二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.337 )
- 日時: 2014/01/13 06:50
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
ラトリとドグマのデュエルは、ラトリが戦況をひっくり返したところだった。
ラトリの場には《驚異的陣形 アレキサンドライト》と《飛散する斧 プロメテウス》。シールドは五枚あり、そのうち三枚が《凄惨なる牙 パラノーマル》《全力艦長 イカリ》《切り刻みの レザーフェイス》という、シールド・ゴー能力を持つクリーチャー。
ドグマの場には、先ほど召喚したばかりの《ボルバルザーク・エクス》と《天災超邪 クロスファイア 2nd》。
《パラノーマル》のパワー低下能力が非常に厄介なので、ドグマとしては早く処理したいのだが、そこに《アレキサンドライト》の能力でブロッカーとなったアウトレイジが立ち塞がり、攻められずにいる。
「どうしたのかな? もうエンド?」
「……いや、まだ終わらねーですよ。《新世界 シューマッハ》召喚!」
新世界(ニューワールド) シューマッハ 火文明 (6)
クリーチャー:アウトレイジMAX 6000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、各プレイヤーは自身の手札をすべて捨てる。その後、それぞれカードを5枚まで引いてもよい。
W・ブレイカー
《ボルバルザーク・エクス》で復活したマナを使い、ドグマは新たなクリーチャーを呼び出す。
「《シューマッハ》の能力でたがいに手札をすべて捨て、その後、五枚までドローします」
ラトリは持っていた三枚の手札がすべて墓地へ。そのまま五枚引いた。ドグマも一枚捨て、五枚引く。
《スクランブル・タイフーン》も合わせ、これでドグマはこのターンに10枚ものカードを引いたことになる。
「そんな引いたら、デッキがロストしちゃうよ? ま、ライブラリアウトになってくれるなら、ストップしないけど」
「うるせーですね。こちらにも、その程度の対策くらいはあるんですよ! 続けて《サイバー・N・ワールド》を召喚!」
能力で互いの手札と墓地がすべて山札へと戻り、また五枚ずつドローする。
これで、山札が回復したとはいえドグマは15枚のカードをドローしたことになる。
「しかし、これ以上はなにもできませんか……ターン終了です」
逆転手を探すためのドローだったが、《シューマッハ》と《サイバー・N・ワールド》でもうマナはない。これ以上はなにもできず、ターンを終了した。
「これはネクストターンに一斉アタックかな? でも、《サイバー・N・ワールド》のお陰でグッドなカードが来たよ。二体目の《アレキサンドライト》を召喚! デッキから《守護すぎる守護 鋼鉄》をシールドゾーンにプット! さらに《切り刻みの レザーフェイス》を召喚!」
防御を固め、ラトリはターンを終える。まったく攻めていないにもかかわらず、威圧感が凄まじい。
「《パラノーマル》に《アレキサンドライト》が二体、その上《レザーフェイス》も睨みを利かせているこの状況……」
はっきり言って、絶望的だ。
《パラノーマル》のせいで小型クリーチャーを撒いて数で攻めることもできないので、かなり厳しい。
「除去カードも来ないですか……《紅神龍ジャガルザー》を二体召喚し、ターン終了……」
結局、ブロッカーが立ち塞がり攻められないドグマは、ターンを終える。
そして迎えた、ラトリのターン。
「うーん、意外とグッドなタイムだったけど、私もいつまでも君とデュエってはられないからね。悪いけど、いや別に悪くはないけど、このターンでゲームセットだよ」
一瞬だけ目の色を変えたラトリは、宣言通りこのターンで決めにかかる。
「《飛散する斧 プロメテウス》召喚。2マナ追加して、マナゾーンから《ストーンゴルド》を回収。そしてそのまま進化、《守護大帝 ストーンゴルド》!」
オーバーキルだが、これでラトリのアタッカーは五体。S・トリガーが出たとしても、十分とどめまでは持っていける。
「よーし、まずは《ストーンゴルド》でWブレイク!」
「……S・トリガー発動! 《ドンドン吸い込むナウ》!」
早速割られたシールドからS・トリガーが発動する。
「《クロスファイア 2nd》を手札に加え、《アレキサンドライト》をバウンス!」
「だったら《プロメテウス》でラストのシールドをブレイク!」
これも光が束となって収束する。五枚のうち四枚がS・トリガーとは、とんだ強運だが、
「っ、《式神ビッグリーン》……!」
それはパワー1000のS・トリガークリーチャー《式神ビッグリーン》だった。召喚してもラトリの攻めを防げず、《パラノーマル》が表向きのシールドにある中、召喚したところで破壊されるだけ。
シールドのなくなったドグマに、《アレキサンドライト》の弓矢が向けられた。
「《アレキサンドライト》で、ダイレクトアタック!」
デュエルが終わり、神話空間も閉じ、屋上に残ったのはラトリだけだった。
「……意外とあっさりエスケープしていったなぁ」
デュエルが終わるや否や、ドグマは風のように立ち去ってしまったのだ。
「まぁ、彼の目的をシンクすれば、『神話カード』を持たない私には、眼中にないんだろうなぁ……」
と、その時だった。
「ん? セルフォン? コール?」
味気ない電子音がラトリの白衣のポケットから鳴り響く。
「……? 黒村君? あの子からコールしてくるなんてレアだね……ヘイ、くろむ——ホワッツ? 九頭龍君?」
電話先の相手があまりに予想外だったため、流石のラトリも困惑する。
「え、え? ホワイ? どゆこと? ホワット? 九頭龍君が黒村君のセルフォンをハブ?」
普段から理解が遅れるような口調のラトリだが、今はそれがより酷くなっている。しかしそれも、だんだんと落ち着いてきたのか、
「……ああ、なるほど。セルフォンをレンタル。でも、黒村君がよくオーケーだしたね……うん? 無断? あっはっは! それは後がテリブルだね!」
などと、笑っている場合でもなかった。
「え? 黒村君がなんだって? ……うん?」
電話越しでも淡々とした口調だったが、九頭龍の言葉はほんの少しだけ焦りが見えた。
そして、彼の口から出た言葉が、
「黒村君が倒れた……?」
町中を走り回る夕陽だが、一向にひまりは見つからない。
「どこ行ったんだ、先輩……?」
そもそも、一つの町の中を走って、一人の人間を探すということ自体無茶なのだが、ここが特殊な神話空間の中であることを考えれば、そこまで非現実的でもない。
「先輩もこの空間内にはいるはずだし、この事態には気付いているはずなんだけど、なんで連絡の一つもないんだ……?」
そこが謎だった。神話空間が展開されてから、どれだけ少なく見積もっても、既に一時間以上は経過している。携帯に限らず、連絡手段ならいくらでもあるはずなのに、まったく音沙汰がない。音信不通だ。
「まさか、もう【師団】に——」
最悪の可能性を考えてしまう夕陽だが、その考えはすぐに振り払う。
「……とにかく、先輩を探すか。あと探してないのは——」
と、その時。
「ヒャァッハー! 見つけたぞォ! 『昇天太陽』!」
背後から、けたたましい叫び声が聞こえてくる。
「っ!」
あまりに突然、しかもかなりの声量だったので、驚いてしまう。バッと振り返ると、そこには一人の男が仁王立ちしていた。
「な、なんだ……?」
その男は、一言で言えば目立つ格好をしていた。
まず真っ先に目についたのは、左目を隠す黒い眼帯。そして黒い海賊帽と立襟の黒いコート。その下にはドクロの描かれたTシャツ。絵に描いたような海賊だった。
時代錯誤というか、出て来る場所を間違えているのではないかと、夕陽は変な不安が募った。
「私はァ! 【神聖帝国師団】第二小隊長! シーザー・ジャン・ジャックだァ!」
「……いや聞いてないし」
気にならなかったと言えば嘘だが。
「しかし、【師団】か……なんの用、なんて聞くまでもないよな」
スッと、夕陽はポケットの中に入っているカードに触れる。
(《マルス》のカード……こんな誰かも分からない連中を家に上げたくはないし、一応持っては来たけど)
使う気はさらさらなかった。
だが、このカードを持っているだけで、これを相手に見せつけるだけで、【師団】の目が夕陽に向きやすくなることは確かだろう。ひまりが狙われている以上、その目は少しでも散らしておきたい。
「僕の持ってる『神話カード』が狙いなんだろ? 寄越せと言っても、はいそうですかと渡す気はないけど——」
「違ゥ!」
「……え? 違うの?」
あまりに予想外だったため、素で聞き返してしまった。
「我々の最優先事項は『太陽一閃』なりィ! ゆえに奴を匿っている可能性がある貴様からァ! その所在を聞き出しに来たのだァ!」
「…………」
声も口調もうるさいと感じながら、そんなことを素直に話すわけないだろ、と思う夕陽。そもそも匿っているどころか、夕陽もひまりを探しているわけだが。
「さァ! 奴はどこにいるゥ!?」
「……こっちが知りたいよ」
さて、夕陽は困ってしまった。
見たところこの男、シーザーはまともに話が通じる相手には思えない。しかし、かといってこんなところで無駄に時間を浪費したくもない。
どうしたものかと悩んでいると、
「お困りのようだな、『昇天太陽』」
また背後の曲がり角から、人影が出て来る。見覚えのある男だ。
「お、お前は……」
「……久しぶりだな」
「……えーっと……」
「…………」
「……えっと」
「……和登だ。和登栗須。『深謀探偵』と言えば分かるか」
思い出した。
「あぁ、夏休み、大学で会った……」
とはいえ、あの時は亜実といがみ合っている方がインパクトがあったので、今の妙に冷静で大人しい様子を見ると、別人に見える。
「なんだよ、こんな時に……今はお前に構ってる暇じゃないってのに……」
「分かっている。貴様が今《太陽神話》を所持していないこともな。それに、今回は貴様らに用はない」
栗須の目的は二つ。一つは『神話カード』の様子を探りに来たのだが、戦場の範囲が広いわりに所有者の位置は分散しているので、しらみつぶしに探すのは非効率的と考えたので、半ば諦めている。
そしてもう一つの目的というのが、
「先日、【師団】の連中には世話になったのでね。『神話カード』に関する情報を求めているうちに衝突したのだが……なかなか手こずった」
栗須の視線は、明らかにシーザーへと向けられている。そしてシーザーの方も、栗須を見て、
「『深謀探偵』……そういえば一月ほど前、第二小隊、七番分隊が半壊したという報告があったなァ。もしや貴様……」
「恐らく、その推理通りだ。僕の邪魔をした連中は、時代錯誤も甚だしい、常識に欠け盗賊染みている野蛮な格好をしていたな。確か、第二小隊と言ったか」
なんとなく話の読めてきた夕陽。
つまり栗須は、以前自分の目的の障害となった第二小隊を恨んでおり、その報復も兼ねてここにいるようだ。
そして目の前の海賊男は、幸か不幸か第二小隊長。こうなってしまえば、もう起きることは一つしかない。
「貴様ァ、私の部隊に手を出した輩かァ……ならばァ! ここで貴様を粛清するゥ!」
「できるものならな。僕は貴様のような野蛮な輩が一番嫌いだ。海賊など、略奪と暴虐の限りを尽くす野蛮な集団。この世界からは排される者ども。戦争を繰り返す【師団】も然りだ」
「なんだとゥ……? 貴様ァ、海賊のみならずゥ、栄光ある【師団】までも愚弄するとはァ、なんたる無礼! やはり貴様はァ、ここで私が制裁するゥ!」
どんどんヒートアップしていく二人を見ながら、夕陽はこそこそと裏路地に入る。
「……戦うなら、勝手にやってくれ。僕には関係ない」
本格的に関係なくなってきたので、もうこの二人は放っておくことにした。そんなことよりも、ひまりを探さなければならない。
夕陽がその場を立ち去った、直後だ。
栗須とシーザーを包む空間が、歪みを見せた。