大化した太陽から、無数の熱線、爆熱、熱風、爆炎、爆風——とにかく凄まじい熱気と火炎が放たれ、一瞬で《ゴスペル》の五枚のシールドを爆散させる。
S・トリガーも引けず、ブロッカーもいない《ゴスペル》に、立ち並ぶドラゴンを止める手立てはなかった。
「《ボルシャック・NEX》で、ダイレクトアタック!」
神話空間が閉じ、ひまりが舞い戻ってくる。その手には、一枚のカードが握られてた。
「先輩っ!」
「あ……夕陽君、大丈夫だった?」
「それはこっちの台詞ですよ! 先輩は……」
「大丈夫だよ、ほら。この通りもうカードに戻したから」
《ゴスペル》のカードを夕陽に見せ、笑って見せるひまり。その様子に、夕陽も胸を撫で下ろす。
「そんなことより、さっきの話の続きだよね……でも」
「先輩……?」
ひまりはくるりと夕陽に背を向ける。そして、視線だけを夕陽に向け、口を開く。
「ちょっと付き合って」
付き合ってと言われて夕陽とひまりが来たのは、隣町の山だった。それも、夕陽の知っている山だ。
「ここって……」
かつて【慈愛神光教】という悪徳宗教が根城を張っていた山だ。その本部は山中に放置されており、今や廃墟と化している。
「こんなところまで来て、どうするんですか……?」
「夕陽君に見せたいものがあるの。この時間ならちょうどいいしね」
時間が関係するのだろうか。今は日が落ちておらず、まだ明るいが、あと一時間もすれば外は真っ暗だろう。
ひまりは廃墟に続く道を進んでいくが、途中で脇道に逸れた。まさかひまりもあの宗教に関係しているのか、などと思ったが、そんなまさかはなかったようだ。
しばらく獣道とも言える山道を進む二人。草木は生い茂りそれらを掻き分けながら前へ前へと歩いていく。
やがて二人は、生い茂る木々から抜け出し、少し開けたところに出た。
「ここは……?」
崖のようになった場所だ。元々高い山ではないので、街の全景が見えるなどということはないが、それでもなかなか見晴らしがよい。
だがそれだけで、それ以上のものはなにもない。生い茂っているほどではないが、雑草くらいならかなり生えており、手入れをされているわけでもないようだ。
「別にどこってわけでもないけどね。強いて言うなら、ここは私のお気に入りの場所だよ。実は私、中三の時までこっちの町に住んでたんだ」
初耳だった。しかしひまりは黙っているつもりはなかったようで、ただ言うタイミングがなかっただけらしい。
「ここから見える夕日がきれいなんだよね。今は冬だからすぐ暗くなっちゃうけど、夏とか秋とか、よくここに来てたんだ」
「夕日……」
それは自分の名前と同じだ。夕陽の両親も、夕陽が生まれた時の夕日がきれいだったから、という理由でこの名前を付けたという。
ひまりに言われて、夕陽は遠くの地平を眺める。かなり沈んでしまっているが、確かにきれいな夕日だ。夕陽は詩人でも俳人でもないので、その心情を豊かに語ることはできないが、純粋にそう思う。
「夕陽君にはいつか見せたいと思ってたんだよね……ここは私にとって大事な場所だから」
「……なぜ、僕なんですか?」
このみや汐、姫乃や流ではいけなかったのか。その理由は単純だった。
「勿論、他のみんなにも教えたいけど、一番はやっぱり夕陽君かな。名前もそうだけど、それ以上に、私の弟子みたいなものだし」
「で、弟子?」
あまりに唐突というか、予想外の言葉に、素っ頓狂な声を上げる夕陽。ひまりはそれにくすくすと笑いながら、
「弟子って言うと、ちょっと違うかな。格好つけるなら、後継者とか? まあ、要するに私が“ゲーム”から降りてた間、《アポロン》の所有者だったからっていう理由だよ。深い意味とかはないよ」
しかし、重要な意味ではあったかもしれない。少なくとも、ひまりにとっては。
「……私が“ゲーム”に関わったのは、雀宮高校に入学して少し経った頃、ちょうど夕陽君たちと同じ頃かな」
少しだけ声のトーンを落とし、ひまりはゆっくりと口を開き始めた。
「驚いたよ、急に変な人に声をかけられて、いきなりデュエマを申し込まれたんだから。その場はなんとか勝って、その時に《アポロン》を手に入れたんだ」
その後は、夕陽たちとあまり変わらないことをしていたらしい。少しずつ《アポロン》のカードを狙い“ゲーム”の参加者が襲ってきて、それを撃退していったと。
「最初はそんなでもなかったんだけど、だんだんと頻度が増えて行って、ちょうど今くらいの時期には、毎日のように“ゲーム”の参加者と戦ってたよ」
「毎日……!? そんな、大丈夫だったんですか……?」
夕陽たちは『神話カード』を、仲間内で五枚も所有しているが、そこまで高頻度で“ゲーム”に関わってはいない。
だから思わずそう言ったのだが、ひまりの紡ぐ言葉は予想外のものだった。
「大丈夫なわけないよ」
はっきりと、ひまりは告げる。
「一戦一戦が命懸けの戦いだもん、それが毎日起こるなんて、普通は耐えられない。いつ襲ってくるのか不安で夜も眠れなかった。テスト期間中でも勉強なんてしてられなかった。体調不良なんて何度もあったし、成績もガクッと落ちたよ。あの頃の私は心身ともにボロボロでね、だから……逃げたんだ」
“ゲーム”から、と続け、
「二年生になって少ししてから、私は“ゲーム”の過酷さについて行けなくなった。だから、《アポロン》を捨てて逃げたんだ。でも、ただ捨てるだけじゃ、その権利はまだ私にあると思われる。《アポロン》の権利が他に人に移っていると思われる必要があったんだ」
「それで、僕の家に……」
「そういうことになるね。夕陽君の家だったのは、ただの偶然だけど。でも」
俯いて、酷く申し訳なさそうに、呟くように言う。
「それが、“ゲーム”の重い枷を君に押し付けたと言われても、否定できない。その表現は正しくて、実際、私は誰かに押し付けようとしてたんだ。自分が苦しいから、抜け出したいから、君を、君たちをこんな殺伐とした世界に巻き込んでしまった」
ひまりは夕陽に目を合わせると、スッと頭を下げた。
「ごめんなさい。話すべきとか以前に、まずは君たちに謝らくちゃいけなかったね。勿論、もう出れなくなるくらい深く巻き込んで、それで謝ったくらいで許してもらえるとは思ってない。でも、君たちへの謝罪は真っ先にするべきだった。これも、私の弱さだよね……」
「先輩……」
一つ、夕陽は理解した。確かに汐の言っていたことは正解だった。黒村の評価も正しかったし、癪な話だが九頭龍の言うことも当てはまっている。
ひまりは酷く普通の人間だった。普通に弱く、普通に怯え、普通に逃げ出し、普通に謝る。
“ゲーム”参加者がなぜ“ゲーム”に参加し続けられるのか。その理由は、乱暴に言ってしまえば精神が壊れているからだ。正常な判断と感性を持っていなければ、おかしなことを続けることも可能だろう。
壊れている、とまで言わなくとも、“ゲーム”の世界が既に日常だと錯覚させるくらいのことはできるだろう。夕陽たちも、日常とまでは行かなくとも、それが自分たちの世界の一部だと思い込んでしまっている。
だが、ひまりはそれができなかった。普通の世界を構築している彼女には、その異常な世界は受け入れられず、ゆえに耐え切れずに逃げ出した。普通の行動だ。
そして逃げたものの、夕陽たちがひまりの行動のせいで“ゲーム”に関わってしまったと知ると、今度は罪悪感と負い目を感じる。謝罪したいと思うのも普通だが、相手の逆鱗に触れてしまうと思い、躊躇してしまうのもまた普通だろう。
どこまでも普遍的で普通な少女、それが朝比奈ひまりだった。
「……先輩。一つ、教えてください」
「なに……?」
「先輩が《アポロン》を返してほしいと言ったのは、《アポロン》の“力”が欲しかったんですか?」
力、という言葉を強調する夕陽。それに対しひまりは、しばらく黙りこんでいたが、
「……半分は、そうだね」
やがてゆっくりと、言葉を紡ぐ。
「いや、半分なんてキリのいいことはないけど。でも、私が《アポロン》の力に縋ってて、それが恋しくなったのは認めるよ。約一年、ずっと一緒に戦ってきた相棒みたいなものだからね。同時に、私が追い詰められる原因となった、忌むべきカードでもあるんだけど……それでも、『神話カード』の力は魅力的だったと、私は思う」
『神話カード』の力に魅せられた。九頭龍の言う通りだ。だが、その上でひまりは続ける。
「でも、言い訳するわけじゃないけど、《アポロン》をまた私が持つことで、少しでも夕陽君たちの負担が減ればいいと思ったのもまた事実なんだよ。私が最初に《アポロン》を使った夕陽君を見たのは、文化祭の日。あの時、君の姿を見て、私は逃げてばっかりじゃいけないんだって思ったんだ……君たちに対する罪悪感とか、負い目とか、そういうのもあるんだけど……やっぱり、けじめはつけないといけないって、思ったよ」
それが、《アポロン》のカードだ。
「これは私が、また“ゲーム”に戻ってきた証。ただそれだけ。だから夕陽君が、この《アポロン》のカードを手にしたいと思うのなら、私は止めない。私は一度、このカードを捨てているからね。本当ならまた持つ資格はないのかもしれない。だから、本当は夕陽君が持つべきなのかも——」
「そんなことはありません」
ひまりの言葉を遮って、夕陽ははっきりと告げる。
「先輩は随分と自分のことを卑下しているみたいですけど、先輩が抱いている感情は人間にとって当たり前のものです。異常なことがあれば恐怖する、普通です。自分の身を削る日々が続くから逃げ出したい、普通です。本当のことを言いたいけど怒られるかもしれないから言いにくい、普通です。強力なカードを手に入れたい、普通です」
すべて、普通の感性だ。
「先輩が今まで言ってきたことは、確かに悪いと思われることもあるかもしれません。でもそれ以上に、先輩は僕たちのことを思って、今こうしてここにいるんじゃないんですか? だったら、僕が先輩を責める理由はありません。僕だけじゃない、このみも、御舟も、光ヶ丘も流も、誰だって同じこと言うはずです」
清い心があるのなら、邪な心もあるのが人間だ。ひまりはそのどちらにも揺れ動いていた。それだけのことだ。
「少なくとも、僕は先輩が今までやって来たことが悪いだなんて思いません。いや、思いますけど、だからなんだと言うんですか。そんなことは、人間ならあって当然のことです。悪いことでも責めるに値はしません。むしろ僕たちは先輩に助けられているんです」
だから、と言って、今度は夕陽が頭を下げた。
「——話してくれて、ありがとうございました。こっちも、凄く言い難いことを聞いてしまいました」
「……いいんだよ。最初に言ったように、本当は真っ先に言わなきゃいけないことなんだもん。それを君に尋ねさせちゃって、申し訳ないよ」
申し訳ないというが、ひまりの表情は明るいそれに変わっていた。思っていないということはないだろうが、あの思いつめた暗い表情は、ほとんど消えている。
「じゃあ……これからもよろしくね、夕陽君」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
『太陽一閃』と『昇天太陽』、朝比奈ひまりと空城夕陽。共に《太陽神話》の力を持つ者。
二人は互いに手を強く握りしめる。遠くの空では、灼熱の太陽が地平線へと沈んでいるところだった——