二次創作小説(紙ほか)

Re: デュエル・マスターズ Mythology ( No.351 )
日時: 2014/01/19 15:07
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 まだそこまでターン数が進んでいるわけでもないのに、圧倒的窮地に陥ったこのみ。
 シールドの枚数では、このみが五枚、マカが三枚と、このみが優勢だ。しかしバトルゾーンに差がありすぎる。
 このみの場には《口寄の化身》と《剛勇妖精ピーチ・プリンセス》《剛勇妖精フレッシュ・レモン》そして《妖精のイザナイ オーロラ》の四体。これだけでも結構な数だが、マカの場はそれ以上だ。
 クリーチャーを大量に展開するために必要なものは、手札とマナ。これがなくてはクリーチャーを展開することはできないが、それらを解決する《剛撃戦攻ドルゲーザ》と《西南の超人》がそれぞれ二体ずつ。そこに《宇宙巨匠ゼノン・ダヴィンチ》と《斬隠カイドウ・クロウラー》が一体ずつだ。
 数でも負けているが、マカのクリーチャーは大型が多い。質でも負けているのだ。
「……とりあえず、決められるようならこのターンに終わらせようかしら。《ドルゲーザ》でWブレイク」
 このターンに動けるマカのクリーチャーは、前のターンに召喚した《ドルゲーザ》と二体の《西南の超人》、そしてこのターンに進化した《ゼノン・ダヴィンチ》の四体だ。このみのシールドが五枚あっても、Wブレイカーが二体。ギリギリとどめまで行かれてしまう。
 そして《ドルゲーザ》の拳が振るわれ、このみのシールドが二枚、砕け散った。
「っ……ストライク・バック発動! ブレイクされた《ミスティーナ》を捨てて、《オチャッピィ》をバトルゾーンに!」
 このみはブレイクされたシールドを一枚墓地へと捨て、手札から《オチャッピィ》をバトルゾーンに出す。同時に、《オチャッピィ》の効果で墓地に捨てた《ミスティーナ》をマナゾーンに戻した。
 これでこのみの攻撃手が増えたが、このターンを凌がなくては意味がない。とはいえ、凌いだところでこのみの逆転はかなり厳しいだろうが。
 マカの場には、ブロッカーだけでなく、シールド・セイバー能力をも持つ《カイドウ・クロウラー》がいる。弱小クリーチャーをブロックして生き残れば、今度はシールド・セイバーでシールドを守れる。その上、手札には《土隠雲の超人》で手に入れたシノビもいるのだ。一体や二体クリーチャー増えたところで、些末な問題である。
「《ゼノン・ダヴィンチ》でWブレイク」
 今度は《ゼノン・ダヴィンチ》による攻撃が繰り出された。これで残りシールドは一枚。その一枚が除去系のS・トリガーでなければ、このみの負けだ。
「《西南の超人》で最後のシールドをブレイク」
 淡々とこのみのシールドを割っていくマカ。最後のシールドを割りに行くのは、《西南の超人》だ。
 ここでこのみが、火力を放つようなS・トリガーを引いたとしても、《西南の超人》のセイバーでもう片方の《西南の超人》が守られ、ダイレクトアタックを決められてしまう。つまり、マカは最後に《西南の超人》で攻撃することで、このみが生き残るために引くS・トリガーの種類を縛ったのだ。
 そして、このみの最後のシールドが、砕け散った——
「——S・トリガー発動! 《スーパー炎獄スクラッパー》! アンタップしてる《西南の超人》を破壊するよ!」
 最後の最後でS・トリガーを引いたこのみ。しかし、残念ながらマカの方が一枚上手だったようだ。
「では、タップしている《西南の超人》のセイバー能力で、アンタップ状態の《西南の超人》の破壊を肩代わりするわね」
 結果、破壊されたのはすでに攻撃している、タップ状態の《西南の超人》だ。
「うーん、もう少し強いのかと思ってたけど、思ったほどでもないみたい。本来の目的は《太陽神話》で、《萌芽神話》は主目的じゃないのだけれど……まあいいわ。『神話カード』が手に入るのであれば、それに越したことはないものね」
 シールド失ったこのみに、一体の巨人が迫る。
「《西南の超人》で、ダイレクトアタック」
 巨人は手にした鞘から、一振りの刀を抜く。そしてその刀を大上段に構え、振り下ろし——

 ——砕け散った。

「……?」
 眉根を寄せるマカ。露骨に取り乱したりはしないが、多少なりとも驚いているようだ。
 《西南の超人》の刀は木端微塵に砕け散った。同時に、《西南の超人》自身も、崩れ落ちる。巨人が恨みまがしく目を向け、その視線の先には、
「《口寄の化身》……?」
 がいたのだった。
「えへへ……残念だったね! 《西南の超人》の攻撃は《口寄の化身》でブロックさせてもらったよ!」
「ブロック? ということは……」
 マカは視線を横へとずらす。そこには、一体の機械的なボディを持つクリーチャーが浮遊している。
「《ハヤブサマル》ね……」
 簡単な話だ。とどめを刺される直前に、このみはニンジャ・ストライクで《ハヤブサマル》を召喚し、《口寄の化身》をブロッカーにして《西南の超人》の攻撃を止めたのだ。
 汎用性の高い《ハヤブサマル》を、防御の薄いデッキに入れていること自体はそこまでおかしいことではない。しかしここで重要なのは、このみがそういった弱点の穴埋めを行っているところだ。
 《萌芽神話》の所有者で、『萌芽繚乱ブラッサム』の異名が付けられているこのみの情報は、それなりに広まっている。デッキビルディングの弱さも広く知られていることだ。デッキを作るのが下手だということは、デッキの弱点を補強することが下手だということ。ゆえに春永このみは、スピードと打撃力、要するにビートダウン性能に完全特化したデッキを使用している。それが一般的な見解なのだ。
 しかし、
「あたしがシノビを使わないと思ったら大間違いだよ。ちゃんと防御だって考えてるんだから」
 ということらしかった。
 とはいえ、これも姫乃によるアドバイスが大きいのだが。
「……成程。確かに、いくらデッキ構築が不得手といっても、まったく自分のデッキの弱点を理解していないということもないでしょうし、そういうこともあるわよね」
 でも、とマカは続ける。
「それでもあなたはたった1ターン生き延びたに過ぎない。私の場にはまだ四体のクリーチャーがいるのだし、もうシールドはゼロ、シノビも弾切れでしょう」
 次のターンには、本当にとどめを刺される。
 このみは今、王手をかけられている状態なのだ。
「……なんだよねぇー」
 弱ったように力なく声を上げるこのみ。勝った気になれないことくらい、自分が一番よく分かっている。
 分かっているが、だからといって絶望的になれるほど、このみの神経は繊細ではない。
「さーて、なにが引けるかな、っと!」
 このみは勢いよくカードをドローする。その手つきは心なし弾んでいるように見え、この危機的状況を楽しんでいるようにさえ感じられる。
「……あはっ。やっぱり来てくれた」
 そして、引いてきたカードを見て、笑った。
「じゃ、まずはマナチャージ。そんでもって《ジャスミン》を召喚。そしてこの《ジャスミン》と《オーロラ》、そして《口寄の化身》を進化元に——進化MV!」
 三体の自然クリーチャーが集合し、光に包まれ、花吹雪が舞う。
 光と花弁に覆われたそのクリーチャーは、それらを振り払い、開花するように飛び出した。
「《萌芽神話 フォレスト・プロセルピナ》!」
 《ジャスミン》《オーロラ》《口寄の化身》を進化元にして現れたのは《プロセルピナ》だった。
「出て来たわね、『神話カード』……でも、私のこの布陣は、そう簡単には破れないわ」
「それはどうかな? とりあえず《プロセルピナ》の能力で《ドルゲーザ》をマナゾーンに送るよ。そして呪文! 《カラフル・ダンス》!」
 このみの唱える呪文を見て、マカは少しだけ目を細めた。
 CDがすべて発動した《プロセルピナ》とこのカードは、絶大なシナジーを誇る。というのも、《カラフル・ダンス》は五枚ものカードをマナにおける呪文だ。後からカードを五枚墓地に置くので、マナの消費は激しいが、《プロセルピナ》がいれば最大五体ものクリーチャーを並べられるカードに成り上がる。
 マナゾーンに置かれたカードは《霞み妖精ジャスミン》《めった切り・スクラッパー》《妖精の裏技ラララ・ライフ》《スーパー炎獄スクラッパー》《護蓮妖精ミスティーナ》の五枚。そのうち、クリーチャーは三体だ。コストはそれぞれ、2と5。
 よって、マナゾーンから2マナ以下と5マナ以下のクリーチャーがそれぞれ飛び出す。
「その前にマナゾーンのカードを五枚墓地に置いて……出て来て、《ダンディ・ナスオ》《無双竜鬼ミツルギブースト》!」
 マナゾーンからは、コスト2の《ダンディ・ナスオ》とコスト5の《無双竜鬼ミツルギブースト》が出される。
「《ナスオ》の能力で、デッキから《ボルバルザーク・エクス》をマナゾーンへ。そしてマナゾーンの《ミスティーナ》を墓地に置くよ。次に《ミツルギブースト》の能力で、《ミツルギブースト》をマナに送って、《カイドウ・クロウラー》を破壊!」
「っ」
 ブロッカーを消し飛ばされたマカ。これだけでこのターンこのみの攻撃を凌ぐことが難しくなった上に、まだ終わらない。
「まだまだ! マナゾーンに置かれた《ボルバルザーク・エクス》を《プロセルピナ》の能力でバトルゾーンに! マナをすべてアンタップ! さらに《ミツルギブースト》がマナに行ったから、今度はマナの《呪紋のカルマ インカ》をバトルゾーンに!」
 マナは減っていくものの、次々とこのみのバトルゾーンにクリーチャーが呼びだされる。
「さらにさらに、マナがアンタップしたからもう一回手札から呪文を唱えるよ! 《神秘の宝箱》! 山札から《永遠のリュウセイ・カイザー》をマナゾーンに置いて、《プロセルピナ》の能力でそのままバトルゾーンに!」
 物凄い速度でマナゾーンのカードが移動を繰り返し、最終的にこのみのバトルゾーンには、《萌芽神話 フォレスト・プロセルピナ》を筆頭とし、《ピーチ・プリンセス》《フレッシュ・レモン》《ダンディ・ナスオ》《ボルバルザーク・エクス》《呪紋のカルマ インカ》《永遠のリュウセイ・カイザー》と、小型から大型まで、多種多様かつ強力なクリーチャーが数多く立ち並んだ。
「これは……」
 流石のマカでも、勝てる気がしない。手札にシノビは握っているが、S・トリガーが出なければ逆転は無理だろう。
「《永遠のリュウセイ・カイザー》の能力で、あたしのクリーチャーはすべてスピードアタッカーだよ! 《プロセルピナ》で攻撃! その時、墓地のカードをマナゾーンに! マナに置くのは《守護炎龍レヴィヤ・ターン》だよ! 今度は《レヴィヤ・ターン》の能力で、マナゾーンの《オチャッピィ》をバトルゾーンに! そして《オチャッピィ》の能力で墓地の《ドラゴンフレンド・カチュア》をマナゾーンに! そのまま《プロセルピナ》の能力でバトルゾーンに!」
「え、あの、ちょっと……」
 互いに効果が《プロセルピナ》を介して連鎖し、絶え間なく呼び続けられるスノーフェアリーたち。流石のマカも、その光景には驚きを禁じ得ない。表情こそ崩れてはいないが、今の彼女の心情を読み取ることは、そう難しくはないだろう。
「《ドラゴンフレンド・カチュア》の能力で山札の上から七枚を見て、……《闘魂!紫電・ドラゴン》をバトルゾーンに! 《プロセルピナ》でTブレイク!」
 ようやっと《プロセルピナ》のシールドブレイクが来たが、仮に割られたシールドすべてがS・トリガーだったとしても、マカに勝ち目はない。残念ながら、この数を相手にして生き残れるようなS・トリガーは積んでいない。
「《インカ》がいるせいで、ニンジャ・ストライクもできないなんてね……」
 《土隠雲の超人》で手札に加えた《ハヤブサマル》と、《ドルゲーザ》のドローで手に入れた二体の《テンサイ・ジャニット》を見ながら、ふと呟く。
 ブロッカー破壊とニンジャ・ストライクの封印、そして圧倒的な戦力。こちらの防御手段を封じたうえで、安易な逆転を許さないほどの物量で攻める。用心深すぎるほど入念だ。
 しかし彼女は、それを無意識に、天然でやっているというのだから恐ろしい。
「……ここまでね」
 割られたシールドは、二枚ほどS・トリガーがあったが、どうせ負けるのだ。ここで足掻くこともない。その二枚は発動させず、手札に加えた。
 そして、最後の一撃が放たれる。

「《呪紋のカルマ インカ》で、とどめだぁー!」