二次創作小説(紙ほか)

デュエル・マスターズ メソロギィ 第二回オリキャラ募集 ( No.293 )
日時: 2014/01/01 07:08
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 十二月一日、日曜日。
 ひまりへの疑念も晴れた夕陽は、この日は非常に晴れ晴れとした気分だった。
「あ、お兄ちゃん、おはよー……じゃない! 昨日! 昨日の続き!」
「は? 続き?」
 早朝一番に妹が騒ぐ。無視しようかとも思ったが、一応は兄として真面目に付き合ってやることにした。手始めに、まず昨日あったことを思い出す。昨日はひまりとなんやかんやあって——
「……ああ、そういや新しいデッキ組んだんだったか」
「そうだよ! まあ、みんなに相手してもらったけど、まだお兄ちゃんが残ってるの。さあ、デュエマだ!」
「それって続きでもなんでもないよな……ま、やってもいいか」
「えっ? 本当!?」
 すぐに食いついた。ぱぁっと明るくなる妹の顔を見ると、兄としての血が騒いでくる。そのため、すぐに次の言葉を繋げた。
「と思ったが、どうせこのみとか御舟とか、散々相手にしたんだろ。だったら僕がお前の相手する必要ないよな。ってことでなしだ」
「えぇー! なにそれ? 私に負けるのが怖いのか!」
「負けたお前にビービー泣かれる方が怖いっての。んじゃ、御舟の店にでも行ってくる」
「って、ちょっと待って! お兄ちゃん! お兄ちゃん!?」
 いつもテンションが高い妹だが、最近はいつも以上に高くなっているな、などと思いながら家を出る。まだ十二月頭だが、やはり外は寒い。
「もうすぐクリスマスかぁ……またこのみか御舟の家でクリスマスパーティーとかやんのかな。今年は光ヶ丘や、流、ひまり先輩たちもいるし、このみや御舟、あとは木葉さんと澪さんのどっちかくらいしかいなかった去年までより、賑やかになりそうだな」
 そう考えると、この一年で随分と大きな変化があったものだと思う。その変化がもたらした結果は良いものだが、その変化と言うのが“ゲーム”なのだから、複雑ではある。
 そんなことを考えながら門扉を開く夕陽。その時だ、

「こんな早朝からお出かけですか? 『昇天太陽サンセット』さん?」

 夕陽の背筋が凍りつく。
 バッと声のする方向へと視線を向ける。そこには、一人の人間が直立していた。
 声質からでも分かったが、その体つきからして女性だ。ただしフードを目深にかぶっているため、顔は見えない。白いラインが無数に入った黒のコートを着ており、フードからは長い銀髪が垂れ下がっている。
 派手というか、目立つ外見をしているものの、いつもの夕陽なら視界に入れるだけで特に意識はしなかっただろう。しかしこの女は今『昇天太陽サンセット』と言った。
 それは、夕陽の“ゲーム”での異名。即ち、この女は“ゲーム”の関係者だ。
「わたくし、【神聖帝国師団】“帝国四天王”が一人『無貌混沌ニャルラトホテプ』と申します」
「ニャルラ……? なんだって?」
「ニャルラトホテプです、長いようならニャルと読んでくださっても構いませんよ? ともあれ、以後お見知りおきください」
 その以後がどこまであるかは分かりませんが、と付け足すニャルラトホテプ。
 長ったらしい名前だが、そんなニックネーム染みた呼称で呼ぶつもりはない。それよりも、この女はもっと重大なことを口走っている。
「【師団】……」
 正式名称【神聖帝国師団】。もうすぐ日本に渡ってくるとは聞いていたが、どうやらもうやって来たようだ。
 その事実に、一気に気が引き締まる。ある種の恐怖心とも言えるかもしれないが、しかし立ち向かう勇気がないわけでもない。
「……で、その【師団】がなにしに来た? 言っとくけど、僕は《アポロン》を持ってないよ」
「それは存じ上げています。私たちの情報網はあなた方とは雲泥の差なのですよ? それを前提とし、私は【神聖帝国師団】の使者として、あなたに宣言しに来たのですよ」
「宣言……?」
「はい、宣言です。より正確に申し上げるなら——」
 口元で笑うと、ニャルラトホテプはゆっくりと言葉を紡ぎだす。

「——宣戦布告です」

 宣戦布告。当然、夕陽もその言葉の意味は知っている。
「……宣戦布告なんて、わざわざ宣言してくれるんだ。意外だったよ、もっと闇討ちみたいに仕掛けて来るかと思った」
「そうしてもよろしかったのですか? 闇討ちなら経験の蓄積がある私たちが圧倒的有利、あなた方など瞬殺になってしまいますよ? ……と、言うのはさておきまして、一応、我々【師団】、そして“ゲーム”にもルールは存在しているのですよ」
 と言って、ニャルラトホテプはそのルールの一つを告げる。
「史実における戦争でも、ルール——法律が定められているでしょう? たとえばこの場合、他国への宣戦布告せずに攻め込むと、戦争法違反になる。それと同じです」
 “ゲーム”のルールと言うよりは、【師団】の主義としてですが、と前置きし、
「相手が“ゲーム”における“組織”だと認識した場合、我々【師団】はこちらの矜持と略奪の意思を示すべく、宣戦布告を行います。わりと“ゲーム”にはそういった風潮がありますが、最近は組織同時での争いがほとんどありませんからね、こんなことをするのはいつでもどこでも戦争してるような【師団】くらいなものです。少々話が逸れましたが、要するに我々【神聖帝国師団】は、あなた方を一つの“組織”として認知した、ということですよ」
 ニャルラトホテプの長い説明を聞き終え、夕陽は納得する。確かに、違法の戦争はあれど無法の戦争などはない、“神話戦争”などと呼ばれるこの“ゲーム”にも、ルールや暗黙の了解などがあっても不思議ではない。
 そしてこのニャルラトホテプは、その戦の意思を、こちらに示してきたというわけだ。
「……で?」
「はい?」
「お前は僕にそれを宣言するためだけに来たのか? さっきなんとか四天王とか言ってたけど、もしかして宣戦布告をする係りとかか? 宣言したらそれでお終いか?」
「……まさか」
 夕陽の挑発染みた発言に、またも口元を笑みで歪めるニャルラトホテプ。見れば、彼女手元にはいつの間にか一つのデッキが握られていた。
「宣戦布告後はいついかなるタイミングで戦いを仕掛けようと規定違反にはなりません。私たちの目的は『太陽一閃サンシャイン』の持つ《太陽神話》ですが、あなたにも目は向けられているのですよ、『昇天太陽サンセット』、空城夕陽さん」

 次の瞬間、夕陽とニャルラトホテプを包む空間が歪み始めた。