二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.29 )
日時: 2013/07/07 23:53
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
プロフ: http://dm.takaratomy.co.jp/card/search/

 状況はかなり悪化した。
 バトルゾーンを見れば、汐には二体の《ブラッディ・イヤリング》に《電脳封魔マクスヴァル》《セブ・コアクマン》と、強力なデーモン・コマンドの《剣舞の修羅バシュナ》そして《魔刻の斬将オルゼキア》。対する記の場には《セブ・コアクマン》と《光霊姫アレフティナ》だけ。パッと見では汐の方が有利に見えるが、汐のシールドは六枚、記のシールドは八枚と、シールドの数では負けている。
 だが勿論、シールドの数が負けているだけで、汐の状況が悪いわけではない。《アレフティナ》はシールドが十枚以上あれば、問答無用で勝利を手にするクリーチャー。
「じゃ、僕のターンだね。まずは《予言者シュウ》を召喚。さらに3マナ《バリアント・スパーク》」
「っ」
 汐の無感動な瞳が、ほんの少しだけ開かれる。
「メタモーフ発動で、君のクリーチャーはすべてタップだ。さらに《シュウ》と《セブ・コアクマン》を進化元にして、進化V! 両手に携えし英知と霊気の刃を以て、天海を守護する王となれ! 《英霊王スターマン》!」
 そして現れてしまった、《英霊王スターマン》。
「《スターマン》と《アレフティナ》で、それぞれ《バシュナ》と《オルゼキア》を攻撃!」
 《スターマン》の剣が《バシュナ》と《オルゼキア》の刃を切り裂き、直後には《アレフティナ》の光線が二体の悪魔を滅する。
「《バシュナ》と《オルゼキア》が……」
 二体のアタッカーを消され、記のシールドは九枚に。記にとっては勝利の、汐にとっては敗北の時が、もう寸前まで迫っている。
「……私の、ターンです」
 このターンに決めなくては、という思いが汐の中で爆発する。
 次の記のターンで《スターマン》が攻撃すればシールドは十枚。記の勝利が確定してしまう。
 なのでこのターンに何とかしなければならないのだ。そして幸いなことに、汐はこのタイミングで待ちに待ったカードを引けた。
「……来てくれたようですね。召喚です《狼虎サンダー・ブレード》」


狼虎サンダー・ブレード 闇文明 (7)
クリーチャー:デーモン・コマンド/ハンター 7000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、相手のクリーチャーを1体破壊する。
W・ブレイカー


 非常に淡泊でシンプルな能力を持つ《狼虎サンダー・ブレード》。しかしその力は、今の汐からすれば十分な力を発揮してくれる。
「《サンダー・ブレード》の効果で、《光霊姫アレフティナ》を破壊です」
 《サンダー・ブレード》が刃を一振りすると、そこから放たれた闇の雷撃が《アレフティナ》を襲い、存在を消滅させる。
「あー、やられちゃったかー。もうちょっとだったんだけどね」
 勝利まであと一歩のところで失敗。にも関わらず、記は対して悔しさなどを感じてはいないようだった。流石に奇妙である。
「とりあえずエクストラウィンは防いだのですが……シールドが多すぎです……」
 軽量ばかりとはいえ、ブロッカーの多い記のデッキ相手にシールドを九枚割るのは骨が折れる。普段の汐ならちまちまシールドを割るような真似はしないのだが、今回は場合が場合だ。
「《セブ・コアクマン》でシールドをブレイクです」
 たった一枚だけだが、シールドを割っておく。これで残り八枚。
「僕のターンだね。《サンダー・ブレード》とはまた面倒なクリーチャーだけど……」
 フッと、記は不敵な笑みを見せる。今までの軽薄な笑みとは、どこか違う。
「ま、なんとかなるか。《斬隠テンサイ・ジャニット》を召喚して《マクスヴァル》を手札に戻すよ。そんで進化《エンペラー・ベーシックーン》」


エンペラー・ベーシックーン 水文明 (2)
進化クリーチャー:サイバーロード/エイリアン 5000
進化—自分のサイバーロード1体の上に置く。
メテオバーン—このクリーチャーが攻撃する時、このクリーチャーの下にあるカードをすべて手札に加え、その後、自分の山札の上から1枚をすべてのプレイヤーに見せる。それがクリーチャーであれば、このクリーチャーの下に置いてもよい。


「《エンペラー・ベッシークーン》……」
 汐は少しだけ眉根を寄せる。決して弱いクリーチャーではないのだが、このタイミングで出て来ると、どうしても違和感を覚えるクリーチャーだ。
「さーらーに《ホルルン》を召喚。これで僕のサイバーロードのパワーは、君のターン中だけ3000プラスだ。さあ行くよ、まずは《スターマン》でWブレイク!」
 《スターマン》の二つの刃が、汐のシールドを二枚切り裂く。そして次の瞬間、
「っ……」
 汐の身体を、電流のようなものが突き抜ける。激しい衝撃と痛み。思わずカードをテーブルに置き、手を着いてしまう。
「おや? そんなに痛かった? クールに見えて、意外と打たれ弱かったり?」
「ぅ、っ……」
 反論しようとしたが、あまりの痛みで声が出ない。軽く深呼吸し、息を整え、体を起こす。
「……それで、終わりですか」
「うん? いやまだだよ。《ベーシックーン》で《セブ・コアクマン》を攻撃だ。そしてメテオバーン発動」
 《エンパラー・ベーシックーン》から二つの電撃が飛び出す。一つは《セブ・コアクマン》を破壊し、もう一つは記の手札へと向かっていく。
「進化元の《テンサイ・ジャニット》を手札に戻し、デッキトップを捲る」
 言って、記は浮かび上がった山札の一番上のカードを表向きにする。
「《コーライル》……クリーチャーだから、下に置くよ」
 新しい電撃が生み出されると、それは《ベーシクーン》の下へと向かい、吸収された。《ベーシックーン》が《コーライル》を取り込んだのだ。
 そして汐のターン。汐の現在のシールドは残り四枚。クリーチャーは《ブラッディ・イヤリング》二体と《サンダー・ブレード》のみ。
(そろそろ《スターマン》を破壊したいところです……)
 《スターマン》がいる限り、相手のシールドは増えるばかり。それを止めなくては話にならない。
「《炎獄の剛魔ビルギアス》を召喚です。効果で《スターマン》のパワー下げ、そのまま《サンダー・ブレード》で攻撃です」
 《ビルギアス》の大槌から青白い炎が放たれ、《スターマン》を焼く。そこに《サンダー・ブレード》の刃が一閃。《スターマン》は光の残滓を残し、消滅した。
「《スターマン》までやられちゃったよ。でもま、シールド十枚あるし、なんとかなるかな?」
 などと言いながらカードを引き、記は次の手を打つ。
「《エメラル》を召喚して、シールドを入れ替えるよ。さらに《クラゲン》を召喚。デッキから進化クリーチャーをデッキトップにセットだ」
 ドローとシールド追加で大分減ってきたデッキを眺め、記は一枚のカードを抜き取る。
「じゃ、このカードを仕込ませてもらうよ」
「……?」
 記が見せたのは、見たことのないカードだった。
 汐はこれでもカードショップの店員のような立ち位置にいる。全てのカードを完璧に記憶している、とは言わないが、大抵のカードは言われれば名前を思い出すくらいは可能だ。だが記が見せたカードを、汐は知らなかった。まったく、名前も聞いたことのないカードだった。
「とりあえず、ターン終了だ。返しのターンで殴られたくはない」
 何か企んでいるのか、記はクリーチャーを並べるだけで攻撃してこない。汐はこれを好機と見た。
「では、《死神の邪蹄ベル・ヘル・デ・ガウル》を召喚です。そして《サンダー・ブレード》と《ビルギアス》でシールドをブレイクです」
 《サンダー・ブレード》の斬撃と《ビルギアス》の鉄鎚が繰り出され、記のシールドは一気に三枚割れる。
「っ……! 効くねぇ……S・トリガー発動《予言者コロン》! 効果で《マクスヴァル》をタップ! そして僕のターン。まずは《ソルハバキ》を召喚してマナに置いた《魂と記憶の盾》を回収だ」
 《ソルハバキ》で呪文を回収すると、記は軽薄な笑いを浮かべ、《クラゲン》で仕込み、ドローしたカードを一瞥する。
「さて……御舟汐ちゃん、君に見せてあげるよ。君らがこれから、どんな奴らと争わなきゃいけないのかをね」
 もったいぶるように言って、記は《エメラル》《クラゲン》《エンペラー・ベーシックーン》の三体を重ねていく。
 刹那、激しい旋風が嵐の如く吹き荒れた。
「っ、これは……」
 先ほど感じた、不吉な気配が漂ってくる。いや、そんな生易しい表現では不適切だ。より正確に言うなら“強大で凶悪な冷気が襲い掛かってくる”と言うべきだろう。
「嘯け、盗泉の神よ。虚言を弄し罪を重ね、偽りを以て愚かな賢者となれ。神々よ、調和せよ——進化MV!」
 そして、冷たい光が差し込み、冷気、飛沫、暴風を従えて一柱の神が降臨する。

「《賢愚神話 シュライン・ヘルメス》!」