二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.316 )
日時: 2014/01/03 01:16
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 夕陽、このみ、汐、姫乃の四人は、近くの公園で集まっていた。その理由は、単純明快。【師団】が宣戦布告を仕掛けてきたからだ。その情報を、夕陽はみんなに伝えていた。
「……なるほど、です」
 やはりというかなんというか、真っ先に反応を示したのは汐だ。こういう時、彼女の冷静さは頼もしい。
「前々からその兆候はあったようですが、遂に相手方が攻めて来たということですね」
 兆候と言うのは、最近頻発していたクリーチャーの実体化のことだろう。黒村が言っていたが、【師団】は戦場へと向かう前に、クリーチャーをばら撒くことが多いらしい。理由は情報収集や戦力の低下を測ってのことだと予測されているが、実際のところはよく分かっていないらしい。
「それで、相手の目的っていうのが『神話カード』なら……真っ先に狙われるのは、わたしたち?」
「そう考えるのが普通でしょう。しかし、先輩の話を聞く限りにおいて、相手の一番の目的はひまり先輩のようです」
 朝比奈ひまり、『太陽一閃サンシャイン』。彼女の持つ《アポロン》が、【師団】の最大の目的。はっきりとは言わなかったが、ニャルラトホテプの言葉を信じるのであればそういうことだろう。
「でも、まりりんせんぱい、全然連絡つかないよ? メールの返信はないし、電話もつながんない……」
「そこが問題ですね」
 夕陽は一度このみを介し、できるだけ多くの人間にこの情報を伝えた。流は勿論、クロ、零佑、仄にも連絡は行き届いているはずだ。
 だが、ひまりだけはその連絡が届いていても、返事が来ない。一度、直接自宅を訪ねたが、外出していていなかった。しかも外出先は不明。
 音信不通で行先が分からない。軽く行方不明状態だ。
「恐らく今回の件で最も重要な立ち位置にいるのがひまり先輩です。しかしそのひまり先輩の所在が知れず、連絡もつかないとなると……少々厄介なことになったかもしれないですよ」
 この場にいる全員は、一度ひまりに助けられている身だ。しかし間近でひまりのデュエルを見ているがゆえに、彼女の危うさも知っている。
 特に夕陽は、ひまりから直接、彼女の弱さを聞いているのだ。
「やっぱり、連絡がつかないのは不安だよね。どこ行っちゃったんだろう、ひまり先輩……」
「せめて返信のひとつでもしてくれればなぁ……」
「です……」
 沈む三人。心配ないようでいて、彼女は非常に危なっかしい。不安で心配する気持ちはよく分かる。
 だから、夕陽は思った。
「なら、僕たちで探そう」
「え? ゆーくん?」
 そして、その思ったことを、そのまま口にする。
「無意味なことかもしれないけど、先輩がいないなら探すんだ。【師団】も《アポロン》を狙っているのなら、先輩を探しているはず。とにかくあいつらより先に先輩を見つけ出すんだ。後のことはそれから考えよう」
 戦争などと言われても、夕陽にはピンとこない。こちらが『神話カード』を奪われたら敗北となるのは分かるが、勝利条件は不透明だ。
 ならばそのことについては後回し。とりあえず、仲間を集める。一人一人ではまだ非力な夕陽たちだが、仲間が揃えばそれなりの力にはなり、なにかいい案も出て来るかもしれない。
 なにより、ひまりを【師団】より先に見つけることは、相手の目標であるひまりを守ることにも繋がるのだ。ならば、そうしない手はないだろう。
「……そうですね。このままここでジッとしていてもなにも始まりません。さっき展開された神話空間の影響で、一般人もいないことですし、探すのは比較的容易なはずです」
「ひまり先輩も、一人じゃ寂しいだろうし……わたしたちで見つけないとね。せめてもの恩返しだよ」
「よーし、じゃあまりりんせんぱいがいそうなところを、片っ端からしらみつぶしに探そう! ゆーくん!」
「お前に言われるまでもないって言うか、提案したのは僕だっての。まあ、とにかく」
 行くか。という夕陽の声と共に、四人は公園から飛び出たのだった。
 ひまりを探すために。



 このみから連絡を受けた零佑は、指定された公園に向かっていた。だが、
「お前らにとっては近いかもしれねえがな、俺の家からあの公園は遠いんだよ……!」
 都合の悪いことに自転車は故障中で、走って向かうしかない。神話空間が展開したせいでバスなどの公共機関も使えず、なかなかハードなことになっていた。
 と、その時だ。
「零佑!」
「おおっ、リュウ! お前も春永からメールもらったのか?」
「ナガレだ。そう言うってことは、やはりお前もか。どうやら、かなりの大事になっているらしい」
 名前を訂正しつつ、零佑と並走する流。ちなみに彼は自転車を持っていない。
「なんかあいつのメールはよく分からないんだが、どういうことなんだ?」
「お前はなにも知らないんだな……【師団】についてはどこまで知っている?」
「正直、ほとんど知らん。なんか前に俺が戦った子供が、その組織の奴だってのは知ってるんだが」
 そもそも【師団】は情報が筒抜けにならないよう気を配っているところもあるので、流も詳しくは知らないのだが、それ以上に零佑は知らなかった。そもそも【師団】という組織と直接的な干渉がないので仕方ないのだが。
「俺も春永このみのメールは、公園に来いということしか分からなかったが、【師団】という名前を見ただけでピンときた。奴らは戦争を仕掛けて来ている」
「戦争!?」
 その過激なワードに思わず叫ぶ零佑だが、流は少し言葉を修正する。
「戦争と言っても、重火器や戦闘機を飛ばすものではない。どちらかと言えば、大昔の日本の戦争に近い形式だ。戦場となる一定範囲の地域に選出された兵士を放ち、ターゲットを発見次第戦いを挑み、目的を完遂する形になる」
「あー……よく分からんが、一騎討ちってことか?」
「少し違うが……そんな感じだ。稀に大量の雑兵を送り込み、相手が疲弊したところを仕留める場合もあるようだが、住宅街の多い町でその手法は憚られたか」
「なんかそう聞くと、その【師団】ってのは意外と常識があるんだな」
 【師団】に常識があるというよりは、“ゲーム”における暗黙の了解だろう。“ゲーム”に無関係な一般人を巻き込むのは寝覚めが悪い上、事後処理も面倒だから、“ゲーム”参加者は一般人を極力巻き込まないようにしている。
「よく知ってんなあ、お前。どこそんなことを?」
「昔、知り合った情報屋からきいたことだ。だが、今回の件に関してはまだ情報が足りない……御舟汐か、空城夕陽に詳細を聞く必要がありそうだ」
 と、その時。
 先に見える十字路の右側、ブロック塀の奥に、なにかがいる。巨大な、化け物のような、なにかが。
 そのなにかはどんどん正面に進んで行き、十字路の真ん中で道を塞いでしまった。
「お、おいリュウ。こいつは……」
「ナガレだ。ああ、クリーチャーだな。《戦攻のイザナイ アカダシ》」
 アースイーターのイザナイだ。【師団】の戦争は雑兵を撒かないと言ったばかりだが、まったくいないわけではないようだ。
「となると、通常の兵士もある程度散らばっていると考えるべきか」
 ともかく。
 アカダシは道を塞いでおり、流と零佑をガン見、さらに周囲の空間も歪みつつあるので、どう考えてもこちらをターゲットにしている。
「……仕方ない。迂回して進むのも面倒だ。ここは無理やり突破——」
 と言いながらデッキケースを取り出す流。しかし、そんな彼を、零佑は片手を水平にして制す。
「零佑……?」
「ここは俺に任せな。お前は先に、春永たちのとこに行け」
「だが……」
 食い下がる流に、零佑は言う。
「正直な話、俺は【師団】がどうとか“ゲーム”がどうとかは分かんねえ。ただ目の前の敵をぶっ倒すだけならいくらでもできるが、ごちゃごちゃ考える脳みそはねえんだ」
 だから、と続け、
「俺はこの化物を倒す。それが俺にできることだ。お前には、お前にできることがあるだろ。春永や空城の力になれるのは、俺よりもお前じゃねえのか?」
「零佑……」
 まだ出会って半年程度だが、流と零佑は馬が合っていた。最初は単純に席が近かっただけだが、同じ趣味を共有したり、気付けば共にいる時間が長くなってた。
 少なくとも流は、こちらに引っ越してきて学校に早く馴染めたのは、零佑のお陰だと思っているし、感謝もしている。
 そして今、その零佑が自分の背中を押しているのだ。ならば、
「……すまない。なら、ここは任せた」
 応えないわけにはいかないだろう。
「おう! しっかりやってこいよ!」
 グッと親指を突き立て、零佑は流を見送る。そして、戦いの空間へと吸い込まれていった。
 流はそんな零佑の姿を見てから、また走り出すのだった。