二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.322 )
- 日時: 2014/01/04 14:43
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「もうすぐ例の公園か……!」
目的地に向かって走る流。もうすぐ指定された公園へと辿り着くのだが、その時、携帯の着信音が鳴った。
「……? 誰だ、こんな時に」
と言っても、神話空間が展開しているこの状況なら、相手は絞られる。
着信はメールだった。急いで携帯を開き、その文面を読む。
「……なに? 朝比奈ひまりを探せ、だと……?」
文章が拙いため、いまいち要領を得ないが、要はそういうことらしい。
少し思案する流。推測するに、夕陽たちもひまりと連絡がつかないのかもしれない。
「……もしや、朝比奈ひまりがこの戦争における【師団】のターゲットなのか……?」
「だーいせーいかーい」
突如、上空から声が聞こえる。いや、上空と言うと言いすぎだが、少なくとも流の頭より高い位置からの声だ。
具体的には、塀に上っていた。
「……誰だ」
「わぉ、反応うっす。ただでさえ今日はノリのいい人がいないのに、相手さんまでドライなの? 酷いなぁ」
流の反応が不服らしいが、あまり気にした風もなく、その人物は塀から飛び降りる。
変声期を迎えているかいないかくらいの声で、まだあどけなさの残る少年だ。年齢は恐らく汐と同じくらいだろう。鮮やかな金髪に白いシャツ、ベージュのハーフパンツと、そこまで奇抜が外見ではない。だが少し丈の長い黄色いコートが目立っている。
「誰だ、と聞いている」
「冷たいなぁ……ちょっとくらいお喋りしてもいいでしょうに。ま、いっか。どうせ名乗るつもりだったし、それが先か後かになるだけだよね」
軽薄そうな笑みを浮かべながら、少年は口を開く。
「ぼくは“帝国四天王”が一人『黄衣之天』。よろしく、ね」
「四天王……【師団】の者か」
それがなにを意味する語なのか、流には分からない。しかし少年——ハスターの雰囲気から察するに、【師団】の中でも相当上位の存在だろう。
そんなことを考えている流とは逆に、少年はペラペラと口を閉じることなく言葉を発し続ける。
「ぼくはこれでも【師団】のトップ4だからね……ああいや、師団長と姫を除けば、トップ6か。だから、結構君らの情報ってのも持ってるんだよ。君、あれでしょ? 水瀬流でしょ? 『大渦流水』」
ほとんど呼ばれたことがないが、確かに流にはそのような異名が付けられている。
「意外と地味だけど、君って有名どころでは有名なんだよ? なにせフリーで『神話カード』を持ってたくらいだからね。どこの組織にも属さずに『神話カード』を持ち続けられるなんて稀だよ、超レアだよ? 最近だと、君くらいなもんじゃないかな?」
“ゲーム”の世界では、様々な組織が渦巻いている。“ゲーム”に関わったものは、遠からず大抵はどこかしらの組織に属する定めになっているのだ。
しかし流は、夕陽たちと出会うまで《海洋神話 オーシャンズ・ネプトゥーヌス》を保有していた。その間、どこの組織にも属していないどころか、他の組織との接触はほとんどなかった。
「だから無名なのに、有名なとこでは有名なんだよねー。ま、異名が付けられるってことは【ラボ】にはお見通しみたいだけど。それに——」
「おい」
話を続けようとするハスターを、流は遮った。
「なんの用だ。俺は今、暇ではない。餓鬼に付き合っている暇はない」
「ガキなんて酷い、確かに君と比べればぼくなんて子供だけどさ」
少年は飄々とした態度で、流の言葉を受け流す。流も罵ったつもりではないが。
「ま、暇がないのはお互い様さ。ぼくも君の言う朝比奈ひまり——『太陽一閃』を探さなくちゃいけない。面倒だよねまったく、どこに雲隠れしてるのやら……」
やれやれと言うように、大仰に手を振るハスター。
そういえば、と流は先のハスターの言葉を思い出していた。ハスターは、流の【師団】の狙いはひまりだということを肯定した。と、いうことは、
「……前言撤回だ。俺は、お前に用ができたみたいだ」
「へ?」
意外、と言うように目を丸くするハスター。その挙動もわざとらしい。
「なにそれ? ぼくと君は初対面だよね? 用なんてないと思うけどなぁ……敵同士とはいえ、せっかくお互い忙しい身で、争う理由もないわけだし、ここは穏便に済ませようよ。ぼく、面倒なのはやだよ」
「お前に理由がなくとも、俺には理由があるんだ」
【師団】がひまりを狙っているのなら、流にも戦う理由ができる。夕陽たちはひまりを探しているようだが、それは【師団】も同じだろう。なら、ここで【師団】の人間を足止めするだけでも、夕陽たちの助けになる。結果的には、ひまりを助けることにも繋がるのだ。
そんな戦う姿勢を見せる流とは裏腹に、ハスターはやる気なさ気だった。
「えぇー……『神話カード』を持たない君に、興味なんてないんだけどなぁ……」
しかし、
「でーもー……ま、いいか。師団長から貰ったデッキを使わないままにしとくのももったいないし。ちょっと休憩がてら、遊んどこ」
刹那。
二人を包む空間が、大きく歪んだ。
雀宮高校、屋上。その給水塔の上にて、ラトリ・ホワイトロックは——
「ダメ、死ぬ、ダイ……きつすぎ……」
瀕死寸前だった。
これは誰かに襲われたとか、そういうことではなく、単純に体にかかる負荷が大きいために体調不良を起こしているだけだ。
だけだ、と言っても、当人からすれば相当辛い状態だろうが。
「こんなラージな範囲に能力使ったことなかったけど……無理無理。すっげー吐きそう、リバース……こうなったら」
息も絶え絶えになりながらごそごそと白衣のポケットを漁り、携帯電話を取り出す。
が、その時、ふとなにかを感じた。
「ん……あれ? 一人多い……」
《アテナ》が展開した神話空間の中にいる人間は、すべて把握している。【師団】の戦闘員と夕陽たち、加えて外部からやって来た者。それらすべてをカウントしていたはずだが、人数が一人合わない。
「一般人が紛れ込んだ……なんてことはありえないし、ちょっと展開が遅かったのかな。神話空間が開く前に、クリーチャーに接触したとか……? そうすると——おっと」
慌てて口を塞ぐラトリ。こればかりは、吐きそうだからというわけではない。
「危ない危ない、誰もヒアしてないとはいえ、口調がブロークン、もといバックしちゃったよ。やっぱ辛いなー、これ」
《アテナ》が展開できる神話空間は、無関係な一般人を完全にシャットアウトできる。どの範囲まで展開するかも自由に設定できるため、極端な話地球全体を覆うことすらもできるのだ。
しかし範囲が広ければ広いほど、使用者にかかる負担が大きくなる。加えて継続時間も短くなり、無理に時間を伸ばそうとすれば、それだけ負担もさらにのしかかってくる。
とはいえ、普段から“ゲーム”の殺伐とした世界に身を投じているのなら、ある程度の負担には耐えられるだろう。しかしラトリはあくまで研究者。“ゲーム”の中でもトップクラスの重鎮ではあるが、特別強いわけでもない。ゆえに、体にかかる負荷は耐え難いものだった。
「気持ち悪い……発作起きそう……」
右手で携帯のボタンをプッシュしながら、左手で白衣のポケットを再びまさぐり、白い錠剤の入った小瓶を取り出す。それを器用に片手で開けると、これまた器用に中から数粒だけ取り出し、口の中へと放り込んだ。
「このままだと本格的に私死ぬな……こんな時には頼れる部下を頼るしかないよね……あ、コネクション。もしもーし、黒村君?」
電話が繋がった瞬間、先ほどまでの青い顔が嘘のような声を発するラトリ。彼女はそのまま、電話の相手に用件を伝え、ちらりと目下の校庭の端を見遣る。
そこには、複数の影が校門をを乗り越えている光景があった。
「……ふむ」
人のいない町を歩く男が一人。古そうな茶色いコートを着たその男の名は、和登栗須といった。“ゲーム”の世界では『深謀探偵』という名の方が有名だ。
「推理すると、やはりこの異常な状況は『神話カード』が関わっていると見るべきだな。この神話空間自体は一般人を巻き込まないため。だとすると《守護神話》か」
栗須も『神話カード』を求める者だ。しかも【師団】のように軍勢を率いる者ではなく、単騎で行動する【神格社界】の人間。『神話カード』の匂いがすれば、自ら乗り込んでいく。
「近々【師団】が日本に渡ってくるという情報を『機略知将』から聞いたが、【師団】の目的は《守護神話》か……? 否、そうではないだろうな」
この町に住む者のことなら、栗須も知っている。最近になってぐんぐん知名度を上げている『昇天太陽』という少年と、その仲間たち。この町に置いては、彼ら以上の有力な組織はない。
「組織と言うには些か漠然としすぎているが……そういえば、《太陽神話》の所有権は『太陽一閃』に戻ったのだったか」
そこから栗須は思考を巡らせる。多くの材料をかき混ぜて推理し、一つの結論を導きだした。
「……ならば【師団】の狙いは『太陽一閃』か」
それだけなら不思議はない。あの組織は『神話カード』を集めることに最も尽力している組織なのだから。
しかし栗須は、どこか不穏な空気を感じていた。
「荒れそうだな、今回の戦争は……」