二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.323 )
- 日時: 2014/01/04 15:20
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「あ、黒村さん。戻りましたか」
「……ああ」
雀宮高校三階、社会科準備室にて、九頭龍は黒村の帰りを迎える。迎える、という態度でもないが。
「なんか気分悪そうですね? どうしました? どっかでクリーチャーの奇襲でも受けました?」
「……いや、なんでもない」
「そうですか……ならいいんですけどね、どうでも」
気にはなるようだが、どうでもいいというのも嘘ではないだろう。それ以上追及はしなかった。
「それはいいんですけど、所長の要件ってなんだったんですか? というか、所長も学校にいたんですね」
「ああ、いつの間にかいたな。《守護神話》で神話空間を展開していた」
「なるほど……で、要件は?」
「……一般人が紛れ込んだらしい」
「は?」
意味が分からない、と言うように開いた口が塞がらない九頭龍。勿論比喩で、すぐに閉じたが。
しかし驚いているのは確かだろう。九頭龍もラトリの持つ『神話カード』の力は知っている。その力の絶対性もだ。あのカードの力が発動しておいて、無関係な人間が入り込むなどということはありえない。
「考えられる可能性があるとすれば、神話空間が展開する前にクリーチャーの襲撃を受けたケースですね。で、どうするんですか? その一般人というのは」
「とりあえず保護するように言われた。お前も来い」
サラッと命令する黒村。あまりに自然な流れだ。
「え? 僕もですか?」
「そうだ。なにか問題でもあるか?」
「……ありませんよ」
しかし、すぐに言い伏せられてしまう。
なぜ九頭龍がこうも唯々諾々と黒村に従っているかというと、それは先日、九頭龍が黒村に負けたことにある。
あの時のデュエルは黒村の私闘ということになっていたはずなのだが、どういうわけなのかいつの間にか【ラボ】全体にその話が広まっており、体面上九頭龍は黒村に従わなければならない空気がになってしまったのだ。
「黒村さん、本当にあの時のこと、誰にも言ってないんですか?」
「俺がそんなことをする奴に見えるか?」
「見えませんけど……はぁ、面倒なことになったなぁ」
しかも黒村がその雰囲気を利用しているものだからタチが悪い。当然だが、黒村は九頭龍をかなり恨んでいるようだった。
「っていうか、それだけですか? 今日は【師団】が攻めて来る日、でしたよね? 《守護神話》の神話空間が開いた時からそれは分かってましたが……僕らはそこに干渉しなくてもいいんですか?」
【師団】は大規模な組織ゆえに、情報はありふれている。しかしそれらの情報は、【師団】側が流しているガセ情報も存在し、本当に機密な事項はよっぽどのことでもなければ知ることはできない。
だが、今回のように向こうから攻めてきた場合はその限りではない。これは【師団】の情報を得ることのできる絶好の機会だ。
無論、そんなことは黒村も分かっていた。だから、それについても考えてある、というよりは必然的に干渉することになるはずだ。
「言うまでもないな」
これもラトリから聞いたことだ。黒村は、ちらりと窓の外に視線を向ける。
「どうやら、日曜日に学校に来る常識知らずがいるみたいだ」
一応説明しておくと、日曜日だからといって学校が開放されていないわけではない。
日曜でも練習する部活はあるし、図書室も利用できる。そもそも黒村も表向きでは教師として学校に来ているのだ。
それはともかくとして。
つまり、日曜日と言えど学校の施設を利用する者はいるのである。そして学校という場所である以上、その施設を利用しているのは生徒である場合が多い。
「…………」
歪んだ空間の中から、一人の小柄な少女が現れた。雀宮高校指定の黒いブレザーを着ていることから、学校の生徒であることがわかる。
少女は足元に落ちた一枚のカードを拾い上げる。
「《絆のイザナイ デカブル》……やっぱり、デュエマのカード……」
とりあえずカードをポケットに入れ、次は窓の外を見遣る。練習をしていたはずの運動部の姿はない。さらに首を伸ばして、学校の外にも目を向けるが、通行人らしき人影が一つも見えない。
さらに今度は廊下に出た。きょろきょろと辺りを見回し、軽く歩いて確認するが、誰もいない。
「…やっぱり、さっきの変な感覚の後から、人が消えてる……どういうことでしょう……」
酷く静かな学校と町。そして奇妙なデュエマのカード。
「……いや、まさか。これはもう、ただの市販されているようなカードになってますし」
頭に浮かんだ可能性を振り払う少女。
とりあえず今は、この不可思議な現象について考えるが、考えたところで解明する材料がないので、分かるはずもなかった。
その時だ。
「ここですか? 第三図書室って書いてありますが」
「ああ、この辺りにいるはずだ。とりあえずその人物の身の保全を最優先だ」
「はいはい、分かってますよ。にしても、僕らはいつの間に救助隊になったんですかね……お」
廊下から男の声がして、ガラガラと図書室の扉が開かれた。
「っ、黒村先生……と、誰……?」
入って来たのは、二人の男。一人は少女も知っているこの学校の教師、黒村形人。もう一人は、少女の知らない九頭龍希道だ。
「向田……やはり生徒か」
「黒村さんの受け持ちの生徒ですか?」
「そんなところだ」
少女の反応はほぼ無視する二人。しかし、その存在までは無視しない。
「話は後でする、ここは危険だ。向田、とりあえず来い」
「え? えっと……」
「いやいや、黒村さん。そんな言い方じゃ誰もついてきませんよ……無愛想すぎます」
確かに無愛想だが、少女が戸惑っているのは黒村がいつもの黒村でないからだ。少女の知っている黒村はもっとおどおどしており、声も聞き取りにくい気弱な男だったはずだ。
「ならお前が連れて行け、九頭龍」
「え、僕がですか? 黒村さんの生徒なんですから、黒村さんと一緒の方がいいんじゃないんですか?」
「上に所長がいるから、俺はここを離れられない。いいから行け」
「……はぁ。分かりましたよ」
不承不承といった風に頷く九頭龍は、少女へと近づいていき、
「そういうわけだから、悪いけど少しつきあってね。大丈夫、所長の命令だし、少なくとも君の身は保証するよ」
「いや、あの……」
まだ戸惑っている少女。状況への理解が追いついていないのだろう。
「……来るな」
「はい?」
ふと黒村が呟いた、その瞬間。
図書室の窓から何者かが飛び出した。
一応説明すると、雀宮高校にはいくつか図書室があり、ここは三階にある。そして窓から飛び出したということは、校舎の外からやってきた、ということになる。
確かに窓の外には排水溝を兼ねた縁があり、空調機も外に設置されているのでそれを足場にはできるが、重力に逆らって外から校舎の三階まで上るには相当な力と柔軟性が必要だろう。
「【師団】……」
このタイミングで、しかもそんな登場方法で現れれば、その可能性しかありえないだろう。九頭龍は反射的に少女の前に立つ。
図書室に降り立ったのは、少女だった。後ろの少女やこのみほどではないが、わりと小柄。茶色の髪を二つに結び、結んだ部分にはコテが巻かれている。
体格は、肉付きという面ではよいが、筋肉質というわけでもない。服装こそ動きやすそうなものだが、校舎の外を上って来たのはやはり驚きだ。
「九頭龍、行け」
「了解です」
黒村の指示を受け、九頭龍は少女の腕をつかんで走り出した。
「っ……!」
「ごめんね、後で説明するから!」
九頭龍は少女に脇目を振らせる前に図書室から出て行ってしまう。そしてこの場に残ったのは、黒村と目の前の少女だけだ。
少女は怪訝そう、というか、驚いたような、ありえないものを見たような目を、開かれた図書室へと向けていた。
「……ねえ、さっきの女の子って」
「俺の生徒だ。それ以上でもそれ以下でもないし、それ以上は言うつもりもない」
なにか探りを入れようとしていると思った黒村は、話を広げない。
「で……お前は【師団】だな。見たことない奴だが、誰だ」
「……まあいっか。私は【神聖帝国師団】第七小隊長、村崎陽花だよ」
少女——陽花はなにかを諦めたように息を吐いてから、そう名乗った。
「あなたはあれでしょ? 【ラボ】の所長の右腕。『傀儡劇団』、黒村形人でしょ? 流石に私も知ってるよ、有名人だし」
なにを自慢したいのかは知らないが、自慢げに言う陽花。とりあえず黒村はそれを無視し、
「運が悪かったな」
と告げた。
「【ミス・ラボラトリ】は研究機関、未知の存在があるなら探究しないわけにはいかない……とりあえず、お前は今から俺の研究対象だ」
そして、
「このデッキの被検体になってもらう」
刹那、二人の間の空間が歪み始める。