二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.324 )
日時: 2014/01/04 17:48
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 雀宮高校、屋上の給水塔の上——からは降りて、ラトリは寝転んでいた。
「あーだいぶ楽になった。やっぱ持つべきものは便利な部下だよねー。黒村君にはソーリーだけど」
 などと言っていると、ふと屋上の扉が開くのが見えた。
 入って来たのは、金髪碧眼の男だ。白を基調とした軍服と軍用帽子、右目には切り傷が見え、閉じているが、普通の眼鏡をかけている。全体的に古い将兵のような意匠だ。
「……ラトリ・ホワイトロックですね」
 男は寝転がっているラトリに歩み寄ると、ゆっくりと口を開いた。
「私は【神聖帝国師団】第一小隊長、ドグマ・アルヒャイと申す者です。早速で悪いですが、あなたの『神話カード』……《守護神話》を渡してもらいましょうか」
 どこか棘のある男の言葉を聞きながら、ラトリは体を起こし、グッと体を伸ばす。
「ふわーぁ、せっかくのんびり伸び伸びしてたのに、ブレイクタイムが台無しだよ」
 ぱんぱんと白衣を払って、今度は立ち上がる。
「で、誰だっけ? ドグマ君? どっかのテロリストだった君が、私になんの用?」
「……こちらの情報は知っているようですね。って、なんの用じゃねーですよ。《守護神話》を渡せと言ってるでしょうが」
「あー、あれね。今持ってないよ」
 中途半端に乱暴な口調が混ざっているドグマの言葉などどうでもいいと言うように、ラトリはサラッとのたまう。
「持ってない……? どういうことですか。まさか既に【師団】に敗北して——」
「ノンノン、それは違うよ。ちょっと頼れる部下に預かってもらってるだけ。あのままだとリバースしそうだったんでね。私もガールだし、流石に吐いてるシェイドをお見せすることはできないよ」
「いや、ガールと言える年齢じゃねーでしょう、あなた。というか、吐いてるとか言ってる時点で説得力も皆無ですし……」
 ラトリのペースに飲み込まれつつあるドグマだった。
 どういうわけかは分からないが、とにかく今のラトリは『神話カード』を持っていないようだ。察するに、一時的に誰かに権利を委譲しているのだろう。
 その行為自体は、分からなくもない。まだ未知数なところもあるが、ラトリは決してデュエルが強いわけではないはず。この戦争で不運にも【師団】に遭遇してしまった時、負けてしまってもデメリットが小さくなる。
「……しかし、ここで【ラボ】のトップを仕留めておけば、後々の戦争が有利に働くかもしれません。師団長もあなたのことは嫌っているようですし、ここで戦わない理由もねーですね」
 そう言いながら、ドグマはデッキケースを取り出す。対するラトリは、
「うーん、なんか面倒だなぁ……ぶっちゃけ、こんなストレインジな口調の人とはバトりたくない……」
「あなたに言われたくねーですよ」
 変な口調と言われて言い返すドグマ。冷静さは保っているが、ここまででほぼ完全にラトリのペースだ。
「まぁ、いいかなぁ? ちょっと暇を持て余してたし。いいよ、相手したげる」
「やっとやる気になりましたか。しかし、こちらから仕掛けておいてなんですが、私と戦うとなれば、命の保証はしませんよ」
「いいよ」
 ドグマの言葉に対し、ラトリは即答だった。
「私は君らとは違う。命を賭す覚悟なんてとうにできてるよ」
「っ……」
 ラトリのさっきまでとは別人のように違う空気に気圧されかけた、次の瞬間。

 二人は歪んだ空間に飲み込まれた。



「あ、あの、ちょっと……離してくださいっ」
「おっと、やっと抵抗されちゃったか」
 廊下を走るうちに、九頭龍は少女に手を振り払われてしまった。
「あ、そういえばまだ名前聞いてなかったね。僕は九頭龍希道っていうんだ。君は?」
「向田葵です……ではなく!」
 九頭龍のペースに乗せられることなく、喰いかかってくる葵。
「これはどういうことなんですか? クリーチャーが実体化したり、人がいなくなったり……」
「へぇ、君もデュエマするんだ。ってことはやっぱり、クリーチャーに襲撃されたクチかな……説明ならするけど、あんまりのんびりもしてられないし、後じゃダメかな?」
「大まかにでも説明されなければ納得できませんよ」
「って言ってもなぁ……」
 と言いながら、九頭龍は視線を左右に向ける。
「本当に時間ないみたいだし」
「え?」
 と、その時。
 柱の陰からそれぞれ人影が現れる。
「おーおー、さっすが勘がいいなぁ、【ラボ】の犬は」
「そもそもこうして囲まれている時点で、その勘の精度には疑問が残りますけれど」
 容姿は、かなり両極端な二人だ。
 一人は男。染めているのだろう紫色の短髪に、額の闇文明の紋章、頬の火文明の紋章。長袖だが、この時期にはやや寒そうなTシャツとジーンズ。Tシャツは大量の絵の具をぶちまけたような、派手と言えば聞こえはいいが、どこか狂ったようなファッション。
 もう一人は女。流麗な長い金髪を水色のリボンで束ねており、リボンと同色のドレス、さらにはガラスの靴とピアスという、どこか高貴で気品ある佇まい。
「僕はこういう人物については疎いんだけど……えーっと、誰だっけ?」
 どうせ大した連中ではないのだろうなどと思いながら言うが、九頭龍が思うほどこの二人は小物ではない。
「お前は敵だし、覚える必要なんざないが教えといてやるよ。俺は【神聖帝国師団】第三小隊長、葛葉龍泉だ」
「同じく【神聖帝国師団】第四小隊長、ジュリア=チェッカーズですわ。以後、お見知り置きを」
「隊長クラスか……」
 知らない名前だったが、思った以上に大物ではあった。
 九頭龍は背後の葵と、龍泉とジュリア、そして階段へと続く廊下を順番に見遣る。
「うーん、二人かぁ……黒村さんはあの子と交戦中だし、所長は僕が呼んでも来てくれないだろうし、逃げられるかなぁ……」
「逃がすわけねえだろ」
 九頭龍の言葉を、龍泉は切って捨てる。
「私たちの目的は確かに『神話カード』ですが、副次的な目的も存在するんですのよ」
「具体的に言えば、今だ謎の多い【ラボ】の所長の情報とかだな。この場で言えばお前も含まれるんだぜ、九頭龍希道」
 名指しされる九頭龍は、さらに弱ったように頭を掻く。
「なんか最近ついてないなぁ、僕。ていうか、自分で言うのもなんだけど、僕って【ラボ】の中じゃあ結構有名な部類だと思うよ。情報なんて、かなり広まってるんじゃない?」
「そうじゃねえよ。ここでお前を再起不能にすれば、【ラボ】の戦力も落ちるだろってこった」
「ああ、なるほど」
 身の危険は感じるが、脅威とは思っていない様子の九頭龍。しかし、面倒なことになったのは確かだ。
 九頭龍の目的は、葵の身の安全だ。しかしこの二人の登場によって、それも阻害されてしまう。一人だったら叩きのめせばいいだけだが、二人なのでそういうわけにもいかない。
 九頭龍にとって葵はなんでもないただの少女なので、見捨てるという選択肢もなくはないが、そうすると自分の【ラボ】での立場がなくなってしまう。
 いくらなんでも葵に戦わせるわけにはいかないだろう、と思っていたが、
「……あなたは、黒村先生のお知り合いなんですか?」
「うん? まあ、知り合いというか同僚というか。立場的には僕の方が下だけど、大体そんな感じだね」
 あまりに唐突だが、内心では焦っていた九頭龍は、思わず素で答えてしまった。余裕ある受け答えをしているが、焦りを悟られないようにしているだけなのだ。
「なら……私も戦います」
「は……いやいや。流石にそれはさせらんないって」
 ただのクリーチャーならともかく、相手は隊長クラス。ただの一般人が勝てるとは思えない。
 しかし、葵は食い下がる。
「私なら大丈夫です、こう見えてもデュエマには自信があるつもりです。それに、少し気になることもありますし……」
 そう言って一歩前に出る葵。
「うーん……本人がそう言うなら仕方ないかな。黒村さんでも話せば……分かってくれるかなぁ? まあいいか。じゃあ、死なない程度に頼むよ」
 あまり手段を選んでいられる状況でもないので、九頭龍は葵に賭けることにした。我ながら情けないと思う。
「なんだぁ? 紛れ込んだ一般人頼みかよ。情けねぇなぁ!」
「それだけ彼も追い詰められている、ということですわ。悪いことではないでしょう」
「そーかぁ? 俺は餓鬼の相手なんざごめんだぜ」
「ならば九頭龍希道の相手をしてくださいませ。彼女は私がお相手いたしますので」
 そして【師団】側でも話が進んでいた。
「はぁ……じゃあ、始めるかな」
 本日何度目になるのか、軽く溜息を吐く九頭龍。

 刹那、歪んだ空間が四人を包み込む。