二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.33 )
日時: 2013/08/01 19:21
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
プロフ: http://www27.atwiki.jp/duel_masters/pages/1.html

 各ターンに一回ずつクリーチャーの召喚と呪文の発動を無効化する『神話メソロギィカード』——《賢愚神話 シュライン・ヘルメス》。
 このクリーチャーの厄介な点は、S・トリガーが用をなさないということだ。
 S・トリガーだけではない。S・バックもニンジャス・トライクも無力化される。《ヘルメス》は単体での打撃力も高いため、フィニッシャーとしてはこの上なく強力だ。
 だがそんな《ヘルメス》にも、弱点がないわけではない。
「《マルコ》でW・ブレイク!」
 《マルコ》の触手のようなコードが伸長し、汐のシールドを二枚破壊する。同時にまた汐の体を電流が突き抜けた。
「っ、く、ぅ……」
 割られたシールドは汐の手元へとやって来る。それは、
(《デーモン・ハンド》に《アクア・サーファー》ですか……)
 幸運にも二枚のS・トリガーが出て来た。
 しかし今ここでそれらのカードを使用しても、全て《ヘルメス》の効果で無効化されてしまうのが関の山だ。だからと言って手札に加えても同じこと。
 その時、汐はふと手札にあるカードに視線を落とした。
(……私のシールドは残り三枚。うち一枚は《ガウル》ですから、可能性に賭けるとしたらこの二枚ですか……)
 こういう時、自分の先輩はどうするのか、どうしたのかを考える汐。
 一瞬の長考を終えると、《マルコ》に割られた二枚のシールドが光り、汐はそれをかざす。
「S・トリガー発動です。《デーモン・ハンド》《アクア・サーファー》」
「無駄だって言ってるじゃん。呪文と召喚、どっちも《ヘルメス》の効果で無効だよ!」
 悪魔の手とサーファーは同時に凍結し、砕け散る。
「運良く二枚もトリガーを引けたみたいだけど、もう終わりだよ。《賢愚神話 シュライン・ヘルメス》でT・ブレイク!」
 《ヘルメス》が剣を振るう。大波の如き衝撃波が寒波と共に放たれ、汐のシールドが三枚、粉砕された。
「っ、ぅ……」
 激痛が汐の身体を突き抜けるが、次の刹那には膨大な冷気が襲い掛かり、その痛みは一瞬で麻痺する。
 全身に不快感を感じながら、汐は割られたシールドを一枚ずつ。確認する。一枚目は言わずもがな《死神の邪蹄ベル・ヘル・デ・ガウル》。そして二枚目は、
「——S・トリガー、《ソンビ・カーニバル》発動です」
 《ソンビ・カーニバル》。指定した種族のクリーチャーを三体まで手札に戻す呪文だ。
「《ヘルメス》の効果は各ターンに一度ずつしか発動できないですよ。ブレインジャッカーを指定です……《ブラッディ・イヤリング》を三体回収です」
「ふぅん? また時間稼ぎ? 《ヘルメス》の効果の穴を突いたのは褒めてあげるけど、でもそんなの無駄——」
「もう一枚、S。トリガー発動です」
 記も言葉を遮って、汐はもう一枚のS。トリガーをかざす。
「呪文《インフェルノ・サイン》で墓地の《凶刻の刃狼ガル・ヴォルフ》をバトルゾーンに呼ぶですよ」
「へぇ? ブロッカーとか《オルゼキア》とかが来ると思ったけど……こっちには《ソルハバキ》もいるし、何か手札に握ってるのかな?」
「どうでしょうね……《ガル・ヴォルフ》の効果で選ぶのはサイバーロードです」
「ちぇ、勘が良いね」
 公開した記の手札にあるサイバーロードは、《斬隠オロチ》が一体だけ。もしもの時の保険として握っていたのだろう。
 《オロチ》を捨て、記のシールドが一枚破壊される。だがこれでも、まだシールドは六枚もある。
「君はまだ手札に何か隠しているようだし、ここはとどめを刺さずにターンエンドだ。次のターンで確実に決めてあげるよ」
 これで記のターンは終了。しかし場には《ヘルメス》と《マルコ》《ソルハバキ》が残っている。《マルコ》や《ソルハバキ》は《ガル・ヴォルフ》で対処できるが、《ヘルメス》は自身の能力もあって除去するのは難しいだろう。
 ——だからこそ汐は、《デーモン・ハンド》と《アクア・サーファー》を無駄撃ちして、勝利の可能性を見出したのだが。
「私の、ターンです」
 あとは賭けるだけだ。癪な話ではあるが、この戦いのうちで理解した記の人間性に賭けるしかない。
 汐は手札から一枚のカードを抜き取り、マナを三枚、タップする。
「《電脳封魔マクスヴァル》を召喚です」
 召喚するのは、先ほど手札に戻された《マクスヴァル》。ブロッカーであり、闇文明のクリーチャーの召喚コストを1下げる、優秀なクリーチャーだ。
 《マクスヴァル》がバトルゾーンに置かれ、実体化される。その時だった。
「《ヘルメス》の効果で《マクスヴァル》の召喚を無効!」
 《マクスヴァル》が凍りつき、崩壊する。

 同時に——汐の勝利の階段が、完成した。

「賭けには、勝ったようですね」
「え? なに?」
「なんでもないですよ。ただ、あなたに地獄を見せようと思っただけです。実体化するということは、本当に本物の地獄絵図が見られる、ということでしょうし」
「……なんのこと?」
 しきりに首を傾げる記。言うよりも、実際に行動した方が手っ取り早いと判断し、汐はマナをタップする。
 1、2、3、4、5、6、7、8、9……そして、10。
 計10マナ。
「え……?」
 記の顔が引きつる。そんなことはお構いなしで、汐は手札から一枚のカードを抜き取った。《ヘルメス》とは違うベクトルで、非常に禍々しく邪悪な気配を持ったカードを。
「あなたが《マクスヴァル》を破壊してくれて助かったですよ。もし破壊してくれなければ、このカードの召喚が無効になっていたでしょうし。もしそうなれば、私が勝つ見込みはなくなっていたです」
 言葉を紡ぎつつ、場に出た《ガル・ヴォルフ》の上に、そのカードを重ねる。そして、そのカードとは、

「《凶刻の刃狼ガル・ヴォルフ》進化——《悪魔神ドルバロム》」


悪魔神ドルバロム 闇文明 (10)
進化クリーチャー:デーモン・コマンド 13000
進化—自分のデーモン・コマンド1体の上に置く。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、闇以外のクリーチャーをすべて破壊する。その後、各プレイヤーは闇以外のカードをすべて、自身のマナゾーンから持ち主の墓地に置く。
T・ブレイカー


 《ガル・ヴォルフ》を一つの魔方陣が覆う。魔方陣から放たれる暗い光は刃狼の姿を少しずつ溶かしていき、新たな神を呼び覚ます糧とする。
 《ガル・ヴォルフ》の姿が完全に消えると、、魔方陣がひときわ強く、そして暗く、光り輝いた。
 刹那——フィールドが全て吹き飛んだ。
「ぐぁ……!」
 正確に言うのならば、互いの闇文明以外のマナ、記のバトルゾーンの《エンペラー・マルコ》《黙示聖者ソルハバキ》——そして《賢愚神話 シュライン・ヘルメス》が、瞬く間に消滅した。
 《悪魔神ドルバロム》。かの凶悪な悪魔の神《悪魔神バロム》が転生し、より強大な存在となった姿。その力は、あらゆる生命と、その根源を断絶する。闇以外の存在を許さない、絶対王政にして絶対神政を敷く、悪魔神の頂点——それが《ドルバロム》だ。
「な……え、う、嘘だろ、こんなのって……!」
 突然の事態に狼狽える記。闇文明を一切使用していない彼のマナは完全に全滅しており、何をすることもできない。何もできない、無力な愚者と化す。
「では……《ドルバロム》でT・ブレイクです」
 記のシールドが三枚吹き飛ぶ。事前に仕込んだS・トリガー《反撃のサイレント・スパーク》が出て来たが、クリーチャーもマナもいない状況で、どう反撃しろというのか。
「あ、あ、う……」
 記のターン。しかし彼は、何もできない。愚者は何もできず、さらにシールドが吹き飛ぶ。これで彼のシールドはなくなった。
「く、う、うぅ……《予言者フィスタ》を召喚……」
 やっと引けたブロッカー。悪魔神の攻撃でも、防ぐことはできるが、
「《地獄門デス・ゲート》発動です」
 次の瞬間には地獄へと連行されている。もう記になす術は残されていない。
 愚かな賢者に悪魔の罰を。巨大な悪魔神が、記に迫る。

「それでは……《悪魔神ドルバロム》で、とどめです——」



 その後、ボロボロになった記は、勝者の定めと言って、《賢愚神話 シュライン・ヘルメス》を汐に渡した。
 そしてもう一つ、なぜか連絡先の書かれたメモも置き、別れ文句を関係ない雑談を交えて冗長に述べてから、『御舟屋』を後にした。
 その間際に、
「……一応、忠告するよ。僕らの戦いっていうのは、冗談抜きでやばいから、できればあんまり関わんない方がいいかも……って言っても、君らのカード目当てで襲ってくる連中はいくらでもいるだろうけどね。この街にも何人かいるしね……それじゃ、気をつけて」
 と、言い残していった。
「ふぅ、なんだかとても大変なことに巻き込まれてしまったようですね……」
 そして汐は、これからの未来に対し、そんなため息を吐くのだった。